「島村卯月、逆行します!」   作:赤猫;

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みりあはタイトルにいますが、出ません。
視点は三人称です。
ミリオンが出始めます。


35.赤城みりあは劇的に。③

「あれ?静香と未来、今日おらへんの?ここんとこ毎日来とったのに」

横山奈緒は大学イモの作り置き(佐竹美奈子作)を口に放り込んだ。場所は765シアター、一階楽屋。ソファに伸び伸びと寝転がっている伊吹翼は退屈そうに答える。

「なんか二人で、公園?に行くとか…うーん、いや、昨日寝ぼけてる時に誘われたんですけど、あんまり覚えてないですねー。私は雨降りそうだったしーめんどくさかったのでパスしました」

「ほーん、公園かー。外雨やのになー何なんやろ」

と、そこで奈緒はちらっとこちらに目線をよこした北沢志保に気づく。彼女は台本に目を落としている最中は凄まじい集中力を発揮するのでこういうことは珍しい。さては静香から何か聞いているな?と推測する。おそらく聞いても『知りません』と言われるだけなので、奈緒は口元にニヤニヤ笑いを浮かべてそちらを見るに留めた。

「……何ですか?」

「んやー、何でもないで?」

「じゃあその顔を……はぁ…アイドルのライブらしいですよ。346プロのシンデレラプロジェクト。未来以外にも学校の友達と行くって言ってました。場所は」

「代々木公園ですね!!」

楽屋の扉をバァンと開けて、松田亜利沙が登場する。志保はため息をついて「あとは亜利沙さんに聞いてください」と言って台本に戻った。奈緒は「ありがとな」と返した。

鼻息を荒くしている亜利沙にタオルを投げる。ピョコンと跳ねているはずのツインテールの勢いが雨に濡れ落ちていたからだ。

「ありがとうございますぅ〜!さて、どこから知りたいですか!?シンデレラプロジェクトの説明からしたほうがよいでしょうか!」

「せやな、知らんで。頼むわ」

すると、テーブルの反対側から声がかけられる。

「私もお願いします。シンデレラ……気になるぞ」

「まつり以外にも姫を名乗る奴がいるのです?」

「まつりはどんな食いつき方やねん」

真壁瑞希と徳川まつりが学校の宿題、雑誌をそれぞれ閉じてこちらに向き直った。瑞樹の方は顔の前にびしっと手を挙げている。亜利沙は一通り濡れた体を拭くとホワイトボードの前に立って、アイドルの情報が書かれたノートを開いた。目が輝いている。

「では説明していきましょう!シンデレラプロジェクトとは!」

その大きな声に志保はまたちらっと目を向ける。

こっち来て聞けばええのに、と奈緒は少し苦笑いした。

________________

 

「シンデレラプロジェクトというのは高垣楓をモデル部門から引き抜き、美城アイドル部門の成功を決定付けた若き才能、武内プロデューサーが企画のコンセプトからメンバーの最終選定まで全てに介入して創り出した346の最新傑作だ」

飛鳥は相変わらず傘に入れてもらえないまま歩いていた(別にそれは本人も良しとしているが)。

「最高傑作じゃないんですね」

静香の指摘に肩をすくめる飛鳥。

「それはまだわからない。武内Pや支える内部の人間はそう信じるしかないし、実際広報や楽曲製作の優先度もかなり高いようだ。成功しなければ手痛い返しが待っていることだろうけどね」

まゆは指先で傘をくるくる回す。

「大丈夫ですよきっと。卯月ちゃんやみりあちゃんがいますし」

「卯月さんは私も動画で見ました。となりにまゆさんがいるとはいえ、新人とは思えないような堂々としたステージだったと思います。みりあちゃん、は予習不足で顔が一致しませんが」

「ボクとまゆに似ている可愛らしい子供さ」

「飛鳥とまゆさんに似ているところと言っても…」

あ、()()か。と静香は気づいたが口には出さなかった。そしてその子供が本当に可愛いのか疑わしくなった。

「まあ、シンデレラプロジェクトというか、346プロの方針には少し意固地になり過ぎている部分もある。それを転換しないことにはボクらの勢いも少し不安だけどね」

「どういうこと?」

「そのうち話すさ」

飛鳥は一度決めたらそう簡単に変えない。静香は「そう」とだけ答えた。

________________

 

「___その方針は私たちと少し違いますね!次は今回のCPのライブの特殊性についてお話ししたいと思います…まずはこれを見てください!」

そう言って亜利沙が出したのはスマートフォン。奈緒、まつり、瑞樹の三人は覗き込む。そこにはいくつかの文字が映っていた。画面下部のシークバーと秒数が動いているので動画のようだが、その画面に変化はない。

