雑兵上がりの万夫不当   作:黒河白木

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雑兵と覇王

「そらそらどうしたァ!」

「ッ!ぐっ!くそっ!」

 我輩は雑兵である。名前はまだない。今はでこっぱちの嬢ちゃんと手合わせをしている。

 ん?何でそんな事してるのかって?

 俺が聞きたいくらいだ。

「姉者!このっ!」

「はっはっは!甘いっての」

 飛んできた矢を鞘で払ってデコの嬢ちゃんをぶっ飛ばす。

「ほら、どうした。前衛がそう簡単に下がるな。じゃねぇと……」

 デコの嬢ちゃんを無視して青髪の嬢ちゃんに詰めよって首を掴む。

「かっ……!?」

「秋蘭!?その手を離せ!」

「おいおい、無策で突っ込むな」

 青髪の嬢ちゃんを掴んだままその場で回転して突っ込んでくるデコの嬢ちゃんに対する盾にする。

 卑怯、卑劣は敗者の論ってな。

 負けたやつが悪いのさ。

「そこまでよ」

「よお、螺旋の嬢ちゃん」

「相変わらずの呼び方ね。私は曹操よ」

「知らねぇよ。無理矢理引き留めたのはそっちだろ。俺には関係無い」

 そう、俺は今螺旋の嬢ちゃんの所に来ている。まあ、酒が旨いから良いんだけどな。

「つれない返事ね。董卓がそんなに良いのかしら?」

「おう、少なくともアンタより良いぜ。アイツ等は俺を上手く使ってくれる」

「……それはあの囮の事を言ってるのかしら?」

「確かに下策だったろうさ。キレ者なら誰も採らない策だ」

 俺達が採ったのは策じゃない。

「俺達は信頼であの策をとったんだ。勝ち目が有ったのもある。それ以上に俺達ならやれるっていう信頼が有ったんだ」

「信頼、ね」

「まあ、そんなところだ。……さてと、そろそろ出たいんだが良いか?」

 かれこれ何日居たことか。珍しいんだよなここまで1ヶ所に留まってるのは。

「それは私の誘いを断るということかしら?」

「初対面の時も言わなかったか?嬢ちゃんには惹かれん。まあ、諦めてくれや」

「……私は董卓以下、ということ?」

「当たり前だろ。あいつ以上の王には今のところ会ったこと無いな」

 ん?何か寒いな。

「まあ、少なくとも嬢ちゃんは三下だな」

「……撤回をする気は無いのね」

「事実は受け入れとけ。他人の評価は知っとくべきだ」

 とりあえず飛んでくる矢と鉄球?気弾?と後は刀やらを受けて弾いて繰り返すだけだな。

 まったく、忠誠心の厚いことだよ。

 よっぽど気に入らなかったらしいな。全員斬りかかって来てるし。あのやさ男君位だな。掛かってこないのは。

「ほら、気合入れて掛かってこいよ。弱いまんまじゃ大事な主をムザムザ殺すことになるぞ」

「ナメるなァ!」

「華琳様には手を出させない!」

 やっぱり主軸はこの二人か。実力的にも頭一つ抜けてるしな。大抵の相手には勝てるだろうな。

「その程度じゃあ失うぞ?」

「「!?」」

 それじゃあ、ダメなんだよなぁ。

 この程度じゃ主どころか自分の命も落としかねない。

「主を生き残らせるだけで満足してんじゃねぇぞ。共に生き残るぐらいの意地を見せやがれ!」

 目の前で部下を失い腑抜けになった王を俺は何度も見てきた。原因俺だし当然なんだがな。

「そら、次だ!俺を殺してみせろや!」

 

 

 ◇■◇

 

 

「はぁ~、いい湯だ」

 汗を直ぐに流せるというのは素晴らしいな!

 ついでに月を見ながらの酒も格別だ!

