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「速えええええええええええ!!!」
五分後、私は武内Pの車(レガシィB4)で高速道路をかっ飛ばしていた。ETC制度確立されてなかったら絶対捕まってた。まあカメラには映ってるだろうがそれは仕方がない。テンションがヤバイ。こんな車ぶつけたら私の人生もヤバイ。
「あああああああああああ!!!怖い怖い怖い怖いって!!!!!」
「卯月さん!早く!もっとスピードをあげて!」
後部座席に座る二人。飛鳥ちゃんは悲鳴をあげていて、まゆちゃんはそれでも動じなかった。
「無茶言うな!スピードは落とせ!!一体なんで運転できるんだ!!」
「それはほら!アメリカで免許取ったんですよ!」
「アメリカは日本と免許制度が違うから使えないはずだぞ!」
「飛鳥ちゃん詳しい!」
でもまあ免許制度が同じなら外国で取得した免許も使える。つまり未来で日本の運転免許を持っている私が車を運転していいのは自明の理である。見つかれば捕まるが。
「卯月さん早く!」
「馬鹿」
「いたぁ!」
また叫んだまゆちゃんの頭を飛鳥ちゃんが殴った。えぇ…。
「卯月もういい、スピードを落とせ。ここまで来てしまってはもう仕方ないだろう。麻友Pに電話…だと出てもらえなさそうだからメールを送って飛行機は一便見逃してもらう。こちらがここまでリスクを背負っているのに今更チケット代が惜しいとは言わせない」
「わかった。私が最年長なのにごめんね」
スピードを落とす。そういえば席までもう取ってたのか。飛鳥ちゃんが手錠の付いてない右手でスマートフォンを操作して、運転席の私を後ろから撮った。
そしてメールを送信した。
「まあ流石に待ってくれるだろう」
「ちょっと待って、今私の犯罪証拠画像が流出しなかった?」
「そうしないと信じてもらえないから仕方ない」
「迷いがないなぁ」
まあ、それで待ってもらえるなら私が運転する意味もある。そこから数百メートル車が進んだところでまゆちゃんがポツリとこぼした。
「……二人とも…これってもしかしてまゆのために動いてくれてるんですか?」
「もしかしなくてもそうだね」
「あたりまえだ」
まゆちゃんは大きく目を見開いた。いや、バックミラー越しだからよくわからないけど、たぶん見開いてる。ただ、声は震えていた。
「なんで、そこまで?」
「私はステージでお世話になったから。それに、まゆちゃんのこと好きだしね」
「ボクは今まで一緒に歩いてきたからだ。それに、まゆのことを愛しているからね」
「馬鹿言わないでください…私はプロデューサーさんのことが…」
そこまで言ってまゆちゃんは俯いてしまった。嗚咽が聞こえてくる。どうやら泣いているようだった。飛鳥ちゃんが手錠で繋いだまゆちゃんの手を指を絡めて握り直した。ジャラジャラ、と鎖の音がする。
「まあ、気にしないでよ。まゆちゃん。友達の恋路を応援するのに道路を飛ばすくらいわけない」
「そうだ、ボクらは仲間だ。麻友Pにガツンと言ってやれ。告白してやれ」
「…ぅう、でも、…」
まあまだ混乱しているのだろう。そりゃまだ16歳なのだからあたりまえだ。私はアクセルを踏んだ。とりあえず最年長として伝えられることだけは伝えておこうと思った。
「まゆちゃんは死ぬほど後悔したことってある?」
滅茶苦茶ベタな入りになってしまった。
「………?」
「私はあってさ、まあ多分一回死んでるんだけど。それでまゆちゃんには後悔して欲しくないなって思うわけ」
「………」
「飛鳥ちゃんのさ、その手錠。それが愛だよ。別に彼女は麻友Pとお別れを済ませてるからついてこなくてもいいわけじゃん。なのにそんな方法でまゆちゃんを繋いだ」
一蓮托生の愛。自己犠牲の愛。
「私もまゆちゃんを愛してる。だからこうして後悔しないようにあなたのために動いている。まゆちゃんのプロデューサーに対する愛はどんな種類の愛かわからないけど、後悔が無いことを祈るよ」
「………はい」
「さあついた。空港だ」
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麻友Pはすぐに見つかった。
「あれ、その手錠は何?おしゃれだね」
案外ケロっとした顔だったが、こっちはぐちゃぐちゃだった。まゆちゃんと飛鳥ちゃんが涙をボロボロ流しながらプロデューサーに抱きついたのだ。前からまゆちゃん、背中に飛鳥ちゃん、手錠で繋がれているので輪のようになって、もう逃げられそうになかった。
私も、まあケロっとしていた。空港から少し離れたところに無断駐車してきた車の方が心配だった。ここに心配することは無い。
