「何処に行ったんだ……!」
レンは中庭で必死に辺りを見渡しながら何かを探していた。そしてそんな彼に気付かず、中庭を歩く女子生徒が1人。
突然、レンは1匹の変わった羽をした蝶々が草陰から飛んで行く姿を視界に捕らえる。それは彼が探していた蝶であり、急いでその蝶を捕まえようとレンは動きだした。だがその蝶はゆっくりと女子生徒の黒く長い髪の天辺に乗ってしまう。その光景を見てレンは途端に顔色を真っ青に変えた。レンに気付いた女子生徒……唯はそんな彼の姿に訳も分からず首を傾げるのだった。
授業が終わり、HRも終了した2年A組の教室内で真白とヤミは結城家へ帰る為に準備を始めていた。同じ様に自分の席で荷物を纏めていた唯は横目でその姿を眺め、少しだけ寂しく思う。また明日になれば会える事は間違い無いが、それでも話せる時間が終わる故に。すると突然、唯は立ち上がって真白の席へ歩き始めた。……本人の意思とは無関係に。
「(え? ど、どうなってるの!? 何で身体が勝手に!)」
「真白」
「?」
「今日も急いで帰るのね?」
「……美柑、待ってる」
「それは分かってるわ。……でも少し、寂しいわ。(何を言ってるの私!?)」
勝手に話し掛ける自分の身体に内心で困惑し続けていた唯は、真白の言葉を聞いて告げる自分に驚かずにはいられなかった。だが本人の意思とは関係なく唯の身体は真白との会話を続けてしまう。
「もう少し、私に構ってくれても良いじゃない」
「……」
「美柑ちゃんが大事なのは分かるわ。私もあの子の事は好きだもの。だけど、貴女を取られてるみたいでちょっと嫉妬するわ(何なのこれ。まるで……まるで……!)」
唯の言葉に黙ってその姿を見続ける真白。見つめ合う時間の中、頭の中で困惑していた唯は自分が言った言葉に衝撃を受けずにはいられなかった。それは自分の中で必死になって押し込めていた……本心。同じ女だから。恋愛なんてくだらないと思うからと否定し続けてしまい込んでいた本音。今、それは自分の意思とは関係なく真白へ自分の言葉として伝えられていた。故に唯は動かぬ身体で戸惑い、恐れ慄かずにはいられない。
「ねぇ、真白。もう少し一緒に居たいわ。偶には私の家にも来なさいよ。そうね、この前のお礼じゃないけど家で泊まって行っても良いと思うわ。明日も学校だけど、それはそれで一緒に登校出来る。ね? 良いんじゃないかしら? (止めて! もう、止めて!)」
「…………」
「どうしますか? 真白」
以前の泊まりを経て今度は自分の部屋に。そんな事を家で想像していた唯は、翌日が学校だった場合の事も考えていた。そしてその全てを包み隠さず告げてしまう自分の身体に内心では顔を真っ赤にして顔を覆いたい気分になりながら只管羞恥心に苛まれてた。これが2人きりだったらまだ良かっただろう。だが今唯が話をしているのは学校の教室であり、帰る生徒達がチラホラ見える中で教室に残っていた生徒達にはその会話全てが聞かれてしまっている。故にひそひそと聞こえる声が耳に届いてしまう。
「うわぁ~お、古手川さん、大た~ん!」
「普段はあんなにお堅いのに、今日は随分と積極的!」
「お泊り会、私もしたいです! 皆さんと!」
「それじゃあ皆でしようよ! ね、春菜!」
「そんな急で大丈夫かな? 予定がある人も居ると思うし、場所も決めないと駄目だよ?」
今の光景を見て黙っている訳の無い里紗や未央を始めとして話し始める面々。それは更に内心の唯を追撃してしまい、更に更に追い打ちを掛けるが如く唯の身体は動き始める。お泊り会の話で盛り上がる面々に指を差して強い口調で一言。
「私は真白と2人だけでしたいのよ! 貴女達とも楽しそうだけど、今回は譲れないわ! (いやぁぁぁ!)」
