ガールズラブタグを付けました。
どちらも必要なことですのでご了承ください。
ただ、卯月は今のところガールズラブにならないです。
「本田さん!新人のデビューライブはほとんど客がいないのが当たり前なんです!」
プロデューサーが迫真の説得を試みている。
「そうです!未央ちゃん!ゼロでも仕方ないんですよ!だって本当にコアなファンしか私たちのこと知らないんですから!」
私も必死に未央ちゃんに訴える。
「先日のライブはHappyPrincessの人気あってのものです!本来私たちはファンがいない状況なんです!」
「マジアワに出演したからって少しは知られてると思ったら大間違いですよ!ゼロです!ゼロでも当たり前なんです!」
私たちはハンバーガーのクッション(例の私物一品)を持って事務所に出勤してきた未央ちゃんに懸命に言葉を尽くす。私とプロデューサーに詰め寄られている彼女はとうとう我慢できないというふうに顔を上げた。
「わぁーーーーかったってぇ!!えぇ…何!?朝から突然プロデューサーもしまむーも?!私何かした!?涙出てきそうなんだけど!」
「泣きたいなら泣けよ!!」
「しまむー!?」
私たちの正当なる説得にひと段落ついたところでソファーに座っていた凛ちゃんが雑誌から顔を上げた。
「そのくらいにしておきなよ二人とも、なんだかよくわからないけど…未央もわかったでしょ」
「うん…わかったよ、なんだかよくわからないけどわかったよ」
未央ちゃんが首を縮こめて答える。しかし私は念押ししておきたいのだった。
「未央ちゃん復唱してください!ショッピングモールでのデビューライブは普通!」
「ショッピングモールでのデビューライブは普通…」
「立ち止まって見てくれる人は片手の人数いれば上出来!はい!」
「立ち止まって見てくれる人は片手の人数いれば上出来!」
ふむ…ほんとにこれだけでいいのだろうか…。
「プロデューサーさんこれだけでいいですかね?」
「もう一度復唱しましょうか」
「えぇー!もうわかったよぉー!」
「ねぇねぇ、未央ちゃんたち何してるのかなぁ?」
「みりあちゃんは知らなくてもいいことにゃ…」
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「随分賑やかなところだね、この事務所は」
みんなで持ち寄った私物一品を見せ合いながらギャーギャーしていると、飛鳥ちゃんが入ってきた。相変わらずブラックな格好である。視界の端で李衣菜ちゃんが目を輝かせた。突然の登場だったのでみんながしーんとした。
「飛鳥ちゃん!おはようございます!」
「やあ、卯月。相変わらず敬語と感嘆符が似合うね」
すっごい皮肉を言われたような気がする。若干笑顔がひきつる私をスルーして飛鳥ちゃんは部屋を見回した。
「煩わしい太陽だね、蘭子。馬の蹄鉄とは、キミは相変わらず優しい子だ」
「わ、わわ、煩わしい太陽ね!ふ、ふっ!我にとっては造作も無き事よ!」
動揺しまくり可愛い。蹄鉄は壁に掛かっていたので誰のものかわからなかったはずだが、そこは流石といったところか。
「武内P、急ぎだ」
飛鳥ちゃんに呼ばれるとプロデューサーは頷き「こちらへ」とプロデューサー室へ入っていった。扉が閉まった瞬間私とみくちゃん、最年少二名は張り付いて聞き耳を立てた。
「私、気になります!」
「くぅ〜何も聞こえないにゃ〜…」
「なんだろーね!なんだろーね!」
「Pくんに用事…わかった!またライブやるんだよきっと!」
そんなことをしていると、すぐにガチャリ。と扉が開いた。おおぅ、四人とも急いで離れる。飛鳥ちゃんが呆れた顔で立っていた。
「何をしているんだ…全く。卯月、入ってくれ」
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「麻友Pがアメリカに?それはそれは…えぇ!?アメリカ!?」
私が驚くとプロデューサーは頷く。なんだそのリアクションは、と飛鳥ちゃんが怪訝な顔をする。
「そうですアメリカです、つまり…美城常務です」
「なんでまた…」
想像通りの登場人物にうなだれる私。まだ美城常務がこちらへ来ると決まったわけではないが、こんな早い時期から名前が出てきてしまうというのは流石に将来が危うい。海を隔てようと、こちらと向こうの繋がりが行き来可能であるとより人々の意識の中に明確になってしまう。
「どうやら前々からアメリカへ来ないかと誘われていたようですね。彼女は常務が渡米する前は直属の部下でしたから。なぜこの時期に…という疑問はありますが」
そうだ、前の世界ではなかった事だ。少なくともまゆちゃんからプレゼントを貰う時まではいたはずである。その疑問はプロデューサーを見下ろす飛鳥ちゃんが答えた。
「その美城常務とやらは知らないが。あの人が今まで海を渡らなかったのは自己評価が低いから…というのと…まあ、本当のところはまゆがいたからだろう」
「それがどうして?」
「彼女がキミに対して不都合を引き起こすというのなら、キミは既に
一体どういう事だ。
「説明する気があるのかないのかはっきりして」
「キミと同じステージに立った後、まゆは泣いただろう。あれはボクも初めて見たと言ったが、問題は
「…………そういうことか…」
私が呟くと、プロデューサーも理解したようで難しい顔をする。顎に手を当て口を開いた。
