エリザベートと、いっしょ。   作:ジョン・ドウズ

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エリザベートはポンコツかわいい。

しかし実際に動かしてみると意外と難しい。難産でしたがクオリティは保証しません。


第二章節:骨と歌姫

  何がきっかけかは分からないが、取り敢えず俺のサーヴァントを召喚することには成功した。取り敢えずは、だ。

 

「アタシはランサー、エリザベート・バートリーよ!」

 

  俺の目の前にいるのは、中々奇抜な衣装に身を包んだ角付きトカゲ少女。召喚が完了するなり、その場でくるくる回ってポーズを決めて見せたりと、『自分カワイイ』アピールをしている。

 

  そんな彼女を見て思った第一印象。

 

「思ってたのと違う」

 

  この一言に尽きる。

 

「え?何よそれ。そっちの都合で呼んどいて、ハズレ扱いするつもり?」

 

  思わず漏らした一言に、俺のサーヴァント………エリザベートは露骨に嫌そうな顔をした。それもそうだろう。今のは俺の失言だ。きっちり侘びよう。

 

「スマン。勝手なイメージで、英霊ってのは鎧着込んで剣を携えてるような奴ばっかかと思ってたから。貶すようなつもりは無かった」

 

「ふぅん………アナタ、サーヴァントを見るのは初めてなのね。いいわ、許してあげる」

 

  真摯に頭を下げると、エリザベートは納得したのかすぐに機嫌を直した。案外純粋な奴なのかもしれない。てっきりめんどくさい奴かと思ったが。

 

「悪いな。むしろハズレを引いたのはお前だったりして」

 

「でしょうね。このドラゴンアイドルを呼び出したわけだから、さぞマネージメント能力のある魔術師かと期待してたんだけど。まさかそこらのブタの方がマシな素人だなんて!!」

 

「そりゃ悪うござんした」

 

  ドラゴンアイドルって何だよ。トカゲ少女じゃなくドラゴン少女だったか。

 

  というか、オブラートに包むとか、思いやるとかいう思考は無いのだろうか。歯に衣着せぬ低評価である。やっぱこいつめんどくさそう。あの、俺は魔術師の家系で魔術回路はちゃんとしてるから。ドシロウトよりは条件いいから。文句を口に出さず視線としてエリザベートに向けるが、全く気にしていない様子だ。

 

「それで?アタシのヘボマスター。これからどうするの?人理だか何だかを直すんでしょ。アタシに何をさせたいワケ?」

 

「ん?ああ、そーいやそーだった。どーしようかな」

 

「まさかの無策!?」

 

  あ、うん。そうだよ。無策だよ。

 

   申し訳無いが今俺がいる特異点がどういう状況が分からん。確か、聖杯を手に入れればいいんだろ?流石にそれは分かるが、行動指針が浮かばない。

 

  何せ、緊急事態だからとにかくレイシフトしろってドクターに戦場に放り込まれた訳だ。藤丸立香(リッカ)の方が立て込んでるのか分からないが、ドクターからの連絡は来ない。さて動いていいやら悪いやら。

 

「………ねぇ。令呪剥がして帰っていい?」

 

「わりとマジで止めてくださいお願いします」

 

  とびっきりの笑顔で言われた。長い爪で俺の右手の甲カリカリ引っ掻きながらじゃなかったら惚れてたぞこの野郎。初心者に優しくねぇコイツ。

 

  取り敢えずレイシフト前に聞いたことには、藤丸が何とかこっちに来てるってことくらい。後は………マシュだっけ、雑用の俺にも優しくしてくれた子も一緒って聞いたな。状況も分からないし、サーヴァントを呼べたとはいえ単独行動は厳しい。無難に合流するか。当面の目的はそれとしよう。

 

「仲間が来てるらしいから、探しだして合流しよう。ダメか?」

 

「………はぁ。まぁいいわ、そうしましょ」

 

  慌てつつも俺が一応指針が出せたからか、右手が解放された。見逃されただけかもしれんが。ともかく、いきなりの契約破棄は逃れた模様。

 

「一応マスターだし、まあ素人のブタだってことで大目に見てあげるわ。けど、マスター失格と判断したら殺して乗り換えるわよ」

 

「おっかねぇ!?」

 

  ビビる俺を他所に、エリザベートは廃屋から出るとずんずん進んでいってしまう。慌てて追いかけ、横並びになる。流石に放置される訳にはいかない。並んでみると、身長が低い分頭の角が俺の首に向いているようで恐ろしい。

