今まで出てきたお子様全員出ております。
たくさんのプレゼントありがとうございます。
親としても嬉しい限りです。←
「わざわざ部屋まで来なくても」
「まあまあ…せっかくですし」
「何がせっかくなんだ……どうせお前のことだ、私が珍しく長風呂したから、逆上せたとでも思ったんだろ?」
「…まあ、そんな所ですね…」
「相変わらずだな」
風呂上がりの伊織が、長谷部と並んで階段を下りて一階へとやってきた。いつもなら廊下側から大広間に入るはずが、今日は隣の部屋に入ってから大広間の襖の前に立った。立ち止まったところで、伊織が怪訝そうに尋ねる。
「なんで今日はこっちから?」
「…都合上、ですよ」
少し困ったような微笑を浮かべながら、長谷部が滑るように一歩前に出て、襖に手をかける。
がらり。
「せーのっ!」
ぱぱぱぱんっ!!!
広間中にクラッカーの乾いた破裂音が響き渡る。強くなる火薬の香りと反響する音に、伊織が目を丸くする。
「「主!」」
「「お誕生日!」」
「「「おめでとうーーーっ!!!」」」
わあっと、短刀達が立ち上がる。
「……え?」
伊織は開いた口を塞ぐことが出来ずにいた。日頃はっきりと感情を表に出さない彼だが、これには流石に驚きを隠せないのだろう。
長谷部の手が、伊織の肩に置かれる。
「…本日は、伊織様のお誕生日ですので。勝手ながら我々で、誕生パーティーなるものを企画させて頂きました」
「…誕生パーティー……私のために…?」
「はい」
「…………」
「なんだなんだ、泣きそうか?」
茶化すように笑ったのは、幼馴染の蓮。
「え、泣いてくれるとか…大成功、以上じゃない?」
期待したように加州が伊織を見つめた。
伊織はぼんやりと考えていた。
昔から誕生日というのは、さほどめでたい日だと思えなかった。同じ日に良くないことが起きた、というのもあるが、それ以上に、彼には祝ってくれる者が少なかったのだ。親とは不仲で、自分の親代わりになってくれた人物がいつも一人で祝ってくれた。蓮と出会ってからは二人になったけれど。
大人になり、仕事を始めてからは翡翠達が祝ってくれたが、いくら地位のある立場にいるとはいえ、いい年をした彼を盛大に祝うわけもない(伊織が望まなかったのも理由の一つだが)。
そんな彼にとって、こんな大規模な誕生パーティーは初めてのことだった。自分でも喜んでいるのは分かるが、笑えばいいのか泣けばいいのか、どう反応するのが正解なのか分からなくなっていたのだ。結果、ただただぽかんと口を開けることしか出来ないわけだが。
「嬉しいんなら素直に笑えよな、オレも準備に参加してやったんだぜ」
「そうですよ主さん。兼さん、壁のお花作ったり、あれこれデコレーションするの、頑張ってたんですよ、サボらずに!」
「おい国広、それじゃまるでオレがいつもはサボってるみたいじゃねえか!」
奥の方―伊織の席の傍―からそう呼びかけるのは、会場設営に積極的に取り組んでいた和泉守と堀川だった。
「そうだな。嬉しいのなら笑うべきだ!主は些か感情表現が乏しいようだが!」
「あるじさま!…うれしいですか?」
岩融と今剣もそれに便乗する。
「………うれしい…こんな…生まれて初めてだ……!」
まさに花のような、と言うべきか。長年彼を見てきた蓮さえも数える程しか見たことのない、伊織の満面の笑み。
「すごく嬉しい!……私のために…ありがとう…!」
涙こそ出なかったものの、今にも泣き出してしまうのではないかと思うほどその声は震えていた。余程嬉しかったのだろう。
逆に今度は会場の皆がぽかんとしてしまった。ここまでの笑顔は、本丸の男士達も初めて見たわけであり、ほとんどの者が「こんな風に笑えるのか」と感心したことであろう。
「さ、主。貴方のお席はあちらです」
長谷部の誘導で、伊織が自身の席へと向かう。
ふかふかの座布団に腰を下ろすと、さっと傍らに寄ってきたのは三日月宗近と小狐丸。
「…?」
