Re:戦うミーティア職人   作:かぼちゃきんぐ

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一週間を過ぎてしまった……。


乱入する黒い影

「ふぅ、終わったー」

 

 両手を空に伸ばし、大きく「ん~」と伸びをするその顔からは、いい仕事をしたと言わんばかりの満足そうな笑みと少しばかりの疲労が伺える。

 それもそのはず、あれからじっくりと、どういうスタイルで戦うか? 何の能力を使ってみたいか? あると便利なものは何か? 物語にどう介入していくか? の四つの事柄を中心に思考を重ね、それらの条件に合う能力を記憶の中から覚えている限り思い出しつつ、新しい視点で組み合わせてみたり、といった頭を使う作業を時間も忘れるほど夢中になって行っていたのだ。

 思考作業が終わった後は、休憩も挟まずただひたすらにイメージした物を作り続けるマオマシーンの完成である。

 そして現在、漸く全ての工程が終わったのである。

 マオを中心に地面には、彼が作ったであろう一つ一つの形が異なる数々の道具が散乱している。武器のような物、指輪や時計といった装飾品、上下を黒で揃えたいかにも怪しい服、一見しただけでは何に使うのかすら不明なものまで幅広くある。

 

「ちょっと作り過ぎちゃったかなー」

 

 少しの休憩を取りながら辺りに散らばる数多くの道具を見回すマオ。その言葉とは裏腹に後悔なんて微塵も無さそうな表情をしている。

 

「どれくらい寿命減ったんだろ?」

 

 そう呟きながら一つ一つの道具を見てそれに費やしたコストを計算し始める。

 

「うわー……まじか。まさか、20年近くも減ってるとはねー……。

 でもまあ、その分いい物作れたしいっか。今度何か作る時は節約しよう」

 

 

 

<装備リスト>

• 黒の指輪【フォース】【チャクラ】【魔力】【気(念)】

【継続は力なり】(発動中に行われた鍛錬の経験が自身に100%蓄積される。努力が苦にならなくなる)

• 白の指輪【大嘘憑き】【虚数大嘘憑き】【四次元収納】

• 喰種マスク(金木の改造型……眼帯部分が開く)

【変声】【白髪化】【デザイン変化】【呼吸補佐】

• 黒パーカー&ズボン【自動洗浄】【耐熱】【認識阻害】

• 黒ブーツ【衝撃吸収】【空中歩行】【自動洗浄】【耐熱】【粘着】(天井や壁を走る事も可能)

• 魔眼コンタクト×2【鑑定】【千里眼】【?】【?】【?】【?】【?】【?】【?】【?】

 

 

<武器>

• ライトセイバー+ウィップ

【伸縮】(1/3~3倍まで)

【飛斬】(〖斬〗〖突〗の二種類)

【手加減】(発動中、斬っても傷はつかないが痛みは感じる。さらに致死ダメージで気絶)

【現金化】(殺した対象をお金に変える。死体は残らない)

【levelUP】(戦闘で経験を蓄積する事で自身の基礎身体能力を上昇させることができる)

• 手裏剣【拡大】【起爆】【光学迷彩】

 

 

<その他>

• 避雷針の術術式スタンプ(スタンプを押したものに透明な避雷針の術の術式をマークする)

• どこでもドア改【精神と時の部屋】【ゲート】【マイルーム】

• 訓練ゴーレム【自動再生】

【学習】(受けた攻撃パターンを学習し修得する)【分身】(相手の数と同数に分身する)

【反撃】(攻撃してきた相手が敵意を無くすまで※死ぬまでに変更する事も可能。ただし、召喚地点から半径50mまでしか行動できない)

• グルメテーブルかけ

• 自動調節時計

• 検索教本(知りたい情報を検索できる本)

• ……etc.