『シンデレラプロジェクトミニライブ中継ニコニコ生放送!』

『開演は午後1時を予定しております、もうしばらくお待ちください』

つまり待機中らしい。続いて三人が覗いている中、白い文字が右から左へ次々流れていく。

〈みりあちゃんがカッパ配ってるって本当ですか?〉

〈さすがにこんな雨じゃチケット取らなくてよかったわ〉

〈外クソ雨降ってるんですけどあと30分で止むんですかね?〉

〈ないです(無慈悲)〉

〈シンデレラプロジェクトってなんだよ〉

〈タオルとカッパもらったぞ〜〉

〈シンデレラはシンデレラでしょ〉

〈現地でスマホ開いてる兄貴水没しそう〉

奈緒は「なるほどなぁ」と言った。瑞樹はよくわからない、というふうに首を傾げた。まつりは亜利沙に向かって疑問を飛ばす。

「新人の動画にしては随分コメントが多いのです?」

「はい!かなり多いですし、それだけ多くの人がこの動画を開いているということになります!今回のライブの特徴につながるので、その要因について話していきましょう!」

すぐさま亜利沙は自分のアイドル手帳を開き、逆の手でホワイトボードのペンを取った。先程からCPの説明で既にいくつかの単語が書かれているボードに、勢いよく"①"と書いた。

「まず一つ目、ライブ中継は"ライブ感を楽しむ"というのがその成分の多くを占めるということです!これは私たちが3日に一度やっているラジオと比べて、タイムシフト視聴者が圧倒的に減るということになります。それに当然映像付きで歌も歌いますし、まつりさんが感じたのはこの差異じゃないかと思います」

「ふむふむ」

「なるほどなのです」

ラジオ放送経験が少ない瑞樹は奈緒からも補足を受けながら話についていく。ちなみにシアター内でラジオ経験が一番多いのはまつりである。彼女は『まつり姫のふわふわらじお』というニコ生チャンネルで個人的にラジオを発信しており、自分のブログにメールを募集しファンとの交流を重ねているのだ。

「二つ目です。雨なので視聴者に《現地<動画》という価値関係が生まれやすいことです!さらに今回のライブのチケット価格が異様に安いこともこれを後押ししていると考えます!」

「安かったら現地行った方がいいんちゃうん?」

「う〜ん!それは"お得"ということですね!でも基本的にモノが安いというのは提供する側がその価値を低く見積もっているという客に対する矛盾を生むんです。だからこういう生の人間に対して価値を付加していく商売では『なんだこれくらいか、ならいいや』という無意識を客に植え付けてしまいやすいんです!」

「それを雨が後押ししたということでしょうか?」

瑞樹の質問に「はい!」と頷く亜利沙。奈緒が腕を組んで息を吐いた。

「なるほどなぁ」

まつりも特になにも言わないが亜利沙の丁寧な解説に先程からかなり感心していた。説明がわかりやすい、流石好きなだけある。

「とは言っても、元々チケットを買っていない人が動画で見てくれるのはプラスとも言えるんです。生放送と現地で生放送を選択した人が再生して、ランキングを上げてくれれば新規獲得、知名度上昇に繋がると思います!」

「つまりライブの目的はあくまで利益じゃなくて宣伝ということなのです」

「その通りですぅ!そしてそれが現在進行形で成功のレベルを超え続けていると言える要因だと思います!」

亜利沙が成功ラインを突き破るような矢印の図を書いた。奈緒が質問する。

「言っても、新人のライブやし最初から利益度外視っちゅーのはわりかし普通なんやないの?」

「そうですね!そもそも芸能界にはライブの出演料ゼロで働かされ続けメンバーも次々やめていきネットで《蠱毒》《過酷な世界》《停給(てーきゅう)》などと揶揄されているユニットだって…」

「ぎゃー!そんな話聞かせんといてくれー!」

奈緒が耳を塞いでリアクション大きく叫んだ。瑞樹とまつりは若干目のハイライトが消えかかった気がした。

「でもだからこそCPは凄いんです!ハピプリライブで存在感を示した島村卯月ちゃん!彼女の"隠れカリスマ"にファンが自然と引き寄せられました!そしてその流れを逃さないという強い意志を感じるKBYDライブ、VoVi二極振りライブへのCPメンバー出演!!提案は武内Pか麻友Pでしょうが、これは自分のアイドルちゃんに自信がなければなかなかできることではありません!今回のミニライブ、初めてのステージのはずなのにチケットを売ることができるなんてはっきり言って最高のスタートを切ったと言っても過言ではないです!」

「松田さん、だんだん熱くなってきました」

「その卯月ちゃんちゅーのが推しなんやろなぁ…」

話が逸れてだんだん何について話していたのかわからなくなった一同はホワイトボードを見直す。《現地<動画》と書かれていた。

「そうでしたね!つまりこの生放送視聴者に価値を生み出させるためにかなりのお金と労力がかかっているということです!現地組によると生放送用の撮影トラック以外にも会場には何やら相当な数の機材がいくつかのトラックに乗せられていたという情報が。亜利沙も気になるので是非画像を回して欲しいんですが、ううぅう〜〜!このあと雑誌の取材さえなければとっくに現地なのに!丸かぶりなんです〜!」

