【完結】ToLOVEる  ~守護天使~   作:ウルハーツ

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第105話 V・M・C情報網

 授業の終わりを知らせるチャイムが響き渡った彩南高校の廊下には、徐々に昼休みを迎えた生徒達の姿が見え始める。2年A組の教室内では友達同士で共に昼食を食べようと話を始める生徒達の姿があり、真白もヤミと共に唯や里紗達に誘われる1人であった。……そんな光景を廊下から隠れて眺める人影が1人。

 

「……やはり必要なのは情報、ですね」

 

「モモ様」

 

 それはモモであり、彼女は忍ぶ様に話し掛けられる真白の姿を見つめていた。すると突然彼女の背後に1人の男子生徒が立つ。それはモモが彩南高校に転入して少し経ってから結成された彼女のファンクラブ。V(ヴィーナス)M(モモ)C(クラブ)のリーダー、中島であった。普段モモは彼を始めとした自分のファンクラブに所属する男子生徒達を鬱陶しいと感じる事が多いが、この日モモはそれを我慢して告げる。

 

「貴方達に1つ、お願いがあります」

 

「! モモ様のお役に立てるなら、何なりと!」

 

 廊下で突然片膝を着く中島の姿は非常に目立っており、モモはそれに気付いた後に場所を移す事にする。そして彼に告げた命令(お願い)は彼を中心にファンクラブの全員へ伝わり、放課後までVMCの生徒達は忙しく動き回り始める。……そしてその日最後の授業が終了した後、モモは真っ直ぐ結城家へは帰らずに屋上に足を運んだ。外へ繋がる扉を開けた途端、そこで待っていた中島を初めとする男子生徒の集団が一斉に敬礼してモモを出迎える。

 

「お望みの三夢音 真白先輩の周辺情報を総出で掻き集めました!」

 

「此方、聞き込みや本日の監視等で接触した人物と接触時間です!」

 

 リーダーの中島が代表する様に声を出すと、隣に居た彼の友人兼同士の杉村よりモモは3枚のプリント(資料)を手渡される。そこには真白が誰と接触したか。誰と共に居る事が多いか等の彼女の周りに関する周辺情報がびっしりと記されており、モモはそれを受け取ると頷いて全員へ視線を向ける。

 

「皆さん、ありがとうございます♪」

 

≪ぐはっ!≫

 

 笑顔を作って(・・・・・・)お礼を言ったモモに男子生徒達は一様に胸を撃ち抜かれた様に押さえ始める。中島と杉山も同様であり、だが中島だけは早く立ち直ると再び敬礼して口を開いた。

 

「モモ様、発言宜しいでしょうか!」

 

「……えぇ、良いですよ」

 

 モモは手に持った情報を手に目の前の生徒達が怯んだ隙をついて今すぐにでも帰宅するつもりだった。だが思ったよりも早い復帰に一瞬彼らに見えない角度で面倒そうな顔をした後、何時も通りの可愛らしい笑顔で頷いて了承する。

 

「何故、三夢音先輩の情報を? まさか、あの人がモモ様に何か!?」

 

「違います。シア姉様は私の大切な人です。先に言って置きますが、もしシア姉様の事を一言でも悪く言う様なら……許しませんよ」

 

≪い、イェス、マァム!≫

 

 嘗て彼らは真白の知らない所でリトにちょっかいを出した過去があった。結城家にモモが住んでいると知り、彼が何か卑怯な手を使っていると誤解したからだ。お世話になってる相手であり、真白の家族でもある彼はモモにとっても他の誰かに比べれば大切な人。故にその時、彼女は彼らに恐怖すら感じさせる説教を行った。以降、彼らの中で大事な事の1つに『モモ様の言う事は全てであり、必ず怒らせてはいけない』という暗黙の了解が出来上がった。そして今、中島の言葉で真白をモモに害成す危険人物と見ようとしていた彼らは一斉に察する。彼女に手を出す事は許されざる行為であると。

 

 モモは今度こそその場を去ると、結城家へ帰宅する。普段通りに出迎える真白や美柑達に日常の幸せを感じ乍ら自室へ到着したモモは、受け取った情報を並べて1人会議を開き始めた。会議の内容は……真白に好意を抱く人物の人数と、今後可能性がある人物のピックアップ。

