【完結】ToLOVEる  ~守護天使~   作:ウルハーツ

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最終話 楽園の始まり

 夕時を迎え、空が茜色に染まる中。真白は彩南町の河川敷で座り込んでいた。既に無断欠席してしまった授業も終わっている頃だろう。本来ならば真っ直ぐ結城家へ帰り、美柑と共に夕食の準備に取り掛かっている時間。……だが真白は1人で料理をしているかも知れない美柑に申し訳なく思って帰ろうとする度、ネメシスによって見せられた光景が脳裏に蘇ってしまう事で持ちあげた腰を下ろしてしまう。

 

「真白~! 何処に居るの~!」

 

「!」

 

 突然聞こえて来たララの声に真白は驚き、咄嗟に取った行動は隠れる事であった。列車の通る橋の下に身を隠し、他にも気付ける要素が無くなる様に光の壁を薄く作り出す。……真白は知らない。それが自分の匂いすらも遮り、別の何処かで探し続けていたヤミの捜索を妨害した事を。ララは声を出しながら徐々に離れて行き、再び車や川の音だけが聞こえる中で真白は膝を抱えた。

 

「……」

 

「真白さん」

 

「!?」

 

 抱えた膝に真白が顔を埋めてしばらくした頃。突然別の誰かが自分の名前を。それも明らかに自分が居る事を分かっている様な声音で呼んだ事で、真白は顔を上げる。薄い光の壁の向こう、そこに立って居たのは心配そうに自分を見つめる春菜の姿であった。

 

「……春菜」

 

「真白さん、大丈夫? 皆探してるよ?」

 

「……」

 

 春菜の言葉に真白は顔を俯かせる。そこで春菜が近寄ろうとするも、光の壁に阻まれて一定距離を超える事が出来なかった。そんな光景に真白は気付くと、春菜の立つ壁だけ消滅させる。入れる事になったと気付いた春菜が中へ入れば、光の壁は再び出現した。……そして春菜は真白の隣に座り込むと、同じ方を見ながら口を開いた。

 

「何か、あったんだよね?」

 

「…………春菜は……リトが好き」

 

「へ? あ、あの、えっと……え?」

 

 質問に帰って来たのは思ってもいなかった内容であり、春菜は混乱しながら顔を真っ赤にする。だがそんな様子を気にした様子も無く真白は顔を上げると、橋とその左右に見える茜色の空を見上げながら言葉を続けた。

 

「……どうして?」

 

「え?」

 

「……どうして……リトを、好きになったの?」

 

「っ!」

 

 最初の質問に聞き返した春菜。だが続けられた質問に真っ直ぐに見つめる真白の目に春菜の身体に緊張が走る。それは里紗や未央の様に軽い調子で聞いているのでは無く、本気で知りたがっていると分かる目だった故に。一度視線を外して真白と同じ様に空を見上げ、春菜は高鳴る鼓動に手を当て乍ら再び真白と目を合わせる。それは真っ直ぐに聞いた真白と同じ様に淀みない真っ直ぐな目だった。

 

「私が結城君を好きなのは、彼が優しい人だって知ってるから。最初は中学生の頃に花壇の水遣りをしていた事に気付いて、それから何時の間にか目で追う様になって……結城君は何時だって誰かの為に行動出来る。それがどんなに危険な人でも、困ってるなら見過ごせない。そんな彼の優しさが私は好き」

 

「……」

 

 春菜の素直で偽りの無いリトへの思いを聞いて、真白は再び空を見上げる。微かに空を飛ぶナナやモモの姿が視界に映る中、真白は空を見上げたまま呟く様に口を開いた。

 

「……春菜は……凄い」

 

「そ、そうかな? でも真白さんだって」

 

「私は……私、は……分からない。……ララへの気持ちも。……ルンへの気持ちも。……なのに」

 

 その言葉の続きを真白が発する事は無かった。だが明らかに真白が残りの授業を無断欠席してまで逃げ出した理由が恋の話であると察した春菜。自分とは違う同性同士の恋を前に春菜は何を言うべきか迷い、だがそれでも言うべき事を言う為に真白の名前を呼んだ。

 

「真白さん。考えるのは大事な事だと思うよ。でも無理に答えを出そうとしても、それで出た答えはきっと良い答えじゃ無いと思う」

 

「……でも」

 

