ありったけの愛を君に   作:みずい

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長谷部から伊織へ。
彼なりに精一杯考えた贈り物を。





中編 4/4

 

「…で」

「はい」

「何故お前が態々私の執務室まで迎えに来たのか説明してもらおうか」

そこは伊織の職場である建物の1階。出口に向かって廊下を歩きながら、伊織が長谷部の方をじろりと睨む。

 

長谷部が伊織に何も言わず現世まで彼を迎えに来たことは何度かある。が、それは建物前の広場で待っていることが殆どで(よく女性職員に群がられているがそれはまた別の話)、建物内部まで入ってきたのは今日が初めてだ。

心配性すぎていつの間にか「キングオブ過保護」などという(伊織から見れば)不名誉極まりない渾名を付けられた彼は、他所の審神者が不審者に会ったから心配しただの、無事に帰ってこられるか不安になっただのと、何かと理由をつけては彼を迎えに来ていた。甘やかされるのが嫌いな伊織としては、その行為は機嫌を損ねる要因に他ならないのだが、それが多少なりとも分かっていて何故執務室まで来たのかを問いただしたかった。

 

「……気まぐれです、俺の」

「は?」

気まぐれ?と思わず聞き返す。その声音に長谷部は思わずすみません、と謝らずにはいられなかった。

「なんだそれは……まあいい。良いか、もう何十回も言ってきたが、その慎重すぎる性格をいい加減どうにかしたらどうだ。私はそんなに弱くないし、君があれこれ心配することもだな…………」

歩きながらくどくどと説教をする伊織に、長谷部は萎縮してしまっていた。今は何を言っても主人の機嫌を余計に損ねるだけだろう、と思い、何も言い返さずにただただ頷き続けた。時折、聞いているのか長谷部君、と問いかけられ、その度にびくびくしていた。

 

長谷部は「気まぐれ」と言ったが、彼が伊織の機嫌を損ねると分かっていて、それでも迎えに行った理由は他にあった。

その理由とは、単純に『伊織と少しでも長い2人きりの時間を過ごしたいから』である。彼らはこうして誰にも邪魔されることなく2人になれる時でなければ、恋人気分を味わうことさえできない。

この2人は2ヶ月程前に恋人になったばかりだ。数ヶ月間、お互いがお互いに片想いをしている、所謂「両片想い」状態のまま過ごしてきたのだが、遂に長谷部が伊織に告白し、それに伊織が応える形でめでたく恋人関係となった。

審神者と刀剣男士の恋愛。これは別に珍しいケースではないらしく、伊織の周りの審神者を見ても数人、同じく刀剣男士と付き合っている者はいる。ではなぜ、他の者の目があると落ち着かないのか――これは、伊織が()()()()()()()()()()()()()()()ことに起因していた。彼は複雑な事情で生まれた時から男として生きている。とはいえ中身は普通に女性なので、女性と付き合うわけにもいかず、かといって男性と付き合ったところで公にはできない。…となると、他人の目の無いところでないと満足にいちゃつくことも出来ないわけだ。(本丸の者でさえ、長谷部以外は伊織が女だと知らないので、本丸でも油断はできない状況らしい)

 

こんな状況下にある長谷部が、こうして一分一秒でも恋人らしい時間を過ごしたいと感じるのは至極当然のことなのだが、どうも伊織の理解だけは得られないようだった。

 

 

 

敷地を出て、本丸に繋がるゲートを目指して歩く。

現世ではそれなりに高い地位にある伊織は、知名度が高いらしく、街を歩いていても指を指されたり手を振られたりする。伊織もファンサービスの一貫なのか、一々それに応えてにこやかに手を振ってあげている。長谷部はそれを複雑な面持ちで見つめる。自分には滅多に見せないような顔をする主人と、その笑顔を向けられる彼らが少し羨ましかった。

