「島村卯月、逆行します!」   作:赤猫;

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視点は本田未央です。


27.本田未央は杞憂で終わる?

「はぁっ…はぁ…っ…はぁ…」

私の息がもう全く続かなくなってきたのを察したのかあかねちんが振り返った。いや、気づくにはもう1、2キロ早くても良かったと思うけど。その顔は未だに元気が有り余っていて、楽しささえ感じさせるようだった。さすがだなぁ。

「未央ちゃん!大丈夫ですか!」

「大丈夫…っ…はっ…はぁ、まだまだついてけるよ!」

「はい!走りましょう!」

足結構悲鳴をあげていたけど何もしなければ若者の新陳代謝的な何かですぐに回復するはずだ。ライブまではあと五日もあるし梅雨入りしそうなので走れる時には走っておきたい。梅雨入りしそうだというのはライブ当日雨になる可能性が非常に高いということなんだけど…それは私にはどうにもできない。そんな感じでもうヘトヘトになりながら走っているとあーちゃんが見えてきた。河原往復マラソンのスタート地点でビニールシートを広げて座っている。

「あっ、藍子ちゃーん!」

おーい!とあかねちんが手を振る。かなり遠いのに聞こえたらしい。小さな人影が手を振り返した。私にはもう手を振る体力が残されていないはずだったが、ぐいっと腕を上げて無理やり振った。虚勢である。

「それにしても、未央ちゃん。いきなり走るのに付き合ってほしいなんて、何かあったんですか?」

「マラソンじゃなくて、はぁ、ランニングの、つもりだったんだけどね、ふぅ」

「え?まだランニングですよね?」

「えぇ…?そうかなぁ…」

もう一刻も早くあーちゃんに飛び込みたいくらい足がやばい。あかねちんが体力おばけなのは最初からわかっていたことなのでそれほど予想外ではなかったけど。

「じゃあラストスパートかけますか!」

「う…うん、あかねちんは先行ってて大丈夫だよ!」

「そうですか!では遠慮なく!」

ボンバー!と言いながらさらにスピードを上げて走り去った。すごい…。

あかねちんは今誤魔化されてくれたけど、私がランニングを提案したのはしまむーやしぶりんに何か負けないところが欲しいと思ったからだ…と思う。歌唱力は完全に私が一番下だし…ビジュアルというか、何かアイドルの雰囲気みたいなものも私が一番無い気がする。しぶりんもしまむーも他のCPのメンバーに比べて何か漂っているオーラが違うような気がするのだ。しまむーは昔アイドルをやっていた(?)ようだからまあ納得できなくはないけど。しぶりんのあの凛とした佇まいは何か天性のものだと思う。あと直接スカウトされたのってしぶりんだけだし。あれ、アーニャもそうだっけ?いや、とにかく何かふわふわとした理由なのだけれどそういうわけで最近学校が終わってから三人で集まって、遊びがてらランニングをしているのだった。

「おつかれさまです〜!」

あーちゃんが立ち上がって出迎えてくれた。タオルとスポーツドリンクを手渡してくる。この優しい笑顔が見れるなら私はどこまでも走れる気がする…。

「ありがと。ごめんね付き合わせちゃって」

「いえいえ、頑張ってる姿を見るのは好きですから」

「私もあーちゃんが…じゃなくて、走るの好きだから!うん、それなら良かったよ」

危うく妙なことを言うところだった。

「じゃあ帰りますか!」

「あっ、ちょっと待ってください。さっきみくちゃんとみりあちゃんが来てですね…」

___________________________________

 

「珍しい組み合わせだね」

カフェの中には私と、みくにゃんそしてみりあちゃんだけだった。あーちゃんとあかねちんとは途中で別れたのだ。私の言葉にみくにゃんもそう思っていたようで苦笑いした。

「まー、みくは付き添いだからにゃ。みりあチャンが心配だって言うから」

「心配って?」

みりあちゃんは少し眉を下げた。うーん、と言葉に困っている様子だ。みくにゃんに助け舟を求める。

「どう言ったらいーのかなー?」

「そーだにゃあ…まあ、前に未央チャンがPチャンと卯月チャンに言われてた時あったでしょ?ファンの少なさがどうとか」

「あー、あれね」

何故か私がお客さんが少ないことでダメージを受けるみたいな話をされて、よくわからないままに納得したのだった。みりあちゃんを見ると、純粋な不安を映す瞳とバッチリ目があった。うっ、あーちゃんといい、無意識にこういう庇護欲を掻き立てる表情をしてしまうのは一種の才能だろう。いや、みりあちゃんは幼いから当たり前とも言えるのだけど、あーちゃんはなぁ…。

「それが心配だったみたいにゃ。全く、Pチャンも小さい子がいる前でそういうことを言うのはどうかと思うけどにゃー」

「そうなの?みりあちゃん」

「う、うん。この前まゆちゃんと飛鳥ちゃんがえっと…たいへんなことになっちゃったことあったでしょ?するどい卯月ちゃんはそういうことになると思って未央ちゃんにいやなこと言ったんだと思うの」

「しまむーは確かにふとした時に鋭いけど、それを見破るみりあちゃんの方が鋭そうだねぇ」

それこそ、みりあがまゆに影響されてるらしいと言っていたしぶりんの言葉が真実味を帯びてきた。

「みくは卯月チャンの考え過ぎだと思うけどにゃ。というかお客さんが少ないくらいで何が起こるのかって話にゃ」

「うーん、そうかなぁ…でもみりあ、未央ちゃんや卯月ちゃんが泣いちゃうのいやだよ?」

それだけで何が起こるか、とみくちゃんは言ったけど。それはアイドルとして根性のあるみくにゃんだから言えることなんじゃないのかなぁ。私だったらやっぱりショックだし、それをしまむーに指摘された時はどきっとした。でも確かによく考えれば新人の私たちにはファンがいないも同然なのだ、という意見にはその通りだと思う。それは納得できる。