 

 

 

 近くにある服を掴み「よっこらせ」と立ち上がった後、辺りに散らばる無数の道具を能力で消していく。

 今まで着ていた学生服から新しく作った装備に着替え、身なりを整えると、そこには白髪のショートヘアで前髪は目にかかるくらいの長さ、白い歯を満遍に晒す凶悪な風貌の喰種マスク。少し大きめのフードが付いた黒のパーカーと動きやすそうな黒のズボン。これまた黒の丈夫そうなブーツを履いた怪しさ満点のマオ第二形態が完成である。

 日本でもこの世界でも誰がどう見ても明らかに異質な(主にマスク)その姿を見て果たしてマオだと分かる者はいるだろうか。

 

「とりあえず変身完了っと。もう学生服はいらないから指輪の中にしまっておこう」

 

 そう呟いた後、白い指輪をつけた左手で学生服に触るマオ。すると、何の予備動作もなく一瞬で跡形もなく消えてしまった。

 

「やっぱり、触っただけでしまえるのは便利だなー。今度は出してみよう」

 

 再び、一瞬で現れる学生服。

 

「なるほどねー。しまってある物のリストはデータ化して閲覧できるのか。しかも、外すとそれが見えなくなる。つまり、装備者にしか見えないから中身を他人に知られる心配は無い……っと。おまけに生成能力と同じでイメージした所にも瞬時に出せるときた。果てには容量の制限も無し」

 

(──今更気づいたけど、僕の能力使えばこの世界でミーティア職人になれるんじゃないだろうか?

 この【四次元収納】指輪だってミーティアとして売ったらものすごく高い値段になってもおかしくないだろうし。特に、運搬に大変な商人からしたら喉から手が出る程欲しい効果なはずだ。

 

 そうそう、商人と言えば……お金大好きアナスタシア•ホーシンがいるじゃないか!

 もし、彼女に会う機会があったら高値で売りつけてやろう。

 でも、そうするとその前に誰か偉い人の後ろ盾が必要だよなー。

 絶対僕みたいな素人丸出しの交渉じゃあぼったくられるだろうし。

 実際、アニメの時だって、スバルくんに少しも悟らせずに欲しい情報聞き出してたからね。あれは流石に可哀想だったなースバルくん。

 僕はあんな悲惨な状態になりたくないな。舐められないように一人では交渉しないように気をつけよう……。

 となると、風見の加護持ちのクルシュさんが妥当かな? それに、ヴィルヘルムさんの剣術にも前から興味あったんだよね。あわよくば、指導してもらえるように頼んでみよう。そうすれば一石二鳥だ。ついでにフェリスにも会えるから一石三鳥か。

 

 ──いや、逆にアナスタシアさんの陣営に入るのはどうだろう?

 

 ……それはそれでいいかもしれない。でも、クルシュさんも捨てがたい……。

 まあ、これからの成り行きに任せるとしよう。

 

 あー、そういえばクルシュ陣営って特殊だったっけ。

 男装の麗人に仕える男の娘の騎士……ふむ、僕も女装した方がいいんだろうか?

 それと、ラッセル•フェローとのコネも欲しいな。確か、市場を牛耳ってるのはあの人だったはず……あんまり覚えてないけど。

 そうすれば、いつかミーティア専門の道具を扱う自分の店を持つ……かもしれない時に役立ちそうだ。

 

 と、まあ色々考えてはみたけど、とりあえず直近の目標は、現在の時間軸の把握と原作キャラとの遭遇かな。

 でもその前に、今の自分の姿を見ておこう)

 

 思考の渦から抜け出したマオは、どこからともなく姿見用の大きな鏡を出し、変身後の自分の姿を確認し始めた。

 

「おぉー! やっぱり格好いいなー金木くんの喰種マスク。しかも、装着時に白髪になれるようにしたからかなり本人とそっくりだし。

 これで赫子使えたら完璧なんだけどなー。でも僕、赫包なんて持ってないし……」

 

 そもそも人間であるマオが喰種の赫子を使うなど体内構造上不可能である。しかし、どこか諦めきれないでいるマオは、顎に手を当て何かを考え始めた。

 

 

 

 

(──ん?)

