第25話 騒がしい新学期
春休みが終わり、新しい学期が始まる日。最初の登校日であるこの日、真白はヤミと共に結城家へと辿り着くとその玄関を開ける。するとその向こうに居たのは、今から朝のお風呂に入ろうとしているララの姿。手にはバスタオルを持ち、裸のまま立っていた彼女は真白が来ると同時に笑顔で出迎える。そしてその身体に容赦なく飛びついた。体格差からして潰されてしまうが、真白は何とかそれを受け止めると倒れない様に後ろでヤミが真白の背中を支えた。
「おはよう真白! 一緒にお風呂入ろうよ!」
「……ご飯……作る」
「あ、そうだった。じゃあじゃあ、ヤミちゃん一緒に入ろうよ!」
「え?」
一緒の入浴に誘われた真白。だが首を横に振ってそれを断ると、ララは思い出した様に言った後に真白を支えていたヤミを誘う。突然の誘いに思わず聞き返す中、ヤミの手を引いてお風呂場へと直行するララ。巻き込まれてしまったヤミを目にし乍ら、真白は静かに溜息を吐いた。真白が結城家へと通い始めるのを再開したのはこの日が最初。故にララは久しぶりの出会いに気分が上がっているのだろう。
つい先日まで御門の家で最後の最後まで過ごしていた真白にとって、約1月の間は長いもの。久しぶりの結城家を見渡し、リビングへと入った真白を迎えたのはリビングの椅子に座って入って来るのを待っていた美柑であった。
「あ、真白さん。おはよう……それとお帰り!」
「……ただいま」
何時もとは違う出迎え。真白が再び通い始める様になった事に関しての喜びを笑顔と言葉で表現した美柑は真白が鞄を何時もの場所に置く姿を見た後に朝ご飯に何を作るのかを質問する。材料は何があるのかを確認して、ご飯が炊けているのも確認した後に取り出したのは卵と味噌汁の材料。それだけですぐに何を作るのかを理解した美柑は、真白から味噌汁の具材を貰うと調理を始める。お互いに使う場所はガスコンロ。故に至近距離で並んで。
「またこうして一緒に作れるの、楽しみにしてたんだよ?」
「……そう」
真白が結城家に来れなくなってしばらくの間、美柑は時折手伝ってくれるリトやララと共に家事を行っていた。やり難い等と言う事は無かったが、それでもやはり普段から一緒に行っている相手で無いと稀に違和感を感じてしまうのは当然の事。故に見慣れたその姿が横に居ると言う事は安心感のある物であり、美柑は鍋に火を掛け乍ら真白に告げる。と、真白は卵を片手で割りながらそれに静かに返した。変わらぬ表情と抑揚の無い返事。だが何時もと同じそれに、美柑は微笑みを浮かべる。
それから朝食を作り続けていた2人。やがて真白が目玉焼きを5つ作り、美柑が味噌汁を作り終えると小さなお皿を1つ取り出してお互いに味見を行う。丁度良い濃さと美味しいと思える味に真白が頷けば、美柑は小さく「よし!」と言って喜ぶ。そして真白と美柑で配膳を行い、5ヵ所に並べ終える直前で美柑がリトを呼び始める。っと、少しして玄関が開く音が聞こえ始めた。どうやらリトは部屋では無く、庭の周り等にある植物に水を与えていた様子。だが扉が開いてすぐに聞こえ始めるのはララの声。最悪のタイミングであった。
『なっ! 風呂の後に裸でうろつくな!』
『だって、ペケが居ないんだもん』
『!? 結城 リト!』
『って、何でヤミまで!?』
「……」
リビングとの間を閉じる扉の向こうから聞こえる3人の声。お風呂から上がったララと遭遇したのだろう。そしてララに連れて行かれたヤミも当然存在しており、ララによって連れられていたところでリトと遭遇。怒り出したことから、見られるのは不愉快な恰好をしていたのはまず間違い無い。暴れる様な音が響く中、真白はリビングの向こう側を想像して扉をジト目で見つめる。……しばらくした後、ペケによって制服を来たララと普段の黒い服を着用したヤミ。そして理不尽に攻撃されて肩を落とすリトが入り始める。
「……お疲れ」
「朝から酷い目に、って真白!? あぁ、だからヤミも居たのか。……お帰り、真白」
「美味しそう! 早く食べようよ!」
