「島村卯月、逆行します!」   作:赤猫;

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どうもまゆのプロデューサー(麻友P)が会話の端や実際にちらっとなど、思ったより出てくるので女性にしました。別にそれでどうと言うわけでないのですが。


5.島村卯月は見抜かれる。

丸いガラス窓がついたスタジオの扉を開けると、いろんな人の声が聞こえてきた。その中心にいるのは城ヶ崎美嘉ちゃんだった。大きなハート形のセットに座ってセクシーなポーズを完璧な表情でシャッターに収まる。やっぱりアイドルってすごいなぁと思った。

「あのセットで撮るの?」

「いいえ、我々はもう一つ奥です」

そうしてもう一つ扉を開けると、蘭子ちゃんが例のゴスロリ風防水傘を持ち、非常に映えるポーズをとって写真を撮られている。私たちはその場で立ち止まって撮影を見学した。蘭子ちゃんに続いて私たちの前ではかな子ちゃん、美波ちゃん、アーニャちゃんが撮影を終えた。

みんながみんな落ち着いて自分らしさをアピールするようなポーズをとれていて、ああこれは確かにビジュアルレッスンを受けた後の感じだな、と思った。

休憩挟みまーす、とスタッフの皆さんが機材の調整や写真の確認などをし始めた頃には私はどうすればいいのか迷っていた。写真を撮られるのは体力なんて関係ないわけで、この身体でも今の私ならスタッフの満足のいく写真を撮れるだろう。しかし凛ちゃんと未央ちゃんはそうではない。だから一週目はボールを使って3人で撮影したのだ。そしてあれは次に進むために必要なことだった。そういうわけで今回も私はカチコチに緊張した新人のふりをさせてもらおう。

そんなことを考えていると隣にいたらしい凛ちゃんに肘で小突かれた。

「卯月、もう自己紹介卯月だけだよ」

「うぇえ!?す、すみません!」

私が謝るとCPのみんなが笑った。どうやら考え事をしているうちにこちらに連れてこられていたようだった。

「もー、しまむーはぼーっとしてること多いんだからー!」

未央ちゃんがフォローしてくれる。こんなところでも人付き合いの天才だった。私はといえば久しぶりに揃ったみんなの顔を見てまた泣きそうになっていた。

「島村卯月です!よろしくお願いします!」

挨拶をするとみんなはそれぞれの言葉でよろしく、と返してくれた。その後、美嘉ちゃんが控え室に顔を出しに来てちょっと湧いた。そして撮影が再開される。

杏ちゃん、みりあちゃん、李衣菜ちゃん、莉嘉ちゃん、智絵理ちゃん、きらりちゃん、みくちゃん、の順番で順調に進んだ。そして私の番、後ろには凛ちゃんと未央ちゃんが控えている。

よし!頑張ってカチコチになるぞ!そう意気込んでカメラの前に立った私は見事カチコチを演じ切った。いい慣れてない感を出せたと思う。プロデューサーが首をいじってたけど、3人でボール遊びをしないと美嘉ちゃんにライブに誘ってもらえないかもしれないのだから仕方がない。と心の中で言い訳しておく。ごめんなさいプロデューサー。

しかし一つ気になることがあった。私たちの撮影を見ているプロデューサーの横には美嘉ちゃん。これは前と同じだ。

だけれど、その横に佐久間まゆちゃんと輿水幸子ちゃん。それにおそらく彼女たちのプロデューサーであろう女性がいた。前の世界でまゆちゃんから誕生日プレゼントを貰っていた人であるたぶん。

特にまゆちゃんはじいっ、と私が撮影されるのをその暗い瞳で見ていた。口元は動いているので、こちらから目線を離さずにプロデューサーと話をしているようだった。

これも前と同じだっただろうか?細かいところまではそりゃ覚えていないけれど…気になること、一つだ。

私たち3人の1回目の撮影を終えた後、上手くできなくてしょげてる凛ちゃんと未央ちゃんに罪悪感を感じながらも励ました。ごめんね。

3人でお願いしまーす、とゴムボールとともに送り出された。そこから先は前とおんなじで私、凛ちゃん、未央ちゃんは無事に写真を撮り終えた。

いい笑顔です。

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そして撮影終了後、私たち3人はプロデューサーの部屋に集められた。

「ライブでバックダンサー!?」

未央ちゃんが素っ頓狂な声で叫んだ。

「そ、私のライブ。正確には私と美穂ちゃんと茜ちゃんとまゆちゃんと瑞樹さんのライブ。そこの私のステージで丁度この子達みたいなのが欲しいと思ってたの」

美嘉ちゃんのセリフの後半はプロデューサーに向けたものだ。机には五人が同じポーズをとっている『HappyPrincessLive!』のポスターの見本が置かれていた。プロデューサーは顎に手を当て何やら考えている。1回目の時には読み取れなかったがその表情はあまり賛成ではないようだ。それを見てか、ちひろさんが言葉を重ねる。

「ライブ責任者からのOKも当然貰っています。彼女たちにもいい経験になるかと」

「しかし…私は…」

「いいんじゃないかね?こういったデビューの形も。このライブがどういった形になるにしろ。私はこの子達の成長に繋がるというのは間違っていないと思うよ」

「部長………わかりました」

ちひろさんが勧めてプロデューサーが難色を示し、今西部長が横から後押しする。この会話は前に見たことがあったけれど、今の私では全く捉え方が変わっていた。

プロデューサーは経験不足の私たちが無事ステージを終えることができるかどうかを心配していたというのが前の私の捉え方だった。

それは今も変わらないけれど、もう一つ。

プロデューサーは小さいステージから順々に慣らしていくことを主張したかったのだとも考えられると思った。この意外にも当たり前の主張は未来を知っている私にとっては重要な意味を持ってくる。

なにしろ未央ちゃんは美嘉ちゃんのライブとの観客の差で挫折しかけたのだ。

ここでプロデューサーの意見が通っていて、分相応のステージからデビューを始めていればあんな事にはならなかったかもしれない。

ただ、まあ美嘉ちゃんのステージが私たちを大きく成長させたことは確かなのでここでは何も言わない。せめてスムーズに行くように舞台の下からポップアップで飛び出す練習を3人で始める事にしよう。うさぎ跳びとか?

