土曜日。特に用事の無かった真白はその日、リビングでヤミ、美柑、セリーヌと共に寛いでいた。鯛焼きを齧るヤミと棒付きのアイスを舐める美柑の姿を前に、膝に乗って寝息を立てるセリーヌの頭を撫でながら何も無い平和な時間を過ごし続ける。すると突然廊下とリビングを繋げる扉が開かれ、そこから姿を見せたララがリビングに座る真白を見て笑顔で声を掛けた。
「真白!」
「……」
「あ、ごめん。セリーヌ、寝てるんだね」
笑顔溢れる元気なララの声はリビングに響き、だがそれは気持ち良く寝ているセリーヌの眠りを妨げる事にもなってしまう。故に真白は近づいて来るララに振り返って片手で人差し指を立て、口元に当ててララへ静かにする様に伝える。それを見てララは真白の膝上を見て納得し、優しい笑顔で真白の隣に座ってその頭を撫でた。再びリビングには静かな時間が続き、だがララには何か用事があったと思った真白は目を合わせる。ジッと見られて首を傾げたララだが、少し経った後に思い出した様子で口を開いた。
「あのね、真白にお願いがあるの」
「……」
今度は真白が首を傾げ、その姿を前にララはある物を取り出す。それは茶色の細い棒であり、片側は何かを引掛け易そうな形に曲がり、片側には柔らかく触り心地の良さそうな梵天が付いている。……それは紛う事無き耳掻き棒であった。
「これでお互いに耳掻きし合いたいの。後で良いから、駄目?」
「……ん」
「美柑、溶けてます」
「!? うわぁっ!」
ララの言葉に少しの間を置いて頷いた真白。そんな2人の会話を聞いていた美柑はララがそれをお願いする原因であろう過去の出来事を思い出して徐々にその顔を赤くし、食べていたアイスが溶けている事に気付けなかった。その為鯛焼きを食べ終えたヤミがそれを教えると、美柑は慌てて落ちる甘い水滴を舐めた。
セリーヌが起きて元気よく動き回る様になった後、異空間にあるララの部屋に真白は訪れた。発明品等が転がる部屋の片隅にあるベッドへ向かい、やがて2人は座り込むと何方が先に行うかを話し合う。結果、ワクワクした様子で真白の膝上に頭を乗せたララはその状態で真白と視線を合わせた。
「真白の膝、あったかい。気持ち良いね!」
「……そう」
ララはお願いする為にリビングへ訪れた時、セリーヌが少し羨ましく感じていた。耳掻きをする上で膝枕は必要不可欠であり、ララは自分が先にして貰う事を望んだ。そして念願だった真白の膝を感じ、嬉しそうに告げるその姿は可愛らしい少女そのもの。真白は何気なく、セリーヌと同じ様にその頭を撫で始めた。
「んっ、これ……眠くなっちゃいそう。でも耳掻きして貰うから寝ない様に頑張る!」
頭を支える柔らかく暖かい感触に髪を撫でる優しい手の感触はララを眠りに誘う。そのまま眠る事が出来ればそれはそれで幸せそうに感じ乍らも、ララは眠気を覚ます様に元気良くを意識して真白へ告げた。そして真白の身体とは反対側に視線を向ける様に身体を横にすれば、真白はそれを見てララが用意した耳掻き棒を手に取る。
「……始める」
「うん! えへへ、楽しみだなぁ」
真白の言葉に横になった体勢のまま頷いてワクワクした様子でララは待ち始める。そして遂に真白がララの耳に触れ始めると、耳掻き棒を優しくその穴へ入れ始める。普段掃除をしているのか、ララの耳はとても綺麗であった。だがそれでも1日で溜まった垢は当然存在し、真白はそれを取る為に棒の先で中を撫でる様に掻き始める。
「ふぁ! これ、凄い……!」
普段感じない膝の温もりと共に自分の意思とは関係なく耳の中を動き回る耳掻き棒の感覚に、ララは思わず艶めかしい声を上げる。反応して僅かに身体を震わせるその姿を前に真白は集中しているのか、一切の容赦を与えない。結果、真白が狙った垢を取り除いた時。ララの呼吸は微かに乱れた状態であった。