 

  ただ面倒なだけでなくて、物騒なサーヴァントだ。実に運がねぇな、俺。伝説に偽りなし、ってとこか─────

 

「わきゃっ!?」

 

  突然エリザベートが視界から消えた。

 

  違った。骨っぽいものに躓いてこけてた。沈黙が俺たちの間に流れ、エリザベートが静かに立ち上がる。その表情は俯いているために伺えない。

 

「………大丈夫か?」

 

「痛くないわよ」

 

「ハンカチ要るか?」

 

「泣いてないわよ!!」

 

  勢いよく振り向いたが、それならその目尻の涙は何だよ。泣いてんじゃねーか。強がってカワイイなおい!!

 

  と、ここでイタズラ心に目覚めた俺。ポケットからハンカチを取り出しつつ軽く試してみる。

 

「鼻血出てるぞ」

 

「えっ、うそっ!?ヤダヤダ!!アイドルが鼻血ブーなんて洒落にならないわ!!」

 

  ハンカチを引ったくると自分の鼻に当てるが、白い布地には何の色も移らない。顔を上げたエリザベートが、ナニコレ?と言わんばかりにキョトンとしている。そりゃそうだ。鼻血なんか出てない。サーヴァントは人間より遥かに頑丈だし。

 

「嘘です」

 

  両手の親指をビッと立てて笑ってみよう。

 

「殺すっ!!」

 

  そーら、エリザベートの槍が飛んでくるぞー。

 

  ─────あぶねぇぇぇえっ!?

 

  本当に勘で飛び退いたところ、何とか脳天に振り下ろされた槍の回避に成功した。いきり立つエリザベートの顔が真っ赤に染まっている。

 

「こんの、ブタ!!ヘボマスター!!アタシをおちょくるなんて、いい度胸ねぇっ!!」

 

「いや、何か楽しそうで、つい。スマン」

 

「結構いい性格してるのねアナタ!!」

 

  ハンカチを投げ付けられたが、ちょっと痛いがそれまで。かなり乱暴だが返してくれた。今のエリザベートは、見てて愛嬌がある。何というか、さっきまで怖がってた自分が嘘のようだ。

 

  こうして眺めていると、やはり思う。

 

  さっき俺の感じた『思ってたのと違う』というのは、英雄のイメージとエリザベートがずれていたからってだけじゃない。

 

  真名を聞いて、『お前ホントにエリザベート・バートリー?』って感じを受けたのだ。

 

  記憶が間違ってなければ、エリザベート・バートリーは『血の伯爵夫人』と呼ばれてたはず。確か、中世に生きた貴族。領内600人以上の娘を拷問して殺し、更にその血で風呂を充たして浴びていたとか。

 

  確かに、俺の前にいるエリザベートはワガママだし、マスター脅すしで中々酷いもんだ。英雄かコイツ?って感じ。

 

  けど、それと同じくらい、何というか『幼い』。見た目だけでなく嫌に()()()()()。初めは傲慢に、横暴に思えた口振りも、無知な子供の癇癪かのようだ。

 

「いい!?アタシはアイドル、アナタはマネージャー!!アタシを輝かせるのがアナタの仕事であって、主役はこのアタシなの!!」

 

「そうなのか?」

 

「そうよ!!」

 

「じゃあドッキリの仕事取ってこなきゃ」

 

「歌の仕事取ってきなさいよバカ!!」

 

  ああ、やっぱそうだ。もう怖くない。分かったぞ、コイツとの付き合い方。お互いに、言いたいことはハッキリ言う。これだ。

 

  それならそうと、さっきから頻繁に出てくるワードについて聞いてみようか。

 

「じゃあエリザベート。マネージャーがお前を売り込めるように、ひとつアイドルらしいところを見せてくれよ。例えばそう………歌とか」

 

  歌。このワードが出た途端に、エリザベートの目の色が変わった。待ってましたと言わんばかりに瞳が輝く。目に見えて上機嫌だ。歌うの好きなのか。だからアイドル志望なのか?

