【習作】 魔法先生ネギま! -光の楔-   作:有馬 遊

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 やはりMacbookは最強だった。フリック入力にすればスマホでも全角スペース打てるんかな?
 ただいま二話作成中ですが未だメルディアナ入学まで行けず。てかこっちのプロット組んでなかったから迷走がやばい(焦り
 書き上がり次第あげる予定だけど、これ3話以降どうすんだよイカンアブナイアブナイアブナイ...





第一話 幼年期の終わり

 神様転生なんて陳腐なものとは考えたくないが、俺は前世での記憶を持ってマギ・スプリングフィールドとしてこの世に生まれ落ちた。血筋からか個人の生まれ持った才か、でかい魔力とセンスだけはあったが、良くハーメルンなんかで見る俺tueee野郎御用達の転生特典なんかは持っていなかった。

 俺からすると、そもそもなんでそんなに戦闘したい(やまい)みたいなサイヤ人も真っ青な奴らが多いのかがてんで分からんのだが、別に特典なんぞ無い方が現実感があると、肯定的に捉えていた。

 そんな俺だが、まあ良くもこんな地雷原ど真ん中なポジションに生まれたものだと逆に感心してしまう。まさか、主人公の双子の弟なんてなあ。

 そんなこんなで俺は、未来のハーレム王ネギの双子の片割れであるマギとして第二の人生を謳歌している。

 

「おはよーココロウァ姉さん。朝飯出来てる?」

 

 早朝、俺は首を回しながらキッチンで朝飯を作るココロウァさんに挨拶する。

 我がスプリングフィールド家は"戦争の"英雄である父と冤罪で処刑され掛かった亡国の女王である母の二人共が俺たち兄弟をこの村に預けて行方不明になってしまった為、自活能力に乏しい俺たちは基本的に知り合いのココロウァさん家にお世話になっている。一応親戚には従姉妹であるネカネ姉さんも居るには居るんだが、この人は現在メルディアナっつう名門の魔法学校で校長付きの秘書をやっている為、中々俺たちの面倒を見るのは難しいのだ。

 因みに、何故俺がココロウァさんを姉さんと呼ぶのかと言うと、ココロウァのお父さんとの呼び分けが非常にややこしくなるからだ。精神年齢的に母さんと呼ぶのも小っ恥ずかしいので、姉さん兄さんと呼び分けている。

 

「あぁ、おはようマギ。もうちょっとで出来るから、先にネギとアンナを起こしてきてくれないかい?」

 

「りょーかい...ご褒美用意しとけよなー」

 

 此方を振り返り笑顔で挨拶してくれる真のオカンココロウァさんに片手をひらひらさせて了承し、元来た階段を上って別の部屋へと向かう。

 

「...おーい、起きろ馬鹿兄貴ー」

 

 そこにはココロウァ姉さんの娘さんなアンナ・ユーリ・ココロウァ、愛称アーニャをまるで抱きしめる様に眠る我が馬鹿兄貴がいた。

 取り敢えず、非常にムカつくので馬鹿兄貴のモーフを剥ぎ取ってアーニャに掛けてやる。一瞬顔面に目覚ましビンタしてやろうかと思ったが、流石に実の兄貴に暴力を振るうのもどうかと思い、この春先の寒々とした部屋の空気に身を晒してやったのだ。

 

「んぅ.........マギ?」

 

「おう、馬鹿兄貴。いたいけな女の子を抱き枕にする我等が変態紳士はさっさと顔洗って降りてこい」

 

 そう苦々しい顔で告げると、さっさと部屋を出る。この後アーニャが起きた時には毎朝恒例のギャルゲイベントが始まるからだ。正直なところ、あの無自覚ハーレム王に振り回される幼馴染がかなり不順だが、それに巻き込まれる事を考えると、ここは三六計逃げるが勝ちだ。

 

「おいっすココロウァ姉さん。あの二人はいつもの如く喧しく降りてくるだろうから、今日も先に食べとくよ」

 