 

「──あっ! そっか」

 

 突然そう叫び、バッと顔を上げるマオ。

 

(別に体内に無くてもいいんじゃん! 赫包が無くて発動できないなら、服の外側に擬似的なものを作って取り付ければいいのか。そうすれば僕にだって赫子が扱えるようになるはず)

 

 何かを閃いたのか? 手元を光らせ生成を始める。数秒後、光が消えた手の平の上には黒くて丸い紙のようなものが四枚現れた。

 

「ははっ、さすが僕」

 

 それらの紙を二枚ずつ片手で持ち、そのまま背中にペタリと貼り付けた……。

 ──しかし、何も起こらない。

 

 

 

 

 

 ──ピキッ。と、突然何かの殻を割るような音が通路に響く。

 直後、マオの背中から赤黒い触手のようなものが四本勢いよく飛び出した。

 

 

 

<New!>

• 赫包シール×4【赫子(鱗赫)】【赫子(羽赫)】【光学迷彩】

 

 

 

「うぉおおおー! なんだか気持ち悪いけど格好いい!」

 

 鏡の前でポーズをキメたり、赫子をうならせたりと興奮した様子でその性能を確かめるマオ。

 

(思ったより動かすの難しいな……。慣れてないせいか集中しないと上手く制御できない……。でも、鱗赫の赫子って攻撃力高いし、金木くんみたいに機動力のサポートにも使えるから、使いこなせれば結構便利何だよねー。戦闘で使うなら最低でも無意識に操作できるくらいにはしておかないと。

 あとは、唯一の問題として他人が怖がりそうなその見た目だけど……まあ、光学迷彩で透明にできるしあんまり気にしなくていっか)

 

「次は羽赫っと」

 

 すると、先程までは触手のような形だった赫子が今度は紫の翼のような形に変形した。

 

「悪魔オ降臨! からの羽射出!」

 

 美しいその両翼から弾丸並みのスピードで射出される鋭く尖った結晶のような羽の嵐。ただの人間なら一つでも致命傷になりうるその威力に古びて劣化した壁が耐えられるはずもなく、瞬く間に瓦礫と化す。

 

「やば! やりすぎた……。──大嘘憑き! 壁の破壊をなかったことに」

 

 そうマオが唱えた直後、見るも無惨な程粉々になっていたはずの壁が、まるで最初からそうであったかのように元通りになっていた。

 

「ふぅ、さすが裸エプロン先輩。僕にできない事を平然とやってのける」

 

 マオが使った能力は【大嘘憑き】“現実(すべて)を虚構(なかったこと)にする”という使い方次第では世界をも滅ぼしかねない超チート級能力である。

 

(ここじゃ狭くてあんまり検証できないや。

 とりあえず羽赫の羽の威力は確認できたけど、限界使用時間は不明。鱗赫は拙いながら一応制御可能。僕の生命線である【大嘘憑き】についてはちゃんと発動できた。

 さっき作っておいた他の能力も色々試してみたいし、いい加減ここから移動するとしますか)

 

 先程から出したままだった鏡を能力で消す。

 

「おっと、そういえば忘れてたけどスバルくんって今この世界にいるんかね? 

 ちょっと調べてみよう──千里眼」

 

 直後、マオの黒目が青く変色する。

 

(まずは俯瞰モードにして捜索っと……。

 ──うわー、王都広いなー。こんな広い場所で人捜しとか普通無理でしょ。それをやってのけるエミリアたんマジ天使! ……天使なのは関係ないか。

 とりあえず対象をスバルくんに設定、検索……。

 

 ──おっ? おー! いたいた。本当にいたんだスバルくん。まあ、位置的にここからだと結構距離あるけど。

 それはさておき、今何してるんだろ? ちょっと小さくて見えずらいなー。拡大からの透視……よし、これで見やすくなった。

 さてさて、状況はいかに……

 

 

 

 

 ──まさか、路地裏のラインハルト初登場シーンを見れるとは……。

 いやー、なかなかいい思い出になったよ。それにしても何あれ? 何なのほんと。あの赤髪の騎士様イケメン過ぎでしょ! 明らかにヒロイン役スバルくんだったし。でも、もし僕があの状況であんなに颯爽と助けられたらと思うと……うっかり惚れちゃうかもしれなくもないかな。

 ──おっと、僕としたことが意味分からん事考えてしまった。あれは、ある意味危険な存在だから充分注意しておこう。

 そういえば、ラインハルトが本気で戦ってる所見たこと無いなー。盗品蔵の戦いでも明らかに手抜いてたし。いつか闇討ちしてみるのも面白いかもね。人類最強の力がどれほどのものか僕も興味あるし。最悪、失敗してもラインハルトなら許してくれるだろう……たぶん。

 それと、スバルくんとラインハルトが路地裏にいるということは、スバルくんを基準にして考えると今現在の時間軸は、既にこの世界に来てから二度死んだ後の三周目ということになる。

 そうなると僕は死に戻りの影響を受けないパターンなのか? あるいは僕が転移されたのが偶々この時間軸だったのか? 