「何時か私達は大人になる。そしてその時は皆バラバラになるのかも知れない。だけどもしそうなったとしても一緒に居たい人。そんな人を考えれば良いと思うの。……それが例え1人でも2人でも、思った相手はきっと自分にとって大切な人だから」

 

 『大切な人』。その言葉を聞いて真白が思い浮かべたのは1人や2人では無かった。嘗てシンシアだった頃の繋がりから始まり、林檎に拾われて真白となってから生まれた繋がり。その繋がりの先に居る人達は1人残らず真白に取って大切な人達。誰とも離れたく無いとは思うも、それが叶わない事も分かっている。……考えれば考える程に嵌って行く中、ある時モモの言った言葉を真白は思い出した。

 

『シア姉様は……複数の人と愛し合う事は、駄目な事だと思いますか?』

 

 誰か1人を選ぶのではなく、複数を選ぶ選択肢。それは地球で育つ時間の長かった真白にとって他人事なら良いと思えても、自分の事になると抵抗があった。……結局あの時、モモへの言葉は他人事だったのだ。

 

「今、皆で真白さんを探しまわってる。だから今は皆のところに帰ろ?」

 

「……ん」

 

 立ち上がり、手を伸ばす春菜の手を取って真白は立ちあがる。そして自分と春菜を囲う光の壁を消した途端、2人の元に白い羽を生やしたヤミが急速で降り立った。そして彼女の鼻を頼りにしていたのだろう、モモがその後を追って姿を見せる。

 

「ようやく見つけました」

 

「シア姉様! ネメシスに何もされていませんか!?」

 

「……」

 

 目の前に立つヤミの言葉と同時にその横を飛び出して真白の身体を触りながら確認し始めるモモ。余りの速さに春菜が頬を掻いて僅かに引き攣った笑みを浮かべる中、真白は自分の身体を触るモモの肩を両手で掴んで引き離した。

 

「……モモ」

 

「シア姉様? ……シア姉様。私は分かってます。あの時、シア姉様は私達の言葉を聞いていたのですよね?」

 

「! ……ん」

 

「なら、これだけは忘れないでください。確かにネメシスに言わされはしました。ですが、言った言葉は私の本心です。他の皆様もきっとそうでしょう」

 

 真白の様子を見て予想通り自分達の言葉を聞いていたと察したモモはそれを誤魔化す事もせずにその真意を告げる。そして無表情乍ら困った様な表情を見せる真白を見て、モモは優しく笑みを浮かべた。

 

「シア姉様がここに居るのはそれを知ったから。……ですが悩む必要はありません。私が誰もが幸せになれる結末を作ります」

 

「プリンセス・モモ。何をするつもりですか?」

 

 目を細めてヤミがモモへ質問すれば、彼女はヤミを見た後に空や河川敷の向こうから近づいて来る複数の人影を見て笑った。

 

「作りましょう! シア姉様を中心とした楽園(百合ハーレム)を!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから数日。真白は何時もの様に結城家で起床する。だがあの日から大きく変わった事があった。……それは。

 

「おはようございます、シア姉様♪」

 

「今日も潜り込みましたか、プリンセス・モモ」

 

 嘗て真白に気付かれない様潜り込み、気付かれぬ内に部屋を出ていたモモが隠す気も無くベッドへ潜り込む様になった事。更に前は止めていたヤミがそれをジト目で見るも、止める事は無くなった事。同じ部屋で着替えをしてリビングへ向かえば、そこで待っていたのはまだ眠そうな美柑の姿だった。

 

「あ、おはよう真白さん」

 

「おはよう」

 

 何時もの様に朝の挨拶を交わし、ヤミとモモはリビングの椅子に。2人はキッチンへ向かう。が、そこで料理を作る間の美柑との距離感はとても近かった。真白が美柑の顔を見れば、見られた彼女は優しく笑みを返す。何処か今までと違う雰囲気がそのキッチンには存在していた。

 

「おはよう、皆!」

 

「おはよう~」

 

「まうまう~」

 

 やがてララとナナがセリーヌを連れてリビングへ起きて来る。ララは朝から元気良く。ナナはセリーヌと共に眠そうに欠伸をしながら。そしてまたここで普段と違うのが1つあった。それは朝のお風呂に入る筈のララがすぐに入ろうとはせずにリビングから真白の様子を眺め始めている事。

