『彩南高校学園祭当日』
目玉となって居たアニマル喫茶は予想通りの人気を博し、1年A組は沢山の人で賑わっていた。基本どのクラスも前半後半で店番などを決め、半分の者が自由な時間を。もう半分が出し物の仕事に精を出す。真白もその例に漏れず、生徒の1人であるが故に役割を受け持っていた彼女は後半にそれを割り当てられていた。その為前半の時間を自由に過ごせると言う事もあり、校舎の中を歩く真白。特に行く場所も決めていなかった為、賑わうアニマル喫茶の前を通った時。『30分待ち』と書かれた大きな看板を持つリトがそこには立っていた。客引きと行列になって居るそれを誘導する仕事をしているのだろう。
面倒そうにしながらもしっかりと仕事をしているリトの姿を見て真白は邪魔をしないためにその場を離れる。するとその時、階段へと続く曲がり角に大き目な丸い眼鏡を掛けた1人の女子生徒が居る事に気付いた。それは1つ年上の上級生の様であり、その視線は真っ直ぐにリトへ。熱い視線……とは違う観察する様なその目線に真白は首を傾げる。と同時にその女性生徒がリトを見つめる様に、真白が自分を見つめて居るのに気付いたのだろう。視線がずれ、お互いに目線が合う。
「!」
「?」
驚いた様に目を見開いた後、逃げる様にその場所から去って行く女子生徒。その姿に真白は再び首を傾げ、特に気にする事無く校舎の中を歩くために足を動かそうとする。だがその時、去ろうとしていた真白に気付いた様に大きな声が廊下まで響き始めた。
「真白~! 来てくれたんだ!」
「……違う」
「さ、入って入って!」
お店になっている教室から真白の姿が見えたのだろう。昨日と同じ豹のコスプレをしたララが教室から飛び出して来ると、行列等我関せずに真白の言葉を聞かず教室の中へ引っ張り始める。当然横入りとなる光景に不服を漏らす生徒は……誰も居なかった。アニマル喫茶が人気であるのは偏にララの容姿等が原因であった。故にララが行う事は全て許されてしまうのだ。看板を持って居たリトも引きこまれる真白の姿に気付くと同情の視線を送り、交代の呼び声でその場を去って行く。
ララに誘導されたのは教室の机に白いテーブルシートを引いてそれなりの雰囲気を作り上げてある席。そこに真白を座らせると、一瞬その場から離れた後にメニューを手に戻って来る。ララを目当てとして来ていた男子生徒達は真白に取られてしまっている状況に少し残念そうにしながらも、その姿を遠くから見つめていた。取られたと言っても相手は女子。まるで幼げなお嬢様に付く健気で元気なコスプレ美少女の姿はそれだけで一部の男子達には需要があった。そんな時、教室の入り口辺りで並んでいた生徒達が騒めき始める。と同時に3人の奇抜な恰好をした女子生徒が入り始めた。鞭を持ち、黒いボンテージを纏ったその姿はそれだけで視線を集める。
「あれ、天条院先輩?」
「え、あの2年B組の変わり者!?」
3人の内一番前に立っていた薄茶色の髪を一部巻き髪にして伸ばして居るリーダー的存在感を放つ女子生徒の姿に来ていた生徒達が話し始める。どうやら2年生。真白達の1つ先輩であり、その左右に居る取り巻きであろう黒髪の女性生徒と先程真白が見た丸い眼鏡を掛けた女子生徒も同じ様な恰好に帽子を被って控えていた。と、天条院と呼ばれた女子生徒は一歩前へ。その視線は真っ直ぐに真白の傍に居たララへと向けられる。
「ララさん!