「やった!私たちデビュー決まったよ!」

「本当にこんな簡単でいいのかな…?」

それぞれの方法で喜びを表そうとしている二人に私が駆け寄ろうとしたその時。誰かが事務所のドアを開けた。

莉嘉ちゃんとみくちゃんがずるいずるいと言って入ってきた、訳ではなかった。そんな微笑ましい光景ではなかった。その場にいた全員がその雰囲気に飲まれた。紅く妖しい靄がドアの向こう側から漏れ出ているように感じた。

「まゆも仲間に入れてくださいよぉ」

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「つまり同じライブ…HappyPrincessLiveの佐久間さんのステージでも島村さんを使わせて欲しいと」

プロデューサーが今度こそ眉をひそめて困惑していた。それでもまゆちゃんは食い下がっていた。普段のとろりとした口調ではなくはきはきと喋って説得しようとした。これは絶対に1回目にはなかった事だ。私は予期しない事態に目を回していたが、大人特有の鈍感さで話だけは聞いていた。

「はい『エヴリデイドリーム』です。『TOKIMEKIエスカレート』の様にダンスが激しい曲ではありません。ステージ上でマイクを持って歌う私と左右対称の動きをする子が一人、卯月さんが欲しいだけなんです」

「そうは言っても島村さんはまだ新人です。一曲分新しい動きを追加するだけでも相当に要求の高いものだと思われます」

「ふたりで鏡像の動きをとるということは私と一緒にレッスンを受ける頻度が非常に高まるということです。それにふたりがクロスする動き、手を合わせたり、入れ替わったりする動き。全体的にスローな曲な上、私がリードできる部分が多くあります」

「……佐久間さんのおっしゃる通り『エヴリデイドリーム』の負荷がいかに少ないものだったとしても、その後にある城ヶ崎さんのステージでの『TOKIMEKIエスカレート』に影響が出るような事態になる可能性があります」

「そうはなりません。先ほどちひろさんに私のプロデューサーからもらった資料を渡しました。HappyPrincessLiveのセットリストです。私と美嘉さんのステージの間には瑞樹さんのステージがあります。休憩の時間は十分にあります」

プロデューサーは首の後ろに手をやった。

「…千川さん」

「はい。確認しました。まゆちゃんの言っていることは事実です。それから麻友Pから『珍しいまゆからの要望なので是非叶えてやって欲しい』と直筆メッセージが、彼女と同期でしたっけ?」

「…麻友Pは同期です…がそれは関係ありません…。問題は島村さんが…」

「卯月さんはできます」

まゆちゃんはプロデューサーに強く断言し、じっと見つめた。プロデューサーもまゆちゃんのことを見ていて、それははたから見ると睨み合っているようだった。あのプロデューサーと睨み合うなんて。先に目をそらしたのはプロデューサーだった。

「島村さん」

「はい…」

「できると思いますか」

プロデューサーが聞いてきます。私はもちろん答えます。

「でき」な

「卯月さん、嘘ついちゃ、嫌ですよ」

「ます……」

これは宣材写真で故意にNG出したこと絶対見破られてるな…。プロデューサーはため息をついた。私も自分が招いたこととはいえため息をつきたい気分だった。

大人になって嘘を知ったり、自分を偽ることが得意になるのは誰だって仕方のないことだと思うけれど、それを使ってしまえばツケは自分に回ってくる。当然のことだった。

「一応後ほど島村さんに可能かどうかをトレーナーに確認させてはいただきますが……今西部長はどうお考えですか?」

プロデューサーは少しでも味方が増えないかと話を振ったようだったが、部長はゆっくりと頷いた。

「私なら可能だと、そう判断するね。彼女を見てみなさい。こんな状況だというのに顔色一つ変えず全く動揺していない。この子のこういった胆力を我々の知らないところで見抜いた佐久間君には御見逸れするね」

まゆちゃんが恐縮です、という風に頭を下げた。社会人の鑑だった。

「それに君が選んできたアイドルなんだろう。彼女たちを信じてあげるのも時には必要なんじゃないのかね」

その言葉は意外にも決定打なり得たようで、プロデューサーは「…わかりました」と言ってて机上の資料をまとめた。

「では、決定します。渋谷さん、島村さん、本田さんはHappyPrincessLiveの城ヶ崎さんのステージに。加えて島村さんは同ライブの佐久間まゆさんのステージにも出演していただきます」

「「「はいっ!」」」

私たちの大きな返事にちひろさんはにっこりと頷いた。ほとんど蚊帳の外だったカリスマギャル、城ヶ崎美嘉ちゃんはハッと我に返って星が飛びそうなウインクをした★。まゆちゃんは不敵な微笑みで佇み、部長はお茶をゆっくりと飲んだ。

いろいろ予定外のことはあったが、私たち未来のニュージェネレーションズは部屋の中央でハイタッチした。

 

 

 

 

 

 

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