雑兵上がりの万夫不当   作:黒河白木

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一兵

 我輩は雑兵である。名前は未だ無い。というより名前なんぞ要らん。

 生きてく上で必要なのは腕っ節と金。後は適当な戦場を引っ掻き回せる実力と勘。

「……あー、クッセェ」

 我が愛刀にこびりついた血糊を振って払う。ろくに手入れとかしてねぇけど錆びねぇな、これ。

 因みにここは…………何処だっけ?適当にフラフラしてたしな。場所、分からねぇや。

 とりあえずそこらの死体に腰掛けるとしようか。お、このおっさん……

「酒!飲まずにはいられない!」

 微妙に酒瓶に血い付いとるが気にしなーい気にしない。

 辛口の旨味が口一杯に広がるぜ!

「んあ?なんだぁ?」

 遠くの方で土煙が舞い上がってやがるな。酒も無くなっちまったし……。

「行くか」

 

 ■◇■

 

 どうしてこうなった。

「おい!お前!何者だ!」

 区切るな区切るな、鬱陶しい。俺の周りを囲むのは黄色い布切れをどっかに着けた野郎共。

 回るな、回るな、回るなっての。ウザいなコイツら。

「無視すんな!」

「ウルセェ、ハゲ。後光さしてんぞ」

「ハゲじゃねぇ!剃ってんだよ!」

 暇潰しにハゲを弄ると周りがちょっとざわついた。あれだな周りもハゲだと思ってたんだな。

「あれだ、昆布が良いとかよく言うけどよ。毛根無いと意味無いんだぜ?」

「マ、マジか……」

「因みに髪に良いって食材の殆どは毛根無いと意味無いぞ」

「……オウフ」

 ヤベッ、言い過ぎたか?で、でも無駄な希望を持たせるより良いよな、うん。

「俺の……」

「ん?」

「俺の希望を返せこの野郎ォォォ!」

 ハゲが槍を片手に突っ込んで来やがった。

「ウルセェ、ハゲ」

 居合いで首と胴体を切り離す。

「こ、コイツ強いぞ!?」

「ハイハイ、サヨナラ」

 抜いた刀を収めずに右手で構え、左手には鞘を逆手に持つ。ま、こんな雑魚共に攻防一体の構えじゃなくても良いんだが、慣れだな、ウン。

 鞘で撲殺、刀で斬殺刺殺、柄尻で殴殺、足で蹴殺。

 30人程度余裕ですわ。

「さてさて、お楽しみの死体漁りと洒落こもうかね」

 俺の収入を担ってるしな念入りにしていかねぇとな!

 

 ◇■◇

 

 黄巾族。度重なる漢の不正役人もとい腐った世の中を変えようと『張角』を首領とした一揆集団の俗称である。

 とはいえこのような集団には荒くれ者達やはぐれ者が集まりやすい。

 つまりは盗賊等の犯罪が横行していくのだ。実際の所それらにより各地の治安は悪化の一途を辿っていた。

 

 ◇■◇

 

 酒がキレた。ついでに俺の堪忍袋の緒も切れた。と言うわけで最近目障りな……何だっけ?黄色い布切れ巻いた奴らをかっ捌いてやった。

「ひぃ!い、命だけは……」

「戦場で命乞いはアホのすることだ。それに襲ってきたのはそっちだろ?」

 大上段から一刀両断。断面は見ない、キショイからな。食欲も失せるし。

 容赦無いって?敵さん助けるとかバカじゃねぇの?殺れるときに殺っとかねぇと後々しっぺ返しくらっちまうよ。

「さっきの奴らは中々の金持ちだったな」

 適当に街でも目指すか。酒とか食い物とかキレてるしよ。

 あ、でも……

「面倒ごとは御免だな」

 イヤな予感がする。

 

 ◇■◇

 

「貴様、何者だ」

 オウフ、何これ。現実の使い回し?

 まあ、今回はハゲじゃなくて傷の目立つお嬢さんだけどな。

「単なる雑兵さ。この街にはちょいと食料やらの買い足しに寄ったんだ」

「ならば早急に立ち去ることをオススメする」

「ん?何でだ?」

「盗賊の大集団が近くに確認されている。早晩襲ってくる可能性があるからな。防衛準備の真っ最中なんだ」

「ふーん、なら、なるべく早めに離れるとしよう」

 アカン、俺の悪い予感が的中するとは……。なりふり構ってられん。酒と飯だけ買ってさっさと出ていって……。

『敵襲ー!敵襲だー!』

「なん……だと……」

 う、運が悪いなんて問題じゃねぇぞ、コレ。なに?狙って来てやがるのか?