「あらら、ネギも懲りないわねぇ...アンナも素直になればいいのに」

 

 軽口を言いながら、椅子に腰掛けて机の上にあったマグカップを取って口をつける。

 

「んー、やっぱりネルで淹れたコーヒーは美味いなぁ...あの二人は変に歯車が噛み合っちゃってるから、一方がどうにかならんと無理でしょ。全く、うちの馬鹿兄貴は鈍いにも程がある」

 

「それは、そうなんだけどねぇ...はぁ......」

 

 ココロウァ姉さんは出来た朝駒をテーブルに並べながら、苦笑いでため息を吐いた。

 

「...いっその事、俺がアーニャ寝盗っちゃおうかな」

 

「あらやだ、6歳の子供がそんな事言うもんじゃないよ。それに、アンナも一途だからねぇ...ちゃんと報われると良いけど」

 

「寝とる事についての是非は無いのかよ...あの馬鹿兄貴の事だから、のほほんとした顔でハーレムでも作りそうだけどな。顔は良いし、中途半端だが紳士的だし...ありゃお姉様キラーになりそうだ」

 

 俺が飲みきったマグカップをテーブルに戻しながら告げると、姉さんは深いため息を吐いた。先程の物より憂鬱そうだ。

 

「否定出来ないのが辛いわね...まあ、いいわ。それより、マギは今日も?」

 

「ん? あぁ、これからスタン爺さん家行って、今日は魔方陣の構成要素勉強してから、スタン爺さんのお師匠さんの工房見せてもらう予定。ここに引っ越してから地下室に転移門作って行き来出来る様にしてんだと」

 

「へぇ...あのおっさんもちゃんと魔法使いしてんだねぇ。気をつけて行っておいでよ」

 

 姉さんは俺の前に、イギリスの朝駒の定番の様なスクランブルエッグにハムとサラダとトーストを置きながらそう言った。

 

「あいよー。っと、んじゃあの喧しい二人が来ないうちにさっさと食べて行ってくるよ」

 

 そう苦笑いで姉さんに告げると、俺はトーストに齧りついた。

 

 

 

 

 それが、何がどうしてこうなっちまったのか俺にはさっぱり分かんねぇ。スタン爺さんのお師匠さんの工房を一通り見学して地下室に帰ってきた途端に、地上の方から爆発音や悲鳴が聞こえ、スタン爺さんは俺を残して出ていってしまった。

 しかも、俺が一緒に行こうとするのを分かってやがったのか、地下室の入り口には鍵が掛かっている。最初は扉を殴りつけてスタン爺さんをじじいと叫びながら呼びつけていたのだが、拳を痛めていた事や反応が帰ってこない事で諦めがつき、俺は地下室で一人蹲っていた。

 

「くそっ...一体何が起きてやがんだ。なんかの襲撃を受けたってのは間違いねぇ。問題は、何の襲撃を受けているか、だ」

 

 あのスタン爺さんが血相変えてすっ飛んでいったんだ、碌なもんじゃないだろう。ココロウァ姉さんやアーニャ、ネギは無事なのか? 元々我慢強い性格では無いためか苛立ちと不安が募っていった。

 

「...待てよ。こんな主人公の住んでる村が襲撃を受けるなんて、美味しい展開が漫画で描写されて無い訳がねえ。俺は...忘れてるのか? こんな大事な事を? ......馬鹿は俺の方じゃねえか⁉︎」

 

 思わず、振りかぶった拳が石造りの壁にぶち当たり、嫌な音がした。くそ、こんな事をしてる場合じゃねえ。思い出せ、あの馬鹿兄貴の幼少の時に何があった? ここで思い出せないとか冗談じゃねえぞ...