朝から酷い目に遭ったことで元気を無くしていたその姿を軽く慰めた真白に返事をし乍ら気付いたリト。ヤミが居た事にも納得して美柑と同じ様に真白を迎えれば、ララがテーブルに置かれている朝食に気付いて楽しみとばかりに喜び始める。
リト達がそれぞれ定位置に座り、美柑と真白もお茶碗にご飯をよそって全員分のご飯を配り終えると席へ。美柑が手を合わせて「それでは」と一言。全員が手を合わせ、告げた。
≪頂きます!≫
「……頂き……ます」
「頂きます」
合わせる事になれている3人の元気な声と、途切れ乍ら言う真白の声。そして抑揚の無いまま、それでもしっかりと行うヤミの声が同時に部屋の中へと響き、そして5人は朝食を食べ始めるのだった。
真白と美柑が食事の後片付けを行う間、リトとララは学校に行く準備を始める。ヤミは片づけ終わったテーブルを拭いて居り、やがて2人が降りて来る頃には片づけも終了。5人は外へと出た後に戸締りを確認して学校へと向かい始める。道中で美柑と別れ、ヤミとも別れると真白・リト・ララの3人に。普段ならば真白は当たり前の様に先に行ってしまうが、この日歩幅を合わせて並んで歩いていた。それもその筈、今現在真白の片手はララに握られているのだから。
「楽しみだね、新学期!」
「2年生か……考えて見れば去年は色々あったよな、ほんと」
ふと手を離したララは真白の前に立って後ろ歩きに進みながら2人に笑顔で言う。本心から学校を楽しみにしている様で、リトはそんな姿に自分達が進級することを。そして1年生の間にあった出来事を思い返す。宇宙人であるララと出会い、様々な事に巻き込まれ、そして家族である真白の秘密も知った。濃くも充実した、普通じゃ経験できない1年間だったのだろう。大変であった筈の日々を思い出し、それでもリトは笑みを浮かべていた。
ふとリトは横を歩く真白を見る。手を離されても先に行くこと無く、自分達と同じ速度で歩くその姿に去年との違いを再びリトは実感する。っと、リトは少し先に見えたその姿に一瞬で緊張した様な表情になる。突然の変化にララが首を傾げる中、真白はララの向こう側に見えるその姿を確認した。去年と変わらず、藍色のショートヘアにヘアピンを付けた清楚な印象を持つ少女。
「あ、春菜!」
ララが振り返ると同時にその姿に気付き、名前を呼びながら手を振れば春菜も微笑みながら小さく手を振り返す。距離はそこまで遠い訳でも無く、合流すると同時に笑顔で挨拶を行った2人。当然その傍に居たリトと真白にも目線は動いた。
「おはよう、結城君。三夢音さん」
「お、おはよう! 西連寺!」
「ん……おはよう」
去年と変わらず、だが明らかに距離の縮まったごく自然に行われる挨拶。リトは目に見えて緊張しながらそれに返し、真白は特に変わらずにそれに返す。春休みに入る前、ギドと真白の争う姿などを見ていた春菜は既に真白が宇宙人である事を知っている。が、実はそれ以前に真白は不参加で行われていた春菜の誕生日会でララが宇宙人である事を知っていた春菜。故に免疫が既に付いていたのだろう。その事に深く触れる事も無く「体調は大丈夫?」と真白に質問すれば、真白は静かに頷いて平気である事を示した。
彩南高校へと辿り着いた4人。下駄箱は変わらず、向かう教室も既に分かっている4人は靴を履き替えると決められた教室へ。去年は真白以外が同じクラスであったが、今年は真白もリト達と同じクラスであった。他にも里紗や未央もおり、真白は教室に到着するとまずは自分の席へ。その後、真っ直ぐに向かったのは……唯の席であった。
「……おはよう」
「おはよう、久しぶりね。終業式の時に居なかったのは少々心配だったけれど、平気そうね」
「ん……同じ教室……嬉しい」
「そ、そうね……でもあの子も同じクラスなのね」
前回同じクラスであった唯も同じクラスであり、ララが他の生徒達に挨拶を行っている間に真白は唯に話しかける。朝の挨拶から始まり、春休みに終業式前から体調を崩したと言う事で休み始めた真白が普段と変わらずに目の前に居る事に薄く微笑みながら言う唯。真白はそれに肯定し、一緒のクラスである事の喜びをそのまま伝える。唯はその直球な言葉に少し狼狽えながらも答え、そして少し睨む様にしてララに視線を向けた。