ここから先は全部いい事しか起こらない。
「二人とも、どうしたの。まゆ、かわいい顔がもっとかわいくなってるよ。飛鳥はそれじゃまるでウチに来た頃じゃないか、私は愛らしくていいと思うけどね」
「プロデューサー」
「なに?まゆ」
「好きです」
言った瞬間、麻友Pの光のない瞳に一瞬だけライトが当たった気がした。まゆちゃんの目を見れば、その瞳には確かな光があった。
私は人の目を見て話す麻友Pにその光が反射したのだと思った。
彼女はまゆの目を見て、はっと何かに気づくような表情をした。しかしすぐに苦しそうな顔をして、そして笑顔に隠した。
「ありがとう、まゆ。だけどね私たちは」
まゆちゃんは手錠のついた右手とリボンがついた左手でプロデューサーの頭を掴むと、そのまま顔に引き寄せ、無理やりキスをした。
「ー〜!、〜!!」と、麻友Pが声にならない声を上げるが飛鳥ちゃんも協力して押さえ込んでいるので引き剥がすことは無理そうだった。
場所は空港だし親友が想い人の背中に張り付いているので、奇妙な状況だなぁ。と他人事なので他人事のように私は思った。
数秒後、まゆちゃんがへろへろと口を離した。自分からしたというのに顔が真っ赤だった。そして意外そうな顔をした、麻友Pの顔も赤く染まっていたからだろう。
彼女は口をへの字にしながら、しかし口角は上がり、目をそっぽに向けていた。飛鳥ちゃんが背後からでも感じ取れるくらい脈アリだった。
「いけるぞまゆ!もう一押しだ!」
「ちょっと待って!ちょっと待ってわかったわかった!!」
プロデューサーは降参だ、というふうに手を挙げた。ここで口を隠さないのはまゆちゃんを傷つけないように、という思いからだろうか。その間に、二人とも頬の赤みは引いていた。そういうすぐに冷静になれるところも似てるなぁと思った。
「まゆ」
「はい」
「このままアメリカ行って同性婚するか」
「ブファッ?!」
飛鳥ちゃんが噴き出した。
まゆちゃんは微笑んでいる。
「ジョーク。飛鳥、お前気を抜くと可愛くなっちゃうから私がいなくても気をつけろよ」
「余計なお世話だ!」
麻友Pはまゆちゃんに似た笑顔で優しく笑った。そして、自分の左腕のスーツを捲った。
そこにはピンクのリボンが巻かれていた。
まゆちゃんと飛鳥ちゃんは固まった。
プロデューサーとまゆちゃんの手首のリボンの色は同じだった。真っ赤な紅色が少し色あせた、しかし丁寧に扱われてきたのだとわかる。優しいピンク色。
「知らなかった…」
飛鳥ちゃんが言った。まゆちゃんも知らなかったようだが、何も言わずプロデューサーからの言葉を待っていた。
プロデューサーは口を開いた。
「デビューの日に君にプレゼントしたそのリボン、実は二つに切った後のものなんだ。…まゆ、私もまゆを愛している。まゆが私を好きだと言ってくれるように私もまゆが好きだ。でも指輪の交換にはまだ早過ぎるから、リボンで今のところは許してくれるかな?」
「はいっ!喜んでっ!」
しゅるりと、麻友Pは手首のリボンを取りまゆちゃんの左手首に結んだ。次にまゆちゃんが自分のリボンを取り、麻友Pに結んだ。
「よしっ!じゃあ私は行ってくるよ、アメリカ」
「はいっ、行ってらっしゃい!」
まゆちゃんは元気に言った。目が輝いていた。うーん、これはこれでどうなのだろうか…。
「結局行くのかい?」
飛鳥ちゃんはひと段落したことで安心したのか、ブラックな雰囲気を取り戻そうとしていた。
「うん、まあね。まゆも飛鳥もちひろにサポートしてもらいながら活動することになるけど、それは二人ともの糧になるはずだから信じて頑張って。私は私で、昔の上司に付いて回って色々学んでくるからさ」
個人的にはあんまり学ばないで欲しいのだけどそんなことは言えるはずもなく、三人はいい感じで頷き合った。
「じゃあ、またね」
「はいっ、また!」
「また会おう。プロデューサー」
そんな感じで麻友Pは去って行こうとした、が、ふとこちらを見た。そしてキラキラの目をしているまゆちゃんに視線を向ける。さらに再度こちらを見て手招きした。
「卯月ちゃん、ちょっとおいで」
ずっと傍観者を気取っていたものだから大して考えずに近づいたのがいけなかったのだ。
前髪にキスをされた。
「ーー!!!!」
まゆちゃんの目からハイライトが消え失せた。くそっ!それだけが目的なら飛鳥ちゃんを使えよ!麻友Pは「三人とも、仲良くねー!」という謎の文言を残して飛行機のゲートに去っていった。
「卯月さん、今のは許されませんよねぇ…」
「どう考えても不可抗力だって!!」
「避けようと思えば避けれたんじゃないかな」
「ほらぁ!」
「飛鳥ちゃーん!?」
飛行機は空を飛んでいく。