 

「まず一番一緒にいるのは……やはり、ヤミさんなのね」

 

 1枚目の資料に記載される人名の列の横には真白との接触時間がグラフで記載されており、他の誰よりも断トツでヤミのグラフは大きかった。最早振り切れる程に。

 

「彼女は疑う余地も無くシア姉様の事を好いている筈」

 

 モモは数日前から用意してあったヤミだけが映る写真を手に取ってそれを特定の場所へ配置。再び資料へ視線を戻した。

 

「次は……シア姉様が地球で初めて出来た友達、古手川 唯さん。彼女も恐らくは」

 

 そう言って同じく唯だけが映る明らかに許可の得ていない写真をヤミと同じ場所へ配置する。

 

「春菜さん、籾岡さんと未央さんは違う筈。特に春菜さんはリトさんが気になっている様子。籾岡さん達は……今後のシア姉様次第で変わって来るかも知れないわね。中間にして置きましょう」

 

 春菜の写真をヤミと唯が配置された場所とは反対側に置き、その間に里紗と未央の写真を配置したモモは次の名前を確認して少し驚いた様子を見せる。

 

「凛さんと一緒に居た時間が……今日だけかも知れないけど、此方も中間にして置きましょう。沙姫さんと綾さんは違う筈」

 

 VMCが集めた情報は今日の分であり、故に微かにグラフが長い九条 凛の部分にモモは驚かずにはいられなかった。数日前に起きた魔剣の事を思い出したモモは完全に判断出来ない為、里紗と未央同様に真ん中へ写真を置き、同時に沙姫と綾の写真を春菜と同じ場所へ置く。念の為に知り合い全員の写真を用意してあった事が功を奏し、モモは安堵した。

 

「お静さんは……どうなのかしら? 友愛の方が強い気が……思えばシア姉様を可愛がってる事の方が多い気もするわね」

 

 お静と初めて出会った時、モモはまだ地球に来ていなかった。その為、言伝でしかその内容をモモは知らない。だが春菜の身体に憑依してしまった時の話などを聞いており、彼女は真白に懐いていると言った方がモモの中ではしっくり来る。故に悩んだ末、モモはお静の写真を春菜と同じ場所へ置いた。

 

「これでシア姉様と同じクラスの人達は全員。隣にいるルンさんは言わずもがな、こっちね」

 

 2年A組の生徒を終えたモモは隣のクラスであるルンの写真を手に取り、迷いなくヤミと唯の上に重ねる。次に2枚目の資料を手に取ったモモは1年生の欄に入った事でその目を細めた。真白と主に関わりのある人物は1年生には少なく、その名前は自分を除いて2人だけ。ナナとメアである。

 

「ナナは私達と同じね。でもメアさんは分からない。シア姉様と仲は良さそうだけれど……そもそもナナが紹介する前から知り合いだった様だけど、どの様に知り合ったのかしら? ……悩んでも仕方ないわね。彼女は中間にして置きましょう」

 

 ナナの写真を好意を持つ者側へ。メアを中間に置き、それを最後に学生の確認は終わる。だがまだ資料は残っており、手に取って目を通したモモは納得した。そこには学生では無く、教員2人の名前が書かれていた故に。

 

「御門先生とティアーユ先生。何方も私達が知らないシア姉様を知っている。雰囲気からしてティアーユ先生はシア姉様とヤミさんのお姉さんと言ったところかしら。でもこっちは……」

 

 ティアーユの写真をお静や沙姫達と同じ場所に置いたモモは、片手に残る御門の写真を見続ける。今までモモが話をした回数は多くも少なくも無く、真白と親し気に話す姿は何度か見ている。だがそれは他の面々も同じであり、自分が覚えている光景だけで決めるならティアーユと同じだった。だが、モモは何故か其方へ置く事を戸惑う。

 

「……」

 

