学校とは学び舎であり、当然乍ら生徒達が授業を受ける事を目的とした場所。12時の鐘が鳴り響くには少し早い時間帯の現在。彩南高校、1-Bの教室内では黒板にチョークが当たる事で響く高い音と生徒達が音と共に増えて行く黒板の文字をノートに書き写す度に僅かになる音が響き続けていた。
「ここを、そうだな。11時32分、さっきは足したから今度は引いて出席番号21番の……三夢音か」
「……」
静かだった教室に教員の声が響き、呼ばれた真白にクラスメイトの殆どの視線が向けられる。一瞬にして注目の的になってしまった真白は特に臆する事などせずに席を立ち上がると、黒板の前まで歩き始める。そして教員からチョークを受け取り、問いに答え始める。書く度に少しずつ薄い銀髪が揺れ、無表情のまま黙々と文字を増やしていく真白の姿は何処か別の世界の人間の様に見えてしまう。
全ての内容を書き終え、チョークを黒板の下側にある入れ物の中に入れた後に教員に視線を向ける真白。無表情のまま何も言わずに見つめて来るその赤い瞳に、思わず内心で一歩下がってしまう教員。しかしすぐに立て直し、間違って居ない事を告げる。それを聞いた真白は一度お辞儀をし、自分の席へと戻って行った。
その後、何事も無く授業は続いた。やがて鳴り響くチャイムを合図に教員が挨拶を指示し、その役割を持つ物が挨拶の号令をかける。無事に閉められた授業に、一同は一斉に肩の力を抜き始めた。静かだった教室には生徒達の話声が響く様になる。昼食の時間がこれから始まると言う事もあり、その声が収まる気配は一切無かった。
真白は教科書などを自分の鞄に入れると、交代に布で包まれた四角い箱……自分のお弁当を取り出す。それは綺麗に包んで有り、縛られている上の部分を外せば見えるのはお弁当本体。平均的な大きさで、男子から見れば少ない量と言えるだろう。だが、特に体型に付いては気にして居ない様で、気にして居る人からすれば羨ましい量とも言える。
「今日も1人なのね、真白……そろそろ誰か友達、見つけなさい」
「……」
突然掛けられた声に真白が顔を上げれば、見えたのは同じ制服を来た黒い長髪の女子生徒であった。既に真白の目の前の席は開いており、女子生徒はその席の持ち主に席を使う承認を得ようと声を掛ける。特に問題は無かった様で、笑顔で許しを貰った女子生徒はその机を180度回転させ、真白の席に前の部分をくっつけて繋げてしまう。
「……唯」
「はぁ~。クラス委員として、孤立してる生徒を黙って無視する訳には行かないのよ」
女子生徒……唯こと【古手川 唯】は真白が聞く前にそう言って椅子に勢いよく座り込む。唯は自分が言った通り、このクラスでクラス委員として活動していた。真白との出会いは今と同じ様に1人だった真白に話しかけた事が始まりであり、今ではこうして2人で居る事は当たり前となって居た。唯自身は気付いて居ないが、真白と唯が友達なのだと言う事が周りに広まった事で真白の周りにそこまで人が寄って来なくなって居る。人はグループを作り、他のグループがあればそこに関わろうとしないのが普通なのだ。既に真白には唯と言う友達が居る。なら無理して引き込む事も無い、そう思ってしまったのである。
「まったく、私も毎日真白に付き合ってられないのよ?」
「……」
「何よ」
「……何でも」
自分のお弁当を取り出し、机に置きながら言った唯の言葉に真白は少しだけジト目にし乍ら視線を向ける。だがそんな目をされる言われは無いとばかりに強い口調と目で唯が聞けば、真白は再び何事も無い普通の目に戻してお弁当を開く。入って居たのは半分が白いお米、4分の1が肉や魚等で残りが野菜等と小さな世界にバランスよく入って居る光景。唯はそれを見て何かを安心する様に頷くと、自分の物も開ける。内容は似ているが、真白に比べれば野菜が少し多いだろう。