 

-6歳の春先の雪の日-

 

-スタンさんの持つ封魔の瓶-

 

-マギ・スプリングフィールドの形見の杖-

 

-ネギ、ネカネ、アーニャを残し村人が全滅した、悪魔襲撃事件-

 

「...くそったれがぁ‼︎‼︎」

 

 ようやく思い出した。なんで、俺はこんな事を忘れていたんだ...いや、今はそうじゃねえ。なんとかしてスタンさんやココロウァ姉さんを助ける方法を考えるんだ。

 相手は爵位級の上級悪魔を筆頭にその他諸々の下位悪魔の大軍勢。子供の俺が真正面から行って勝てる相手じゃねえ。と言うか、村の魔法使い共総出で全滅させられるんだ。ナギ・スプリングフィールドみたいなチートでも無い限り、村の中駆け巡って味方を増やしても無意味だ。じゃあ、どうする...俺みたいなひよっこが一瞬でナギ・スプリングフィールド並みのチート魔法を扱える様なマジックアイテムでも探すか? 幸い、ここは村でも随一の魔法使いのスタン爺さんの地下工房だ。それに、転移門でお師匠さんの工房にも行ける。無闇に飛び出すよりは、よっぽどそっちの方が可能性がある。

 

「...部が悪すぎんだろ......それでも、やんなきゃいけねえ。ご都合主義だろうがなんだろうが、ここで見っけれなきゃ、男じゃねぇ...!」

 

 俺は砕けた拳にも構わず、転移門へと飛び込んだ。

 

 

 

「くそっ...封魔の瓶如きじゃ意味がねえ、今から大量生産する時間も無い......魔導書? 確か、お師匠さんは退魔、封魔に関しては著名な魔法使いだった筈......強力な魔導書の一冊や二冊持ってても不思議じゃねえ!」

 

 俺はまるで強盗の様に工房を掘り返した。片腕でそれっぽいマジックアイテムを掴み、本棚からそれの説明書を探し出し、焦りからかかなり時間が経った様な気がするが、ここで生半可なマジックアイテム片手に出ていったところで、俺が殺されちまうのがオチだ。

 遂にマジックアイテムを掘り尽くした俺は、次に工房に隠し扉みたいな物が無いか徹底的に探し回った。

 強力な魔導書なんかは、適正や耐性が無ければ、ページを開いた瞬間に発狂しちまう様な危険物だ。基本的に、魔導書を持つ魔法使いは隠し工房なんかを作ってその上で厳重に封印を施している事が多い。

 そして工房中を荒らし回した俺は、遂に幸か不幸か隠し扉の入り口を見つけた。焦りのせいか、トラップが仕掛けられているかもしれないにも関わらず、俺は片腕を庇って、猪の様に隠し工房へと突撃していった。

 しかし幸いにも目に見えるトラップの類いは無く、俺は砕けた拳以外は五体満足でそこへとたどり着くことが出来た。

 

「......見つけたぜ。信じちゃいねえが、神様に感謝だな。さて...こっからだな」

 

 そこには、天井と床の幾つもの楔から走る黄色い光の筋の様な封印式が張り巡らされた鉄の鎖に雁字搦めにされた、黒い一冊の魔導書があった。先ずは、この封印を解かないといけねえ。

 俺が血走った目を床に描かれた魔方陣に向けた時だった。

 

【汝、何を求めて我を欲する】

 

 突然、やけに渋い男の声が頭の中に響いてきたのだ。

 

「魔導書の精霊って奴か...どんだけ強力な書なんだよ」

 

 俺は滴る冷や汗を拭いもせず、目の前の書を睨みつけた。

 こう言った書の精霊が存在する魔導書は、執筆されてから何十年何百年と時が経過し、神秘性が桁違いに跳ね上がった一級の呪物だ。

 もしも、書自体が邪悪な存在を記した禁書である場合、俺はこの書に誘惑されているという事だ。精霊が存在するレベルの禁書なぞ、持ち主を呪い殺すか、魂を食い尽くしてしまう事なんて簡単に出来る。

 

【我が名は光の楔。汝、我に何を欲する】

 