 

 ……わからん。まあどちらにせよ、いずれ分かることだし、今の時点で無理に調べる事でもないしね。この件は放っておこう)

 

 能力を切ったのか? マオの青く変色した目が再び黒に戻る。

 

「スバルくんがいることも分かったし、盗品蔵の場所も把握できた。後は、今夜の攻防戦に向けて能力の鍛錬でもするとしよう。

 時間も有限ということで、早速“どこでもドア改”召喚! っと」

 

 通路の壁に貼り付くようにどこからともなく現れたのは、誰もが知ってるピンクの扉……ではなく、荘厳な白い扉だった。

 そして、ゆっくりと開かれた扉の向こうには、再び死後の世界に戻ってきてしまったのか? と一瞬勘違いしてしまうほど何も無い白い世界が広がっていた。

 そう、まさしくここは彼のドラゴンボールで有名な【精神と時の部屋】そのものである。

 

「いざ、修練の間へ!」

 

 元気よく、しかし覚悟を決めた声色でそう叫びながらマオは扉の向こうへと消えて行った。

 

 

 

 

 

★☆★☆★☆★☆

 

 

 

 

 

 空からは既に太陽が沈み、夕闇が世界を支配し始めたその頃、ナツキスバルは盗品蔵にてこの世界に来てから三度目の死の危機に瀕していた。

 

「いいか、フェルト。今から俺が囮になって時間を稼ぐ。なんとか隙は作ってやるからその間にお前は逃げろ」

 

「ッ!? 何言ってんだよ兄ちゃん! アタシにケツ捲って逃げろってのか!?」

 

「そうだ、ケツ捲って尻尾巻いて逃げちまえ。俺も逃げ出したいが、あの子を一人置いていくなんてできない! だから、フェルト。お前は先に逃げてくれ」

 

 その後も「でも」と反論するフェルトの額を押して黙らせるスバル。

 そして、どこか決意した表情で近くに転がっていたロム爺の棍棒を手にとり、そのまま肩に担ぎ上げながら立ち上がる。

 立ち上がってみたものの、ケンカは愚か殺し合いの経験なんてほとんど無いスバルは突入するタイミングを掴めずにいた。

 

 ──が、そんなスバルについにチャンスが訪れる。

 先程からエミリアへと激しい剣戟を放ち続けているエルザの視線が完全にこちらから外れ、明らかな隙を晒したその瞬間

 

「──んだらああああああ!!」

 

 全速力で近づき、思いっきり振り上げた棍棒をがら空きの背中に叩きつけた。

 エルザの死角を狙ったその一撃は、それを行った本人でさえ完全に当てたと思うほど見事なものだった。

 しかし、スバルの手には期待した感触は得られなかった。

 

「ふふ、残念」

 

 エルザはまるで後ろに目でも付いているのか? と思える程鮮やかな身のこなしでその一撃をかわし、今度はお返しとばかりにその手に握るククリナイフで、隙だらけのスバルの腸を狙った淀みない一撃を繰り出す。

 

「あぶっ!?」

 

 咄嗟に、無意識で手繰り寄せた棍棒を盾にすることで、なんとかその一撃を防いだスバル。

 

「今だ! いけよ、フェルトー!!」

 

「──ッ!!」

 

 その言葉と同時に、自身の出しうる最速のスピードで駆け出したフェルト。

 スバルの作ったこの一瞬の隙を逃さぬよう最短ルートでドアまで突き進む。

 そして、遂にエルザという障害を完全にすり抜けることができたのだ。

 

 ──本来ならそのまま何の障害もなく、開かれたままのドアから外に出れるはずだった。

 しかし、蔵から出ようとしたまさにその瞬間──

 

「ぐはっ!?」

 

 後方の脅威から逃げることに必死で、余裕の無かったフェルトは、突然出口の向こう側に現れた何者かに気づくことができず、そのまま勢いよくぶつかってしまう。

 しかも、最悪な事に蔵の中に弾き返され尻餅をついてしまった。

 あまりにも予想外なその出来事に、肉体と精神的な衝撃を受けたフェルトは、一瞬の間エルザの事すら忘れ、座り込んだまま呆然としてしまう。

 そして、徐々に湧き上がる打ちつけた箇所からの痛みに「いつつ……」と思わず声を漏らす。

 ──が、その直後

 