「……反対」
「う、うん……ぁ」
静かに告げられた言葉に頷いて体勢を変えたララは、目の前に真白の身体を感じて思わず小さな声を漏らす。少し視線を見上げる為に横へ向ければ、そこには服を押し上げる中程度の山越しに真白の顔がある。……ララにとってその光景は眼福としか言い様が無く、故にその光景から視線を逸らす事が出来なかった。
最初同様に一言告げて始まった耳掻きにララは先程同様、声を上げる。僅かな時間ではあるが、幸福にも感じるその時を過ごしたララ。だがやがてその行為にも終わりは訪れた。ゆっくりと耳から耳掻き棒を抜き、真白はララの頭を優しく撫でながら告げる。
「……終わり」
「ぅん、ありがとう! それじゃあ、次は私の番だね。はい!」
「……」
暖かい手の感触に名残惜しさを感じ乍らも、ララは身体を起こして今度は自分の膝を叩きながら真白へ催促する。それを見て約束だった故に何も言わず頷き、その膝へ頭を乗せて横になった真白。ララは先程真白が使っていた耳掻きを手に、「行くよ!」と言ってゆっくりとその耳へ宛がい始めた。
「!」
「真白の耳、綺麗だね!」
「……そ、う……んっ!」
「えへへ、こしょこしょ~」
「!?」
「あ……ごめんね?」
元々ララが耳掻きをしたいと思った最初の出来事は、以前お正月にモモとナナが用意したすごろくで互いの耳を掃除する美柑と真白の姿を見たからである。その際、2人の姿を羨ましく思ったララはそれと同時に真白は耳が弱い事も知った。……そしてララはやってみたくなったのだ。自分の手で真白の耳を耳掻きすると同時に、気持ち良くさせたいと。ララ同様に普段から掃除している真白の耳の中は殆ど垢が無かった。故に小さなその日溜まった垢に狙いを定めたララは、小さな好奇心から何も無い所を耳掻き棒の先で撫でる。途端に真白の身体は目に見えて震えた事で、ララは業とだった為に罪悪感を感じて謝る。彼女の言葉に真白は小さく頷いて返した。
「よし! 反対もやるよ!」
狙った垢を取り終えたララの言葉に真白は身体を反対に向け、顔をララの腹部を見る体勢になる。先程ララはジッと真白の顔を見ていたが、対する真白は静かに目を閉じてララの行為を受け入れようとしていた。他人の膝に頭を乗せて目も閉じる等、信頼が無ければ絶対に出来ない事。それが分かったララは嬉しさの余り耳掻き棒を手にしたまま、真白の頭を抱きしめた。
「……ララ?」
「真白、大好きだよ」
腹部と胸の間に挟まれて幸い息は出来るものの、突然の抱擁に僅か乍ら不思議そうな意を込めて真白はララの名前を呼ぶ。すると呼ばれたララは唐突乍らそう言って、抱擁を止めると共に真白と目を合わせて微笑んだ。その姿は余りにも美しく、余りにも率直なララの言葉に真白は目を見開いて驚く事しか出来なかった。
『同じ女でも、『可愛い』とか『綺麗』とか思う人とか居るでしょ?』
嘗て恭子に言われた言葉が、真白の頭の中に蘇る。それは目の前の光景が余りにも彼女の言っていた内容と合っていた故に。真白は表情には出さないものの、やがて今までは感じなかった微かな恥ずかしさと共にララから顔を背ける。膝から離れる訳でも無く、腹部を見て動かない真白は決して不快に感じた訳では無いとララは理解した。そしてその上で、今までと明らかに違う反応に首を傾げるのだった。
各話の内容を分かり易くする為、話数の後に追加するのは何方が良いでしょうか?
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サブタイトルの追加
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主な登場人物の表記