「島村卯月、逆行します!」   作:赤猫;

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渋谷凛の視点です。
色々抽象的な表現をいつもに増して入れてありますが…必要なことなので分かりにくかったらすみません。
あと新しいアイドルが出てきますけど今回は影薄めです。

あとMマスアニメ化おめでとう


25.渋谷凛は力が欲しい。

「じゃあボクたちは卯月のお見舞いに行ってくるよ」

「みんなが心配してたって伝えておきますね」

飛鳥とまゆがレッスン室にわざわざ事前確認に来てくれた。この二人、変なところで律儀だと思う。それに、年下なのに私より遥かに……辿り着ききっているというか、うまく言い表せないけれど…。ドス黒い炎のような情熱を持っていて、無意識に可愛らしく、なのにどこかその目は冷めている。それは未央がこれからも決して感じることのないだろう種類の情熱だし、私には訪れないだろう不気味な冷たさだった。でも、卯月は違う。あの子は…あの人はふとした時、彼女たちに似ている。そう私は感じていた。だから少し私や未央に対する接し方よりも距離が近いのだと思う。

つまり、それは仕方のないことだった。

「大丈夫かなーしまむー」

私と組んで柔軟体操をしている未央が眉を下げて心配そうな顔をしている。卯月もこれくらいわかりやすい顔をしてくれれば楽なんだけど。いや、まあ、どんな人間だって本心がそのまま顔にでるわけじゃない。卯月がもっとわかりやすく翳りのない笑顔を見せてくれていたとしても彼女の本心は断言できないのだ。

「心配だね、来週ライブだし」

「うーん、まゆちゃんと飛鳥ちゃんだけでいいのかなぁ」

「私たちが行って風邪が移っちゃったら仕方ないし、卯月も気に病むと思うからね」

「そーだよねぇー」

「それに…」

「みなさーん少しいいですかー?」

私の言葉を遮ってちひろさんがCP全体に収集をかけた。レッスンルームで身体を温めていたメンバーは入口の方にぞろぞろと集まっていく。私と未央も床に手をついて立ち上がった。未央が不思議そうな顔をしている。

「それに…?しぶりん今なんて言った?」

「それに…」

飛鳥とまゆだけの方が卯月も嬉しいと思うし。

「何でもないよ」

___________________________________

 

「北条加蓮です。よろしくお願いします!」

「神谷奈緒です。よろしくお願いします!」

CPのみんなに向かってお辞儀する二人。アメリカンドッグみたいな髪の毛の女の子とうちの犬みたいな髪の毛の女の子だ。なるほど、二人とも容姿が整っていた。傍に立っているちひろさんとプロデューサーは微笑ましそうな顔をしていた。

「加蓮ちゃんと奈緒ちゃんはプロデューサーが最近スカウトして来たアイドルで、私がサポートを務めることになります。まゆちゃんや飛鳥ちゃんと同じですね。なので二人もこの部屋を利用しますし、レッスンが重なることがあるかもしれません。みんな仲良く、よろしくお願いしますね」

『はい!』

全員で大きな返事をした後。わらわらと二人を囲んでみんなはわーわー言っていた。私は外からその様子をぼうっと見ていた。すると手を引っ張られる。

「みりあ」

「あのね!凛ちゃんも来てー!」

「いや私は…」

と言いつつも引っ張られてプロデューサーの前に来た。えぇ…いや何で…?みんなが新人二人に質問してる方じゃないの?突然の事に私とプロデューサーが顔を見合わせて困惑していると、みりあちゃんが見えない包丁を腰に構えるようなポーズをした。そしてプロデューサーに突進する。

「ぐさぁーっ!」

「あ、赤城さん!?」

「この浮気もの!」

「えぇ?!」

みりあは手で口元を隠してこらえきれないというふうに「うふふふ!」と笑うと「わぁー!」と言ってみんなの元に戻って行った。

「えぇ…」

推測するに、CPだけでなく他の子もスカウトして来たから浮気という事だと思うけど。今の一連の行動はどこで覚えたのだろうか。プロデューサーは首に手をやった。

「恐らく島村さんか佐久間さんの影響だと思われますが…」

「もう、あんたがしっかりしないとダメでしょ」

「申し訳ありません…」

まあ、プロデューサーに言っても仕方ないんだけど。彼は少しきりっとした顔になると、なにやら封筒を差し出してきた。

「渋谷さん、北条さんと神谷さんのことで少しお願いしたいことがあるのですが」

___________________________________

 

