顔を上げた直後、体を硬直させ、その場に立ち尽くすマオ。その視線の先には中世ヨーロッパのよう街並み、コスプレでもしているのかと疑問に思うような服装。おまけに、明らかに人間には見えない風貌の亜人と呼ばれる人々。数多の人々が一度は妄想し、行ってみたいとまで願った、おとぎ話のようなファンタジー世界が繰り広げられている……
……わけではなかった。
「──はぁ?」
思わず素でそう呟いてしまうほど混乱するマオ。なぜなら、彼の目と鼻の先には、つい先ほどまでは存在していなかったはずの高い壁が立ちはだかっているからだ。その古びて黒ずんだ色合いが醸し出す異様な圧迫感が迫り、一瞬怯んでしまう。慌てて周りを見渡すと左右は同様に壁に囲まれているが、背後の方角は少し長めの一本通路になっていることに気づく。どうやら、どこかの路地裏のような場所にいるらしい。
(……えっ? ここどこ? というかさっきまで爺さんと一緒に死後の世界ににいたはずだよね?)
若干の焦りと不安を抱きつつも少し冷静になるマオ。
(もしかして、もう転移されちゃった感じ……?)
落ち着いて現状を把握し、完全に冷静さを取り戻したおかげか、その可能性に気づく。
「嘘でしょ!? あの爺さん不意打ち過ぎなんだけど! もっと期待を胸にドキドキワクワクしながら、いざ! 異世界へ! って展開を期待してたのに……。まさか、何も言わずにいきなり飛ばすなんて思わなかったよ。そもそもなんでこんな場所にしたのさ。おかげでただの壁にびっくりしちゃったじゃないか」
そう文句を言いながら壁に何度も蹴りを放つマオ。何の前触れもなく、あっさりとこの世界へ飛ばされたことに不満があるらしい。
「はぁー。まあ、ここまで色々してくれたし、一応感謝はしておこうかな」
失礼な物言いだが、不機嫌ながらも神様に対しては本当に感謝しているようだ。
「さて、これからどうしよう」
何度もこの世界に来てみたいと願ったことはあるものの、いざ来てみると何をしたらいいのか咄嗟には思いつかないらしい。
(原作には介入したいなー。じゃないとこの世界に来た意味がないし。基本的な流れは変えないように注意しないと。未来を知ってるのはアドバンテージになり得るからね。とはいっても、そもそもこの時間軸に原作キャラがいるかもわかんないから判断できないしなー。まあ、細かい事は追々として、とりあえずここにいるのは危なそうだから移動しようかな。もし、トンチンカンみたいな物盗りに襲われでもしたら、行き止まりのせいで退路が無くて逃げれず開始早々end……なんて状況になっちゃうだろうし)
何やら考え事をしているのか? 目を瞑りうんうん唸りながら首を傾げるその仕草は、角度によっては女性にも見えそうな顔立ちのせいか本来の年齢よりも幼く見える。
「あー、でもやっぱり先に能力の検証しておこうかな」
(幸いこの場所なら人に見られる心配はしなくてよさそうだし。現にまだ誰の姿も見ていない。そもそも一本道だから誰か来ればすぐにわかるだろうしね。もし変な奴らが来たとしても能力の実験体になってもらおう)
そう決めるとその場に座り込み、持っていたカードを再び見つめ始めた。
能力名:【血印生成師】
自身の寿命を糧に物質を生成することができる能力。イメージしたものであれば何でも生成可能。だだし、大きいものほど生成に時間がかかり、消費する寿命も多い。大きさに比例し1~100日分の寿命が生成時に必要。また、生成した物質に最大5つまで自身がイメージした能力を付与できる。能力の強力さは問わず代償の寿命は同じ。1つ目は100日。2つ目は80日。3つ目は60日。4つ目は40日。5つ目は20日と増やすほど代償日数は減少していく。また、付与されている能力の数だけその物質の強度も上がる。基本的に能力が付与されている物質は同ランク以上、つまり同じ数の能力もしくはそれ以上の数付与されている物質以外には破壊することはできない。例えこの世界の聖剣ですら例外ではない(聖剣の能力数がわからないためランクは判別できないが)。さらに、生成時に自身の血を混ぜることで使用時以外の間、非実体化しておくこともできる(念じれば所持していなくてもいつでもどこでも出したり消したりできる)。また、能力によって生成した全ての物質に対して製作者としての権限を持つことができる。他者用に作る場合はその人物の血を混ぜる必要がある。そうすることでその人物にも権限がもたらされる。ただし、権限的には自身の方が上。権限を持った者はその物質を存在ごと消滅させる事ができる。一度消滅させると文字通り再び出すことはできない。その効果を発動する際、遠隔でも可能。
