「Here is where? 」
はてさて、ここは何処なのだろう。
辺りはまるで先代の数世紀前か否かと言うくらいの超ど田舎であるし、住民の服装も、最低限の文化的な生活が保証されている現代においては絶対にありえないボロの布切れの様なもの。自分のそれもよくよく見れば周りと同じものであり、ゴワゴワしていて気持ち悪い。
「...なんだよこれ。六銭はきっちり払い切ったにしては待遇悪かないかな?」
現世の金銀財宝もあの世には持っていけず。
無一文に等しいこの身では呉服屋を見出したとしても、盗むか強請り捕るかしか方法が無い。仕方なく、暫くはこのまま過ごしていく事を決める。
「うーん...取り敢えず獲物でもこっさえるかねえ。全く、錆びついた才が死んだ後に役立つってどういう事なんですかねえ...(白目)」
幸い辺りは緑に囲まれた自然豊かな村(※なお人間が豊かとは言えない模様)。少し枝振りの良い木から見繕えばこのサバイバル生活も多少は楽になる事だろう。
爆縮地の応用で上空へ跳ね上がり、目星を付けていた比較的真っ直ぐなそれを手刀で切り落とす。
虚刀流では無いが、これくらいならば不完了系でも出来なくは無い。本家本元はこれで刀と斬り合えると言うのだから、うちよりよっぽど化物だと思う。
何回か切り落としたそれを軽く素振りして、手加減を間違えて何本か根元から伐採してしてしまったが、暫く納得して鋒を下げる。
果てさて、この大木どもはどうしようか。
考えた挙句、薪に加工して村に配ってやる事にした。
どうせ元出はただ。プレゼントフォーユーしたところで痛くも痒くもない。
一応村人達は感謝してくれたが、まあ案の定こいつは何者なんだ的な目を向けられた。
別にこの村に留まるつもりも無いので、まだ森の浅いところに持ってこれなかった分のまきがあるからと伝えると、俺は何処へ向かうでもなくえっちらおっちら歩き出した。
その直後に優しいおじいちゃんが次の村はあっちだよと教えてくれて掌クルックルで回れ右したが。
さて、歩き出したは良いものの、俺はあの世の事など欠片も知らない。仏さんに蜘蛛の糸を垂らされて天国にいけるもんだとばっかり思っていたから、こんな殺伐とした彼岸の向こうの常識など知ってる筈も無く。無一文、水食料も無し、寝床も無しと高架下などで眠りに就くホームレスのおっさんも真っ青な有様だった。
次の村では何か恵んでもらおうか。
常ならのんびりと歩いて行きたいものだが、いかんせん飲み食いできない今の身の上。故に今は体力を消耗しない小走り+爆縮地で先を急いだ。
暫く走ると次の村が見えてきた。だがどうも様子がおかしい。人っ子一人見えない癖に、やけに血の匂いが濃い地面や家屋。壁面には血糊が飛び、家屋の中には踏み潰された様に倒壊しているものもある。
「これは事件ですねぇ...あぁ〜^あの世にはフリーダイアルもホットラインも無いんじゃ〜^」
クッソ汚い悲痛の叫びを漏らすと、俺は火事場泥棒を敢行しようと家の中へと忍びこんだ。
暫くの家宅捜査(但し犯罪じゃないとは言ってない)の後、俺は暫く日持ちする干し肉や井戸の水で満たした革の水筒を装備する事と相成った。
一心地ついて、あの世でやって意味があるのかは分からないが村に向かって黙祷を捧げていると、何やら面妖な怪物達が姿を現した。
「ヒヒヒっ、こんなところに一人で来るたあ間抜けな嬢ちゃんだぜ」
まあとにかくこんな感じの下品な怪物4体が俺の方へとのっそのっそとやってきた。
大体が白い巨人の様な有様ではあるが、一体だけその巨人型の肩に止まったクロバットとプテラをフュージョンさせた様なフォルムをした奴がいる。全員が全員顔だけ外骨格なのか白い仮面を被っており、こうして見ると初代ライダーのショッカー共を彷彿とさせるそこはかとない残念臭が漂っていた。
「...見敵必殺、さーちあんどですとろーい」