「ぬしさま。本日のこの祭りの中心はぬしさまでございます」
「…ああ」
「祭りの中心人物はこれを装着するそうだ」
「え?」
三日月が有無を言わさず伊織に襷を掛ける。白地に赤のラインが引かれたそれには、太いゴシック体で『本日の主役』と書かれてある。――安定が薊たちに頼んで買ってきてもらった一品だった。
「…なんだこれ」
「主役の証だ。よく似合っているぞ」
「それと、こちらを」
ぽん、と被せられたのは赤のクラウン。
「僕たちが作りました。どうですか?」
平野が手を挙げる。買い出し班の極短刀たち(平野、今剣、小夜、薬研、前田)が、買い物が終わったあとに作ったものらしい。カチューシャに取り付ける形になっており、ずり落ちないように工夫されているようだ。
「…綺麗」
「良かった」と前田が微笑んだ。
「じゃ、乾杯しよっか」
加州の合図で、全員がグラスを持つ。隣に居た長谷部に促される形で、伊織も持つ。
「主の……伊織さんの誕生日を祝して!」
「「「乾杯!」」」
わぁ、と声がして、ガラス同士が当たる音がする。
「料理は仲良く分け合って食べてね。あ、主の分は俺が取ってあげるね」
伊織が食卓を見る。色とりどりの料理が並んでいて、どれから取っていいか分からない。ローストビーフにロールキャベツ、サーモンのマリネにパエリア、海老チリに酢豚に肉じゃがに………ここは何処かのバイキングなのかと疑いたくなるほどバリエーションに富んでいる。
「光忠が中心になってね。皆で朝から作ったんだ」
「…だから私に、今日休みを取られては困ったわけか」
「そういうこと。無茶言ってごめんね」
「いいや、気にしてない。こんなに楽しい思いをさせてもらったのだから」
「良かった。…何か食べる?」
「じゃあ……………」
「了解。待っててね」
すっと立ち上がって、加州が目的の料理の皿のある方へと移動する。
「…すごいな」
「ですね。俺はあまり準備に参加出来なかったのですが…これ程とは」
「私は幸せ者だな、こんなに祝われて」
「そうですね。それほど、主は皆に慕われているということですよ。自信を持ってくださいね」
「……うん」
長谷部の言葉に、伊織はまたふわりと微笑んだ。視線の先では、皆が幸せそうに料理に舌鼓を打っている。
「お待たせーーーーっ」
すぱんっ、と音がしたかと思うと、そこには黒のコートに身を包んだ女性が立っている。サイドだけを伸ばした前下がりのボブヘア。首にはペットなのか何なのか、白蛇をマフラーのように巻いている。
「……琴乃さん」
驚いた伊織が呟く。突然の客人の登場に広間は一瞬静まり返る。
「……ごめん、白けさせるつもりじゃなくて。仕事が長引いて遅れただけなのよ。ほんとごめん………あ、私、伊織の担当してます、政府職員の琴乃です」
挨拶を済ませ、琴乃は伊織の席のそばに腰掛けると、テーブルにボトルを置いた。見る限りアルコールの類のようだが、筆記体で書かれたシンプルながらも上品なラベルが、多少なりとも値が張るものであることを示している。
「好きでしょ、これ」
「…覚えてたんですね、流石」
「舐めないでよね」
それは現世で高級品に分類されるシャンパンだった。伊織は酒好き、とまではいかないものの、何か特別なことがあった日にはそのシャンパンを飲んでいた。その情報を入手していた琴乃は、この日のために仕入れておいたらしい。
「私からの誕生日プレゼントよ。おめでと」
弟か妹にするように、頭をぽんぽんと撫でる。甘やかされる事が苦手な伊織は少し照れくさそうに、ありがとうございます、と呟いた。
「え?もうプレゼントあげていいん?」
料理を食べつつ琴乃と伊織の会話を聞いていた秋穂が身を乗り出す。その声に他の客人達も反応したようだ。
「え?…さあ。私はまあ飲み物だしってことで先に渡しただけだけど」
「えー、琴乃さん渡したんなら私もあげたい!早よ渡したかったんよ!」
秋穂はそそくさと小広間に向かう。そこに全員が持ち寄ったプレゼントが置いてあるのだ。