 書に喰われるなんて冗談じゃねえ。俺は心を落ち着けて慎重に話しをする事にした。

 

「俺は、今襲われてる俺の村を救いたい」

 

【何から救うつもりだ? 盗賊か、それとも山賊か】

 

「......爵位級上位悪魔数体を含む、悪魔の軍勢だ」

 

 俺が言葉を選びながら敵の情報を話すと、何が面白いのか、光の楔は鎖をジャラジャラ揺らしながら小刻みに震えだした。

 

【はっはっはっはっはっは‼︎‼︎ 悪魔だと! あの醜悪な存在共を、纏めて滅せと申すか汝‼︎】

 

「...ああ、そうだ。そんで、俺の大切な人達をこの手で守り通す...!」

 

【良い‼︎ 気に入ったぞ汝!悪魔を滅せと言われたのも何百年振りか‼︎ ああ、甘美なり...我の存在理由が、衝動が、満たされる...! 汝、その陣を越え我に触れよ。それで封印は解ける】

 

 どうやら、こいつは退魔の為に作り出された物らしい。俺にとっちゃ、ぴったりの代物だ。話しが旨すぎるが、そんなのは俺の出来る事の範疇外だ。こんな表情も何も無い古本から、何を聞き出せと言うのか。

俺は、小刻みに震える書に歩み寄ると、戸惑わずに書を鷲掴みした。

 

「力を貸せ...古本‼︎」

 

【誰が古本か...だが、ああいいぞ。実に良く馴染む。くくっ...さあ、小童、狩りの時間だ】

 

 書がそう言った瞬間、俺の頭の中に書の知識が雪崩の様に流れ込んできた。神経を焼き尽くす様な痛みに、俺は膝を着いて頭を抱えたが、知識の波は全く治らない。

 

「(クソっ...嵌められたか?)」

 

【心配するな。汝程の器であれば、充分に耐えうる。時間が惜しいのだろう? 】

 

 まるで俺の心を読んだ様な書の言葉に、少しほっとした俺は、頭に流れ込む知識を少しでも理解しようと思考に没頭した。

 

 

 

「ぐっ......終わった、のか」

 

【ああ、小童。後は、我が書を開き、汝が言霊を唱えれば良い。それだけで数多の悪魔は串刺しにされ、粉微塵となる】

 

「小童じゃ...ねえよ。俺の名は、マギだ」

 

【はっはっは‼︎ マギア(魔法)から取った名か? それが我の主となるか。実に、面白い。ならば主マギよ、その名の示す通り、我を使いこなせ。さすれば、汝に守れぬものなどこの世に存在しなくなるだろう】

 

「言われなくてもわかってら。んじゃ、行くぞ古本」

 

 俺は古本をがっちりと小脇に抱えると、工房の転移門へと走り出した。知識が流れ込んでいた時は気付かなかったが、いつの間にか俺の砕けた拳は治っていた。

 

 

 急いで転移門をくぐった俺は、古本から得た知識で肉体強化の呪文を唱え、扉を蹴り壊して階段を駆け上った。

 地獄だった。

 あちこちの家々は燃え上り、転々と村人の石像が並んでいる。

 

「......いや、今は後だ。古本、近くに生きてる人間がいたら教えてくれ」

 

【呼び名はそれで定着なのか...了解した】

 

「事が終わったら愛称でもなんでも付けてやんよ」

 

 俺はココロウァ家へと走り出した。途中、下位の悪魔が度々道を塞いだが、古本から封魔の剣を呼び出しすれ違い様に肉体強化の髄力で叩き斬った。

 

【主よ、10時の方向に四人いるぞ。子供二人と大人二人...悪魔に囲まれている。爵位級が一人と下位悪魔が6体だ】

 

「...スタンさん臭いな。古本、そいつらを地面に縫い付けるぞ」

 

-降り注げや光の雨-

 

 俺が呪文を唱えると、魔力がごっそり持って行かれる感覚と共に上空に魔方陣が展開され、家々の陰で見えないが悪魔達に向けて光の剣が雨霰と降り注いだ。

 