 

「アタシの歌声、聴きたいのね!?」

 

「そうそう。よっ、ドラゴンアイドル」

 

「いいわ!!とてもいいわ!!アタシのマスターとして相応しい姿勢よ!!」

 

  あっ、褒められた。さっき俺のことブタだのヘボだのとなじったの忘れてやがる。手のひら返し早いなーと半目で見つめるも、エリザベートは既に自分の世界に没入している。

 

「その姿勢に免じて、とっておきのナンバーを聴かせてあげるわ!!」

 

  ガッと大地に突き立てた槍をマイクに見立て、先の割れた尾を振りながら、アカペラで熱唱し始めた。

 

「♪恋はドラクル(朝は弱いの)優しくしてね 目覚めは深夜の一時過ぎ

    ♪お腹は空くの 生きてるライフ(トースト一つじゃ足りないの)

 ♪Killer☆Killer印のジャムを頂戴

 ♪狩りはマジカル

 ♪あたしクビカル

 ♪チェイテの城から

 ♪ガシガシ届け

 ♪今夜もアナタを監禁させて♪」

 

  ────その歌声は、ある意味でファンタスティックだった。

 

「どう!?」

 

  アカン。期待の眼差しで見つめられてるが、アカペラだということを差し引いても、ズバリの感想はこうだ。

 

「これはひどい」

 

「全否定!?」

 

  悪いことは言わない、グラビアアイドルに路線変更しよう。売れるから。躊躇いなくそう言える程にひどい。声は綺麗なんだけど、楽譜と音程が合ってないであろうことは明らかだし、音楽知識に乏しい俺には細かく指摘できないが、音痴なのは間違いない。

 

「せっかくの美声が………ねぇ」

 

「何よ、その残念なものを見る目は」

 

「実際残念だから困る。楽譜とチューナー見ながら発声練習やろう。俺に言ってやれるのはここまでだ」

 

音合わせ(チューニング)出来てない楽器扱い!?」

 

  ねぇちょっと酷くない?アタシ何も悪いとこ無くない?と俺の周囲をちょろちょろしながら主張しているが、スルーだ。エリザベート先生の次回作にご期待下さい。はい、この話おしまい。リッカ探そうか。

 

「マスター!!ねぇマスター!!ブタ!!ヘボ!!返事しなさいよ殺すわよ!?」

 

「おっかねぇ!!必死過ぎないかお前!?」

 

  流石に殺されるのは勘弁だ。危険な構ってちゃんの限界はこの辺りらしい。信頼関係を築けないと、あんまりぞんざいにも出来ないな。加減が難しい。

 

「必死?違うわ、頭にきたのよ。アタシのリップサービスに付け上がって!!どっちが力関係が上か!下か!!ブタにも分かるようにハッキリと教えてあげるわ!!」

 

  サービスも何も、まずアイドルになれてねぇよ、現実見てくれ。と思うのだが、それは届かぬ願いだ。

 

  俺が頭を抱えていると、エリザベートの騒ぎ声を聞き付けたのか足音が聞こえてきた。もしかして、リッカだろうか。サーヴァントの手綱を握れず困っていたところだ、渡りに船って奴。ガチャガチャ音がするが、甲冑を着たサーヴァントでも連れているのか。

 

「おーいリッカ!!こっちだ!!」

 

「仲間?………マスター乗り換えようかしら」

 

「おいやめろ」

 

  足音の聞こえた方向に向けて叫ぶと、足音はこちらに近付いてくる。音の主は、ものの数秒で廃ビルの角より現れた。

 

  ─────動く人骨でした。

 

「………………人違いでしたか」

 

「どう見ても敵よバカっ!!下がってなさい!!」

 

  続々と現れる人骨。その数は九体。エリザベートは一応マスターの俺を守ってくれるらしく、尻尾で叩いて俺を下がらせ、自分は立ちはだかるように前に出た。

 

「初陣としては華が無くてつまらないけど、いいわ────さあ、ライトを当てなさい!!」

 

「スマホでよければ」

 

「いらないっ!!」

 

  オッケー、次の特異点からは照明器具用意しとく。 

 

  殺意らしいものも感じず、ただアルゴリズムで動いてますという雰囲気の骨の群れ。剣、槍、弓のいずれかを持たされていて、そう早くは動かない。対するエリザベートが取った行動は、

 

「面倒ね。まとめて片付けてあげるわ!」

 

  深く、息を吸い込んだ。

 

  俺の身体が、危険信号を発している。何か、巻き沿いを食らいそう。勘を信じ、耳に手を当て音を遮断する。

 

「Laaa─────────♪」

 

  直感、大正解。

 

  エリザベートが放ったのは、大音量のシャウト。それも某ガキ大将のようなボエーとかいう擬音が相応しいであろう、彼女の口から出た時点で幾重にも反響が起きるという謎事態。

 