「えっ、それなら俺も」
蓮がそれに続くと、僕も私もと、贈り物を用意したメンバーがぞろぞろと出ていってしまった。
「……なんかごめん」
「いえ………というか、あの人数が用意してる…ってことですか?全員で一つとかではなくて……」
「さあ。私はそこら辺は全く関与してないし…でも、ここにいる子ってあんたのこと大好きだもんね。もしかしたら人数分とは言わずとも、かなりのプレゼントが……」
「そんな、申し訳な………痛っ」
琴乃が伊織の頬を摘む。ぎぅ、と力を込めれば伊織がそれを払いのけて、何するんですか、と怒った。
「誕生日なんだから大人しく祝われておきなさい。申し訳ないとか考えなくていーの。主役なんだから」
先刻三日月が掛けていった襷を指して、そう言い聞かせる。言い返す言葉がないのか、伊織は口を噤んた。
「じゃーん!」
一番に広間に戻ってきたのは秋穂だった。来る時に持っていた大きなラッピング袋を手に、伊織のもとへと駆けてくる。
「室内は走るなよ、危ないから」
「こんな時でもお堅いなぁ、いおりんは……はい、私からのプレゼントやよ」
スカイブルーのラッピング袋は、随分と大きい。秋穂の身長は150cm程だが、その胴体はゆうに隠れてしまいそうな大きさである。
「……これは一体…」
「鶴丸と清光と3人で選んだんよ。開けてみて」
期待に胸を膨らませながら、秋穂が目を細める。これではどちらが贈られた側か分からなくなるほどだ。
「じゃあ、遠慮なく…」
白いリボンを解き、長谷部と2人で中を覗き込むと………そこには白いふかふかの物体があった。中から取り出してみると、ふかふかの正体はうさぎのぬいぐるみだった―――それも、1m級の。首元にはアクセントとしてなのか、薄紫のリボンが結ばれている。
「……うさぎ」
「せや、うさぎや。いおりんいっつも働いてばっからしいし…癒しがあったらええんやないかなって思ったんよ」
好きじゃなかったかな、と申し訳なさそうに目を伏せる秋穂の肩をぽん、と叩く。
「いや、少しびっくりしたが…私を思って用意してくれたんだ。何でも嬉しいさ」
そう言って爽やかに微笑んでみせる伊織を尻目に、鶴丸はやや気に食わなさそうに眉根を寄せ、蓮は「それだから天然タラシになっちゃうんだよ…」と呆れていたが、それはまた別の話。
「次は俺な」
蓮がそう言うと、傍らにいた陸奥守吉行がこれまた大きめの紙袋を差し出す。
「おーだーめいどのすーつじゃ。おんしには必要なもんやろう?大事にしとうせ」
紙袋には現世でもそこそこに値が張る仕立て屋のロゴが書かれている。審神者会議やフォーマルな場では決まってスーツを着る蓮が贔屓にしている店だ。
「…よく、サイズ分かったな」
「翡翠ちゃんに聞いた。てか、買いに行く時も手伝ってもらった。流石にスリーサイズとか俺が知ったらあれかなって」
「当たり前だろ……でも、丁度新しいのを仕立てようか迷ってたんだ、ありがとう」
「どういたしまして」
「じゃあ、次は私達から」
蓮の後ろで待っていた彩と紅が並んで一歩近づく。
紅の手には色鮮やかな花束が、彩の手には前の2人に比べると随分と小ぶりな箱が握られている。
「今日、ここに来る前に選んできたんです、季節にぴったりで、伊織さんに似合う花を選ぶのはちょっと大変でした」
そう言われて見ると、確かにこの時期に花屋で見かけるものばかりだが、派手すぎず地味すぎず、色彩豊かではあるものの落ち着いた雰囲気をもつブーケである。
喜んでくれると嬉しいです、と、へら、と笑う。
「私からは万年筆です。何かと書き物をすることが多いかな、と思いまして」
彩が選んだ万年筆は、ボディが濃紺で、ペン先に模様が掘られているものだった。細身で軽めに作られているのであろうそれは、しっくりと手に馴染む感覚がした。最近はカートリッジ式の万年筆が多いが、彼女は敢えてインク吸入式のものにしたようだ。箱に小さなインクボトルも入っている。