「そこか...!」

 

 俺が駆けつけると、そこには胸の辺りまで石化しているスタンさんと、右足の足首までを石化させているネカネ姉さん、そして泣いている兄貴とアーニャがいた。

 悪魔はスタンさんが封印したんだろう。スタンさんの片手にはあの封魔の瓶が握られていた。

 

「嘘だろ...おいじじい⁉︎」

 

 俺が悲鳴を上げながら駆け寄るとみんなが驚いた顔でこっちを振り向いた。

 

「マギ...なんであそこから出てきんだこのクソガキ‼︎ 」

 

「マギ...」

 

 じじいが凄い形相で睨みつけてきたが、睨みつけたいのは俺の方だ。

 

「なんでじゃねえだろクソじじい⁉︎ 村じゃ一番強いあんたが、なんで石化しかけてんだよ⁉︎ ふざけんなよ‼︎‼︎」

 

 一度ブチ切れてしまえば、心を焼き尽くす様な憤怒は際限を見せずに加速していった。俺は自分が間に合わなかった事に絶望したのだ。

 今までの流れる様な展開は何だったのか。この有様を見せつける為だったのか、と。

 

「俺の...俺のした事は無意味って事かよクソッタレがぁ⁉︎ クソっクソっクソっ...!」

 

「...マギ」

 

「んだよ...!」

 

 怒りが収まらない俺は、まだ石化していないスタンさんの襟を引っ掴むとそのまま心の憤怒をぶつける様に睨みつけた。

 限界だった。今まで縋っていた希望が、地獄に垂らされた蜘蛛の糸の様にか細い物だと今更になって突きつけられたのだ。

 

「マギ...お前、あの工房の隠し扉を見つけただろ。どうせお前さんの事だ、工房を片っ端からひっくり返してこの状況をどうにかしようとしてたんだろうよ」

 

「ああ、その通りだ。だがっ「マギよ」! ...んだよ」

 

「お前のした事は、なーんにも無駄じゃないわい。わしはもう助からんが、お前は確実にネギとネカネとアーニャを救ったんだよ、このクソガキめ。それを、無駄とか、言うな」

 

 そう言ったスタンさんは、困った様な、悲しそうな顔をしていた。

 だが、俺は間に合わなかった。あんなにご都合主義がゴロゴロ転がっていたにも関わらず、俺はチャンスを逃したのだ。

 けれど、スタン爺さんのその言葉に、何処か救われた自分がいる事も確かだった。

 

「お前達...幸せになれ。人間生きてれば、そのうち幸せに感じる時が来るはずじゃ。マギ、お前にはあの工房をやろう。隠し工房を見つけたお前さんなら、きっと師匠も喜ぶだろうよ」

 

「スタンさん...!」

 

「おじいさん......」

 

 スタンさんの言葉に、ネカネ姉さんは涙ぐみ、ネギとアーニャは悲しそうに眉尻を下げた。

 例え石化解呪を俺が使えたとしても、もう助からないだろう。俺には、もうこの場でこの人を救う事はできない。そう、俺が今から言う約束を果たさない限り、この心の師匠とでも言うべき男とは、二度と会えないのだ。

 

「おいじじい」

 

「なんだ...クソガキ」

 

「...10年だ。後10年以内に、あんたの石化を解呪してやる。楽しみに待ってやがれ」

 

 石化をいつか解いてやることくらいしか、間に合わなかった俺には出来ないのだ。

 色々な感情が混ざり合い、先程よりも粘土が高く濁った、何か黒い物が自分と言う殻を食い破りそうになるのを抑えながら、俺はスタン爺さんに約束した。

 

「くっく...ああ、楽しみに待っててやるさ...クソガ...キ...」

 

 スタン爺さんは、最後に満足気な笑みを浮かべると、完全に石化した。

 

「スタンさんっ...! どうして...あんまりよ」

 

