雑兵上がりの万夫不当   作:黒河白木

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四兵

 我輩は雑兵である。名前はまだ無い。しかし、愛称はある。

「あっはっはっはっは!ホンマ強いなぁくまは!」

 飲んだくれた晒の嬢ちゃんに現在進行形で絡まれてるところだ。あ、ちょっ、お前の服防御力皆無なんだからそんなすり寄るなや。

 おうふ、役得役得。

「……くま」

「ん?何だ嬢ちゃイデデデデデ!?」

「……むー」

「痛い!?嬢ちゃん!千切れる!俺の頬っぺた、豆腐みたいに千切れちまうぞ!?」

「くまが張遼殿にたいしてはなのしたをのばしてるからですぞ」

「のばしてな……だから痛いって!」

 俺たちは晒の嬢ちゃんに連れられ都、らく…………何とかに来ていた。

 都の名前ぐらい覚えろって?興味ねぇし必要ないだろ。初めて来たし。

「なんやぁ?ウチに欲情しとんのかぁ?くまはスケベぇやなぁ!」

「ウルセェ、酔っぱらいが!自分の身体をもっかい……いでぇ!?」

「……くま」

「じょ、嬢ちゃん!?さっきから何でそんなに不機嫌なんだよ!?」

「ちんきゅーきぃぃぃっくぅぅぅ!」

「あっぶねぇ!?」

 顔面に飛び蹴りを敢行しやがったチビちゃんをかわして首根っこを掴む。顔が赤いし多分酒飲みやがったな。

「あれ~?くまがいっぱいいるのです~」

「おい、誰だ?チビちゃんに酒飲ましたの」

 こいつマジで酔ってやがる。

 流石の俺もガキに酒は飲ませんぞ。

「あっははは!なんかたのしいのですよ~!」

「……くま、だっこ」

「ホレホレ~!これがエエんやろ~?」

 笑い酒に絡み酒、それに何だ幼児退行か?

 いや、晒の嬢ちゃんは態とだな。まだそこまで酔ってない。問題は嬢ちゃんとチビちゃんだ。

「ふふふ!くま!もっとつぐのですよ!」

「……だっこ」

「ま、待てチビちゃん。こっちを飲んでくれ。ゴフッ!?じょ、嬢ちゃん!?絞まってる!絞まってるから!」

 とにかくチビちゃんに水を渡して嬢ちゃんを引き剥がさねぇと。

 ッ、俺の背骨が折られかねない。てか、ヤバイ。スッゴいミシミシいってるんだけど!?

「さ、晒の嬢ちゃん……」

「んー?なんやぁ?」

「嬢ちゃんをひっぺがしてくれ……」

「えー?役得やと思っとるちゃうん?」

「役得とか以前に……カッ!?、体がお、折られそうだ!?」

「……くま、こっち向く」

「向くから放せ!か、体が折れる!」

 さ、酒が逆流する!?

 俺が言うのも何だが怪力過ぎるだろ。

「むー!ちんきゅーもだきつくのです!」

「へぶっ!?」

 チビちゃんそこ顔面だ!?い、息できねぇ……。

「チビちゃん、放せ……」

「やーですぅー」

「……くま、無視よくない」

 2度とコイツらと酒は飲まん!絶対だ!

 そして晒の嬢ちゃん、この恨み必ず晴らしてやる!必ずな!

 あと、嬢ちゃんはいい加減力弛めろ!し、死ぬる……。

 

 ◇■◇

 

 地獄の宴会の翌日。俺達はでっかい城の前まで来ていた。

「凄いもんだな」

「……おっきい」

「ふぇ~……」

「ふっふっふ、中も凄いんよコレが。ま、案内したるからはぐれんようにな」

 晒の嬢ちゃんに諭されてチビちゃんと嬢ちゃんの背中を押して門を潜る。

 凄いもんだな。広々としてるし…………うん、学が無いからか表現しづらい。

 まあ、とにかく広くて綺麗で……砂利?

