【完結】ToLOVEる ~守護天使~   作:ウルハーツ

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第120話 美柑の自覚。遠慮しない関係

 何時もの様に迎えた朝。結城家のキッチンでは体調の良くなった真白が美柑の起きる前に朝食の準備を始めていた。真白と共に起床したヤミはリビングのソファに座って何もせずに真白の姿を眺めており、水の音や調理器具の音だけがリビングには響き渡る。……そして普段美柑が起きて来る時間になった時、彼女は寝坊する事無く普段通りに起きてリビングに現れた。

 

「おはようございます、美柑」

 

「あ、おはよう。ヤミさん」

 

「もう真白は始めていますよ」

 

「う、うん。そう……だね……」

 

「?」

 

 真白がチャーム熱を直してから1日間を置いての今日。美柑はヤミの言葉を聞いてキッチンに立つ真白の姿を見る。何処か緊張している様にも見える美柑の姿にヤミが首を傾げる中、彼女は深呼吸すると「平常心。平常心」と呟きながらキッチンへ入った。そして何時もの様に、笑顔で真白に声を掛ける。

 

「お、おおおお、おはよう! ま、ましゅろしゃん! ……!?」

 

「……」

 

 急激に羞恥心で顔を赤くする美柑。どう見ても様子がおかしいその姿に真白が首を傾げ、自分と同じ様に体調が悪い可能性を考えて熱を測ろうとし始める。だが当然それは接触しなくてはならず、美柑は近づく真白から1歩離れた。そしてその事実に真白は驚いた様に目を開く。

 

「あ、朝ごはん作ろう! ね?」

 

「……ん」

 

 美柑はそう言って真白の横を素早く通過し、途中だった調理を再開する為に手を伸ばした。共に料理を作ろうとする姿は嫌いになった訳では無いと語るが、明らかに様子の可笑しい美柑の姿に真白は少し間を置いてから頷いて再開する。だがその後、2人の息は一向に合わなかった。ヤミも普段2人の姿を見ている為、その様子に気付く事が出来る。やがてリト達が起床し、各々普段通りの行動を行ってから迎えた朝食は……真っ黒な卵焼きやベーコンなどだった。

 

「え、えっと……まだ調子、悪いのか?」

 

「……」

 

「私がちょっと、失敗しちゃった……ごめん」

 

「気を落とさないでください。大丈夫ですよ」

 

「そうそう! ちょっと苦いけど、美味しいよ!」

 

「まぁ、そんな事もあるって! えっと、猿も柿の木から投げるだっけ?」

 

「諺と民話が混ざっています。……」

 

 申し訳なさそうに頭の後ろを押さえる美柑の姿にそれぞれがフォローする中、ヤミはナナの間違いを指摘しながら美柑の姿を見る。真っ黒なベーコンを口に入れて表情を歪めるその姿は、明らかに何かを抱えている様に彼女には見えた。だからこそ、彼女は友達であり愛する者の家族の為に行動する。

 

 結城家を全員で出て美柑と別れる地点に到着した時、離れる前にヤミが美柑へ他の誰にも聞こえない様に何かを告げる。少し驚いた様子ながらも頷いて了承した美柑は改めて全員に声を掛けて小学校へ向かい、ヤミは高校へ向かう全員と再び合流する。

 

「美柑と何話してたんだ?」

 

「内緒話です。なので答えられません……真白。美柑の事は私に任せてください」

 

「…………分かった」

 

 朝の様子を知るのは真白とヤミだけ。当然真白も気にしていたが、ヤミの言葉に親しいものだけが分かる不安げな表情で考えた後に頷いて了承した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後を迎えた時、真白は真っ直ぐ結城家へは帰らずにヤミと目を合わせる。何も言わず、だが頷いて返したヤミは正体を知られている為に隠すこともせずに窓から跳躍。あっと言う間に下駄箱へ到着し、そのまま飛び去って行った。珍しく帰ろうとしない真白の姿に唯やお静が声を掛ける中、ヤミは風を感じ乍ら真っ直ぐに結城家へ。やがて到着すると、玄関の前で固まる。

 

「……鍵を忘れましたね。仕方ありません」

 

 普段真白と共に帰る彼女は結城家の鍵を所持していなかった。それを思い出したヤミは扉の傍にある呼び出しボタンを押して中に居るであろう美柑を呼んだ。少しの間を置いて鍵が開けられ、美柑が顔を出した事でヤミは改めて帰宅。荷物を素早く置いた後、リビングで美柑とテーブルを挟んで向き合った。

 

「単刀直入に聞きます。美柑は真白の事が好きですか?」

 

「ふぇ? ……す、すす好きって! ヤミさん、何を……!」

 

「安心してください。真白は凡そ1時間程、帰って来ません。プリンセス達も真白が居れば学校に残ると思います。結城 リトは普段急いでは帰って来ませんので、聞かれる心配はありません」

 

