真白とヤミは目の前で徐々に浮き上がって行く宇宙船へ手を振っていた。隣にはリトと美柑も同じ様に手を振っており、それに返すのは宇宙船の窓から笑顔で手を振るララ達三姉妹とセリーヌの姿。それぞれ互いの姿が見えなくなるまで手を振り続け、やがて宇宙船は宇宙の彼方へ飛び去ってしまう。
昨日、ララ達はデビルークにて開かれる大きなパーティーへ出席する事になった。セリーヌはパーティーに興味がある様で同行する事になり、3人の母親であるセフィ直々に真白も招待されはしたが、真白はそれを断って地球へ残る事を選択した。まだ、大きな確執がある故に。簡単に真白が来てくれるとは思っていなかったセフィは無理をさせまいとそれを承諾。結局3人がデビルークへ帰郷する事となり、結城家は一気に静かになった。
「それじゃあ、私も出ようかな。ヤミさん、準備は大丈夫?」
「はい。大丈夫です。……真白は大丈夫ですか?」
「ん……」
「俺も大丈夫だからさ、楽しんで来いよな」
ララ達が去った後、荷物を手に出ようとする美柑とヤミ。2人もまた今日は美柑の友達である真美と幸恵と共にお泊り会をする約束をしており、見た目的に接しやすかったのかそれにヤミも招待されていた。最初は真白と一緒に居る為に断っていたヤミは大きな理由としてリトと2人だけにするのが心配だと言い続けていた。今までの事から分からなくも無かった美柑は友達の2人にヤミは不参加になったと告げる事を考えていたが、そこで思わぬ連絡が入る。
「真白さんは迎えが来るんだっけ?」
「まさか籾岡から誘いが来るなんてな」
それは真白の携帯に掛かって来た電話であった。学校でララ達が帰郷する話をしていた際、里紗も親と食事がある事を明かしていた。だが里紗曰く『ドタキャンされた』との事であり、真白とヤミに誘いが掛かったのである。春菜は両親が帰って来る為に誘えず、未央はバイト。お静は診療所の手伝いで忙しく、唯一彼女が思い付いたのはリトの料理を作るであろう真白とその傍に居るであろうヤミだけであった。だが真白がリトと一緒に居ないと言う事で再びヤミは美柑に誘われ、結果的に行くのは真白1人となったのである。
「リト、1人で大丈夫? ゲームばっかで夜更かししちゃ駄目だよ? お風呂も入る事!」
「大丈夫だって。家の事は俺に任せて、偶にはゆっくりしろって。な?」
「…………ん」
真白も居なくなる為、結城家に残るのはリトだけ。普段から手伝う事等が多い彼だが、美柑と真白は少々心配していた。故に美柑が声を掛ければ優しい笑顔で3人を見るリトの姿に少々間を置いた後、真白は頷いた。そして美柑とヤミが結城家を後にした時、真白を迎えに来た里紗が現れる。
「オッス、迎えに来たよ真白~!」
「……行ってくる」
「あぁ」
「んじゃ、結城。真白は借りてくね! もしかしたら、もう帰りたくないとか言いだしちゃうかもだけど、ね!」
「……それは……無い」
里紗の家を真白もリトも知らず、故に里紗に導かれる様に真白は結城家を後にする。何時もの軽い調子でリトへ手を振りながら告げる里紗へ静かに答えて、2人は籾岡家へと向かうのだった。
里紗の両親は普段から仕事で忙しく、中々家へ帰宅する機会が無かった。それはまるで林檎と才培の様でもあり、数少ない両親との食事が潰れてしまった里紗の心は真白もリト達も察するに余りあるものであった。普段と変わらず飄々とした様子の里紗の背中を真白は何も言わず、唯ジッと見つめる。
「ここがあたしんち。ささ、入って入って!」
「……お邪魔……します」
里紗の家へ到着した真白は彼女に迎えられて中へ入り始める。リビングは父親の職業がIT企業の社長と言う事もあり、高そうな家具が点々としていた。が、里紗はそんな場所へは目も暮れずに自室へ向かい始める。そこは彼女らしい内装に大きめのベッド。雰囲気からして真白が一夜を明かす部屋はその場所の様であった。
「取り敢えず荷物置いて、何しよっかな~」
「……夕食……まだ?」
「あぁ、うん。そう言えば結局食べて無かった。何? 作ってくれる感じ?」
「ん……食材、ある?」
「キッチンの冷蔵庫にあると思うけど……流石にお客さんだし? 作って貰うのは申し訳無いかも」
「……なら……一緒」
「へ? あ、ちょ!?」
里紗に言われて荷物を降ろした真白は時間を考えて夕食を作る事にした。悩む里紗の手を引いてキッチンへ向かった真白は冷蔵庫等を里紗と共に確認して調理を始める。普段1人と言う事もあり、そこそこ腕があった里紗は真白と共に調理を開始。殆ど一緒にした事が無い為、美柑とは程遠いものの上手く力を合わせて夕食を完成させる。無事に出来上がったのは唐揚げとポテトサラダであった。
「あぁ、疲れた。それじゃ、頂きま~す! はむっ……!?
