我輩は雑兵である。名前は未だ無い。相も変わらず必要ない。
今日も今日とて火の粉払いに精をだしている。
「はい次の方ァー」
バッサバッサと黄色い奴らを斬り刻む。超汚い。血生臭い。
俺の周りは死屍累々だ。と言うか阿鼻叫喚?血生臭くてかなわんぞ。
「ば、化物め……」
俺を囲んでる腰抜けの一人が何かぼやいてんな。でもあれだ、俺は悪くないだろ。弱い奴らが悪いのさ。
「そら、どうした?一斉に掛かってくれば良いだろ?俺は一騎討ちをしに来てるわけじゃ無いんだぜ?」
姿勢を低くして居合の構えをとる。俺の一太刀は……
「音を置き去りにするぜ」
◇■◇
いま、世間では黄巾の話題で持ちきりだ。しかし、軍を率いる者達もとい軍部は違う。何処からともなく現れ戦場を荒らす【鬼】の対処に追われていたのだ。
曰く、千人以上の屍を一瞬の内に生み出した。
曰く、黄巾のみならず手を出してくるものを見境無く斬り捨てる。
曰く、投槍や矢による遠距離攻撃も決定打にならない。
他にも人とは思えない噂が錯綜していた。
◇■◇
「まさか、攻城戦に参加することに成るとはなぁ」
俺の目の前に聳え立つバカデカイ門。めんどくさい。
「……ング……不味い」
チッ、流石は安酒。気分が落ち込んできやがるぜ。
「戦の前に余裕ですなぁ」
「……んー?おお、華蝶仮面の嬢ちゃんじゃねぇか」
「……何の話ですかな。私は趙子龍。決して華蝶仮面などではありません」
「メンマ食うか?」
「いただきます」
この白い嬢ちゃんは趙雲。流れ者の俺の数少ない知合い、だな。義賊の華蝶仮面なんだが本人は全く認めねぇ。
「あれー?おじさんがここに居るなんて珍しいですねー」
「どの軍にも所属しないんじゃなかったの?」
「よう、お惚けの嬢ちゃんに鼻血の嬢ちゃん」
「風は風ですよー?。お惚けの嬢ちゃんじゃないですー」
「私も鼻血なんて名前じゃないわ!郭嘉よ!」
「?知ってるが?」
「おじさん、態とは性格悪いのですよ」
「お前に性格悪いとか言われたかねぇよ」
天然腹黒軍師め。
「でも、貴方ってかなり性格ひねくれてるわよね?」
「ハッ!俺ほど清廉潔白な真っ直ぐ人間は居ねぇよ」
「それは無いですな」
「メンマ取り上げるぞアホ娘」
「雑兵殿は強盗か何かですかな?」
「元々、俺が分けてやってんだろうが!」
何こいついつの間にやら俺の安酒も勝手に呑んでやがるし!
「というか瓢箪返せコノヤロウ!」
「私は女ですから野郎という表現は適してないでしょうな」
「揚げ足ばっか取るんじゃねぇよ!」
「なんと!?雑兵殿は揚げ足という言葉を知っておられたのか!?」
「俺を馬鹿にしすぎだろテメェ」
「おやおや、こんなか弱い乙女を殴るつもりですかな?器が知れますな」
「か弱くねぇだろ!この似非乙女が!」
「私は全うな乙女ですぞ?」
「どこがだよ!酒の許可は出してねぇぞ!横取りしやがって!」
「私の前でメンマを肴に酒を飲むからでしょうに」
「お前が似非乙女だからだろうが!」
「流石、学が無いと豪語する方ですな。語彙力も乏しいようで」
「こんの…………!」
なんだこのしたり顔、腹立つなぁ。
「おや?さっそく雑兵殿の仕事の時間のようですな」
「あん?」
メンマの嬢ちゃんが指差す先では門を開けることにどうやら苦労してる見たいらしい。というかすごい人だかりだな。
「これは死人が増えますな」
「チッ」
暗に俺に行けってか?
……まあ、死人も増えてるし。俺にもいずれ被害が来る、のか?