「あ、くま。アンタ裸足やったな」

「む?まあ、な。それがどうかしたか?」

「いや、痛くないん?下、砂利やで?」

「こちとら裸足で大陸練り歩いてんだぞ?この程度何ともねぇよ」

 むしろ何か履いてた事の方が少ないな。草鞋は直ぐに破けちまうし、下駄なんて歯が速攻磨り減って板を足の裏にくくりつけた変な奴になっちまったしな。←常に上半身裸で衣服もボロボロ。

「くま!」

「なんだ?」

「かたぐるまをしょもうするのですよ!」

「……急にどした?」

 まあ、減るもんじゃねぇしいいか。

「おおー!たかいのです!」

「おいおいあんまり暴れるなよ。落ちても知らねぇぞ」

「ふふん!こんなこともあろうかとちんきゅーにはひさくがあるのです!」

「秘策?」

 直後、俺の頭に激痛が!?

「まてまてまてまて!?髪を掴むな!ちょ、マジ……離せっての!髪留め!せめて髪留めを掴んでくれ!」

「むぅ、しかたないのです」

 落ち込みたいのは此方だっての。頭皮死んでないよな?抜けてないよな?剃りたくないぞ、マジで。

「で?嬢ちゃんは何してんだ?」

「…………」

 背中に張り付く嬢ちゃんに声をかけてみたが無視された。

 昨日ほどじゃないが絞められるってのはキツいもんだ。出来れば放してほしいんだがなぁ。

「ウチの前でいちゃつくとはいい度胸やな?」

「いちゃついてねぇ。いちゃついてねぇから矛を下ろせ。微妙に当たってるから。チビちゃんがスッゲェ震えてるから」

 視界が揺れてるんだが?うぇ、気分悪くなるぞ。

「さっさと案内してくれ。昨日の酒が逆流する前にな」

「……アンタ、強いんか弱いんかはっきりせんなぁ」

「別に日常生活にまで肩肘張って生活してるわけじゃねぇし。切り換えだ、切り換え」

 まあ、たまに襲撃されたりするけどな。

 何年前だったか、褐色の美人が寝込みを襲ってきたこともあったな。あれは酷かった。起きたら包囲されてるし、首もとには剣が添えられてるしよ。

「……くま、顔色悪い。病気?」

「いいや、ちっと厄介な奴を思い出してただけだ」

 2度と会いたくないけどな。

 顔会わせたら間違いなく殺し合いになる。アイツも面倒だがそれ以上に眼鏡と白髪の二人が厄介だ。

 えらく目の敵にされてるせいか容赦なく首とか眉間を狙ってきやがる。

 よし、この思考はここで終わりだ。どうにも悪い予感は悪い思考に引き摺られてやって来るみたいだしな。

「ここや。粗相をせんようにな」

 何はともあれお偉いさんとの会合をさっさと終わらせようかね。

 

 ◇■◇

 

 董卓、賈駆は自分達の前に立つ大男、赤毛の美女、彼等の後ろに隠れる幼女へと目を向ける。

「え、えっと……霞、彼らが?」

「本当に強いの?一人見た目は強そうだけど【男】じゃない」

 董卓は常のおどおどした様子で賈駆はまるで品定めするように張遼へと確認を行う。

 そもそも報告から信じられなかったのだ。【男】に将軍格の中でも頭一つ抜けている張遼が自称【雑兵】の男に負けたなど。

「どうやらお呼びじゃないようだ。じゃ、帰るぜ」

 男は特に言い返すこともせず踵を返した。

「…………」

「嬢ちゃん?お前の話は多分終わってないぞ?」

「おとこ、おんなとえらぶものにつかえるいみはないのです」

「お前らの【家族】はどうするんだ?」

「……他の人に頼む」

「お前が良いなら良い、のか?」

「待ちぃやアンタら!?まだ、話は終わっとらん!」

「いや、そもそも史官する気が俺には無いんだ。別に地位とか名誉とか欲しくねぇし」

 男は首だけ振り返りこちらを見る。

 その目は深淵を覗くかのように暗く深くそして澄んでいた。

「お前は戦争に何を求める、慎ましき王よ。金か?権力か?地位か?名声か?」

 言外に男はそれ以外に無いだろうと問う。

 董卓はここで確信した。自分は試されているのだ、と。この問いは間違ってはならない。間違えれば男は去り取り返せないことになる。

「私……は……」

 なぜ、戦うのか。ふと、周りを見れば心配そうに自身を見る軍師であり補佐してくれる友が居る。戦場に立ち支えてくれる友が居る。目を閉じれば平和な世を願いそして乱世を必死に生きる者達の姿が浮かぶ。