「勝負? 何か良く分からないけど、良いよ! 面白そう!」
言い放った言葉に教室の中にあった騒めきは静まり、ララはその言葉を受けて首を傾げた後にあっさりと承諾する。恐らく勝負を受けた本人は余り分かっていないのだろう。教室の中に居た生徒達は、一様にどうして天条院がララに勝負を仕掛けたのか理解する。様は転入してきてから目立っているララの存在が余り気に入らないのだろう。変わり者ではあってもその容姿のレベルは高い。本人もそれを理解しているが為に高慢し、故に自分への評価を奪うララが許せなかったのだろう。と。
「審査員はここに居る方々。どちらがより好感を持っていただけるかで勝敗を決めますわ!」
突然の勝負に経営側である生徒達が困惑する中、始められる勝負。するとまず最初に動いたのは天条院であり、持っていた鞭を地面に降ろして見た目通り女王様の様な行動を取る。受ける者には受ける行為だが……残念ながらそれに興奮する者は居なかった。サングラスに低身長の小太りな校長を除いて。
ララを応援するが為にララの元へと駆け寄る生徒達。真白は危険を察知してそこから動き、自分が居た場所が生徒の波に飲まれた光景を前に上手く行かなかった天条院へ視線を向ける。すると男子生徒が多い事を利用し、色気を含む誘いを始めていた。胸にケーキを挟み、誘惑すればそれだけで男子生徒達はララから天条院の元へ。誰も居なくなった事に特に残念そうな様子も見せないララだったが、突然何かに気付いた様にしゃがみ込むと話し始めた。そしてその間にも天条院へと群がっていた男子生徒達。勝利を確信したであろう表情を見せた時、ララは立ち上がる。……その恰好は先程のコスプレ姿とは全く違う、行き過ぎた者。
「えっと、私を食・べ・て?」
服を脱いでペケを首に巻き付け、生クリームだけで胸などを隠しただけのその姿に天条院へと群がって居た男子生徒達は再びララの元へ。だが余りにも行き過ぎた行為に流石に黙って居られなくなったのか、飛び出たリトが必死に注意しながら止めさせようとする。だがその姿は1人占めしようとする男子生徒に映ったのか、怒号と共に再び騒ぎが始まる。確信した勝利が急激に遠のいた事に焦った天条院。だがその時、近くにあった木の枝が胸部分を閉めるホックを外してしまう。取り巻きの女子生徒達が焦る中、それすらも利用しようとしたがララに夢中な男子生徒達に効果は無い。……代わりに効果として傍に居た校長が鼻息を荒くし始める。と、危険を察知したのだろう。天条院は胸を手で隠しながら逃げて行ってしまう。「覚えてなさい!」と捨て台詞を残して。
「さ、沙姫様!?」
「追い掛けるぞ、綾!」
「う、うん! え……?」
逃げてしまったその姿に焦った丸い眼鏡を掛けた女子生徒……綾は焦り、続けて言われた言葉に行動を開始しようとした時。そんな彼女の手元に白いテーブルクロスが落ちて来る。突然の事に驚いて前を見た時、そこに居たのは無表情に佇む真白の姿。一度目が合った為にその姿を見た事がある綾は困惑する中、真白は出入り口を指差す。
「……急いで……」
「……」
「綾!」
「!」
受け取ったテーブルクロスならば裸になってしまった天条院こと、沙姫の身体を隠すことが出来るだろう。何が目的なのかと詮索する様に見つめる綾に真白が静かに呟いた時、呼ばれた事で真白の言う通りだと分かったのだろう。何も言わずに沙姫を追い掛け始めた綾。真白は3人が居なくなった事を確認すると、未だに騒ぎ続けるララとリトに群がる男子生徒達の姿を見る。そして興味を失った様にその視線を外すと、何も言わずに教室を後にするのであった。
彩南高校学園祭と言う大きな行事が終わり、普通の学校生活に戻った生徒達。真白もそれに漏れず、その日は放課後になると同時に普段よりも早い速度で結城家へと向かい始めた。そして玄関の扉を開け、リビングへと入った時。そこに居たのは美柑と……『大漁』と書かれた鉢巻を巻いた男性であった。リビングの扉が開いた事で真白の帰宅はすぐに分かり、それと同時に男性は笑みを浮かべて立ち上がる。