「フェルト! 避けろ!」

 

 必死に叫ぶスバルの声。

 ハッと顔を青ざめながら直ぐ様エルザから逃走中だった事を思い出したフェルトは、自分のおかした失態に気づく。

 慌ててその言葉の意味を理解しようとスバルの方へ咄嗟に顔を向けたフェルトだったが……

 

「あっ……」

 

 

 ──その時にはもう既に何もかもが遅かった……。

 

 

 振り向いたフェルトが目にしたその光景は、既にエルザの手から放たれ、確実に自身の命を狩り取ろうと回転しながら迫る禍々しい一本のナイフが、避ける事すら不可能な距離まで接近していたものだった……。

 

 

 

 

 

 

 ──あれから何秒経っただろうか? 自身に訪れるであろう死に恐怖し、思わず目を瞑ってしまったフェルト。

 しかし、いつまで経ってもその時は訪れない。

 

(──あれ? 生きてる……?)

 

 流石におかしいと思ったのか? 

 今起きている状況を確認しようと恐る恐る目を開ける。

 そして、目の前で起こっている普通では有り得ないその光景に「うわっ!?」と、驚きの声を上げる。

 

 ──なんと、あのままフェルトに突き刺さる筈だったエルザのナイフが、フェルトの顔数cm先の空中で見事に停止していたのだ。

 

「どうなってんだ!?」

 

 訳が分からないこの状況に対して興奮した様子でそう叫ぶフェルト。

 

「──あら? どういうことかしら?」

 

 今までの経験上、確実に仕留めたと確信していたエルザ。しかし、結果は想像していたものとは違い、未だ無傷で生きている金髪の少女。そして、その手前の空中で何故か停止している自身の得物。その光景を見て思わずそう呟く。

 

 気づけばエルザを含む蔵の中の全員が動きを止め、その様子を見ていた。

 

「あっ! そういえばアタシ、なんで吹っ飛んだんだ!?」

 

 若干の怒りを胸にその原因を確認すべく、座り込んだまま出口へと視線を移す。

 そして──

 

「ひぃっ!?」

 

 突然、悲鳴を上げたフェルト。

 その表情を恐怖で歪ませ、何かを恐れるように肩を震わせながら後ずさる。

 

「フェルト!?」

 

 何故か怯えるフェルトを心配しながらも、その反応に疑問と警戒心を抱いたスバルとエミリアは、エルザを視界に入れつつ出口の方を見つめる。

 

 ギシッ……ギシッ……。

 

 ──静寂の中、木造の床が軋む鈍い音が響く。

 そして、夕闇に残る微かな光に照らされながらゆっくりと蔵の中へ入り込む黒い影。

 逆行で陰りつつも遂に露わになるその全貌。

 

「ッ!!」

 

 ゾクッ……。

 その存在を見た瞬間、背筋だけではもの足りず全身を駆け巡り、手足の先まで凍りつかせる程の濃密な恐怖が見る者を襲う。

 自身を支配したそれにより声すら上げられず、息をする事すら忘れたスバルはただ呆然とその場に立ち竦む事しかできない。

 その一瞬で自分の存在を“弱者”と認識したスバルに彼の生存本能が“今すぐ逃げろ”と囁く。

 しかし、体は凍りついたように動かない。

 もはや蛇に睨まれた蛙となり果てたスバルは、自分の生死は既にあの存在に握られていると悟った。

 

 

 ──それは……全身黒で統一された異様な服装にフードで隠された白髪。眼帯で右目を隠し、白い歯をむき出したままの状態でおぞましい笑みを浮かべる隻眼の黒マスク。不機嫌そうに細められている左目は赤く、その瞳の中には黒い模様が刻まれている。

 フェルトを見下ろし無言でただずむその全身からは、まるで捕食者をも連想させる圧倒的“強者”の威圧感が放たれていた。

 その姿を見た者はエミリアでさえ例外ではなく、恐怖故に動けずにいる。

 

 

 

 

 ──ただ一人。

 

 薄く微笑みながら新たな来訪者を見つめるもう一人の“強者”を除いて……。

 

 

 

 

 

 

 

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