◇■◇
攻めあぐねる先鋒隊は突如として縦に割れた。モーセが紅海を割ったようにそして開かれた道を悠然と歩くのは一人の男。
戦場とは思えぬほどの軽装でありその手には一振りの刀。
「退きなテメェら」
男の言葉に蜘蛛の子を散らすように兵達は散り散りになっていった。
男は徐に右足をゆっくりと持ち上げた。
「セイッ!」
門の左側、金具を狙い前蹴りを見舞う。
耳をつんざく金属音と腹の奥に響く重低音が戦場に木霊する。
「もういっちょ!」
左足も同様に持上げ前蹴りを門の右扉へ叩き込み蹴り壊す。
「さってと、後はお前らの好きに動いてくれや」
男はそれだけ言うと門から脇にずれ壁に背を預け腰を下ろした。
兵達は一瞬思案するものの、先程の蹴りを思い出し一目散に城に攻めいるのだった。
◇■◇
「何で俺、縛られてんの?」
解せぬ。全くもって解せぬぞ。
そりゃ、あれだよ。イラつきに任せて門ぶち抜いたけどよ。けどさ、あれは趙雲が悪いと思うんだよな。俺の酒を全部呑みやがったし、分けたとはいえメンマ全部食いやがったし。
あ、またイラっとしてきたぞ。
「………………チッ」
『『『『!?』』』』
て言うかよ、俺って大人しくしてる意味無いよな。何か周りもビクビクしてるし、逃げても良いよな?
よし、逃げるか。
「ふんぬっ!」
雁字搦めの縄を引きちぎり刀を回収、脱兎の如く逃げ出す。
何か後ろの奴らが騒いでるが無視だな。今は一歩でも遠くに逃げるとしよう。
◇■◇
「流石でありますなぁ」
小高い丘の上で趙雲は一人、走り去る男を見送っていた。その手には彼の持っていた瓢箪とメンマの入っていた皮袋が握られていた。先程までのいざこざで回収しきれなかったのだ。
趙雲からしてもどちらも空ということで捨ててもいい気がしているのだがそれがバレたときが一番恐ろしいのでもっていたのだった。
「ホント、化物ね。勝てる人居るのかしら?」
「む、私がいつか勝ち星を上げてみせる」
「でも~、星は全戦全敗ですよね~?」
「ヌグッ!?た、たまたま負けてるだけで……」
「おじさん刀も抜かずに相手してましたよ~?」
「……それは、その…………」
「ふ、風!そろそろ……」
「というわけで、その瓢箪と皮袋を風にくださ~い」
「そ、それとこれとは話が別でありましょうに……」
ワイワイと騒ぐ喧しい三人娘はそれでも特に打ち合わせもせず歩き出す。男の駆けていった方向へと。
◇■◇
ここ……どこ?いや、特に目的地も定めてなかったし適当に走ってきたからなぁ。
まあ、ない頭絞っても意味はない。取り合えず酒を………………ん?
「瓢箪が……ない?」
どう言うことだ?まさか走ってるときに落とした、か?
いや、待てよ。俺が縛られた時点で取り上げられたのは刀だけ。つまりその時点で瓢箪は……なかった?
「…………?……あ……」
思い出した。あのメンマの嬢ちゃんに渡したままだった。
やっちまった。いや、まだ諦めるな俺。そもそもあの瓢箪は空だったはずだ。よし、俺は何も損してない。アイツ等に俺の後を追う口実をやっちまった気がしないでもないが……まあ、些事だな。
「ん?この臭いは……」
何か発酵したような、そして芳しいこの香りは……!ここか!
「さ、酒だ!」
こいつは果実酒、か?いい具合に発酵してやがるぜ!
まずは1杯。
「旨い!」
いい味だ。甘酸っぱくて後味もくどくない。くっ!何で俺は瓢箪持ってないんだよ!