「自分が新人である頃から二人三脚でやってきたアイドルでも、自分の手から離れる瞬間というのはありますし、私も経験があります。それは彼女達が引退する時とは別の種類の感慨や衝撃があります。が、この場合、その最終的な…言わば、"親離れ"が島村さんによって発生してしまったというところが問題である、と…」
麻友Pの
「あの場にはボクもいた。彼女は『まゆはもう大丈夫か』としか言わなかったが相当ショックを受けていたのは見ればわかった。そしてその様子にまゆは気づかなかった」
はぁ、とため息をつく飛鳥ちゃん。
「そもそもこんなに早くまゆが"親離れ"するなんてボクも思っていなかった。プロデューサーはその時点でショックだろう。普段ストーカーじみたことまでされているのに予想しろという方が無理だ」
「今は二人はどうしてるんですか?」
「…まゆは事務所にいる。麻友Pは空港に向かった」
飛鳥ちゃんは目を逸らした。
「はぁ!?ちょ、ちょっと待って!?まゆちゃんそれ知ってんの!?」
私が叫ぶと、実は彼女もヤバいと焦っているのか声を荒げる。
「知らないんだよ…というか麻友Pがアメリカへ行くこともちひろさんとボク以外知らない!ボクはまゆと一番付き合いが長いから抑えるために教えられたんだ!」
「おいおいおいおい!ふざけたこと言わないでよ!というかもっと早く言えよ!」
「しょうがないだろ!国を出てから教えろと言われてるんだ!君に話していることもそもそも約束を反故にしてるんだよ!」
「落ち着いてください!!」
武内Pが怒鳴った。それで飛鳥ちゃんは少し落ち着いたようだった。私も落ち着いて、はるか年下の女の子と言い合いになっている事を恥じた。
「すみませんでした」
「いや…いい。ボクもボクを保つので精一杯なんだ。言い訳するようだがプロデューサーはボクにとっても恩人だった………あとぶっちゃけカミングアウトしたらまゆに刺されるかもしれない」
「それはぶっちゃけましたね…」
刺されるとまではいかなくとも、まゆちゃんがどれくらいのショックを受けるのかわからない、最悪自傷に走る可能性もある。
ならやることはひとつだ。
「行こう、空港。まゆちゃん連れてきて」
「…行くのか?本当に」
「行くんだよ!早く!」
叫ぶと飛鳥ちゃんは覚悟した顔をしてダッシュで部屋から出て行った。彼女は彼女なりにこのままではまずいと思っていたのだろう。
「それで、プロデューサーはどうしますか?」
「私は行けません」
プロデューサーの答えに私は絶望的な気持ちになった。この世界で一番信用していると言ってもいい人に裏切られたのである。というのが表情に出たのかプロデューサーは慌てて訂正した。
「すみませんそういう意味ではありません、実はこの後に絶対に欠席することのできない会議がありまして」
「うっわ、社会人だ」
「それはそうです…が、言い訳させて貰うならこの状況なら私でも行きます。ただ…この会議は相手が機嫌を損ねると非常に不味い重要な人物であるにもかかわらず、"こちらの要望で"この日この後の時間に予定を繰り上げして貰った事になっているんです。今日の朝に変更の報告がありました」
「つまり?」
「千川ちひろさんの仕業です」
「ちひろさん!!」
さっき飛鳥ちゃんがちひろさんも知っていると言っていたのはそういうことか。ちひろさんに根回しをして、飛鳥ちゃんがバラした時にせめて武内Pを来させない様にしたのだ。麻友P…相変わらず人をよく見ている。
「それから…正直に言わせていただくと私は麻友Pの気持ちがよくわかります」
「……………」
「私は高垣楓さんと共に新人の頃から歩んできました」
私は一瞬思考が停止する。それをプロデューサーの口から聞いたのは初めてだったはずだ。
「CPを立ち上げる前、彼女が私を必要としなくなる瞬間を私は感じた事があります。その時のショックはとても大きいものでした。現在彼女は私が少しのスケジュール管理を行うのみで、後の仕事は全て自分で行なっています。そうしてトップアイドルとして君臨しています」
「……それで…?」
「
「ーーーーー………」
今から十年後の話だ。
「私の表情が前の世界よりいくらか豊かに見えるなら、それは楓さんの引退まで付き合う事ができたからだと思います。麻友Pは自分のアイドルのことを自分以上に大切に思っています。私もそうです。何も言わずに旅立つ事が正しいかどうかはともかく。それは覚えておいてください」
「最近は…覚える事が多いですね」
私が言った瞬間、部屋のドアが勢いよく開かれた。
「なんとか連れてきた!」
飛鳥ちゃんが叫ぶ。
「早く行かせてください!」
まゆちゃんが暴れていた。何故か彼女の右手にはたぶんガチな手錠が嵌められており、それは飛鳥ちゃんの左手と繋がっていた。まゆちゃんが事務所に持ってきている私物一品だろうか(すっとぼけ)。ともかく、彼女が大事にしている左手首のリボンは無事だったことを記しておこうと思う。
「痛い痛い痛い!引っ張るな!武内Pに車を出してもらわないと移動手段が無いだろう!!」
「早くして!」
悲鳴のような叫びだった。開いたドアの向こう側でCPのみんなが何事かと見ている。しかしそう言われても(ちひろさんのせいで)動けない武内Pはすごい気まずそうな顔をした。
方法はいくつもある。
しかしこの場を一旦仕切り直すには一番インパクトのあるものが必要だと私は思った。
「プロデューサー、車の鍵。貸してください」