2人で食事の挨拶と共に昼食を食べ始めるが、真白は基本的に喋らないが故に当然乍ら会話は殆ど無い。唯は食べながらクラス全体を見渡し、最後に真白に視線を戻して溜息をつくと同時におかずを一つ口に運んだ。唯自身、真白に友達を作れと言ってはいるものの出来て居る訳では無いのだ。席を貸してくれた生徒も其の場だけであり、普段から会話をする様な仲では決してない。現状、友達と呼べる存在は唯もまた1人も居ないのである。そしてその理由が徹底した委員活動が原因なのかも知れないと、理解もして居た。曲がった事は正す。そう言う考えは時に押しつけとなり、孤立する理由にもなってしまうのだ。
『……友達……出来た』
『そう。頑張った甲斐があったわね。これで今日から三夢音さんも孤立しないで済むのね』
『ん……よろしく、唯』
『えぇ、よろしく。……え?』
目の前で静かに食べ続ける真白の姿を見てつい最近の出来事を思い出した唯。何処か呆れた様な、でも嬉しい様な、そんな複雑な感情を抱きながら唯は昼食を続ける。唯のその表情は誰にも気付かれなかったが、僅かに微笑んで居るのであった。
放課後となり、部活のある者は部活へ。入って居ない者は残って友達と話す者も居れば真っ直ぐに帰宅する者も居る時間帯。真白は鞄を手に教室から出るために歩き始める。その途中、唯の傍を通る事となった真白。唯は真白が真っ直ぐに何時も帰っている事を知っている為、「また明日ね」と声を掛ければ真白は静かにその言葉に頷いて教室から外に出る。廊下は走らず下駄箱まで行き、靴を履き替えれば真白の準備は完了する。
「!」
外に出た真白は急速に足を速め、ダッシュで校門へと走り始めた。人の波を綺麗に掻い潜り、目指すは朝出た結城家。無表情のまま過ぎて行くその姿を誰も視界に捉える事は出来ず、走り抜けた風だけが通り過ぎる。徒歩でも十分通える距離故にそんなに時間が掛かる事は無く、行きに掛かった時間の半分よりも早く結城家の目の前へと辿りつく真白。急速なダッシュとここまでの走りを行ったにも関わらず、息を乱さず汗も掻いていない真白は玄関に立つと鍵の束を取り出した。そして1本を選んで鍵穴に差し込み、半回転させれば鍵の開く音が響いた。
扉を開き、靴を脱いで中に入った真白。まっすぐリビングに入れば、ソファに腰掛けてテレビを前にゆっくりしている美柑の姿があった。リビングの扉が開いた事で美柑は振り返り、真白の姿に「お帰りなさい」と一言。真白はそれに頷き、鞄を食卓にある椅子の1つに置く。
「あ、帰りに軽くだけど買い物して来たよ」
「ん……」
美柑の言葉を聞き、冷蔵庫を開いた真白。美柑の言葉通り、買い物をして来た後の冷蔵庫は朝に比べて内容が充実していた。そして真白はそこから数種類の食材をそれぞれ一定の量取り出すと、それを抱えてキッチンへとそのまま立つ。制服の上からエプロンを付けてまずは手荒いと嗽を行い、その後食材を洗い始めた。美柑はついていたテレビの電源を消すと、自分もまたエプロンをつけてキッチンへと入る。特に何も言わずに、だがその場に来ただけで真白はすぐに理解すると少し横にずれて水場のスペースを空けた。
「今日は何作る予定?」
「……パスタ」
「そっか。あ、なら卵が今日安かったからカルボナーラが良いかも」
共に並び、食材を洗いながら夕飯の内容について話す真白と美柑。真白は美柑の提案に頷くと、本格的に調理を開始するのだった。
各話の内容を分かり易くする為、話数の後に追加するのは何方が良いでしょうか?
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サブタイトルの追加
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主な登場人物の表記