「島村卯月、逆行します!」   作:赤猫;

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6.島村卯月は嬉しい。

「いやー!やっぱりしまむーは只者じゃなかったんだなぁと感じるよ!」

「いやぁ、あははは…」

ダンスレッスンで流した汗をタオルで拭く、最近は体力がついてきた。いや、短期間で目に見えて体力が増えるわけもないのだが。"全盛期"はまだ先だし。しかし家に帰ってからもしつこくランニングを続けているのでもしかすると身体も早く完成してくれるかもしれない。

ともあれ、先週私だけまゆちゃんのライブに抜擢されてから未央ちゃんはこんな感じだった。

「『TOKIMEKIエスカレート』の振り付けもちょっと踊っただけで全部覚えちゃうしさ〜すごすぎるよ〜!」

「うん、そうだね。流石養成所通ってただけあるって感じ。私たちも頑張らないと」

「そうだね!」

おー!と未央ちゃんが拳を突き出す。なかなかパッションアイドルだった。しかし私の気はかなり重かった。ここ一週間は『TOKIMEKIエスカレート』に絞って三人合わせて練習してきたが、それを早々に及第点まで持って行った私は美嘉ちゃん直接指導のレッスンが終わった後は、まゆちゃんのレッスンにを受けることになったのだ。つまり今日、この後すぐである。本番もステージが二つあるのだからそれに向けて慣らす意味もあるらしい。

「じゃ、行ってきますね!」

「うん、頑張って」

「いってらっしゃーい!」

二人の声に送り出されて私はレッスンルームに戻った。

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「はぁっ…ふぅ…これは…すごい新人さんが、はぁ、入ってきましたね.…」

まゆちゃんがへたりと床に座り込む。いつものファンシーな服ではなく紅色のジャージなので…なんかこう、ギャップ萌えみたいなものを感じてる私、島村卯月(27)。まゆちゃんの言葉を受けてトレーナーが満足そうに笑った。

「そうだろうそうだろう。城ヶ崎の振りも一目で覚えていたからな」

「トキメキを一目で…そんなのまゆでも無理ですぅ…」

ぺたん、と床に倒れるまゆちゃん。果てしなく愛くるしいんだけどこの気持ちはどうすればいい?初登場時からの熱い手のひら返しが止まらない。

「一目で覚えたは言い過ぎです。それにまゆちゃんも踊りながら歌い切るの、とっても凄いと思います!」

「ふふふ…ありがとうございます…」

そう、まゆちゃんだけが息切れしているのは私の方が体力があるわけではなくて。歌いながら踊っているからなのだ。しかもこれで10ループ目である。この間に私もダンスを一応マスターしたので先ほどは褒められていたわけだ。まあ言ってみればラブライカの『Memories』をさらにゆっくりにしたような左右対称のダンス、それに二人で手を繋げたり左右入れ替わったりが追加されたような感じだ。ラブライカと違って歌うのは一人なので勿論主役が中心になるような非対称の動きも多い。しかし何故か私が中心に来るような非対称パターンも組み込まれているのだった。まあそう言うダンスもあるか、ちょっと意図が読めないけど。

「次は島村も歌いながら合わせてみるか?二人とも個人の動きは大体問題無いがタイミングはまだ合わせる余地があるだろう」

「あぁそうですねぇ、卯月さんなら出来ると思いますし」

「へっ…?歌うんですか?」

「はい、一緒に歌いましょう」

なかなかの無茶振りをにこっとまゆちゃんは笑ってごまかした。アイドルらしい魅力的な笑顔だった。もちろん大いに誤魔化された。それに、結構嬉しかった。じわーっと嬉しかった。

そうしてへたりこんでいたまゆちゃんが立ち上がろうとした瞬間、レッスンルームのドアがばんっと開けられた。

「卯月ちゃん!ステージデビューを賭けてみくと勝負にゃ!」

みくちゃんとその後ろに智絵理ちゃんとかな子ちゃんがいた。二人はおろおろしている。こちらでは突然の三人の来訪に驚いたまゆちゃんが立ち上がる途中でバランスを崩して「きゃっ!」と尻餅をついた。

はいかわいい。

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「にゃー!こんなのってないにゃー!まるでみくが噛ませ猫みたいだにゃー!」

「うるさい、お前は大人しくストレッチされてろ」

「あっ、ちょトレーナー、痛い痛い痛い痛い裂ける裂けるにゃー!」

「なんだお前猫キャラならもっと体柔らかいはずだろ、ほれ」

「ぎにゃぁぁー!」

レッスンルームの鏡壁に向かい合った私とまゆちゃんの後ろでみくちゃん達が二人一組のストレッチをしていた。断末魔が聞こえる。みくちゃんとは彼女が持ってきたルービックキューブではなく、あっち向いてホイで勝利した。まあ彼女もまさか先輩であるまゆちゃんがいるとは思っていなかったようで結構びっくりしていて、大人しく(?)トレーナーに連れ去られたのだった。

その光景を見てまゆちゃんはくすくすと笑っていた。こちらは自然体の幼い少女が浮かべるような本当に可愛らしい笑顔だった(n回目)。

「ふふ、じゃあ始めましょうか。卯月さん」

「はい!音楽流しますね!」

スピーカーに繋がれた音楽プレイヤーから曲を再生する。途端に先ほどから何度も聞いているイントロが流れ出す。小走りで定位置まで戻って、既に動き始めているまゆちゃんに動きを合わせる。歌い出しに合わせるように呼吸のリズムを慎重に変える。声がブレないように足の筋肉に力を入れる。喉に振動が伝わらないように姿勢を整える。息を整える。吐いて、吸って、吸って。

鏡の中のまゆちゃんと目が合った、その瞳から何か暖かいものが私の中に流れ込んで来るような感じがした。

うん、わかってる。

さん。に。いち。

「「______一目惚れから始まった__」」

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本気で踊って歌ったのは本当に久しぶりだった。そういうわけで私は曲が終わると床に座り込んだ。はぁ、はぁ、と息が乱れる。耳の奥が鳴っていた。

「凄い!凄いにゃ!こんなに上手だなんて思ってもみなかったにゃ!」

興奮したみくちゃんの声が聞こえて来る。そちらを見ると、智絵里ちゃんとかなこちゃんが拍手をしてくれていた。まゆちゃんに目を戻すと私の隣には既にいなくて、途中から見ていたらしい彼女のプロデューサーに駆け寄っていた、なにやら満足そうに頷いていた。隣には輿水幸子ちゃんもいる。私は何か危機のようなものが迫っているような予感がした。

ダンスの流れを教えてもらった時からの疑惑。何故新人アイドルがまゆちゃんと二人で対等のフォーメーションでステージに立つのか。そもそも麻友Pは武内Pの同期ということはどれくらいの権力を持っているのか。新人アイドルをまゆちゃんのおねだりで急遽ライブにぶち込むくらいのことができるのだろうか。私たちが揃って歌い出したちょうどのタイミングで彼女が入ってきたことには何か意味があるのだろうか。

色々思い悩んでいるとまゆちゃんが嬉しそうにこちらに戻ってきた。

「卯月ちゃん!卯月ちゃんもHappyPrincessLiveで一緒に歌うことになりましたよ!」

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「思ったよりも大ごとになってしまいました……」

そう言いながらプロデューサーは首に手を回した。その後ろには城ヶ崎美嘉ちゃんから話を聞いた時にも置いてあったポスターが貼ってある。少し変化が加えられたそれにはこう記されていた。

『HappyPrincessLive!

with NEW GENERATIONS!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




New generations 新世代
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