「勘弁してくれよ……」

 バカ共、殺すしかない、か。

 

 ◇■◇

 

 賊達が最初に見た光景は閉じられた門の前で鞘に収められた刀を肩に担ぎ瓢箪を煽る筋骨隆々の大男だった。灰色のボロボロの袴に藤色の腰布。腹には晒が巻かれ全身には至るところに傷がある。ボサボサの長い黒髪を橙色のバンダナで纏めその目は鋭く研ぎ澄まされていた。

「おい、テメェら」

 男はゆっくりとした動作で刀を引き抜き両手それぞれに刀と鞘を構えた。その瞬間、賊の大半の者達が……

『(あ、これ死んだわ)』

 と思ったらしい。

「俺の平穏、返しやがれコノヤロウ」

 大地が赤く染まり剣鬼は猛る。

 

 ◇■◇

 

 フハッ、楽勝だったな。所詮は烏合の衆、百人居ようと千人居ようと木っ端に変わりねぇや。

「……ング、プハー!やっぱ戦勝祝いは酒に限るよな」

 中々にお高い酒だったからか酔いが回るのが微妙に早い気がする。う~ん、いい気分だ。

「こ、これはいったい……」

 なんか別嬪さんが来なさった。つーか乳でか!

 ま、どうでもいいがな。

「お前がコレをやったのか?」

「んー?コレってこの死体の山のことか?」

 大体、何人いるんだろうな。目に入った奴片っ端から斬ってたし。……千人とかか?

「まあ、向かってきたから殺しただけだ」

「これほどの敵を一人で……何者だ貴様」

 おいおい、血の気の多い奴だな。弓を向けんなコノヤロウ。あ、女に野郎はおかしいか?じゃあ、なんて言うべき?…………

「答えろ、貴様は何者だ?」

「何者って……単なる雑兵さ。あ、特に仕官してる訳でもねぇから無所属の雑兵、だな」

「お前のような雑兵が居るとは到底思えないのだが?」

「そいつは、俺に言われても困るな。俺が雑兵なのには変わりねぇし」

 えらく突っ掛かるなぁ。別にどうでも良くないか?襲われたから殺し返す。世の中そんなもんだろ。あ、酒キレた。

「そんじゃあ俺はおいとまするぜ。縁が有ればまた会うだろ」

 とりあえずさっさとこの場を去ろうか。何か俺の勘がここから早く逃げろと警鐘鳴らしまくってやがるし。

「待て、話は終わっていないぞ」

「アンタはそうでも俺は終わりだ。これ以上話すことは無い」

「いや、まだだ」

 しつこい。この別嬪さんかなりしつこいぞ。

「お前の名前を聞いていない」

「俺に名前はない」

 よし、完璧な返しだろ。何か目ェ見開いてるけど無視だ。もう警鐘が鐘じゃなくて銅鑼鳴らしてるような感じになってるもの。きっとすぐに……。

「報告!曹操様列びに本隊が到着いたしました!」

 マ、マジか……

 

 ◇■◇

 

「貴女達がこの町の防衛に一役買ってくれた義勇軍かしら?」

 何かスッゴい頭のお嬢ちゃんが何か言ってるな。それにしてもグルグルだな。どうやってるんだ?

「はい!此度の支援感謝します!」

 そういえばこっちの嬢ちゃんもあんなグルグル回る槍使ってたな。傷痕がキツいもんだったが。

 それにしても暇だ。というか俺は義勇軍じゃねぇし必要なくね?

 ……よし、逃げるか。

「おい、お前」

 逃げようとズリズリ後退りしてたらデコッパチのお嬢さんに絡まれたでござる。

「な、なんだ?」

「お前も義勇軍なら名乗ったらどうなんだ?」

「……あー、俺は義勇軍じゃないぞ?今回ここに居たのもたまたま居合わせただけだ」

「とにかく名を名乗れ!」

「無理。俺に名前ねぇもの」

 何かざわついてるが無視だ。いかん、酒がキレてきた。呑まなきゃやってられん。

「そんじゃあ……」

「待ちなさい」

 しつけぇー、超しつけぇー!