「……頂きます」
久しぶりの本格的な調理だったのだろう。里紗は少しだけ疲れを見せ乍らも手を合わせ、唐揚げを摘んで口へ放り入れた。途端に目を見開いて驚き、その隣では静かに真白がポテトサラダをよそい始める。
「真白の料理か。毎日これを結城は食べてる訳?」
「……美柑と……なら……もっと、美味しい」
「マジ? うわぁ、本気で結城が羨ましくなってきた」
「……でも……今日は……里紗と……一緒」
「まぁ、私も偶になら料理するからね。……何か、こんなの久しぶりかも」
「?」
食事をし乍ら話をしていた時、微かに里紗の表情に影が落ちる。食べていた真白は首を傾げて彼女と目を合わせ、里紗は薄く笑って口を開いた。
「親父も母さんも、殆ど家に帰って来ないからさ。こうして誰かと家で一緒に食べるの、久しぶりなんだよね」
「……」
「結城の家も同じ感じなのは知ってるけど、やっぱちょっとだけ羨ましいよ……ほんと」
そう言って再び唐揚げを口の中へ入れる里紗の姿に真白は何も言わなかった。例え何かを言った所で、里紗の寂しさを紛らわせる事は出来ない故に。こうして泊まれる日はこれからもあるかも知れないが、決して毎日では無いのだから。
その後、再び何時もの調子を取り戻した里紗は夕食を食べ終えた後にお風呂へ湯を張る為に立ち上がった。食休みと言う名の里紗から真白へ殆ど一方的な談笑を行い、機械の音色がお風呂が沸いた事を知らせる。そこで何方が先に入るか考えた里紗はすぐに真白へ先に入る様に告げた。
「お客さんだからね、バスタオルとかは見えるとこに置いとくからさ。ゆっくり入って来なよ。にしし!」
「…………分かった」
言葉は持て成してくれている様にも聞こえる。だが最後に見せる邪な何かを感じずにはいられない里紗の笑いに真白は僅か乍ら目を細めた。そして言われた通りにお風呂へ入る為に脱衣所へ向かい、慣れない浴室で身体を洗っていた時。扉越しに感じる人の気配に真白は振り返った。と同時にガラスの扉が開かれ、タオルを巻いただけの里紗が現れる。
「お客さん、お背中をお流ししましょう♪」
「…………ん」
最初からそのつもりだったのだろう。真白は結城家にてナナやララを相手に慣れていた為、特に驚く様子も無く少々間を置いて里紗へ背中を向ける。無防備な真白の背中に里紗は笑みを浮かべて近づくと、自らの手にボディーソープを広げて真白の背中へ触れ始めた。
「んっ……」
「ララちぃの尻尾みたいに真白も背中に弱点があるんでしょ? どの辺りかな~、ほれほれ!」
「……ぁ! ……ちゃんと……やって、んぁ!」
今までの日常で真白の弱点が背中である事を知っていた里紗はそれを探る様に手を動かし始める。里紗の手つきに真白が止めようと振り返った時、丁度良く里紗の両手が過去に羽があった部分へ触れた。明らかな反応に里紗の顔が厭らしく歪み、そして真白はその場所を重点的に撫でられ始める。
「んっ、あ! 止め、て……!」
「流石弱点だけあって弱ってくねぇ。ふっふっふ、そろそろこっちも……それっ!」
「ひぁ!」
普段は逃げる事で胸を揉まれる事等無い真白だが、前回は事故で揉まれてしまった。しかし今回は事故でも無く里紗の作戦によって弱らされ、容易くその手を許してしまう。気付けば里紗が身体に巻いていたタオルも床に落ち、2人は裸で触れ合い始める。里紗も真白も胸は小さく無い。背中からの攻めを避ける為に身体を振り返った真白は里紗と向かい合い、気付けば全身をヌルヌルにされた状態で胸をぶつけ合いながら壁へ追い詰められていた。
「……り……さ……」
「そんな顔しないでよ、真白。……ちょっと本気で興奮して来ちゃうじゃん」
弱った姿で見つめる真白の身長は美柑達よりも僅かに大きい程度と言う事もあり、若干里紗を見上げる様な形となる。普段は無表情なのに今は愛おしく見えるその目と顔を前に里紗は熱い息を吐いた。壁に手を付いて顔を寄せる里紗に真白は顔を背け、それを諫める様に耳へ息を吹きかける。当然真白の身体は反応する様に跳ね、里紗はそのまま真白の顔を自分に向けさせようとして……鼻に予兆を感じ始めた。