 

「? あぁ、今日はちょっと早いのか」

 

「そう言う事。真白! 後で一緒にお風呂入ろうね!」

 

「……分かった」

 

 全員が今日起きた時間は朝食を食べ終えても登校するにはまだ早い。そんな時は朝食を先に食べてから真白とシャワーを浴びる様にララはし始めたのだ。真白もそれを受け入れる様になり、そうなると大概始まるのは……モモとナナの参戦。

 

「ならあたしも入る!」

 

「異空間にあるシャワールームを改築しましたから、問題ありませんね。美柑さんはどうしますか?」

 

「う~ん、私も一緒に入ろっかな」

 

「ヤミちゃんもだよね?」

 

「当然です」

 

「まうまう!」

 

「……セリーヌも、入る?」

 

「まう!」

 

 2人を切っ掛けにこの場に居る全員で入る事が決定。そこで最後の1人であるリトがリビングに現れた事で全員が挨拶をしてから各々自分の普段使っている席へ着いた。そして真白が料理をする真横で、美柑が少しニヤリと笑ってリトへ声を掛ける。

 

「リト、春菜さんとはどうなの?」

 

「どうって……どうも、無い……けど」

 

 あの出来事があって数日した頃。リトは春菜から告白を受け、自らも告白をした事で付き合い始めていた。リト本人の口からそれを告げた訳では無いが、彼が稀にニヤニヤと笑みを浮かべる姿と春菜の強い心を改めて知った真白は同じく察した美柑と共に彼を祝福。今は恋人として過ごしている様子である。初心な彼にまだそれ以上は厳しいのだろう。2人の関係を知るが故に全員が応援しながら、自分もまた進展を目指そうと気合を入れる。

 

 朝食と大人数でのシャワーを終え、真白は全員で彩南高校へ登校。途中で里紗や未央、春菜とも合流して2年A組へ向かう。が、その途中で下駄箱に入った真白は急接近する人影に構える。反撃では無く、受け止める為に。

 

「真白ちゃーん!」

 

「……ん……ルン……おはよう」

 

 身体を何回か回転させて飛びついて来たルンの勢いを受け流しながら、真白は胸に顔を埋めるルンの頭を撫でて挨拶をする。顔を上げて笑顔で答えたルンは真白から離れて普通に立つと、今日はアイドルの仕事がオフであると真白へ告げた。そこで今までの流れを見ていたララが笑顔でルンに声を掛ければ、ルンはムッとした表情をして真白を腕に抱き直して警戒し始めた。

 

「ララ! 絶対に負けないんだから!」

 

「ルンちゃん……うん、お互い。頑張ろうね!」

 

「うっ! ……覚えてなさいよぉ!」

 

 威嚇する様にララへ言い切ったルン。だが無垢とも言える純粋な笑顔で返された事でルンは狼狽えた後、捨て台詞を吐いてその場を離れて行った。それから1年生と2年生で別れた後、教室に入った真白達を出迎えたのは既に登校していた唯やお静。笑顔で挨拶をする中、席についた真白の元へ近づいたのは唯であった。

 

「今日も囲まれてるわね」

 

「……」

 

 何気ない言葉。真白はその言葉に笑顔で会話をするララ達の姿を眺めるだけで何も言わなかった。すると突然クラスメイトの1人が真白へ話し掛ける。内容は1年生が呼んでいると言うもの。真白と唯は何となく誰だか予想が出来た事で伝言に頷いて席を離れた。

 

「あ、おはよう真白先輩♪」

 

「……メア……おはよう」

 

「ねぇねぇ、早速だけど今日の放課後ネメちゃんと商店街に行かない?」

 

『メア、それでは生温いぞ』

 

「!」

 

 真白を呼んだ1年生はメアであり、挨拶をした後に真白へ放課後の誘いを始める。了承するには美柑に連絡をして大丈夫かどうかの確認をする必要があるが、それを言うよりも先に突然聞こえたネメシスの声。そしてそれと同時に真白の腹部から上半身だけを出現させたネメシスの姿に真白は驚き目を見開いた。傍から見ればテレビで見るホラーとは比べ物にならない程に恐ろしい光景だが、既にそんな恐ろしい光景すら彩南高校の生徒には日常になりつつある。

 

「商店街に馴染の三食団子の店がある。金色の闇も連れて今日、そこへ行くぞ」

 