「ありがとう…大事にするよ」
「そちらの花は俺が生けておきます。…執務室に置かれますか?それとも私室に…」
「…思ったより多いから、半分執務室で、もう半分は小広間に置こうかな」
「かしこまりました」
紅から花束を受け取った長谷部が、部屋を出ていく。
「じゃあ、私からも!」
光忠を連れ、京花が空色の紙袋を手渡す。紙袋といっても、両手の平に軽く載せられる程度の、可愛らしいサイズのものだが。
「皆みたいにすごいセンスとかないから、何買ったらいいか分からなくて…」
実用性のあるものをと思ったの、と言われ、渡された袋の口を開けば、そこには薄紫のハンカチが入っていた。吸水性の高い素材で出来ているようで、とても滑らかな手触りをしている。
「ハンカチか…!ありがたく使わせてもらうよ。ありがとう」
「喜んでくれてよかった…!どういたしまして!」
前のメンバーの贈り物のラインナップに少しばかり気圧されていた京花は、伊織の笑顔にふわりと微笑んだ。
「次は私ね。光忠!」
「オーケー!」
アリスが金色の瞳を輝かせながら、傍にいる光忠を呼ぶ。光忠がすかさず懐から小さな紙袋を取り出し、伊織に持たせる。
「うちの主から君へのプレゼントだよ。手作りだから、世界でこれ一つだけだよ、大事にしてね」
笑顔の光忠と紙袋とを交互に見て、袋の中身を取り出す。
手のひらに転がり出てきたのは
「伊織は髪飾りとかしないかもしれないけど…そのくらいなら、男の子でも似合うんじゃないかなって」
「…付けられるものなのか?私でも」
「平気よ。ショートカットでも、横の髪を編み込んで、そこに挿せばいいもの。分からなくなったら加州や次郎辺りに聞いてみたらどうかしら」
絶対似合うからいつか着けてね、と笑顔で言われては、伊織も邪険には出来ないのだろう。わかった、いつかな、とだけ言ってアリスの頭をぽんと撫でる。
「ありがとう」
「どういたしまして。着けたら写真送ってね。待ってるわ」
「じゃあ次は私たちから」
次に前に出てきたのは、紫音、薊、美咲の3名。
「私はこれを。紅茶が好きだと聞いたので。お口に合えば」
小ぶりの缶に入ったダージリンのティーバッグに、小さなラッピング袋に包まれたクッキーが手渡される。外国の街並みのような絵が描かれた缶は、それだけで安くはない物であることを感じさせる。
「ありがとう…私の好み、知ってたのか…」
「蓮さんたちに少しばかりアドバイスしてもらったのだけど」
「ああ、道理で……ありがとう、頂きます」
「私もお菓子を。あと、いま冷蔵庫に入れてもらっていますが、アップルパイを焼きました。それと、アップルパイと一緒に持ってくるのはどうかと思ったんですが……これを」
そう言って一期から袋を受け取った薊は、それをそのまま伊織に渡した。伊織が中を除くと、『激辛注意! ハバネロスナック』と書かれた黒のパッケージが見えた。
「……!」
僅かだが、灰青の目に星が見える。
「辛いもの、お好きだと聞いたので」
「……蓮に?」
「ご名答。ですので、現世で見かけた見た目からして辛そうなスナックを選んでみました。一期が試食したので、味はお墨付きですよ」
「…あれは堪えましたね」
複雑そうな顔で一期が眉間に皺を寄せるのを見て、期待できそうだ、と微笑んだ。
「え、今ので期待に値するのですか…」
…一期の突っ込みは、伊織の耳には届かなかった。
「私はこれを。さっきまで冷蔵庫で冷やしてたんですけどね」
美咲の手にあるのは、5号程の大きさのケーキボックス。それをそっとテーブルの上に置き、箱を開くと、ミックスベリーが載った可愛らしいガトーショコラが出てきた。『伊織さん お誕生日おめでとう』と丁寧な字で書かれたチョコレートのプレートが載せられている。
「昨日頑張って練習してたんだよ。美味しそうでしょ」
美咲の横にいた加州が得意げに微笑む。
「わざわざ今日のために……嬉しい…」