「くしゅん!」
「……」
暖かい浴室とはいえ何も着ていない現状で入って来たばかりの里紗はくしゃみをしてしまう。それで急速に冷静となった里紗と真白は互いにボディーソープ塗れだった事もあり、シャワーでそれを洗い流し始める。そして一緒に湯船を浸かった時、里紗は声を出しながら真白へ視線を向けた。
「真白はさ、ララちぃの事。どう思ってる訳?」
「…………友達」
「それだけ? あんなにアプローチされてる訳だしさ、同じ女とは言え何か特別な事を思ったりはしない訳?」
「……特別な……事」
真白は里紗の言葉に考える。再会した当初からララは真白に様々なアプローチをして来た。笑顔で大好きと言うのは当たり前。本を読んで恋の勉強をした後に何かをしたり、今の里紗の様にお風呂へ乱入したり。布団へ潜り込んで来る事も多々あった。それが春菜や里紗の様な友達として接しているのでは無く、自分へのアプローチであるのは当然分かっている。何故ならもう1度友達になったあの日、彼女は言い切ったのだから。
『私は、真白の事が好き。宇宙で一番、貴女の事が好き。今はもう1度友達から。だけど何時か必ず振り向いて貰える様に私、頑張るから』
「……好きって……どんな、気持ち?」
「へ? いや、あたしに聞かれても……う~ん」
里紗は突然聞かれた質問に驚き、悩み始めた。彼女自身、誰かを好きになった経験はまだ無いのだろう。雰囲気や言動は男を手玉に取る経験豊富な少女だが、実際は揶揄うだけで色々と未経験なのだ。里紗が悩み、真白も悩む。結局2人がお風呂から出ても、その答えが出る事は無かった。
里紗の部屋。来客用の布団は無いと言う事で自然と同じベッドに眠る事になった2人はすぐには眠らずに話をする事にした。と言っても相も変わらず里紗が話して真白が頷く等するばかり。徐々に話疲れて眠気を感じ始めた里紗が欠伸をし、真白が眠る様に言って目を閉じようとした時。里紗は再び口を開いた。
「さっき話した好きって話。正直分からないけどさ」
「……」
「その人と一緒に居て楽しかったり嬉しかったりしたら、好きって事じゃない?」
「……」
「でもそれは友達とかの好き。多分ララちぃが真白に感じてるのはそれ以上なんだよ。一緒に居て楽しい、だけじゃ無い。一緒に居たくて仕方が無い。そんな感じ」
「……一緒に……居たい」
真白は過去の事柄から無意識に家族を第一に考える様になっていた。故にそれを言われれば最初に思いついたのはリトを初めとした結城家の人々やヤミにティアーユ。最近ではヤミの妹であるメアや彼女達と繋がりのあるネメシスも含まれているだろう。だがそれとは別に今の生活からララ達が居なくなった時の事を想像する。ララもモモもナナも、今では家族の様な存在。だが家族では無く、ララはそれになろうとしている。ララだけじゃ無い、ルンも同じである。
「ヤミヤミとかもそうだけど、真白って人気者だよね。……まぁ、正直分からなくも無いけど」
「……?」
「ふふっ。まぁ、さ。考え過ぎない方が良いよ。でも考えないのは駄目。宇宙じゃ同性婚も認められてるんでしょ? なら後は真白の気持ち次第っしょ」
「頑張って答えを出せば良いじゃん」。里紗はそう言った後、目を閉じてしまう。即座に眠れる訳では無い為まだ意識はある筈だが、真白は寝ようとする里紗に声は掛けずに見慣れない天井をジッと見つめ続けた。頭の中を巡る思考に翻弄されながらも、徐々に閉じ始める目。やがて眠りについた真白と里紗は同じ布団で寝息を立てるのであった。
翌日、気付けば真白を抱き枕にしていた里紗がまるでリトの様に無意識で手を動かして真白を喘がせる事になるのは余談である。
各話の内容を分かり易くする為、話数の後に追加するのは何方が良いでしょうか?
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サブタイトルの追加
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主な登場人物の表記