「これで可愛子ちゃんが背中流してくれたらもっと良いんだがなぁ」

「どうかしましたか?」

「いんやぁ。何もねえよぉ」

 ま、さっきまで伸してたし俺も嫌われてるだろうなぁ。

 数刻にも及ぶ手合わせ?というか殺し合いで向かってくる奴等を全員伸して俺は露天風呂へと来ていた。何でもこの風呂、発案は俺のとなりに居るやさ男君らしい。

 うん、良いこと考えるもんだよ。

「あの、えっと……」

「なんだい、やさ男君。俺に何か用かい?」

「……貴方は強いん、ですね。俺、皆が負けるところなんて始めてみましたよ」

「はっはっはっ!伊達に何十年も戦場で生き抜いてないさ。俺は戦場生まれの戦場育ちだから、な」

「……聞いても良いんですか?」

「まあ、な。別に減るもんでもねぇし」

 何処から語るか……。とにかく口を湿らすか。

「……ング、ふぅ。やさ男君には言ったか?俺に名前が無いって」

「は、はい。聞きましてけど……」

「俺はよ。物心ついたときには既に一人だったんだ」

「え……」

 まあ、驚くよな。俺だって、初見で聞けば驚くし。

「酷いもんだぜ。周りは血の海だし、クセェし、汚ねぇし、最悪の環境だったな」

「…………」

「最初に殺しをしたのは確か…………五つ位の時か。殺されそうだったからよ無我夢中で剣を突き出したらブッスリ、さ」

 あの時は発狂しかけたぜまったくよぉ。肉を貫く感触に人の事切れる音。未だにこびりついて取れやしねぇ。

「殺しに慣れたのはその一年後だ」

「……一年で、慣れたんですか?」

「まぁな。正確に言えば俺の感覚が麻痺しちまったのかもな。最初の殺しから殆ど間を開けずに次から次に殺してたし」

「……罪悪感、とかは…………」

「ねぇよ。俺は学んだ。無駄な情けはバカのすることだ。背中を見せていつ刺されるかも分からないなら最初から殺すべきだ」

 殺す覚悟と殺される覚悟。

 前者は必須、後者は持てるなら、だ。

 出来ることなら持たない方が良いに決まってる。同属を殺すことほど嫌悪感が湧く状況はないさ。

「なあ、やさ男君。お前はどうして嬢ちゃんの軍門に居るんだ?」

「それは……助けたもらったからですよ」

「忠義とかじゃねぇんだな」

「……そう、ですね」

「だったら直ぐにでも止めることをお薦めするぜ」

「な、何でですか?」

「言わなきゃ分からないか?簡単なことだ。今のお前さんは連合軍と一緒だ。大義が見当たらねぇ」

「そ、そんなこと……」

「無いと言い切れるか?お前さんは単なる惰性でここに残ってるんじゃないのか?」

「ち、違う!俺は……俺の意思でここに……」

「なら、どうしてあの時俺に掛かってこなかった?俺は言ったよな?主を殺すことになるって」

「ッ……」

「お前は迷ったんだよ。自分の命と嬢ちゃんの命を天秤に掛けたんだ。それが躊躇の原因だ。そしてお前さんが惰性で残る事の理由付けでもある」

「…………」

「覚悟の無い奴が戦地に立つな。覚悟の無い奴が軍を率いるな。覚悟の無い奴が剣を振るうな。やさ男君、今のお前には全部が当てはまるだろう?」

「……」

「迷うなとは言わない。けどな?覚悟は常に持っておけ。その小さな要因が戦を分けることもある」

 長々と語りすぎたか。上がるとしよう。

「ま、待ってください!俺は!どうしたら良いんですか!?」

「悩め。悩んで悩んで悩み尽くして答えを探せ。お前は俺とは違う。流されるなよ」

 ふぅ、語りすぎたぜ。

 ちょっと逆上せちまったよ。

 

 

 ◇■◇

 

 

