「島村卯月、逆行します!」   作:赤猫;

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10.島村卯月は安部菜々と。①

 

 

 

 

「…そうそう…でファンデの上からフェイスパウダーをかけて…」

私がポンポン、と菜々ちゃんの顔にパフとブラシを当てていく。この人めちゃくちゃ童顔だなほんと、メイクいるのか、と思ってしまう。でもそれでもいるのだ。27歳(断定)では既に肌の劣化が始まっている。いや、そもそも人間というのは赤ん坊の頃からどんどん水分が抜けていくのだ。

「おお!これが現役JKのメイク術!普段より自分の顔がはっきり見えます!」

もはや『ナナも現役JKですけどね!?』とは付け加えない菜々ちゃん。もうあまり私に対してJKアピールをしなくなっていた。何しろ今私が菜々ちゃんにメイクをしている場所は、ウサミン星in千葉県である。つまり菜々ちゃんの家だ。

まず、カフェで初めて会ってから私は毎日のように通って菜々ちゃんのシフトを把握した。(初回エンカウントも臨時バイトだったことから分かるように彼女はあまり高い頻度で働いているわけではなく大変だった)

そしてさりげなく菜々ちゃんに会いに行き、結婚式の招待状、同窓会に行きづらい、待って、結婚じゃなくて出産!?、年賀状出したくないんだけど!近所のママ友と家族ぐるみで海でバーベキュー!?、えっちょ、保育園がなんだって?あれ…目から水が…、みたいなトークで盛り上がった(あるいは葬式のような空気になった)。

ちなみに私が最近そういう何かを体験したのはプロデューサーにプロフィール用紙を書くよう頼まれた時である。趣味の欄に10年前は何を書いたかな…と思った私は思い出した。

趣味:友達と長電話をすること

歳をとると長電話をする友達がいなくなる。ちょっとはいるとかじゃなくてゼロ。しかも高校の時に一番仲良くなっていた凛ちゃん未央ちゃんとの関係はもはやなく、唯一私と仲の良い友達で居続けてくれた慈悲深い美穂ちゃんはアイドル業で忙しくてそんな暇なんて無い。

そういうわけで、完全に私のことを同世代だと認識した(まあ本当に勘違いしてるわけもないが)菜々ちゃんと最近肌に化粧が乗りづらいトークになったのだ。そこで私がこれから10年の間に発展する化粧テクニックを伝授したのである。いや、まあそんなに変わらないのだけれど、そこはノリだ。つまり彼女の顔を彩っているのは現役JKメイクではなく未来OLメイクである。もちろんOL風ではなくJK風のメイクにしてあるが。

「喜んでもらえて私も嬉しいです。今日は346の化粧品しか使ってないのでスタジオにもあるかもしれないですね」

「じゃあメイクさんにお願いしてみますね!ありがとうございました!」

「いえいえ、暇でしたので。ところで現役JKらしくどこかに遊びに行きませんか?メイクの崩れにくさも体験してほしいですし」

「じゃあせっかく千葉に遊びにきてもらったんですし、あそこに行きましょうか。ディズニ一ランド。現役JKらしく」

「あはは、現役JKでなくとも行きますけどねディズニ一。行きましょう行きましょう」

まあ、今日はそんな感じで、遊びパート。

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「卯月ちゃんってなんていうか大人っぽいですよね」

上まで行って降りて来るエレベーターみたいなタワー系アトラクションに並んでいる時に菜々ちゃんが何気なく言った。別にギクッとはせず、まあ昔の卯月っぽさを菜々ちゃんの前ではあまり出していないからだろうな、と思った。が一旦適当なことを言ってみる。

「まあ、菜々ちゃんと大人あるあるみたいなこと話してますもんね」

「うんん、違います。そうじゃなくて、今みたいにちぐはぐに落ち着いてるところ…っていうんですかね。何か気になるような感じなんです」

真面目な顔で首を振った菜々ちゃんはそう言った。『ちぐはぐ』『気になる』凛ちゃんやまゆちゃんが言っていた言葉だ。アトラクションの待ち列が進む、菜々ちゃんは横に設置されている樽とか、骸骨とか盾とか槍とか雰囲気を出すためのそれらを歩きながら指で撫でていった。

「例えばこういうものを指して『凝ってる』だとか感想を言ったり、そこから話題を広げたりそういうことをしないですよね。キャーキャー盛り上がるとか。ナナから話しかけなければ無理して話しかけようとはしてきませんし、無言の間が流れたとしても気まずそうにせず、ゆったりと周りのことを受け止めているようですし」

「そんな、過大評価ですよ」

私が言うけれど、菜々ちゃんはにこりとするだけだった。

「自然体でいることができる。落ち着いて自分を持っていられる。他人を見下すことなく俯瞰して、さらに寛容に受け止められる。そういうことができる人だとナナは思っていますよ」

「…ちょっと、べた褒めし過ぎです。恥ずかしいです。私は菜々ちゃんのこともっとすごい人だって思ってますからね」

「あはは、そう言ってくれるのは嬉しいです」

お世辞だとでも受け取ったのか菜々ちゃんは苦笑いをした。そして、次に優しく微笑んだ。

「そう言ってくれる子がいるだけでナナは幸せです」

その笑顔を、私は尊敬しているのだった。

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