「遠慮します」

 

「かなり美味い鯛焼きもあるぞ?」

 

「……真白にお任せします」

 

 ネメシスの言葉に話を聞いていたヤミが近づいて答えるが、ニヤリと笑みを浮かべて鯛焼きの事をネメシスが告げるとヤミは真白へ選択を委ねた。既にそこでは携帯電話を使って美柑に連絡を取っている真白の姿があり、少しの間を置いて真白は答える。

 

「……美柑も……一緒」

 

「良いだろう。放課後、約束だ」

 

「皆で放課後にお菓子……素敵♪」

 

 HRも近づく中、約束を終えた2人は教室へ向かう。真白も自分の席へ戻り、やがて来る担任の骨川を待ち続けた。

 

 1限目から4限目までの授業を終え、昼休みを迎えた真白は唯とヤミを連れて中庭へ向かった。するとそこには既にモモが待っており、現れた真白達を笑顔で迎える。同じ1年生であるナナとメアは一緒に昼食を食べる為、ここには来なかった様である。

 

「何か、あんな事があったのに変わらないわね」

 

「そうですね。……メアさんが言ってしまった時は非常に焦りましたが」

 

 4人で食べる平和な昼食の時間を感じて唯は思わず呟き、モモが同意を示しながら先日起きた出来事を思い返した。それはネメシスが起こした出来事の翌日。真白へ計画を提案したモモは自分と同じく真白へ好意を抱く存在を本格的に仲間に引き込む方法を考え始めていた。だがそんな彼女の計画を破壊する様にメアが全員の集まった場所で言ってしまったのだ。

 

『あの時の告白、全部真白先輩に聞かれてたんだって!』

 

 ネメシスと仲が良い彼女だからこそ知れた事。そして彼女はそれを隠す気も無く教えてしまい、大体察していた唯はやっぱりと顔を真っ赤にし乍らも俯く中で一番大変だったのはナナであった。余りの恥ずかしさにその日1日空回りしたナナ。彼女を通じて結城家で美柑も知ってしまい、結局全員が真白に自分の気持ちを知られた事を自覚する様になった。

 

 それからと言うもの、吹っ切れた美柑やナナは今までの比にならない程真白へ接する様になった。ララは元から他の誰かが真白の事を好きだとしても笑顔で受け入れ、モモは全員で真白を囲う計画を考えている時点で覚悟が出来ていた。2人がどう思っているかは定かでないが、計画に取り込むのは難しい事では無いだろう。そして真白の傍に居るヤミは既にモモの計画を一緒に聞いていた為、何も言う事は無かった。……真白が悩み苦しむ姿を見るぐらいならその方が良いと思ったのだろう。

 

「こう変わらないと、気が抜けるわ」

 

「ふふっ。余り抜き過ぎるとシア姉様は取られてしまいますよ?」

 

「真白はものじゃないわよ。でも……そうね。もう隠す意味は無いのよね。後は、自分次第」

 

 ヤミと並んでお弁当を食べる真白の姿を眺めながら、唯は小さな声で呟いた。そしてそんな彼女の姿にモモが微かな笑みを浮かべる中、昼食の時間は進む。その後、口数の少ない2人も交えて会話をし乍ら昼食を終えた後は学年で別れて教室へ。残りの授業を終えれば真白は約束を守る為にネメシス達と商店街へ向かう。

 

 三夢音 真白という1人の少女に恋する少女達と、彼女を取り巻く家族や仲間達との日常はまだまだ終わらない。




まずはここまで読んで頂き、ありがとうございます。

今回の話にてダークネス編が完結。それはつまり原作の終了を意味する為、大きな区切りとして最終話とさせて頂きました。因みに【まだ投稿はします】。速度は大きく変化するかもですが、以降は別章として今まで手を付けて来なかった番外編や原作本編外の話が主となる予定です。

また、別作【愛され過ぎた少女達】で用意している【R18版】の話も徐々に始めるつもりですので、読める方は今後是非そちらもよろしくお願い致します。

今後の投稿形式についてはまだ思案中ですが、とりあえずは何時もの様に。

ストック終了。また【5話】or【10話】完成をお待ちください。

各話の内容を分かり易くする為、話数の後に追加するのは何方が良いでしょうか?

  • サブタイトルの追加
  • 主な登場人物の表記

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