「何か入れ物でも……」
鞘を使うか?いやいや、抜き身で刀持ち運ぶとかどこの戦闘狂だよ。むー、流石に腰布じゃあ酒は汲めんしな。
「どうしたもんか……」
「……………………」
「ぬおっ!?」
手頃な切り株(俺が斬り倒した)に腰掛け黙考するため閉じていた瞼を開けると赤毛の嬢ちゃんがこっちを覗き込んでやがった。
「な、何か用か?」
「…………」
「……………………人形か?」
「……恋は人形じゃない」
「じゃあ、用件を言えや、用件を」
「…………」
黙して語らず、てか?面倒な嬢ちゃんだな。まあ、俺の最優先はこの酒をどう運ぶかなんだがな。
升でも作るか?いや、それじゃあ長く持ち運べねぇかな。竹でも在れば良いんだが……。
「……?スンスン」
ちょっと周りを探してくるか。
「?…………コク……!?」
「よし、行くゴペッ!?」
イッデェェェェ!何!?敵襲か!?
「……ッ!……!、!」
「じょ、嬢ちゃん……?俺に恨みでもあるのか?」
「…………お酒だった」
「あん?……あー、嬢ちゃん酒が呑めんのか?」
「……呑める。けど嫌い」
なるほど下戸か。確かにこの酒結構キツいしな。で、驚いて俺に落ちてきたと。
「おっとこんなことしてる場合じゃ……」
「呂布殿ー!呂布殿ー!どこにいかれたのですかー!」
何かちっちゃい奴が来たな。
「あー!そこのお前!呂布殿になにしてるですか!」
「あ?俺は何も……」
「もんどうむよう!ちんきゅーきぃぃぃぃっく!!!」
「おお!?」
このチビ!跳びやがった!
というか跳び蹴りか。まあ、当たらんわな。
「甘い」
「わぷっ!?は、はなすのです~!」
「おいおい、暴れんなよ。流石に怪我するぞ」
「…………」
「……おい、戟を向けるな。危ないから。別にこのチビに何かしたりはしねぇよ」
この嬢ちゃんスゲェ威圧感だな。さっきまでの呆けた雰囲気まるで無いんだが。
「むむむ、ちんきゅーきっくをかわすとはなかなかやるのですよ」
「いや、あれ位避けれんと一人で戦場に立てるわけ無いだろ」
「む?ひとりでせんじょうとはまるで呂布殿のようですね」
「呂布?赤毛の嬢ちゃんの名前かい?」
「……うん」
「ちんきゅーはちんきゅーですぞ!」
「え、これ俺も名乗る感じか?」
「あたりまえです!呂布殿もなのられたのですから!なのりかえすのがれいぎというものでしょう!」
まいった。何か嬢ちゃんは興味津々な感じだし、チビの方はふんぞり返ってやがる。
てか、このところ名前に四苦八苦すること多いな。……やっぱ必要なのか?
「あー、俺は名前無いんだ」
「……はっ!まさかあなたがうわさの【鬼】!?」
「俺、人間なんだが?」
鬼ってなんだ、鬼って。俺、人だぞ?結構逸脱してる気もしないでもないが人間だぞ?
「呂布殿!おにたいじですぞ!おにたいじ!」
「…………?」
「……どうやら嬢ちゃんは話聞いてなかったみたいだぞおチビちゃん」
「な!?だれがおチビちゃんですか!」
「少なくとも俺が会ってきた人間の中ではかなり小さいぞ?」
上から3番目ぐらいか?小さい順でな。
「むきー!ひとをおちょくるのもたいがいにするのですよ!ながないなどありえないでしょう!」
「あり得るさ、俺は戦場生まれの戦場育ち何でな。親の顔も知らねぇよ」
ガキの頃はよく死ぬ目に合ってたしな。この年までよく生きてたもんだぜ。
っと、こんな話し込んでる場合じゃねぇな。さっさと竹林探さねえと。
「じゃあな、お前さんら。縁が有ればまた会おうぜ」
それだけ言って取り合えず適当な茂みに入る。
竹藪よ……出てこいや!
◇■◇
「…………」
「…………」
「「…………」」
なんだこれ。
俺はついさっき別れを告げて茂みに入ったはずだ。なのに……
「…………」
「まったく!あなたはくまかなにかなのですか!?やはりぼんふなのですね!」
何で着いてくるんだコイツら。