「護衛も付けずに俺のところに来るとは、な。死にたいのか?」

「あら、私はただ話をしに来ただけよ?」

 屋根に登り夜空を見上げて黄昏てると螺旋の嬢ちゃんがやって来た。

 何故か御付きのあの二人を連れてない。

「貴方とじっくり話したくて、ね。春蘭達が居るとそうもいかないでしょう?」

「カカッ!確かに。俺はアイツ等に嫌われてるしな」

「連合の時から煽りすぎなのよ。もう少し上手く立ち回れないのかしら」

「後悔してねぇから問題ない。他人からどう思われようと俺は俺だ」

 長年染み付いた生き方を変えるなんて不可能だ。まあ、変えるつもりも毛頭無いがな。

「それで?聞きたいことでも有ったか?」

「……私が董卓に劣る理由を聞きに来たのよ」

「は?」

 わざわざ、そんなこと聞きに来たのかこの嬢ちゃん。

「武力、知力で負けてるとは到底思えないもの」

「……戦争脳だな。確かにな董卓は前線にましてや戦場に立つような奴じゃない。一番安全な後方でアイツの事だ、多分祈ってるだろうさ」

「何よ、それ。そんなの……」

「言いたいことは分かるさ。けどな?俺達はそれでもアイツを王にしたいと思ったんだ」

 困惑してるな。まあ、当たり前だな。

「俺達が董卓の元に居るのは武力や知力が有るからじゃない。アイツの思いに着いていってるのさ」

「思い……?」

「武力は武将が変われば良い、知力は軍師が変われば良い。俺達にとって大切なのはアイツが憂いなく民を思える事だ」

「…………」

「確かに脆く弱いものに見えるだろう。でも、董卓はそれでも止めない。優しい奴だからな」

「それが貴方が靡かない原因かしら?」

「嬢ちゃんの掲げる覇道を否定する気は無いさ。ただ、俺は弱い奴等を切り捨てるやり方が気に入らんだけだ」

 戦争で一番苦しむのは民だ。嬢ちゃんの覇道はついて来れる者だけしか助からない。

 弱いものを切り捨てるやり方は確かに正しいのかもな。綺麗事だけじゃ世の中生きていけないし。

 だからこそ董卓の目指すものは汚れなく、いろんな人材を惹き付けるんだろうな。

「納得したかい?」

「…………ええ。そもそも、私と貴方では価値観が違うということね」

「まあ、そうなるな」

「けど、力無い正義についていくのはどうなのかしら」

 おいおい、全然納得してねぇだろ嬢ちゃん。

「それこそ愚問だ。力が無いから代わりに俺達が力を振るってるんだろうが」

 瓢箪から酒を煽る。

「私にも一口貰えるかしら?」

「あ?……別に構わねぇが」

 俺から瓢箪を取り上げた嬢ちゃんがそのまま煽る。あ、顔色悪くなった。

「~~~~ッ!キッツイわねぇ、このお酒」

「これぐらいじゃねぇと酔わねぇんだよ」

「……やっぱり、貴方は呑んだくれだわ」

 けっこうな毒を吐いて嬢ちゃんは屋根を降りていった。

 ……俺もそろそろ寝るべきか。

 

 

 ◇■◇

 

 

「じゃ、世話になったな」

「気にしないでちょうだい。貴方が居たせいか軍の練度も上がったことだしね」

 嬢ちゃんと語らった翌朝。俺は旅に戻るために荷仕度を終えて門の前で見送りを受けていた。

 意外にも嬢ちゃん意外の面々が来るとは思わなかったぜ。

「……『葉』」

「あ?」

「私達は貴方をそう呼ぶわ」

「どうもこのところ名前を付けられることが多いな。別に良いけどよ」

 もう、諦めた。別に俺が名乗る訳じゃねぇし。勝手に呼ばれる分には俺は気にしない。

「それじゃ、戦場で会わないことを祈るぜ」

「私は出来れば貴方を叩き潰したいんだけどね」

「出来もしないことを言うんじゃねぇよ」

 はい、そこ。殺気立つんじゃねぇよ。

「言われて悔しいなら強くなるんだな」

 さってと、長居は無用だな。行くとしよう。

 

 

 遠く離れていく背をただ眺める曹操、そして部下の将軍たち。

 皆一様にその目には決意を新たに宿らせていた。

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