炎の町を、駆け抜ける。背後からは、ガシャガシャと迫る骨の群れ。その数は数十、或いは百に迫る。
「うおおおおおっ!?また来たぞ、何とかしてくれ!?」
「無茶言わないでよ!!アンタ守りながら闘うとか出来ないわよ!!」
廃墟と化した町並みを、二人組の少年少女が逃げ惑う。
「もっかい叫べよ!!お前のデスボイスならあの大群薙ぎ倒せるだろ!?」
少年は東洋人、日本出身の没落魔術一族の末裔だ。白地に黒いベルトの制服を纏い、何処にでもいそうな風貌をしている。
「ちょっとマスター!?アタシの美声が織り成すH-popをデスボイス呼ばわりってどういうこと!?ディスってるの!?」
少女は異形。西洋人の白い肌に、赤い髪。何よりも、拘束衣をモチーフにしたかのようなドレスの下から覗く蜥蜴のような尾と、側頭部から生えた角が異質だ。
「どう考えてもヘビメタのシャウトだよ!!あとH-popって何だよ!?」
彼を知る人は、その少年を『
「ハンガリアンポップスよ!!センスも無ければ常識も無いの!?」
彼女を語る歴史書は、その少女を『
「知るか!!とにかく頼むから宝具撃ってくれよ!!」
「嫌に決まってるじゃない!!アタシは歌いたい時に歌うの!!あんなオーディエンスじゃ気分が乗らないわ!!」
「めんどくせぇサーヴァントだなぁもう!!」
「同感よ、この気の利かないマスター!!」
喧嘩しながらも一心不乱に走る、
────これは、
路傍の石程度の少年と、歪んだ人生を送った少女が、世界を救う主人公を助けるという、実に三流な小話だ。
◇
俺は人理継続保障機関カルデアの、雑用だ。まあ、正確には
保有する魔術回路は36本。一応マスター適性は平均値ある。けど、俺の一家は四代前に根源に至ることを諦めてパンピーになった一族。スペック上は久々にまともな魔術師になれそうな俺だが、これまでの短い人生で魔術の勉強なんかしたことない。
だがどっから聞き付けたのか分からんけど、カルデアの所長オルガマリー・アニムスフィア(美人)が使える人材は多い方がいいってことで、唐突に雪山まで連れてかれた訳である。さみぃぞこら。
んで、初めに戻るが、俺はこのカルデアで雑用をしているのだ。魔術師としての素質はあっても、魔術刻印はおろか自分の属性すら知らないので主戦力にはなれず、カルデア一般職員扱いだ。大学行く選択肢奪われたんですがそれは。職にありつけたのはありがたいけど。
ともかく、俺にとっては人類史の焼却だの人理の修復だのはそんなに緊迫感のない話だ。だって俺雑用だもん。予備のマスターったって、ズブの素人よりマシなだけだし。話が壮大過ぎて、はぁ、何かすごいっすねとしか言えない。平たく言えば、対岸の火事だ。まあ、誰かが何とかするっしょ、みたいな。
そんな訳で、今日がカルデアの
まだ48番目のマスター………藤丸立香だっけ?まだ来てないらしいから、ついでに掃除しておいてあげよう。名前的に多分女の子だろうし。
それにしても、一般人でもマスターになれるとはね。俺が予備で、藤丸立香が48番目にカウントされる理由。それは、カルデアが「山奥で何やってんのか分かんない」と疑う連中もいたから。一般人も募集して、対外的にちゃんと活動してますよアピールをしているのだ。ただ、素人を使うのは危険が伴うので、採用したのは一人だけ、らしい。ドクターロマンが言ってた。
同僚が皆魔術師で、使命に燃えてるような奴らだから、突然放り込まれた一般人には肩身が狭い場所だろう。因みに俺もだ。イジメみたいなことは無かったが、あんまりいい扱いでもなかった。フォローとかしてあげられたらいいな。
─────そう思ってた頃が俺にはあった。
「春樹君!!済まないけど、たった今から君を正式なカルデアのマスターにする!!」
「Oh………」
今、俺はレイシフト場のコフィンに押し込まれている。
理由は簡単。カルデアのマスターが藤丸立香(男だった)を除いて全滅したのだ。誰だ爆弾なんて仕掛けた奴。そのため、ファーストオーダーにしていきなり
え、俺?藤丸の部屋で泣いてたから無事だったよ。可愛い後輩女子が来るかと思ったら、そこそこイケメンの男子だったという夢敗れてブロークンハート。くそう、聖杯に災いあれ。恋の一つもしてみたかった。悔しいから藤丸立香はリッカと呼ぶことにした。いい迷惑か、悪いな。
まあ、ともかく俺も遂に当事者になってしまった訳だ。仕方無いかと腹を括っていると、ドクターが何やら金色の札を渡してきた。
「これは呼符。カルデアの召喚機と同調して、場所を選ばずサーヴァントと契約出来るアイテムだ。数の少ない高価な備品なんだけど、こうなったら使う他無い。レイシフトに成功したら、使って欲しい。君の相棒となる英霊を呼び出すんだ」
頼んだよ、と言い残し、コフィンの蓋を閉じたドクターが去っていく。
響く電子音声。目の前に広がる青い光。
暫しの意識混濁から目覚めると、俺は燃える町の、道のど真ん中で寝ていた。大地は僅かにひやりと冷たいが、燃え盛る周囲の熱が肌を焼く。
「生きて帰れんのかこれ………?」
どう見ても地獄絵図。雲行きが怪しいとしか言えない。不安になった俺は、とにかくドクターの言う通りにしようと呼符を地面に置く。
「で、どうすりゃいいんだ?」
肝心の使い方を聞いてない。
「俺と契約してサーヴァントになってよ!」
「英霊カモン!!」
「来たれ、我が従者!!」
「べ、別に、サーヴァントになって欲しいなんて言ってないんだから!!」
「すいません来てください、何でもしますから!!」
色々言ってみたが、ダメそうだった。そりゃ補欠だったから訓練なんて全くしてないし。
………万事休す。恨むぜドクター。俺に出来ることは、廃墟に身を隠して、床に置いた呼符とにらめっこすることだけだった。
「取り敢えず、風で飛ばないようにしとこう」
その辺に落ちてた石………っぽい白い塊を重石として呼符に乗せる。
─────直後に変化は起こった。
突然、うんともすんとも言わなかった呼符が蒼白い光を放ち始めたのだ。三本の光輪が現れ、その中で光が人の形を成していく。
そして、光は晴れた。
「サーヴァント、ランサー」
俺のサーヴァントが、そこにいた。
見目麗しいが、幼さの残る少女。携えるは槍。攻撃的な黒い武骨な槍。人間にはあり得ない、角と尾。
少女にして異形。異形にして少女。美しく在り、そして異質に在る存在。
「あなたが新しいマネージャー?」
俺の物語が、始まる。動き出す。
「何度も出てきて恥ずかしくないんですか?」
「あれ!?初対面よね!?アタシ初対面よね!?!?」
「いや、何故か言わなきゃいけない気がして」
「何よそれ!?どういう理屈よ!?」
これは、俺とランサー────エリザベート・バートリーの物語。
世に名高き物書きなら唾棄するであろう、賑やかしくも下らない、三流の喜劇だ。
リアルに私の主力はエリザベートです。エリー可愛いよエリー。
ちなみに呼符の上に置いたのは欠けた竜の牙。アニキ辺りが竜牙兵でも倒したんだろ(白目)。