その言葉に静まり返る教室内。唯と交流のある面々は2つの意味で驚いていた。まずは当然真白と2人で無ければ駄目だという余りにも分かり易い好意を見せる唯に。そして真白程では無いにしろ、自分達とも楽しそうだと言って断りもしない唯に。普段余り率直な思いなど告げない彼女のその言葉は、慣れないという理由もあって他の面々を照れさせるには十分の事であった。……そんな時、ヤミはふと廊下から教室を覗くレンの姿を見つける。
「真白」
「? ……」
ヤミに声を掛けられた真白は目配せでレンの存在を告げられ、唯が話している姿を横に彼へ近づき始める。真白が近づいて来る姿に気付いた彼は驚きながら目を泳がしており、明らかに何かを知っている様子であった。それはきっと、今の少し様子がおかしい唯に関連すると確信した真白は彼の前に立つ。
「……何か……した?」
「うっ! その、済まない」
真白の言葉に目に見えて動揺したレンはやがて頭を下げるのだった。
「サラシチョウ?」
2年A組の教室で机に置かれた虫籠の中に入った蝶々を眺めながら首を傾げたリト。そんな彼の言葉にレンは頷いて口を開いた。
「ルンが銀河通販で購入した別の星に生息する蝶だ。こいつが今日の朝逃げ出してしまい、ルンは忙しいから探せなかった為に僕が探していたんだ」
「これが、古手川さんの様子が可笑しい原因?」
「あぁ。この蝶に乗られた人間は自分の意思とは関係なく、本心を晒してしまう。昼休みにやっと見つけたんだが、その際彼女の頭に乗ってしまった。だから今、彼女は本心でしか話す事が出来ない。意思は残っているだろうから、多分この話は本人にも聞こえている筈だ」
春菜の質問に答えたレンの言葉を聞いて全員が一斉に唯へ視線を向ける。現在彼女は真白の隣で殆ど距離を作らずにくっ付いており、普段は見せない緩んだ表情で真白の頭を撫で続けていた。その反対にはまるで対抗する様に真白の腕にしがみ付いて身体を寄せるヤミの姿もあり、その光景に数人は苦笑いを浮かべる。
「はぁ~、一度こうやって真白の頭を撫でたかったのよね。でも何故かしら? 撫でてる私の方が気持ち良くて癒されるわ(何時になったら戻るのよ~!)」
「分かります! 真白さんの頭を撫でると気持ちが安らいで極楽なんです! 思わず極楽に行ってしまいそうな程に!」
「それ、成仏し掛かって無い?」
唯の言葉に普段から真白の頭を撫でる事が多いお静が同調し始め、そんな彼女の言葉に未央が冷静に続ける。すると業とらしくレンは咳払いをして話を戻す。
「と、とにかく! 今の彼女は本心を曝け出し続けている。要は嘘がつけない状態な訳だ」
「……戻る?」
「それは問題無い。モドリスカンクと同じ様なものだから、地球人の彼女なら早くて今日の夜。遅くても明日までには効果が切れる筈だ」
彼の言葉に一先ず安堵した真白は、改めて唯に視線を向ける。彼の言葉が本当であれば、今の唯は本音を曝け出している。つまり先程寂しいと言った事も、美柑に嫉妬すると言った事も彼女の本音。少し考えた後、真白は静かに1人で決めてリトへ視線を向ける。そしてその視線に気付いたリトは真白の意を理解して、何も言わずに頷いた。
その後、解散した真白達は各々部活や帰宅を始める。リトはララ達と共に帰宅し、真白は唯と共に別方向へ帰宅を開始。最初はヤミもついて行こうとしたが、相手の家に必要以上の迷惑を掛けるべきでは無いと判断した事で彼女の帰宅先も結城家となった。
「ふふ、楽しみね(まさかこんな事になるなんて)」
「……そう」
既に数回訪れた事のある唯の家に真白が迷う訳も無く、くっ付いたままの唯を連れて古手川家に到着した真白は何時もの様にインターホンを鳴らそうとする。だが今現在隣には家の住人である唯が居た為、彼女が取り出した鍵で鳴らす前に玄関は開かれた。
「さっ、入って」
「……お邪魔……します」
唯に促されて古手川家の敷居を真白は跨いだ。普段は中々見せないニコニコと擬音が付きそうな程に笑顔を浮かべる唯と共に。
各話の内容を分かり易くする為、話数の後に追加するのは何方が良いでしょうか?
-
サブタイトルの追加
-
主な登場人物の表記