プロ意識の高いみくにゃんはプロデューサーとしまむーが私に何であんなことを言ったのか本当の意味でわかってないみたいだけど。みりあちゃんは二人が何か的を射た発言をしているとわかったのだろう。

「みりあちゃん。私はこうやってステージに立つ準備をするだけでも嬉しいの。あーちゃんやあかねちんと会えたこともそうだけど、毎日新しいことが起こってるのが楽しいから。だから大丈夫、ありがとうね」

「ほんとぉ?今録音してたよ?」

「えぇ!?」

みりあちゃんがボイスレコーダーの画面になっているスマホをこちらに見せてきた。照れたように微笑んでいる。予想外の事態だった。

「まゆちゃんの影響受けてるにゃ!?」

「えへへ〜、大切なことは大事にもってないとダメなんだって」

シチュエーションが違うならば天使のような笑顔で言われたその言葉に同意するところだけど、なんてことを吹き込んでるんだ。

「み、みりあちゃん?録音するときは相手に許可取らないとダメだよ?」

「えーでもまゆちゃんはこっそりやるっていってたもんー」

「それはまゆちゃんだから…いや…うーん。なんて言えばいいの?みくにゃん」

「えっと…まゆちゃんはまゆちゃんのプロデューサーから一応許可をもらって、こっそり録音してたのにゃ。だから、みりあちゃんもいいよって言われたらじゃないとダメなのにゃ」

「えぇ!そうだったの?!」

「うんうん、そうだね」

頼りになるみくにゃん。もしかしたらそれをわかっていてみりあちゃんも付いてきてもらったのかもしれない。

「まぁ、どっちにしろ日常生活で録音機能を使うのは常識的じゃないにゃ」

「はーいわかったよ!」

みりあちゃんは携帯をしまった。ほんとまゆちゃんには後で注意しておかなくちゃ。

「それで何の話してたんだっけにゃ」

「ほら、みりあちゃんの心配事」

「みりあちゃんは気が済んだかにゃ?」

「未央ちゃん、ほんとに大丈夫?ライブの日は雨がふると思うからお客さん来てくれたとしても…」

「大丈夫だよ。っていうかみりあちゃんにこんなこと言わせてる時点で情けないけど…」

「あっ、いや違うの!そうじゃなくて!」

「あはは、わかってるよ。問題なし!これでこの話は終わり!」

「うん、ごめんね。ありがとう」

みりあちゃんはえへへ、と笑って。ジュースを飲んだ。みくにゃんがじとっとした目で見てくる。小さい子に心配をかけるなと言いたいのだろう。…ただ私も別に心配をかけるつもりはなくてどちらかというとしまむーが私に言ってきたのが発端だと思うんだけど…。まあみりあちゃんはみりあちゃんでしまむーの心配がある程度正しいものだと思ったから念押ししてきたのだと思う。私ってそんな脆そうに見えるかなぁ…。やっぱりもっとあかねちんを見習うべきだろうか。そう、だから強くならないとダメなのだ。

「そういえばまゆちゃんと飛鳥ちゃんが大変だったっていうのは結局何が大変だったんだにゃ?」

「みりあ知ってるよ〜。まゆちゃんのプロデューサーがアメリカ行っちゃう〜って話でしょー!」

「あーまゆちゃん言ってたねぇ、うっとりと」

「それで何で手錠にゃ?」

「まゆちゃんがヒステリー?になったからしかたなくって飛鳥ちゃんは言ってたよ」

「ヒストリー?歴史?」

「文脈的にヒステリックじゃないかにゃ?」

「そうそれ!」

閃いたようにみりあちゃんが頷く。

「離れ離れになるとさみしいもんね」

「まー、みくは自分のプロデューサーとそういう関係になるのはどうかと思うけどにゃー。女同士だからファンも許してくれるけど…女同士っていうのがにゃー…」

「えー?みくにゃんも李衣菜ちゃんと同棲してるじゃん」

みくにゃんはジュースのストローをスゴーと吸った。

「何で同棲って言うにゃ?!またみりあちゃんが勘違いしちゃうでしょ!ライブ前だから泊まりに来てるだけにゃ!」

「でもハピプリのライブの時もだったしなー。何かにつけて泊まってるんじゃないのー?」

「そーなのー?みくちゃんそうなのー?」

「好奇心旺盛だにゃ…そりゃ影響されるかも…。いやだからそうじゃなくて…みくに麻友P事件の説明をする流れに戻るにゃ」

「えー?」

「っていうか飛鳥ちゃんが手錠でまゆちゃんを連れてきたあとはしまむーが車の鍵を借りて誰か大人の人に頼みに行っただけだよ」

「菜々ちゃんにお願いしたのかなー!」

「やめるにゃ!…それで?」

「その後はよくわかんないんだけどねー。三日くらい三人とも連絡がつかなくなって…どうしてたのやら」

「深夜の大浴場で見たって噂が女子寮で流れてたのにゃ。それで真相はどうかと思ったんだけどにゃー」

「闇に飲まれたねぇー」

まあ、なんやかんやあったとしても結局三人ともすっきりした顔で事務所に出てきたので大丈夫だったのだろう。その後もダラダラとどうでもいい話をみくにゃんとみりあちゃんとして解散した。少しランニング気味で帰った。ライブの日に雨が降らなければいいんだけど。

 

 

 

 

 

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