「なんだ、さっきから」

「いえ……」

視線に気づいたのであろう伊織に怪訝そうな顔をされるも、道行く名も知らぬ者達に嫉妬したとは言えず、ただ言葉を濁すしかなかった。

 

郊外に来たところで、人通りは殆どなくなった。今だ、と思った長谷部は、ぴたりと立ち止まって、主!と声をかけた。伊織が吃驚して振り返る。

「……どうした?」

「あの……」

長谷部は後ろ手に、小さな箱を持っていた。

今日誕生日を迎える、愛しい恋人への贈り物。

本当は、本丸に帰ってから行われるパーティの中で渡そうと思っていた。だが、せっかくなら2人の時に渡したいと思った彼は、今ここで渡しておこうと決めた。

意を決して、箱を伊織の前に差し出す。

「……お誕生日、おめでとうございます」

僅かに頬を染めながら、しかしその藤色の双眸は真っ直ぐに伊織を捉えていた。

「…覚えていて、くれたのか」

「当たり前でしょう。…誰より大切な女性(ひと)の生まれた日ですよ。忘れるわけがありません」

驚きと喜びで目を見開く伊織を見て、嬉しそうに目を細め、さ、受け取ってください、と囁く。

「…これは……」

「どうぞ、開けてみてください」

そう促されて蓋を開けると、夕陽を受けて輝く青紫が目に入ってきた。箱の中にあったのは、大きめの宝石があしらわれた指輪だった。角度によって青く見えたり紫に見えたりするその宝石の色がとても綺麗で、思わず手に取ってしげしげと眺めてしまった。

「サムリング、というものだそうです。親指に嵌める指輪だとか。…特に、右手の親指に付けると、指導者としての成功を意味するとか。伊織様にぴったりでしょう?」

「指導者としての……」

「はい」

現世でも人の上に立ち、こちら側に来れば自分達刀剣男士を束ねなくてはならない。そんな彼に―いや、彼女に、彼が精一杯考えて買ったプレゼントだった。伊織がアクセサリーの類を着けているのはほとんど見ないが、指輪ならもしかして、と思ったのだろう。

 

長谷部は伊織の手から指輪をそっと取り上げ、伊織の右手の親指に嵌めた。銀の装飾と青紫の宝石(いし)は、彼の黒い手袋の上でその存在を訴えている。

「…ぴったりだ。私は…お前に指輪のサイズなど教えたか?」

大きすぎず小さすぎず、自身の指に驚くほど適合している指輪を見て、思わずそんな疑問を投げかけた。

「…実を言うと、サイズについては翡翠様にご協力頂きました」

「翡翠に…………?」

そう呟いて、はっとする。確か先月だったか、たまたまアクセサリーショップに立ち寄った時、翡翠にそそのかされて指輪の試着をしたことを思い出した。まさか、あれはこれを見越して………

「…そういうことか」

「はい。……主は剣を振るうことが多いと思いますので、邪魔になるかと心配はしたのですが…」

それでもこれを差し上げたくて、と長谷部は笑った。

「…戦闘時以外は着けるよ。せっかく長谷部がくれたものだから」

「ありがたき幸せ…」

 

満足いくまで指輪を眺めた伊織は、箱を鞄にしまって、長谷部の方を向き直す。

「ありがとう。今までで一番幸せな誕生日だよ」

「…それは良かったです。…では、帰りましょうか」

「ああ」

泣きそうになっている長谷部と、幸せそうな微笑を浮かべる伊織。対照な2人は、また歩き出す。ゲートのある場所はもう、すぐそこまで来ていた。

 





長谷部から伊織への贈り物は指輪にしました。
ちなみに宝石は、12月16日の誕生石であり、見た目的にも私の好みということから、タンザナイトを選出しました。ラピスラズリも誕生石らしく悩みましたが、タンザナイトのほうが長谷部っぽいなって思って。

あと、すごくどうでもいい情報ですが、伊織が長谷部を君付けで呼ぶ時は結構機嫌が悪い証拠です。あとは喧嘩中とか。
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