 モモは自分の中にある何かが告げている様な気がした。彼女は違う、と。思った通りでは無く、彼女もまた真白へ何かを感じている。何の根拠も無い直感であったが、モモは黙って悩み続けた末に御門の写真を中間へ置いた。……以上で学校関係の人々は全てであり、モモは続いて自分で用意してあった資料を取り出す。それは数日前から集めてあった、彩南高校以外で真白と関係する人物の詳細であった。と言ってもその人物は2人だけ。

 

「美柑さんは自覚して無いだけで、間違い無く私達と同じ。そしてアイドルの霧崎 恭子さん。シア姉様とはルンさん経由で知り合ったと言っていたわね。彼女は……どうなのかしら?」

 

 美柑を真っ先にヤミ達と同じ場所へ置き、恭子の写真を手にモモは再び悩む。話をしたのはプールでの戦闘後のみであり、その後見掛けたのも数日前に彩南高校に訪れた時で2回目。モモには判断材料が少な過ぎた。御門の様に戸惑う訳でも無く、本当に何も知らない故にモモはそれを中間へ置く。

 

「最後に私とお姉様を此方に置けば……完成です」

 

 3カ所に分けた写真を纏め、最後にそれを広げて一目で全てを確認出来る様にしたモモは改めてそれを眺める。

 

『ララ・ナナ・モモ・ヤミ・美柑・唯・ルン』

 

「今間違い無いのは私を含めて全部で7人。でも必ず此方から増える筈」

 

『里紗・未央・凛・メア・御門・恭子』

 

「そして此方の方々は私達と別の思いでシア姉様と友好な関係を築いている」

 

『春菜・沙姫・綾・お静・ティアーユ』

 

 纏めたそれを眺め続ける事数分、突然部屋の扉がノックされた事でモモは急いでそれをしまう。そして返事を返せば、開けられた扉から真白が姿を見せた。

 

「……勉強?」

 

「い、いえ。そうでは無いんですが……どうしたんですか?」

 

「……ご飯」

 

 モモは真白の言葉に少し驚いて時間を確認する。最初の頃は食事を別々にしていたモモとナナだが、真白と美柑が料理を作る上でそこまで負担にはならないと言う理由で結城家の食事は全員一緒となっていた。気付けば結城家の食事時間になっており、長い間集中していたのだと気付いたモモ。真白の言葉に「分かりました」と頷いた後、扉を閉めて部屋を去ろうとする真白の背を前にモモは思わず声を掛ける。

 

「シア姉様」

 

「?」

 

「シア姉様は……複数の人と愛し合う事は、駄目な事だと思いますか?」

 

「……」

 

 突然の質問に真白はしばらく黙って考える様に顎へ手を当てる。そんな彼女の姿を前に、モモは思わず固唾を飲んだ。モモは自分の思いをララのお蔭で自覚した後、何方も幸せになれる方法として1つの案を考えていた。だがそれをララと同じ様に尊敬し、且つ特別な思いを抱く真白へ強制する事をモモは躊躇っていた。障害は余りにも多く、しかしそれを乗り越えた先に幸せがあるのなら……モモは手を伸ばす事も厭わない。故に後は根底に必要な真白の思いだけであり、彼女の言葉をモモはジッと待ち続ける。数分にも数時間にも感じる間を経て、やがて真白はモモと視線を合わせて口を開いた。

 

「……皆、幸せ……なら……良い」

 

「! はい! 皆さんを必ず、幸せにします!」

 

「?」

 

 真白の答えに思わず椅子から立ち上がって強い意志を込めて答えたモモ。そんな彼女の姿に真白は首を傾げるが、モモは嬉しさが勝る故にその事に気付く事無く真白に近づき始める。そして笑顔でその手を取った。

 

「お夕飯ですよね! 行きましょう、シア姉様!」

 

「……ん」

 

 詳しい理由は分からず、だが先程よりも明らかに元気の良い姿に真白はそれ以上気にする事無く頷き、歩き出したモモに手を引かれて異空間から結城家のリビングへ向かう。その後、見るからに上機嫌なモモの姿にナナが気味悪がりながらも、1日は過ぎて行くのであった。




次回投稿は来年1月1日になります。

各話の内容を分かり易くする為、話数の後に追加するのは何方が良いでしょうか?

  • サブタイトルの追加
  • 主な登場人物の表記

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