「久しぶりだな! 真白!」
「ん……久しぶり」
「材料は一通り揃えてあるから、何時でも作れるよ」
元気よく言った男性の言葉に普段通り返し、美柑の言葉に頷いて鞄を椅子に置いた後にリビングへと立った真白。そんな彼女の姿を男性は見つめた後、美柑に視線を向けた。
「上手くやれてるみたいだな?」
「当然。それに聞かなくても分かるでしょ?」
「いや、そりゃ信じてるけどよ……親としてはやっぱり気になる訳だ」
「そっか……仲良くやれてるよ。っと、私も手伝ってくる」
「娘2人の共同料理。楽しみだな!」
言われた言葉に同じ様に美柑も視線を向け、そして会話をする2人。やがて数度の会話を交わした後に美柑は立ち上がると、笑みを見せ乍ら真白の元へ。男性は真白にも向けた様に爽やかな笑顔で言うと並んで料理をする2人の姿を見続ける。……結城 才培。それがこの男性の名前であり、リトと美柑2人の兄妹としっかり血の繋がった正真正銘の父親である。
料理を続けていた時、突然窓の外からザスティンと共に帰宅したララ。実はこの日、ララは学校を休んでいた。その理由を知っていた美柑は帰って来たララの姿を見て「お帰り」と。真白も理由を知っているが、ララが帰って来た姿を見て少し視線を向けた後にそれを戻す。と、どうやらララと才培は既に知り合っているのか「リトパパだ!」と言って親しそうに話を始めた。才培もまた爽やかな笑顔でお出迎え。ザスティンともかなり仲が良い様子でその後しばらくの間リビングで話をしている3人だが、美柑は思い出した様にララに話しかける。
「ララさん、目当ての物は見つかったの?」
「うん! 凄く可愛いお花を持ってきたよ!」
美柑の質問に嬉しそうに答えたララ。するとその時、玄関が閉まる音が5人の耳に聞こえた。それは唯一この場に居ないリトの帰宅を意味しており、才培は口元に人差し指を立てて静かにする様にジェスチャーすればララとザスティンも頷いて控える。美柑は真白に視線を向けると、真白は静かに頷いた。それに美柑は頷き返すと紐の付いた縦長で逆三角錐のとある道具を構える。……しばらくの無音。やがてリビングの扉が開かれた時、大きな破裂音と共に銀紙がリトへと降り注いだ。
≪誕生日おめでとう!≫
「へ……?」
突然のサプライズに困惑気味のリトに才培は笑顔で告げる。この日、10月16日は結城 リトが生まれた日。つまり誕生日であった。リトの手には1つの如雨露が握られており、何かを考えていたリト。呆けてしまっているそんな彼にララが首を傾げて「どうしたの?」と質問すれば、首を横に振って頬を掻きながら笑顔を見せる。
「ありがとう、みんな!」
それは心の底からの感謝。喜ぶその姿に全員が嬉しい気持ちになる中、ララはリトに誕生日のプレゼントを渡す為にその手を引いて庭へ。ザスティンからララが苦労した話を聞きながら、見せられたそれは……彼の想像を絶する物であった。
庭から聞こえるリトの叫び声。それを聞きながら真白はリビングから出ずに作業を続ける。その手に握られる包丁の腹には白い生クリームが沢山ついており、真白は丸いスポンジに生クリームを広げ続ける。少し時間が掛かっているプレゼント渡しの間に大体は終わり、盛り付けを始めた真白。やがて美柑、才培。ザスティンの順で庭からリビングへと戻った時、唯一キッチンに残る真白の姿が3人には映った。
「……」
無表情乍らも真剣な眼差しで何かを乗せた真白。それを最後に終わったのか、額を腕で拭う仕草をすれば目の下辺りに手についていた生クリームが付着する。だが本人は気付いておらず、リトが戻って居ないリビングに視線を向けた時。3人に見られている事に気付いた。