「なんだい、螺旋の嬢ちゃん」

「らせ!?……んんっ、北の虐殺は貴方が主犯かしら?」

「正当防衛だ。先に突っ掛かって来たのはアッチ」

「軽く千人は居たと思うんだけど?」

「ハッ!木っ端ごときが千人集まったところで変わらん。一振り5人で200回刀振れば殲滅できらぁ」

 というかそれぐらい出来ねぇと戦場を単騎で生きていけるわけねぇぜ。

「そ、それはどうなんだ?」

 んお?色男君が何か納得いってないみたいだな。ま、別に同意は求めてねぇしな。俺独自の戦場理論さ。

「そもそも、振りかかる火の粉を払うのは当然だろ?アンタら軍の人間も似たような事をしてきたはずだ」

「それにしたって貴方は異常よ。たった一人で敵軍を一人も逃さず門を守りきるなんて……」

「それこそ簡単な話だ」

 いい加減飽きてきたしな。さっさと手の内明かしてとんずらこくか。

 嬢ちゃんたちから何歩か距離をとって居合の要領で地面に円を描く。半径は大体……俺が腕を伸ばして刀の切っ先が当たる範囲だな。

「この円に指先だけでも踏み込んだ奴を片っ端から斬り伏せれば防衛戦も楽勝だ。矢とかは周りに氣を巡らせとけば探知できる」

「…………フッ!」

「……何のつもりだ?」

 説明終わって一息ついてるとデコの嬢ちゃんが斬りかかって来やがった。まあ、止めるくらい楽勝だが。

「やはり、強いな」

「嬢ちゃんはそうでもないな」

「その余裕!いつまで持つ!」

 おうおう、炎みたいな攻めだな。一振り一振りがまあまあ重いし鋭い……ウン、結構楽しい。めんどくさいが此処までの使い手と殺り合うなんて滅多に無いしな。

「ちょっと乗ってきたな。死んでくれるなよ?」

 防御一辺倒から徐々に虚実を交えて攻撃に移る。

 自分で言うのも何だが俺の戦い方は結構変わってると思う。何せ常に鞘と刀を両手で持ち変えてるんだ。お陰で自分がどっち持ってるか忘れてしまう程だぜ。

「ッ!随分と芸達者だな!」

「まあ、慣れたもんだ。アンタこそ中々にやるもんだな。此処まで食い付かれるとは思わなかったぜ」

 いや、マジで思ってなかった。このぶつかり合いは楽しいもんだ。

「そこまでよ、春蘭」

「!?か、華琳さ……」

「隙あり」

 一瞬乱れた隙をついて一度刀を戻し抜き放つ勢いで柄尻を嬢ちゃんの刀にぶつけカチ上げる。そのまま首に刃を添えて勝負アリってな。

「ぐっ……少々卑怯ではないか?」

「先に集中乱したのはそっちだろ?主に声を掛けられようと真剣勝負で目を逸らす方が悪い」

 刀を収めて酒を煽る。1日2回も勝利の美酒を味わえるとは乙なもんだぜ。

「化物じみてるわね、貴方。名前は……そういえば無かったわね」

「おう、この下り何度目だ。いい加減飽きたぞ。もう良いだろ?俺はさっさと出ていきたいんだが?」

「私の軍門に下る気はないかしら?」

「はぁ?」

 おいおい、随分とビックリな事言うな、この嬢ちゃん。と言うか……

「すまんな嬢ちゃん。どこの誰かも分からん奴の下には着けん」

 あ、また驚かれた。

 え?旗見ろって?悪いが俺は学が無いんだ。字の読み書きなんぞ出来ん。

「はぁ……私もまだまだということかしらね」

 ため息つきたいのはこっちの方なんだが?

「私は曹操。この大陸を統べるべく覇道を突き進む者よ」

「曹操…………ああ、そこらで戦争繰り返してるのはアンタか」

 何か周りの奴らの目付きがヤバイ。

 特に変な頭巾被った嬢ちゃんが特にヤバイ。目力で殺されそうだ。

 普通、というかボケてんのは色男君ぐらいだな。後は臨戦態勢とは言わんが警戒してるっぽい。

「俺がアンタの下に就くことに意味が有るのか?」

「意味が必要かしら?」

「そりゃ要るだろ。俺はアンタとは初対面だしな」

「そうね…………貴方の望むものは何かしら」

「平穏、と言うか酒呑んで面倒事に巻き込まれんならどうでもいい」

 おう、今度はため息かよ。だからため息つきたいのは俺の方だっての。

「……春蘭以上の戦闘能力なのに平穏を望むのね」

「誰が好き好んで戦争に首突っ込むかよ」

 俺は戦場で生きるしかなかったんだ。そして血と泥の臭いは未だに嫌いだ。

「腑抜けなのかしら?」

「くはっ!腑抜けで結構だ。出鱈目に喧嘩を売りまくって恨みを妬みを怒りを負の感情を背負う位なら」

 俺はそこで一度言葉を切る。似合わねぇな。俺は元々こんなに弁がたつ人間じゃねぇんだよなぁ。

「酒をかっ食らう飲んだくれの方が数百倍増しだ」

 

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