 その壮絶な姿を見届けたネカネ姉さんはその場に崩れ落ち、スタン爺さんにあまりいい思い出のない残りの二人も、そんなネカネ姉さんを見て悲しそうな表情を浮かべていた。

 そんな、絵画にでも描けば賞でも受賞出来るだろう光景を前に、俺はただただ突っ立っているだけだった。頭の回転が、まるで歯車の間に異物が詰まった時の様に止まってしまったのだ。

 

「......おい、アーニャ」

 

「何よ、マギ」

 

「ココロウァ姉さんと兄さんは、どうした?」

 

 スタン爺さんの石化と言う残酷な現実を突きつけられ、頭が錆びついていた俺の中で突然弾けた閃きに、俺は自分の中の何かがひび割れていく音を聞いていた。

俺は必死に願った。アーニャが二人は生きてるよ、と元気に答えてくれることを。まだ別の所で悪魔供と戦っていると。

 しかし、ポツンと呟かれた俺の言葉は瞬く間に辺りを沈黙で包み込んでしまい、その後に続くべき言葉が紡がれることは無かった。

 

「そうか」

 

 ピシッ...ピシッ...と俺の中の何かが徐々に悲鳴を上げ、壊れようとしていた。

 しかしまた別の何処かでは、そんな自分をただただ傍観する自分がいた。それが俺にとっていい事なのか悪い事なのか、今の俺には判断がつかなかった。

 

「...古本」

 

【何だ、マギよ】

 

俺の中の感情を感じ取っているのだろう。古本は何処か喜んでいる様な、悲しんでいる様な不思議な声色をしていた。

 

「...殺せ。殺し尽くせ。悪魔供、全部」

 

 その言葉を紡いだ瞬間、俺は自分と言う存在が崩壊し、再構築されていく様を感じていた。

 黒く、淀み切った何かは俺と言う殻を突き破り、古本にありったけの魔力を注ぎ込んでいく。

 俺の周囲は急な魔力の変動により分子間の結合が解けて崩壊しだし、なけなしに残った自意識の俺は、なんとかそれがネカネ姉さん達に及ばない様にと滝の様な魔力の流れの一部を堰き止めた。

 

【...了解した、マギよ。脳裏に閃く呪を唱えるのだ。さすれば、お前は何百だろうが何千だろうが、好きなだけ悪魔を嬲り殺せるだろう】

 

-眩んだ視界の中、私は飛んでいく-

 

 俺は脳裏に浮かぶ転移呪文を唱え、村の上空へと姿を眩ます。ネカネ姉さん達が周囲に居なくなった事で安心した俺は魔力の制御を手放し、俺を突き動かす欲求に身を任せた。

 

-亡びし者達よ、せめて幾ばくかの間、神の愛に癒されたまえ-

 

「慈悲の...光」

 

 古本から眩い程の光が溢れ出し、俺の魔力が急速に吸い取られていくのに合わせて、ページが捲られた古本の上に白い太陽の様な光球が浮かび上がる。

 光球は俺の魔力に応じて急速に巨大化していき、そのまま浮上していく。

 俺の魔力がすっからかんになる頃には、光球は俺の頭上で小さな太陽の様に光り輝いていた。

 

「光...あれ...」

 

 俺が最後のトリガーを唱えた瞬間、光球は凄まじいスピードで膨張を始め、周辺のあらゆるものを飲み込んでいった。

 俺も、ネカネ姉さんもネギも飲み込まれ、村全てが光に包まれて膨張が暫く止まった頃、そのまま光球は弾け、辺りは眩い程の光の残痕に彩られた。

 

 

 

 

 




【捕捉】
タイトル:幼年期の終わり
・イギリスのSF作家、アーサー・C・クラークの長編小説。1953年に発表され、クラークの代表作としてのみならず、SF史上の傑作として広く愛読されている。 Wikipediaより
・フロムソフトウェアのゲームソフト【bloodborne】エンディング:幼年期の始まりより


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