「へぇ〜!そういうわけで、ディズニ一ランド?」

その翌日ジェットコースターの待機列にて、隣で未央が言った。手にポップコーンを持っている。

「うん…卯月と蘭子も飛鳥たちと遊園地に行ったらしいし、噂では菜々さんとも行ったらしいけど、何?346プロにはそういう伝統があるわけ?」

「楽しいからいいじゃないですか!ボンバー!」

「あはは…たぶん麻友Pの受け売りですね…」

私と未央の前に並んでいる茜と藍子がそれぞれ言った。二人とも顔を一応でも隠すためにネズミのサングラスをしているのだけど茜の方はほとんど意味がなかった。

「アイドルっていろんな人がいるんだね」

「すげぇ…茜ちゃんと藍子ちゃんとディズニ一来ちゃったよ私…!」

私の後ろには加蓮と奈緒がいる。私より年齢が一つ上らしいが、好感がもてる初々しさだった。ともかく、今日のメンバーは以上だ。私がプロデューサーに頼まれて奈緒と加蓮を誘って、未央にも誰か誘っておいてと言ったら茜と藍子が来た。

「結局さー、麻友Pってどんな人だったの?」

さっきの藍子の言葉が気になったのか、未央が言う。茜にポップコーンを食べられていた。私も気になるところだった。事情を知らない奈緒と加蓮は疑問符を浮かべながら耳を傾けていた。

「どんな人かぁ。うーん…あまり言っても意味がないかもしれませんけど。私の印象では優しい人でしたよ?ふわふわした雰囲気で、ちょっとドジなところもあって。結構年上なのに親しみやすいというか。あとカメラについても結構話したかなぁ」

「んん?」

私は首を傾げる。未央もピンときてないみたいだった。私はハピプリのライブの時に彼女にたまたま挨拶をしているがあまり親しみやすさを感じるような風では無かった。

というかむしろかなり冷たい雰囲気で、こっちを見定めるような、なんか突き放されてるような感じがした。腕を組んで『ふーん、あなたが卯月ちゃんの仲間の子?』とか言われたし。間違っても優しいとは思えないし、そのプレッシャーは初めてのステージの前に会いたい人ではなかった。まあでもおかげで絶対に成功させてやるぞ、っていう闘争心が湧いてきたけど。つまりふわふわした雰囲気でドジっ子という洞察は理解できない。

すると茜が藍子に反論した。

「えぇー!そうですかー!?私はパワフルで、元気いっぱいで、熱くて、情熱的な人だったと思いますよ!一緒にランニングしたこともありますし、私がライブで失敗しちゃった時に泣きながら怒鳴って励ましてくれたこともありました!」

正面から全く違うことを言われたのに藍子は微笑むだけだった。んん?どいういうことだろう。まゆや飛鳥から聞いた麻友Pの話はもっと違う感じだったんだけど。それにあの2人の中で印象のズレは起きてなかった。未央は難しい顔をする。

「うーん、どっちかっていうと茜ちんの方がわかるかなぁ。私はハピプリのライブであっただけなんだけど挨拶したら気さくに返してくれたし、元気いっぱいって感じで」

「えぇ…私も同じ日に挨拶したけど…なんか冷たい感じだったんだけど。嫌われてたのかな」

なんだろうこの会話の流れは。別人について会話しているわけじゃないはずだけど。私と未央と茜がなんとも言えない顔をしていると、藍子が困ったような顔で口を開いた。

「実は、事務所でも麻友Pについて話すといつもこうなっちゃうんですよね。みんな印象が違って、川島さんとか愛梨さんとか大人組でも全然話が食い違うんですよ」

「ええ?なんかそれ怖くない?」

今まで適当に聞き流していた加蓮が怪訝な顔をする。私と未央も何が言いたいのかよくわからなかった。というか茜は麻友P担当なんだから今更困惑してるのおかしいでしょ。藍子は苦笑いをした。

「ちょっと変ですよね。みんなの前で話すときの印象は仕事人って感じで全員一緒なんですけど、個々のエピソードを交えた印象となるとそれぞれみんな違うんですよ」

「要するにーえっと…」

未央が言いにくそうにした。私はその続きがなんとなくわかったので代弁した。

「みんなに対して仮面を被って接してたってこと?」

しかし藍子は否定する。やけにはっきりと首を振った。

「それは違います。麻友Pはそういう事をする人ではないというのはみんなのズレた印象の中でも共通意識だったんです。それで、みんなだんだんわかってきたんですけど、麻友Pは人から影響を受けやすいんです」

「影響を受けやすい?」

「あー、そんな話もしましたねー!」

茜は思い出したように頷いた。

「茜ちん、どういうこと?」

「うーん、そうですねぇ!麻友Pは絶対に目を見て話してくれるんですけど。そのうちにその人と同じような性格になっちゃうんですよ!」

「ええと、あーちゃん?」

「あはは、麻友Pと少し話したのなら会った瞬間、観察するような目で見られませんでしたか?」

「あっ、見られた」

「私も覚えがある気がする…」

闇が深い、まゆのような瞳だ。でもそれは一瞬で無くなってしまった気がする。

「その時に私たちがどんな人か全部見抜かれちゃってるんです。それでその後の麻友Pはそれに影響されてその人に合わせた喋り方とかになってて、だからみんな印象が違うんです」

