「島村卯月、逆行します!」   作:赤猫;

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23.島村卯月は感染する。

風邪をひいた。

「へっくしゅん!」

盛大なくしゃみが出る。お母さんがあらあら…という顔をして「今日はお休みね」と言った。風邪をひいたくらいで休めるなんて学生は最高だなぁ!そういえば前もちょうどこの時期に風邪をひいたりした。その時にプロデューサーが家に来たりしたのを覚えている。こちらの世界ではまだデビューライブが行われていないが、それは飛鳥ちゃんたちとKBYDのライブそれぞれにCPのメンバーが出たから全体的に予定がズレたのだろう。

つまりデビューライブは一週間後である。

あれ、こんな大事な時期に風邪引くとか社会人失格かな?まあ、そういうわけで、漫画を読みながらベッドで寝っ転がっていると、お見舞いに来てくれた人がいた。

 

気付いた時には私の左腕が斬り落とされていた。

この世界に来なければこんな体験はしなくて済んだのに。

「ああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

チェーンソーのエンジン音に混じって私の絶叫が響く。まゆちゃんが私の耳元で嗤った。

「うふっ…ふふふふ!!」

咄嗟にそちらの方を見るが、私の目には暗闇しか映らない。周りには私以外の人間が見えなかった。いっそこれがCMの仕事なら中断できるのにと思ってしまうが幽霊のように誰かにガッチリと掴まれた腕は動くことができない。

私は指をわなわなと震えさせながら薄暗い廊下を後ずさりする。外で豪雨の中雷が鳴った。そのうちにも目の前の人間じゃないアイツは近づいてきた。目の白い部分が全て血で染められている。土だらけの吐きたくなる汚い髪、すぐに腐り落ちそうな青くて気味の悪い肌。

「ボクはキミの悲鳴が聴きたいんだ」

先ほどとは違う方向から、目の前の怪物とは違う方向から幽霊の声がした。今まで掴まれていた腕から見えない手の感触が消える。

そしてその手は私の首を絞めた。

「きゃああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

私は思わず飛び上がって。

 

プレイステーションVRのヘッドセットが落ちた。

私はゾンビゲームから解放される。目の前のテレビの画面に装着し直してくださいと表示が出た。二度とつけるかこんなもの。私の両隣ではまゆちゃんと飛鳥ちゃんが涙を浮かべながら爆笑していた。

「ああもう!!笑わないでって!!」

「だって、うふふ、卯月さん、ふふっ、三人の中で一番怖がってましたよ、あはは」

「あはははははは!!『きゃああああ』だと!!そんな性格じゃないだろキミは!あははははは!!」

「お前また車に乗せて高速かっ飛ばすぞ!」

「あーっははは!やれるものならやってみろ!」

「最高ですっ!うふふ!!今のプレイ撮ってたんでTwitterにあげちゃいますね!」

「やめろ!!」

バイオハザードの新しいやつ、風邪を引いた私に小梅ちゃんからの差し入れらしい。お見舞いに来たのはまゆちゃんと飛鳥ちゃん。小梅ちゃんからはソフトを借りてきただけらしいが、途中でプレイするための本体とか諸々全部買ってきたらしい。友達とバカ笑いするためだけに大金を躊躇なく使う中学生って怖いなぁ。まあそりゃ二人とも死ぬほどお金持ってるだろうけどさ。特に飛鳥くんはアイドル以外にもグッズのデザインもろもろで相当貰っているらしい。前の世界の凸レーションよりももっと本格的な企業とのコラボもしてるようだ。

ともかく小梅ちゃんからの差し入れで私たちは遊んでいた。それはもう遊んだ。お母さんが都合よく買い物に出ているのをいいことにリビングで騒ぎまくった。

「あー!ツイートしたなー!まゆちゃん〜くすぐりの刑だ〜!」

「きゃー!きゃー!」

「凛や未央だけでなくCPのみんなが心配していたよ。まあその動画を見れば呆れ顔に変わるだろうが」

「LINEで大丈夫だってちゃんとメッセージ送ってるんだけどねー」

ではなぜ凛ちゃんたちではなくこの二人がお見舞いに来たのかというと、来週のライブに向けて体調を整えなければならないのは他のみんなも同じだからである。風邪をうつしては元も子もない。

そう、実は来週のライブでは蘭子ちゃん含む全ユニットが歌を歌い、踊ることになっているのだ。この前のプロデューサーの説明全然聞いてなかったのまずかったな、と思うくらい前世と予定が違う。というかまあ、一組の新人が一曲だけで挑んで代々木公園の野外ステージの分の客を集めれるとは到底思えないので普通に考えれば分かる話ではある。

「っていうか飛鳥ちゃんって意外とホラー(?)とか余裕だったんだね。この前のお化け屋敷は割とチープだったから判断しかねたけど」

遊園地のやつだ。

「意外ってなんだ。小梅ほど執着してはいないけどね。目的やテーマがはっきりしている類の創作物は好きだよ」

「なにその理由、かわいい」

「キミの感性がよくわからないんだが…」

適当に話しながらまゆちゃんをくすぐっていたが、息を切らしながら真っ赤な顔で逃げられた。

「はぁっ、…はぁっ…それを言うならまゆの方が怖いの平気なの意外だって言ってくれてもいいんじゃないですかぁ…?」

「いや、意外も何も。まゆちゃん普通に悲鳴あげてたじゃん。かわいかったから言わなかったけど」

「なっ!?」

「…まあ、卯月がプレイしてる時はボク達が妨害してたからね。ただ薄暗いだけの序盤の序盤でプレイしてたにもかかわらず全然進めなかった可愛いまゆには敵わないよ」

「ななっ!?」

まゆちゃんが口を変な形にして怒ろうにも怒れない感じで恥ずかしがっている。

「まあぶっちゃけ、私もムービー撮ってたしTwitterにあげたんだけどね」

「!!?ちょっ、すぐに消してください!卯月さん!あなたを消しますよ!!」

「こわっ」

その後、みんなで夕方までギャーギャーいって遊んで、お母さんが作ってくれた晩御飯を食べて解散した。お母さんは私が友達を家に呼ぶなんて久しぶりのことだととても楽しそうにしていた。まあ回復してるとはいえ風邪ひいてたのに友達と遊びまくってることについては一言あったが。それと二人の個性に驚いているようだった。飛鳥ちゃんなんかそりゃそうだろう。いつものブラックかっこいい服だし。あと目が鋭過ぎて初見だと軽く恐怖を感じる。まゆちゃんはふわふわメルヘンな感じだし。目のハイライト消えてるし。でもまあ私の自慢の友達なのだ。

そう言うとお母さんは嬉しそうに笑ってくれた。

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