「はは、相当頑張ったみたいだな」
「真白殿は何を作っていたのだ?」
「すぐに分かるよ、ザスティンさん。あ、真白さん。ここ、付いてるよ?」
何を考えて要るかも分からないその顔でも、やり遂げたと言う感情を感じ取った才培。そんな彼の言葉にザスティンは首を傾げる中、美柑は微笑みながら言って真白に生クリームが付いている事を伝える。真白はそれを聞き、付いていた生クリームを指で掬い取り……それを口の中に納めた。何でも無い行為だが、才培と美柑には真白がそのクリームの味に喜んでいると感じる。
「ったく、なんつうもの寄越すんだよ……まぁ、ありがとな?」
「えへへ」
「おしっ、んじゃ飯にすっか! 真白、お前の自信作をお披露目してやれ!」
「……美柑も」
「少し手伝っただけだよ。殆どは真白さん」
「?」
庭から戻って来たリトとララ。そんな2人の姿を確認し、才培は仕切る様に言ってテーブルの上を広げる。そして真白に言えば自分だけでは無いとばかりに言うが、美柑はそれを否定。リトは何の話か分からないとばかりに首を傾げる中、何かを手にゆっくりとリビングから外へと出始める真白。その手の上にあったのは大きなお皿。そしてそこに用意された……ホール型のケーキであった。それは正しく誕生日ケーキ。しかしそこから出て来た事。そして先程の会話から、すぐにそれが買って来たものでは無く家で作った物だとリトは気付く。
テーブルの中心に置かれるケーキ。しっかりとした丸型にイチゴのトッピング。チョコレートの板に書かれた『おめでとう』の文字など、それは手作りとは思えない完成度。才培もザスティンも余りの完成度に驚き、美柑は分かっていたが為に笑みを。ララは「凄い!」と率直な感想を述べる。そんな中、それを作られた本人であるリトはそのケーキに。そしてそれを作った真白に何も言えずに驚いていた。
「こいつはすげぇ。冗談抜きで店に出せるかもしれねぇな」
「……食べる」
「ほら、リトとララさんも席に座りなよ」
「あ、あぁ」
「美味しそう!」
才培が想像以上の出来に感心する中、真白の言葉に美柑がまだ庭の近くに居たリトとララを呼べば2人は席へと付く。ケーキを食べるのは皆でではあるが、その初陣を飾るのはやはりこの誕生会の主役であるリトが相応しいだろう。故に全員の視線が集中する中、真白に静かに渡された包丁を握ったリト。呆けていた彼もようやく我に返り、そのケーキを見た後に真白へ視線を向ける。
「ありがとな、真白」
「ん……」
「そんじゃ、頂きます!」
リトの感謝の言葉に静かに頷き返せば、それを合図にリトは包丁をケーキに入れる。最初の一刀はリトが行い、その後は引き継ぐように慣れた手つきで切り分ける真白。やがて6つになったそれを各々に用意した中皿に取り分け、今度はもう1度全員で『頂きます!』と。その後味に関しても好評であったケーキはあっと言う間に無くなってしまう。ケーキについてそこまで詳しく無かったザスティンも、その味には感動の舌鼓を打つほどである。
その後、誕生会は徐々に終息。漫画家である才培はその手伝いをしていると言うザスティンを連れて今住んでいる場所へと帰宅し、真白も片づけを済ませて帰宅。何時もの面子に戻った結城家はその後普段通りに一日を終える。リトは自分の部屋で、持って帰って来た如雨露を。ララからのプレゼントである庭に見える巨大な花を。夕食に食べたケーキの味を思い出し、嬉しく思いながらも眠りに付くのであった。
各話の内容を分かり易くする為、話数の後に追加するのは何方が良いでしょうか?
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サブタイトルの追加
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主な登場人物の表記