唯にとってララと言う存在は自分の友人の友人であり、学校の風紀を乱す存在であった。ふざけた事を嫌う唯は今まで隣のクラスだった事もあり、ララの行動を我慢していたのだろう。だがこうして一緒になった今、唯の心は決まっていた。
「私が同じクラスになったからには、好き勝手にはさせないわ」
「……」
そう言って強い意志を示した唯の姿を真白は何も言わずに見続ける。その後、授業では無く新しい教室や廊下の掃除を始める事になった生徒達。当然真白達も掃除する為に道具を手に行動を開始する。何時もなら掃除をする際には1人か唯とだった真白。だが同じクラスになった事で、ララが真白を連れて行動を開始していた。そしてそれを見守る様にリトも同じ場所を掃除し始める。
場所は教室の目の前の廊下。ララと真白は箒を手に、リトは雑巾を手に掃除をしていた時。ララに声を掛ける人物が現れた。それは先程まで話をしていた唯であり、ララが呼ばれた事で真白とリトも視線を向ける。
「話があるんだけど、良いかしら?」
「あ、真白のお友達だよね! えっと……」
「古手川 唯。元1-Bのクラス委員よ」
声を掛けられた時、ララは真白を誘う際に何度も見掛けていたその姿に笑顔で返事をし乍らも名前を思い出そうとする。だが正式に自己紹介をした事は無く、唯はここで初めてララに自分の名前を教えると同時に前にクラス委員であった事も告げた。真白は唯が何を言うのか分からず見つめ続け、唯は自分を見ているララ・リト・真白の姿を一度見るとララに真っ直ぐ指を差した。
「1年の時はA組のクラス委員だった西連寺さんが甘いせいで好き勝手出来ていた様だけど、私が同じクラスになった以上そうは行かないわ!」
「? 好き勝手?」
「恍けないで! 貴女が学校中を引っ掻き回してるのは周知の事実よ。……それに」
「それに……?」
宣戦布告の様に告げた唯の言葉にララが首を傾げると、唯はまるで分かっていないその姿に強く告げる。そして何かを言おうとするも、途中で止まってしまった言葉にリトが聞く。すると後ろに居た真白と唯の視線が一度会い、「あ……」と小さく何かを告げた後に少しだけ頬を赤くしながらも咳ばらいを行った。
「と、とにかく。これから貴女の好き勝手にはさせないわ。大体何! その尻尾は!」
何かの言葉を無理やり隠し、ララに告げた唯はララの後ろから生えて居るゆらゆらと揺れる尻尾を指さす。分かって居る人にはそれは本物であると分かるも、ララが宇宙人である事を……それ以前にそもそも宇宙人と言う存在が居る事を知らない唯にとってそれはララが勝手に持って来て居る玩具としか思えない物。故に注意するも、ララが説明しようとした時。それを遮る様にして別の場所を掃除して居た筈の里紗がララに後ろから抱き着き始めた。
「本物だもんねー? だってララちぃ、宇宙人だもん!」
「え? 宇宙人?」
里紗の言葉に傍に居た未央が「ねー!」と合いの手を入れる中、唯は『宇宙人』と言う言葉が理解出来ず聞き返す。意味は理解出来ていたとしても、その存在を認める等普通ではありえない事。が、里紗はそれを証明する様にララを尻尾を握り、そして擦り始めた。
「ひぁ! や、やめっ……てぇ……!」
最初握られて身体を跳ねさせたララは、次に擦られる事で喘ぎ声を漏らし始める。実はララの尻尾は本人にとって一番敏感な部分であり、故にその様な攻めをされれば身体から力も抜けてしまうと言う言わば弱点の様な場所であった。余りにも色っぽく声を上げるララの姿に唯が顔を赤くして注意する中、リトも顔を赤くして。真白は既に掃除に戻っていた。
突然遠くからリトの元へと大声を上げて走って来る人物が現れる。それは去年転入して来たリトとララと同じクラスであった生徒、レン。どうやらララに好意を抱く彼はリトとララが一緒に居ると言う事が余り認められなかったらしい。リトへと飛びかかり、胸倉を掴んで怒る中。喧嘩を止めようとした唯が2人の間に入れば、唯の長い髪がレンの鼻先に振れる。するとレンはそれによって誘発される様にくしゃみを起こし……その姿を変えた。