「誰も、失わないため……」

「……」

「皆の平和を、守るために……」

「けれど、アンタに力は無い」

「……ええ、そうです。だからこそ……」

 董卓は言葉を切り頭を下げる。賈駆が止めようと手を伸ばすが張遼がそれを止めた。

「貴方の力を貸してください」

「……」

「お願い、します」

 一歩木の軋む音が響く。その音は徐々に董卓へと近付き彼女の目の前で止まった。

「………随分と甘い考えの持ち主だな」

「ッ……」

「おまけに他力本願ときたもんだ」

 頭を下げたままの董卓には何が起きるか分からない。ただ視界の端に映る袴が男の物であることは分かった。

「だが……」

 ガシャン、と鞘が床へとぶつかる。

「暫く見届けるのも一興か」

 慌てて董卓が顔を挙げるとヘラリと笑う男の顔がそこにはあった。

 

 ◇■◇

 

「いい街だ……」

 酒も旨いし活気もある。ちっと、騒がしすぎる気もしないでもないが……それもまた良いもんだ。夜景も綺麗だしな。

「くまー?居るかー?」

「……よーう、晒の嬢ちゃんじゃねぇか。用事か?」

「いんやぁ、一緒に呑まんかと思てな」

 確かに俺と呑む気らしい。その手には酒瓶があった。てか、結構高いやつだな。

「昼間は大変やったなぁ」

「他人事みたいに言いやがるがお前らだって突っ掛かって来ただろうが」

「あれは華雄につられたんや」

「いや、ガッツリ襲ってきてただろう、というか殺す気だったんじゃねぇか?」

「はっはっは!それは言い掛かりやあの状況で死ぬようならウチらも要らんしな」

「将軍3人相手にしてその上、兵士500人を殺さず沈めろって、しかもそれで死ぬなって無茶言うなよ」

「アンタ鬼なんやろ?」

「人だ」

「熊っても呼ばれとったな」

「だから人だっての」

 おかしいだろ。一個人につける様な二つ名じゃねぇよ。何だよ鬼って。熊とかあれだろ?俺の体格見たまんまだろ?そもそも熊とか呼ばれたの嬢ちゃんとかチビちゃんにだけなんだが。

「いやいや、人っちゅうのはおかしいやろ。矢まで使われて無傷とかあり得んわ」

「多分嬢ちゃんも出来るぞ?」

「あー、確かになぁ。けど、アンタは恋より強いやろ?」

「恋?誰だ?」

「……はぁ?アンタ一緒に旅してたんやろ?呂布や」

「ほー。嬢ちゃんの真名か」

「というかそれ止めぇ」

「それ?」

「その【嬢ちゃん】呼びや。何や、名前で呼べん理由でも有るんか?」

「……いんや、単に名前が覚えきれんだけだ」

 いや、マジで。何度も聞いてれば何れ覚えるんだが。嬢ちゃんに関しては最初の一回名前を呟いただけで後はチビちゃんが呼んでただけだしな。

「それにあの二人とはこの前会ったばかりだ。長年連れ添ってる訳じゃない」

「ほぉ、そのわりには随分と仲がエエみたいやな」

「猫がじゃれてる様なもんだろ」

「えらく危険な猫やな。虎の間違いやないか?」

「じゃれてくるなら別に変わらん」

「そんなこと言うから鬼とか呼ばれるんよ」

 鬼は虎を手懐けるってか?いや、鬼じゃねぇよ。

「あー!止めだ止め、せっかくの酒が不味くなる」

 高いやつだしな。中々手に入らねぇ。俺みたいな貧乏人には特に、な。

「…………ま、エエわ。短い間とはいえ仲良くしような?」

「それは……あの、王さま次第、だな」

 他人の下につくのは初だが……面白いことになりそうだ。

 けど、出来ることなら……

「穏やかに過ごしたいもんだ」

 

 

 月を肴に酒を呑む。

 そんな男の横顔を張遼が盗み見ていることには気付かなかった。

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