 ヤミの質問に戸惑う美柑へ、まるで追撃するが如くヤミは状況を説明する。要はしばらく2人だけの為、遠慮なく話して欲しい。そう理解した美柑は火照った頬をそのままに誤魔化そうとする。……美柑には2つの不安があった。1つは家族だと思っていた相手への感情。もう1つは、ヤミが真白の事を好きだと分かっているが為の負い目。前者は許されない事だと思い、後者は単純にヤミと仲が悪くなる原因になると思わずにはいられないのだ。だが、今のヤミは美柑の本音を聞く為に逃げる事を許さない。

 

「もう1度聞きます、美柑。貴女は真白が好きですか? 当然私が聞いているのは親愛では無く恋愛です」

 

「わ、私は……その……」

 

 もう1度ヤミに問われ、美柑は必死に視線を右往左往させる。誤魔化す事も出来ない聞き方に考える美柑だが、真剣な表情で自分の答えを待つヤミの姿に彼女はやがて自白する様に頷いた。

 

「そうですか」

 

「で、でも私は結ばれたいとか思って無いからさ! 安心してヤミさん!」

 

「? 何故ですか?」

 

「へ? だ、だってヤミさん、真白さんの事が好きなんだよね? 私も好きなんて言ったらヤミさんの邪魔する事になっちゃうし……それに何より私と真白さんは家族だもん」

 

「……色々ありますが、大事な事を1つ。美柑が私に遠慮する必要はありません」

 

 美柑は自分の言葉に告げたヤミの一言を聞いて出来る限界まで目を見開きながら驚愕した。傍から見れば明らかに真白への独占欲がとても強いヤミが、自分の感情を許した事は美柑にとって戦慄しても可笑しく無い出来事であった。

 

「それに家族が理由なら、私も真白の家族です。ですがそんな理由(・・・・・)で諦めるつもりはありません。ですから美柑も、そんな事(・・・・)は気にしないでください」

 

「で、でも……ヤミさんは良いの? もしそれで私が真白さんと一緒になったりしたら……」

 

「美柑。それは捕らぬ狸の皮算用、です。私は決して譲る気等ありません。私は唯……私を理由に、家族を理由に逃げる友達を見たく無いだけです」

 

「!」

 

 ヤミの言葉を聞いて衝撃と共に僅かな衝動を感じ始めた美柑。自分の中で必死にその思いを否定し続けた言い訳が意味を成さなくなり、それと同時に今自分が恋敵(友達)から激励されている事を理解する。遠慮していた美柑へ必要無いと告げ、家族と言う問題をも『そんな事』で片づけるヤミ。美柑はそんな彼女の強さを改めて知ると共に嬉しく感じずにはいられなかった。……だからこそ、彼女の激励を受けて美柑は決意する。

 

「私、ヤミさん相手でも容赦しないよ?」

 

「望むところですよ、美柑」

 

 美柑の言葉に僅か乍ら微笑みながら返したヤミ。そして2人は同じ目標を持つ者同士で改めて会話を弾ませ始める。今まで以上に強い心の結びつきに近い何かを感じ乍ら、話す内容は……真白の事。気付けば2人は長い時間を掛けて語り合い続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あの味は忘れられません』

 

『真白さんとキス……っ!』

 

「……何か、盛り上がってますね」

 

 結城家の廊下には1人早めに帰宅していたモモがリビングで話す2人の姿を覗いていた。既に放課後を迎えて1時間近く経っており、もう少しすれば真白も帰宅する頃だろう。最初は美柑が真白と会うと緊張してしまう事についての解決案を考えるところから始まり、今ではヤミの語る真白との口付けを聞いて美柑が息を呑んでいた。

 

「まさかヤミさんが美柑さんを認めるなんて。でもこれはまた大きな進展です。何とか美柑さんの様に他の方々を認めさせる事が出来れば……!」

 

 1人意気込むモモは玄関越しに感じる人の気配に気付くと、素早く音を立てずに自室へ戻る。話に夢中だったヤミと美柑はモモが聞いていた事等知る由も無く、開いた玄関の音に顔を見合わせて頷き合った。

 

「平常心、平常心」

 

「無理に構える必要は無いと思います」

 

「う、うん」

 

 椅子から立ち上がって廊下へ続く扉の前で美柑は深呼吸を始め、ヤミが声を掛ける。やがて覚悟を決めた様に帰って来た者達を迎える為、美柑とヤミは廊下へ足を踏み出した。玄関に居たのは靴を脱ぐララと真白の2人。美柑達に気付いてララが笑顔で、真白が変わらぬ表情で視線を向けた時、美柑は何時も通りの。何時も以上の笑顔で出迎える。

 

「お帰り、真白さん(・・・・)! ララさん!」

 

「お帰りです、真白。プリンセス」

 

「ただいま!」

 

「ん……ただいま」

 

 その笑顔に朝の様な違和感も不自然さも無く、ララが元気良く返事をする横で真白も頷きながらヤミへ視線を送る。何も言わず静かに頷いた彼女の姿に、真白がそれ以上美柑へ不安を感じる事は無かった。




ストック終了。また【5話】or【10話】完成をお待ちください。

各話の内容を分かり易くする為、話数の後に追加するのは何方が良いでしょうか?

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