大雑把そうに見える美咲だが、伊織の為と頑張ったのであろう。料理を専門的に習ったわけでもない一般女性が作ったわけだが、テーブルのケーキは随分と整った形をしていた。
いっぱいのお菓子を前に、ぱぁ、と顔をほころばせる。今日1日で様々な表情を見せる伊織に、周りの者達も安堵していた。それは、計画が成功したことに対してなのか、それとも―――
「こちら、私達からです」
「体力のないこの小さいのがあちこち回って選んできたんだ。大事にしてくれ」
桜と鶴丸から手渡されたのは、ガラスケースに入れられたプリザーブドフラワーと、手のひらほどの木箱に入ったタイピンだった。
「綺麗なものだな」
「ストレリチア、といいます。『輝かしい未来』という花言葉があると読んだことがありまして。それと、そちらのタイピンについているのはターコイズです。お守りの石として知られてるそうで」
「前線に出ることの多いきみへの、うちの審神者からの精一杯の気遣いさ」
「お守り……」
言われて見ると、タイピンの先端に小さな緑色の石が見える。それなりに長く生きた伊織から見れば、まだ10年そこらしか生きていない桜の方が余程脆く儚く見えてしまうのに、そんな彼女が自分を思って贈り物を選んでくれたのが、嬉しくていじらしくて。
「…今度の会議にはこれを着けていきますね。ありがとうございます」
「そう言っていただけて嬉しいです。きっと似合うと思いますので……」
「では、私も…」
ふわふわと三つ編みを揺らしながら、伊織の方に向かってきたのは、ちひろ。両手にすっぽり収まってしまいそうな、黒に白のラインが入ったシンプルな包装紙に包まれた箱を手にしている。
「私からは、オードトワレを。伊織くんが着けるタイプか分からないんだけど…着けてみたらどうかなって思って…香りが強くないのを選んだのよ。シトラス系の香りを基調にして、それで………」
香水の類には全く明るくない伊織だが、ちひろの説明で少しだけ分かった気がした。
ちひろのくれたオードトワレは、レモンやオレンジの香りを基調とし、後からローズやゼラニウム系の香りを楽しめるものらしい。香りのきついタイプのものが嫌いな人でも気にせず着けられる、初心者向けでありながら割と万人受けのするトワレらしい。ちひろ自身も香水に詳しい訳では無いのだが、付き添いの薬研と話し合いながら試行錯誤した末に選んだらしい。
「喜んでくれたら嬉しいです。こういうの、買うの初めてだから、好みに合えば良いのだけれど」
「ありがたく使わせてもらいます。…私も香水は初めてだけど、ちひろさんが選んだものならきっと…」
伊織は照れくさそうに笑って、包みを抱き寄せた。
「では最後は私でしょうか」
「瀬羅様のプレゼントは凄いんですよ!」
瀬羅と鯰尾が伊織の前に出てくる。ずっしりと重みのある箱を渡される。濃紫に金色のリボンが眩しい。
「…また随分と、高そうなものの予感が……」
「ふふ。開けてみてください。伊織さんに似合うと思って選びましたから」
促されて包みを開けると、一目で高級品と分かる黒塗りの箱が出てくる。開けば、銀色が目に飛び込んできた。――蓋の外側に花や鳥が掘られた、純銀の懐中時計である。それを開ければ、白地に黒で規則正しく数字が並べられた文字盤が見える。時計というより、芸術品を見ているようだった。それほど美しく、価値のあるものに見えた。
「…こんな高いものを……」
「お気になさらず。今後何かとお世話になりそうですから……前払いというのも何ですけれど、そういう気持ちで受け取っていただければ」
萎縮する伊織に、瀬羅が笑いかける。年齢だけ見れば伊織の方がずっと年上なのだが、こうして見ると瀬羅の方が姉のようだ。
「すご……めっちゃ貰ってんじゃん。良かったなあ」
蓮が伊織の頭をくしゃくしゃと撫でる。乱れた髪を整えながら、伊織は嬉しさと照れくささが混ざったぎこちない顔で笑った。
ぎこちないその笑みが、それがいつもの