さっきからさらっととんでもないことを言ってくる。しかし藍子はいたって真面目らしく話を続けた。

「それはどうもわざとやってるんじゃないらしくて、例えば姫川友紀さんの現場から事務所に帰って来たときに、その後誰も話しかけて"上書き"しないと書類仕事やってるときもずっと野球のラジオ聴いてたりするんですよ」

「えぇ…?それで支障でないの?」

「全員に対して話すときは"仕事モード"になりますし…支障が出るというなら、だからいつも隣にまゆちゃんか飛鳥ちゃんがいたんだと思いますよ。2人のどちらかが話しかけてリセットする、というか」

それだと2人の性格の違いでばらつきがでる…と思ったけど。そうか、まゆと飛鳥、それに卯月が麻友Pについて話すとき、会話のすれ違いが起きてるのを見たことがない。それはあの三人が本質的に似ているから?

私や未央が持てない何か、黒い情熱や凍るような冷たさ、そして無意識の可愛さ、そういうものが少しずつ似ていると麻友Pの中でも判断されたから三人の間では認識がずれないのか?

「とにかく影響されやすい人なんですよ!麻友Pは!」

「まあそうですね、一貫した性格も確かにあるんですが、難しい人でした」

何かあまり納得のいかないうちにまとめられてしまった。まあアメリカに行ってしまってはもう会うこともないだろうから別にいいのかもしれない。

「そういえば、麻友Pって藍子たちに何にも言わずに出て行っちゃったんだよね?」

「はい、私たちもかなり大きな恩を感じているので…そこはちょっと寂しかったですけど…。たぶんCPの卯月ちゃんに影響を受けたんだと思いますよ」

「卯月?」

ここで卯月が出てくるのか。

「影響というか…卯月ちゃんに触発されたと言ってもいいかもしれませんね。あの人は自己評価の低い人でしたから。卯月ちゃんのように何か強い力を持っている人に会わなければ、海を渡らずにずっと日本にいてくれたと思います」

「ちょ、ちょっと待って。しまむーの"強い力"?ってどういうこと?」

さすがに抽象的な話になってきたからか未央が止めに入る。しかし藍子ちゃんは不思議そうな顔をするだけだった。

「えっと…感じませんか?あの子から。何か強い芯のある力のようなもの。飛鳥ちゃんは笑顔の力だと言っていましたけど」

「何かを感じてはいる…かもしれないけど。だからその程度。そこまで断言するほどのものなの?」

近くにいると感じ取れないとか。そういうことなのだろうか。

「いええ、麻友Pが影響を受けやすいという話をしていたのでそういう言い方になりましたが。普通の人はそのくらいで何も変わりません。ひとりの人に出会っただけで地球の裏側に飛ぶ決断をするなんてそんなことがあると思いますか?」

「ううん、?」

「でも、…例えば、凛ちゃんや未央ちゃんは、楓さんのステージを見たことがありますか?あるいは空を広く横切る大きな河のような虹や、南の方の淡い透明な海、あとは真っ暗な冬の星空とか。卯月ちゃんはそういう何か"心動かすもの"を持っているんだと思います。それが麻友Pの影響の受けやすさに掛け合わさってしまい、大きな変化が生まれたんだと思います」

なんか…壮大な話になってきた。私は別にこういう表現はわかる方だけど、一般的な基準ではどうなんだ?

「あーちゃん…なんかポエミーになった?」

「あー、だよね」

「えぇっ!?そんなことないと思いますが…」

「藍子ちゃんも誰かに影響を受けていたのかもしれませんね!」

ごちゃごちゃと話を続けているとジェットコースターの乗り降り口が近づいてきた。未央がふと思いついたように言った。

「そういえばみんな"麻友"Pって名前で呼んでるの?あの武内Pまで。まゆちゃんを担当してるのに、同じ名前で紛らわしくない?」

「なぜ苗字で呼ばないかってことですか?それはですね、苗字で呼ぶともっと紛らわしくて_____」

まあ、そんな感じで私たちは重要なのか重要じゃないのかよくわからないような話をしながら親交を深めた。今頃卯月はホラーゲームでもやって悲鳴をあげているだろうか。今日は輝子と小梅が遊びに行くと言っていた。病み上がりだって忘れてない?全く…先輩アイドルとばかり仲良くなって…。

…私にはないのだろうか。"心を動かすもの"が。飛鳥やまゆ、そして卯月のような底知れない、人を惹きつける力。

 

力が欲しいと思った。

卯月の隣にちゃんと立つための力が。

 

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