「やっぱりこの能力当たりっぽいかも? 実際、効果もかなり便利みたいだし。下手にゲームみたいなMP制限ない分いざという時に使えないって事もないだろうしね。しかも、生成時の定義だってチートで有名な創造魔法と似てるからイメージ次第では何でもできる自由度もある。おまけに、戦い以外にも使えるっていうのもポイント高い。使いこなせれば異世界無双だってできそうな気がしてくるよ」
そう呟いた後、周りに人がいないためか興奮を隠そうともせず、ふははははは! とどこぞの魔王を思い出させるかのような笑い声を上げながらマオはその可愛らしい顔にニヤリと不適な笑みを浮かべる。
(でも寿命云々はちょっと面倒くさいなー。消費系のアイテムはなるべく作らないように注意しとくとして、とりあえず、装備はケチらず優先的に整えた方が良いかも。せっかく来たのにすぐ死んじゃったらもったいないし。そもそもスバルみたいに何回も死ぬなんてごめんだからね。油断しないように注意しないと)
しばらく笑った後、再び目を瞑り何かを考えだすマオ。すると、突然目を開き
「あっ!肝心なこと爺さんに聞き忘れた!……どうやって使うんだろこれ」
重大な事に気づき一瞬焦るマオの視線は手元にあるカードに向けられていた。
(んー頭に当ててもダメ。手で擦ってもダメかー)
その後、いろいろ試してみるも上手くいかないようだ。
なかなか成果が上がらないためか、目に見えて顔に苛立ちを募らせているのがわかる。
「こうなったら仕方がない、君がいつまで経っても僕に能力を使わせてくれないからいけないんだよー」
そうカードに言いながらゆっくりと両手でそれを握り潰していくマオの表情には既に苛立たしさは消え、代わりに弱いものをいたぶって楽しんでいるかのような喜悦が浮かんでいる。
しかし、結果はしわくちゃに丸め込まれたカードだった物があるだけで状況は何も変わっていない。自分のものなのに使う事すらできないこの状況に流石に我慢できず、ムシャクシャしたマオは今度はそれを広げて一気に破り捨てた。すると、突然カードが一瞬強烈に光輝いた後、役目を終えたかのように粒子となって消えてしまった。その光景を見て驚愕しているマオの体も突如、ほのかに光だす。しばらくするとその光も収まり、姿が見えるようになったマオの顔には満遍の笑みが浮かんでいた。
「ついに人間をやめてしまったようだ」
すると、マオの右手付近が青く光り、現れる拳より少し長めの棒のような物。
「スイッチオンっと」
突如、ブオン! と音を響かせながら棒から出てきた紫に光る刀身。あらゆるものを抵抗なく切れそうなその見た目はまさしくライトセイバーそのものであった。
「これで僕も……キリトとおそろいだー!」
興奮したようにライトセイバーを振り回すマオ。しかし、いくら剣道経験者とはいえ、かの黒の剣士のような華麗な動きは再現できなかったようだ。
「くそー、流石ビーターだよ。ただのチーターの僕なんかじゃ足元にも及ばない。おまけに、美人な彼女持ちだし。今ならキバオウさんの気持ちが痛いほど分かるよ……。なんかちょっと悔しいなー」
少しぶーたれながらスイッチを切り刀身を戻す。
「しかーし! マオタイムはまだ、終わってないのだ!」
そう叫ぶと、今度は持ち手を半回転させ棒を逆向きにする。
「再びスイッチオン!」
すると、現れた鞭状の光。ライトセイバーが光剣なら、これは光鞭といったところだろうか。
「ふははははー!……っと、あれっ? うぉっ!?」
慌てて光鞭を消すマオ。それもそのはず。光鞭が地面に触れている部分を溶かしどんどん沈み込んでいたのだ。
「あちゃー。まあ、確かにそうなるよね。流石にこれを振り回せる技量はないかな。下手したら自分に当たりそうだし。先に防具作ってから練習するとしよーっと。でもその前に」
そう言うとマオは、突然棒を投げ捨てたと思いきや棒に向けて右手を伸ばし、何かを念じるような動作をしだした。そして、地面に落ちている棒がカタカタと振動した次の瞬間、突き出したマオの右手に地面に落ちていたはずの棒が収まっていた。
そしてドヤ顔をキメながら
「流石のキリトもフォースは使えないもんね」
そう勝ち誇ったように呟く。いつの間に作ったのか? 先程まではなかったマオの右手の中指には、黒いシンプルな形の指輪がはまっている。その指輪に付与された【フォース】の能力の効果により、今のマオはフォースすらも使う事ができるのだ。
「初めて能力使ってみたけど、上手く再現できてるし成功かな? 小さい物ならほぼ一瞬で作れるというのもわかったし」
そう満足そうに笑顔を浮かべながら初めての能力行使を振り返るマオ。
「さてさて、次は何を作ろうかなー」
そう言ってその場に座り込み、ワクワクした様子で新しい玩具を次々と作り続けるその姿からは、この世界に来たときに抱いていた不安なんてものは微塵も感じられなかった。
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