先の村でこさえたただの木の棒【名剣デクスカリバー】を横薙ぎに振るうと、四体が四体とも巻き起こった鎌鼬でズタボロになりながら下半身と泣き別れ、光の粒子となって空へと舞い上がっていった。
その際、クッソ汚い叫び声や捨て台詞を吐いていた様な気もするが、この幻想的な光景の前では塵程の価値も無い。
やがて、怪物達が完全に空へと還ると、俺は今度こそ何処へ行くとも無く適当な方向へと歩き出した。
「さあ見てらっしゃい見てらっしゃい。この名剣デクスカリバーでありとあらゆるものを斬って差し上げよう」
数週間後、俺はソウルソサエティの流魂街一番街、精霊邸のお膝元で見世物屋として大道芸に精を出していた。
あの後、あっちこっちへふらふらした結果、あの世、つまりソウルソサエティについて触り程度には解るようになった。
ソウルソサエティ、精霊邸、死神、流魂街。まあ、その代償に俺の死後の世界へのイメージは知識を知ると共に大暴落を被る羽目になったのだが。
そして、何はともあれ、現世であれソウルソサエティであれ、必要な物は9割の金と1割の思いやりである。俺が手っ取り早く稼ぐには、こうして俺の失敗作を見せびらかすのが最も効率がいい。
現に、木の棒一本で瓦だろうが岩だろうがスライスにしていく俺の芸は瞬く間に口コミで広がり、今ではお捻りガッポガッポでウハウハな芸人生活を営んでいる。
そうこうしている内に今日のお仕事も終わり、俺は間借りさせて貰ってる家への帰路をのんびりと歩いていく。
この仕事をしているうちに金も溜まり、最初の頃は違和感が酷くて泣きそうになったあのボロ切れの服からも卒業して、今は黒に紅葉の赤が映える女物の浴衣と黒い薄手のストール(の様なもの)に衣笠が常の格好である。このソウルソサエティでは中々現世の衣類などは手に入りにくい為に、こんな服装と相成った訳であるが、これはこれで中々気に入っている。
そんな格好をしていると女と勘違いした強姦魔(笑)に絡まれるのも世の常で、帯に刺した名剣(意味深)デクスカリバーを一度取り出せば一も二もなくすっ飛んで逃げていく様がまこと面白く、その背を散々煽りながら3分程追い回す事もいとおかし。
そんなこんなで帰宅すると、優し気なおじいちゃんとおばあちゃんが出迎えてくれる。
この老夫婦、なんと孫が死神らしく、今は十三番体で平隊士をやっているそうで、時々俺にも死神の学校に通う様に勧めてくる。
どうやら、このソウルソサエティでは己の持つ霊圧が高いとその霊圧を保つ為に腹が空くらしく、もれなく3時間も経てばお腹をぐーと鳴らす俺は死神としての才能があるそうな。
ただ、死神になったらなったでやたら拘束時間が長く、しかも基本的に住み込み(要はタコ部屋)らしいので中々ブラックな職場である模様。
当然、今の方が職場環境は健全なので充分遊べる様なお金が貯まったら暇潰しに入ってみるのも良さそうだ。何せここは死後の世界ソウルソサエティ、時間だけならたんまりあったりしちゃうのである。
補足
錆紅葉(サビ コウヨウ)
遥か昔から失敗作と銘打たれ、屈辱を味わってきた錆家の末裔にして、二代目錆黒鍵。僅か3歳にして全刀流の奥義を会得し、一度刀を振れば鎌鼬を起こしながら戦車数台を纏めて切り裂き、突きを放てばまるでスナイパーライフルで狙撃されたかの様に防弾ジャケットを、それどころか軍艦の装甲板すらも容易く貫く。
その強過ぎる力は現代では全く何の役にも立たず、周囲からは孤立しながらも自分の趣味(サブカルチャー)を楽しんでいた。
人生の最後は偶然公衆トイレに仕掛けられていたテロリストの爆弾の爆発に巻き込まれ、死亡。
一人だけだったならば爆縮地を使って逃げれたのだが、トイレの出口付近にいた女の子と黒猫を庇った為に逃る事が出来なかった。しかも不幸な事に、爆弾の威力が高かった為に、紅葉の奮闘空しく女の子と黒猫も共に死亡してしまった。