薄い浅葱色の肩下まで伸びた髪。2本だけ上に立つ世間一般で言うアホ毛。その姿は何時だかに真白を誘った、ララにルンと呼ばれた少女であった。レンと言う男子生徒からルンと言う見た事も無い女子生徒に一瞬で変わった事にその場に居た全員が絶句する中、男子生徒用の制服をブカブカの状態で着ていたルンは周りを見渡す。そして変わった事に同じ様に見つめていた掃除中の真白を視界に捉えた。
「真白ちゃん!」
「!」
朝結城家にたどり着くと同時に飛びつくララの様に、飛びかかって来たルン。真白はその身体を何とか受け止めようとするも、勢いが強すぎた事もあって壁に背中を打ちつけてしまう。が、ルンはそんな事を知る気も無く真白の身体に。胸に制服越しに顔をこすりつけ始めた。一方、レンが女の子になった事についてララが同じ宇宙人である事を説明し始める。
本来レンでありルンである存在はメモルゼ星人と呼ばれる宇宙人であり、『男女変換能力』と言う性質を持っていた。本来ならばそう簡単に入れ替わる事等無い筈の2人。だが宇宙とは違う地球では環境が違うためか、『くしゃみ』を行うと変わってしまうと言う体質になってしまっていた。そしてそれをララは簡潔に『レンちゃんはくしゃみするとルンちゃんに変わる宇宙人』と説明。里紗と未央は疑いも無くそれに納得する中、唯は目の前で変わった姿を。そして真白に抱き着いている姿を見て我に返ると、引き剥がそうとする。
「貴女、真白が困ってるでしょ! 離れなさい!」
「嫌! それに困ってる訳無い! 真白ちゃんは私を受け入れてくれるから!」
「! このっ! って、きゃぁ!」
唯の注意に首を横に振って恍惚とした表情を浮かべながら真白の胸の間に顔を埋めるルン。離れる様子の無いその姿に唯がルンの両腕を持って引っ張ろうとした時、思ったよりも簡単に剥がれてしまった事に驚くと共に後ろへと勢いよく下がってしまう。その先に居たのは先程まで説明していたララであり、後ろ向きで近づいて来る唯に気付いた時には時既に遅く、2人はぶつかってしまう。
「イテ」
「え? ……!」
「あ、ペケが取れちゃった」
唯がぶつかってしまった事で倒れてしまった体勢を直そうとした時、小さく聞こえた何処かから聞こえる声に一瞬周りを見る。そしてその中で制服を着ていた筈のララが裸になっている姿に気付き、顔を真っ赤にし始める。どうやら唯がぶつかった拍子にペケが外れ、地面に落ちた事でペケが小さく声を上げたのだろう。それと同時にララの服を具現化しているペケが居なくなった事で、全てが無くなってしまったララ。他にも生徒が居る中で焦った様子も無く言うララだが、里紗と未央も流石に焦って他の男子の目からララの身体を隠す。
「えへへ、真白ちゃ~ん!」
「……ペケ」
「ら、ララ様の服が! 真白さん、お願いします!」
「ん……!」
再びルンに抱き着かれた状態で、真白は落ちて来たペケに手を伸ばす。自分が落ちた事に焦り始めていたペケは飛ぶ事も忘れており、真白に拾われた事ですぐに戻る方法として真白に投げて貰う事を考えた。真白も同じ事を考えており、説明せずともペケがお願いすれば真白は頷いてその体勢のままペケを投擲。綺麗にペケはララの髪に引っかかり、それと同時に制服を瞬時に修復し始めた。
「これで一先ず安心です」
「あ、ペケ! 真白が拾ってくれたの? ありがとう!」
「こ、こんな場所で裸になる何て……破廉恥な!」
何とかなった事に安心するペケ。戻って来た事とその方向から真白がペケを投げたと分かり、笑顔でお礼を言うララ。一時とは言え学校の中で裸になったと言う事実に赤面し、非常識なララに向けて言い放つ唯。リトは既にララの裸に煙を出して意識を失いかけており、里紗と未央は何とかなった事に胸を撫で下ろす。掃除の時間は既に終わりに近づいており、真白は自分から離れないルンを相手に静かに溜息を付きながらも終わりの鐘が鳴るその時を待つのであった。
各話の内容を分かり易くする為、話数の後に追加するのは何方が良いでしょうか?
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サブタイトルの追加
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主な登場人物の表記