「島村卯月、逆行します!」   作:赤猫;

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11.島村卯月は安部菜々と。②

 

急落下エレベーターアトラクションから降りると、もう菜々ちゃんはへろへろだった。なんていうか…バラエティ番組向きだった。でも私は若い体に入って調子に乗っているので尊敬する先輩を次の絶叫系に連れて行った。いやまあそりゃ本当にやばかったらやめるって。すると本職のバラエティアイドル(?)がいた。よく見るとCPのアイドルも混じっている。

「ちょっと!友紀さん!無理ですって!かわいいボクがこんなの乗れるわけないじゃないですか!」

「あははー、大丈夫だよ!乗っちゃえばすぐだって、怖くない怖くない!」

「いやです!仕事でも乗せられてるのになんでプライベートでもジェットコースターに乗らなきゃいけないんですか!ちょっと紗枝さん助けて!」

「私にもよう止められへんわぁ」

「かわいいボクを見捨てるんですかぁ!?」

「いいじゃん、ほら練習だよ練習」

「練習!?仕事の練習!?ちょ!いやだあああ!!」

「ちょっと幸子さん静かにしないとファンの人に見つかっちゃうから」

「ほら、李衣菜チャンでさえ腹括ってるんだからしっかりするにゃ!」

引っ張り合いになっているが、輿水幸子ちゃんの方が分が悪いようで姫川友紀ちゃんにアトラクションの列の入口へと連れていかれた。その後ろにはなぜか猫耳女子高生みくちゃんとヘッドフォン李衣菜ちゃんが呆れたように笑いながら入っていった。猫耳をつけているということは仕事のうちなのだろうか。

小早川紗枝ちゃんはニコニコしながら手を振って四人を見送った。なんでこの人だけ危機回避できてるんだろう…。

そんなことを考えていると紗枝ちゃんがこちらに近寄ってきた。こういう場所では目立つからか、さすがに和服ではない。先ほどジェットコースターに突入していったアイドル達もそうだったが、学校の制服を着ている、だから目立たないということはないが。ちなみに友紀ちゃんはキャッツのユニフォームを着ている……ここ千葉なんだけどそこらへんはどうなんだろう。

ともかくどうやら制服デートみたいなことらしかった。紗枝ちゃんが説明してくれる。

「今度のKBYDのライブにみくはんと李衣菜はんががでるいうことで、麻友Pの勧めでみんなで遊びにきたんどすぇ」

「ええ!?そうだったんですかぁ!?」

私が疲労し切っているウサミン星人を脇に答える。未来はそう変わったのか。麻友Pの方から申し出たのか、プロデューサーの方から提案したのか、どっちだ?それにそうなるとあと決まっていないのは蘭子ちゃんだけだ。

「蘭子はんは飛鳥はんのライブに出させてもらえることになってるらしゅうて。まあ二つとも言ったらあかんかったかもしれへんけど」

くすくす、と笑った。私の顔色だけで蘭子ちゃんの話題に切り替えたぞこの子、すごい。

「それならCPみんなデビューステージが決まったってことになりますね、よかったです!」

「せやなぁ。がんばりやぁ」

「はいっ!」

私が返事すると紗枝ちゃんは「ほななぁ」といってアトラクションの方に戻っていった。外から見えるタイプのやつなのでどうやら写真を撮るようだ。

「なんか…いろんなところで繋がってますね」

要領を得ない感想だったが、私が呟くと菜々ちゃんはへろへろながらに頷いた。

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その後もいろいろ乗り、歩き、菜々ちゃんの足がほとんど進まなくなってきたところで帰ろうかということになった。というか夕ご飯の材料買ってウサミン星まで帰ってきた。

「あぁ〜疲れましたぁ…最初はジェットコースターとかきつかったんですけど、慣れてくると意外と楽しいものですねぇ…」

「結局、菜々ちゃんも一緒になってキャー!って言ってくれてましたもんね。嬉しかったです」

「それならナナもよかったです…けど別に進んで乗りたいわけじゃないですよ?」

「あはははー」

菜々ちゃんは台所で料理をしてくれていた。多分鮭とか。いい匂いがする。ピンク色の使用感溢れるエプロンをしてフライパンを動かしていた。お母さんみたいだった。

「……菜々ちゃーん」

「なんですかー?」

「お母さんがあと数年後に死ぬってわかったらどうする?」

ぴたり、と菜々ちゃんが動きを止めた。が、すぐに調理を再開した。私がふざけて聞いているわけではないことはすぐわかってくれたようで、笑ったりだとか怒ったりはしなかった。そしてほとんど考える時間もなく返事が返ってきた。

「アイドルを辞めて、実家に帰って、一緒に暮らす……ことはしません。選択ができるならば私はきっと、母が亡くなる前日までアイドルを続けています」

「人気が出なくても?」

「人気が出なくても。売れなくても。バカにされても。そうですね、それが私のやりたいことですから。もちろん諦めなければいけないタイミングはあるかもしれませんが、それをお母さんの死とつなげて考えたらたぶんお母さんは嫌だと思います」

ナナちゃんは苦笑いをした。

「少なくとも、まだ私は終わりたくないですね」

それがなんかかっこよかった。

「…そうなんだ」

「はい!そうです!」

本当に、眩しい、そう。

いい笑顔だった。

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その日はお母さんに電話をして、菜々ちゃんの家に泊まらせてもらった。布団は一枚しかなかったのでどうしようか困ったけれど、テレビを見ながら二人でだらだら喋っているといつの間にか寝ていた。

 

実はこれから10年以内に私のお母さんが亡くなる未来はもうたぶん無い。前の世界での彼女の死因は子宮頚がんだった。私はお母さんに検査を受けるように頼み込み、がんは早期に発覚、切除手術は成功した。

だから彼女はたぶんもうちょっと健康に生きてくれると思う。

 

夜中、ふと目が覚めた。

菜々ちゃんは隣でぐっすり寝ていた。

私が子供のように連れ回したから疲れているのだろう。

 

私は考える、前の世界で死んだ母親のことを。

彼女は最期に何を思っていたのだろう。

頑張り屋をやめた私のことをどう思っていたのだろう。

次から次へと想いは広がり私は少しの間眠れなかった。

 

部屋からは月がよく見えた。

今夜は満月だった。

 

 

 

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