「松田さんドンマイです」

「ふぇえぇぇ…瑞樹さん写真撮ってもいいですか?」

「はい。瑞樹、準備オーケーだぞ」

「いただきますぅ〜!」

パシャッパシャッ!とシャッター音が鳴る。まつりはどーでも良さそうにそれを見つめていた。瑞樹がどこからか出した薔薇を口に咥え、いくつか写真が撮り終わったところで奈緒が聞く。

「それで亜利沙、三つ目はなんなん?」

「はわぁぁ!すみません、つい…。三つ目はCPのアイドルちゃんたちはステージデビュー、さらにその後の()()()()()()()()のBD化によりまだ熱が冷めていないということです!」

亜利沙は赤ペンで大きく《ビッグウェーブ‼︎》と書いた。

「そのお陰でSNSを使った宣伝が異常な広がり方をしている最中!いわば"ボーナス期間"にギリギリ滑り込んだということです!」

「ボーナス期間ですか」

「ウチらの劇場も初公演の盛況は凄かったなぁ。というか、あれ以来二階まで満席になったこと無いしなぁ」

「まああの時はAS(オールスターズ)のみんなが来てくれてたと言うのがあるのです」

「そういったわけで…今回のミニライブの動画サイトにおける初期成功経過は以上です!今後の動向は皆さんで見守ってあげてください!では亜利沙はここで!」

ビシッと敬礼のような挙手のようなポーズをとる亜利沙。見れば楽屋の入り口に765シアター事務員、青羽美咲が遠慮がちに、はにかみながら立っていた。

「あぁ、取材か。すまん気づかんかったわ」

「お疲れ様なのです」

机の上にあったアイドルノートやタオルをカバンに詰め込んでいく。

「私が話し込んじゃっただけなので気にしないでください〜!すみません美咲さん〜!」

「いいですよ!もうすぐ記者さんが見えるので楽屋Cで待機お願いしますね!」

「はい!行きます!行ってきます!」

「行ってらっしゃい松田さん」

バタバタと亜利沙が去ると三人は時刻を確認した、もうそろそろステージが始まる頃である。

「見てみますか?」

「まあ、これだけ聞いておいて見ないというのも変な話なのです」

「ほな見てみよか」

さっそくまつりがバックからタブレットPCを取り出した。こういうものを持ち歩いているのは意外だ、と奈緒は思った。まあでも大学生やしな、と納得する。瑞樹はウミウシ柄のカバーが気になるようで画面よりも裏側を覗き込むようにして見ていた。

まつりが操作していくと、先ほど亜利沙が表示させていたのと同じ生放送の画面が表示される。

 

「あと数分やな」

そう奈緒が呟いた時「ふわぁぁぁ」と大きなあくびが聞こえた。

画面を見ていた三人、そして志保は声のした方を反射的に振り返る。そこでは翼が自分が寝転がっていたソファから起き上がって背もたれの後ろを覗き込んでいた。しかし今のあくびが翼のものではないのは四人ともよく知っていた。あくびの主は翼の視線の先、背中合わせの別のソファでぐっすり寝ていた誰かである。

「ずっとおったんか…?私らなんか変なこと言ってへんかった…?」

「姫はいつも姫らしくいるので何の問題もないのです」

「徳川さん声が震えていましゅよ。あ、噛んじゃった」

よくよく考えれば翼が仕事の何十分も前からシアターに来て待機していることなんてありえないし、仕事が終わっていればとっとと帰るのが彼女だ。

ごそごそ、と音がして、背もたれからぴょこんと髪の毛が覗いた。

「美希せんぱい!」

星井美希は眠そうに目を擦ってこちらを振り返る。

「おはようなの、翼」

ふわりと金色の髪が揺れる。

キラキラと光の粒子が舞ったようだった。

「わ、お、」

見惚れた翼が遅れて挨拶を返そうとした。その瞬間、予想外の方向から挨拶が聞こえた。部屋の入り口である。

「おはようございますー!」

「おはようございます」

そちらに目を向けた美希以外のメンバーはぎょっとする。美希の起床から続き、部屋の空気がさらに、一気に明るく、透明になった気がした。

「近くで撮影があって帰るところだったんだけど、結構雨が強くなっちゃったから雨宿りさせてもらおうかと思って。ね、千早ちゃん」

「ええ、春香ったらこんな雨の日にも転ぶんだもの。このまま駅まで歩いたら、傘を差しているのにずぶ濡れになってしまいそうで」

「もうっみんなの前でそんなこと言わないでよー!」

ふくれっ面の天海春香とくすりと笑う如月千早。

紛れもないトップアイドルである。

 

「あ、まつりちゃん。何見てるのー?」

「ど、どうぞなのです」

まつりは即座にタブレットを裏返して画面を春香に向けた。受け取り、映っている文字を読み上げる春香。

「シンデレラプロジェクトミニライブ中継…?」

瞬間、春香の目の前で待機画面が切り替わる。

ライブが始まろうとしていた。

 

スクリーンが映る春香の目を見ながら奈緒は…自分は何か物凄く重要なシーンに立ち会わせているのでは、という気がしてならなかった。

 

 

 

 

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