  そして人骨のみなさんはだが、哀れにもエリザベートのデスヴォイスの前に悶絶………ではなく、何と凄まじい音の圧力によって粉微塵に粉砕されていた。ついでに周囲の廃墟をも抉り、支えを失って倒壊したビルもある。

 

  ………もしかして、あいつ宝具撃った?流石に宝具じゃないとこの威力出ないよな。自分の声が宝具とかどんだけだよ。引くよ。

 

「どう?マスター、アナタもあんな風になりたくなかったら、アタシを崇め、アタシを輝かせなさい!!」

 

  俺の引き吊った顔を見て気を良くしているようだが、俺としてはエリザベートが哀れでならない。

 

「エリザベート、お前………だからアイドル目指してたのか………」

 

「え。何それは」

 

  理解不能という様子でぽかんとしている。そうか───受け入れているのか、既に!!エリザベート、お前って奴は!!

 

「だって、今の宝具なんだろ?」

 

「そうよ。竜鳴雷声(キレンツ・サカーニィ)って言うの。それが何?」

 

「宝具って伝説の象徴だろ?ってことは、お前………俺は知らなかったけど、昔から凄まじい音痴だったんだろ!?」

 

「違うわよ!!」

 

「いいんだ、皆まで言うな。お前は音痴を克服し、史実を覆したい、そうだろ!?アイドルになろうぜエリザベート!!俺は応援するぞ!!」

 

「だーかーらー、違うってのよ!!アタシは音痴じゃなくてパーフェクトなアイドルなの!!」

 

「ハハハご冗談を………え、マジで違うの?」

 

「悪意があってやってんのか、やってないんだか………」

 

  何だかまたも呆れられた模様。ヘボマスターというのは確かだからな。まあ、エリザベートの足を引っ張ることだけは、避けたい。

 

  避けたい。避けたいのだけど─────

 

「なあ、アイドルの卵」

 

「急に何よ、マスター?」

 

「客が来たぞ。たっぷり」

 

「え、嘘!!デジマ!?」

 

  喜色満面で辺りを見回したエリザベート。しかし、すぐに表情が青ざめる。

 

  言い合っている間に、俺らは骨の死霊達に取り囲まれていた。その数、ざっと四十体。更に続々と集まっているので、総数は増える一方だ。

 

  どうやら、エリザベートの大音量シャウトがこいつらを引き寄せてしまったらしい。宝具使ったらピンチになったとか洒落になんねぇ。

 

「アンコールは、アリ?」

 

「ナシよ!!とっとと逃げるわよ!!」

 

「蹴散らせないのか?」

 

「アタシ接近戦そこまで得意じゃないわ!!」

 

「だろうねぇ!!」

 

  さしものサーヴァントとて、宝具を連発しようものなら、いずれ魔力が枯渇する。そうなれば、幾ら身体能力が高くとも多勢に無勢だ。やがては押し負ける───って確か所長が言ってた。朧気だけど。

 

  加えてエリザベートはランサーだが、()()()()()()()()()()()()()()()()()。ランサーとして最低限の実力はあっても、()()()()()()でしかないのだろう。一人なら相手取れるかもしれないが、俺というお荷物のために選択肢は減っている。結果、逃げる他ない。

 

「手薄なとこを突破しよう!!エリザベート、頼めるか!!」

 

「アタシを誰だと思ってん、のッ!!」

 

  包囲網の中でも数体しか死霊がいない箇所に突撃し、エリザベートが竜の尾を使って凪ぎ払う。弾き飛ばされて骨が散乱した死霊達を尻目に、囲みを飛び出す。

 

「うへぇ、南無三!!後で呪われたりしないよなコレ!?」

 

「知ったこっちゃないわ!!邪魔だから蹴っ飛ばしただけよ!!」

 

「そういうとこ羨ましいね!!」

 

  正面には燃える町。背後には人骨死霊の群れ。

 

「あーもう!!こうなったら作戦変更よ!!どっかに拠点作って陣取るの!!」

 

「籠城すんのか!!数で攻め込まれたらキツくないか!?」

 

「ナメないでよね!!アタシの手にかかれば、どんな場所でもチェイテ城よ!!」

 

「良く分からん自信だな!?けど、まずは追手を振り切ろうな!!」

 

「もうイヤーーーッ!!お父様ーー!!」

 

  わらわらと集まる人骨と、それを引き連れるように逃げる俺達。一番最初の特異点だというのに、もう少し加減してくれてもいいだろう、神様よ。

 

  俺とエリザベートの前途は、実に多難である。

 

 

 

 




次回:おいでませチェイテ城(大嘘)
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