日曜日。結城家へと赴かず、御門の家へと行った真白はヤミを連れて商店街に来ていた。別の家で住んでいる以上、真白たちの家にも当然食料品などは必要なのである。基本的には結城家で食事を取っている2人だが、それでも買い出しに来ることは可笑しな事では無い。エコバックを片手に歩く真白と、途中で買ったと思われる鯛焼きが数個入った袋から1つを取り出して齧っているヤミ。そんな2人が歩いていた時、とある店の前で道を邪魔する様に座り込んでいる3人の男達の姿が見えた。明らかに迷惑になっているが、男たちは気にもせずにその場に居座り続けており、周りの人々も怖さと面倒事を避けたいという思いから注意せずに通り過ぎて行く。
本来であれば、真白とヤミも騒ぎになりそうな事は避ける故にその光景を見たところで何もしなかった。しかし真白が視線を外そうとした時、見えてしまう。自分の知っている存在が、その男達に注意しようとする姿を。何時もは学校で会うために制服である彼女も今日は休日な為に私服であり、男たちの前に仁王立ちする様に立つと背中まであるサラサラとした黒髪と穿いていた黒いミニスカートを揺らしながら指差すその姿は間違い無く真白にとって掛け替えの無い友達……唯であった。男達に何かを言っているのは明白であり、恐らくは通行の邪魔であると注意をしたのだろう。だが男たちは不機嫌そうにしながらも立ち上がると、唯の姿を見て厭らし気に笑みを浮かべながら囲み始める。周りを歩く人々はその光景を見て見ぬ振りで済ませており、到頭男の1人が唯を羽交い絞めにする。そして違う男がスカートを捲り上げようとした事で唯が抵抗出来ずに目を瞑った時、自分の足元が突然暗くなった事に男は不審に思いながら顔を上げた。
「縞パ、ぐぇ!」
「……は?」
顔を上げた男の視界に見えたのは何だったのか、何を言おうとしていたのか理解出来なかった他の男達。だが目の前に映るその光景は何度見直しても変わる事が無かった……仲間だった男が突然現れた幼げな少女に顔を膝で踏みつけられていると言う光景は。
ゆっくりと少女の舞い上がっていたスカートが降り、男の身体から退きながら唯を羽交い絞めにする男へとその視線を向ける。未だに呆気に取られていた男達。捕まっていた唯は謎の音と驚く声に目を開き、目の前に立つその姿に目を見開く。
「ま、真白……?」
「ん……」
唯が名前を呼べば、頷いて返す真白。男たちはようやく我に帰った様で、唯を羽交い絞めにしていた男が何かをしようとする。が、突然男は唯を拘束していた両腕に激痛を感じてその拘束を解放。唯は男がよろめいた事で反動を受けて前に押し出され、真白がその身体を受け止めると、男の向こう側に立つヤミの姿を見る。ヤミは静かに頷き乍ら鯛焼きを齧った。
「……走る」
「え? きゃっ!」
突然告げた真白の言葉に戸惑った唯だが、真白が片手を掴んで走り始めた事で驚きながらも一緒に走り始める。ヤミも鯛焼きを1つ食べ終えると空へと飛んで行き、残された男たちは諦める事無く怒りながら2人を追って走り始める。……そんな光景を見ていた1人の青年は、手を引かれて逃げる唯を。そして手を引く真白の姿を目を細め乍ら見つめるのであった。
下手に暴力沙汰などを起こせば今だけで終わる話では無い。故に逃げる事を決めた真白は唯の手を引いて走り続ける。
「はぁ、はぁ。もう大丈夫かしら?」
「……まだ」
結構な距離を走り、息を上げ乍ら隠れて背後を確認しようとする唯。だがそれに真白は答えながらも、遠くに聞こえる男たちの声を聞き取る。無駄にしつこい男たちに真白は溜息を吐くと、唯を見る。既に疲れていて走るのは辛いであろうその姿に真白は少し考えた後、傍にあった車とフェンスを見つめる。どうやら今の場所は駐車場であり、フェンスを超えて逃げればそうそう捕まる事は無いだろう。それを考えた時、真白は1人で頷くとフェンスの前に立つ。
「? 真白?」
唯が真白の行動に名前を呼ぶ中、真白はその場からジャンプをする。身体能力が高い故なのか、そのジャンプ力もかなりの物。フェンスの上へと綺麗に着地した後、真白はその細い足場の上でしゃがんで唯へと手を伸ばす。驚きながらもすぐに意味を理解して真白の手を掴もうとフェンスの下に立つ。何気なく見える真白の青と白の縞模様のパンツが見えて恥ずかしさから微かに頬が赤くなるのを感じ乍らも、その手を掴んだ唯。真白が引っ張り上げれば、簡単にその身体はフェンスを超える事が出来る。だが降りる時、それは起きた。
「きゃぁ!」
「!?」
細い足元の上ではバランスが取り難く、唯が足を滑らせてしまう。もしもそのまま落下して地面に激突してしまえば、大怪我を負う可能性もあるだろう。突然の事だったため真白も対応出来ずに唯に引っ張られる形で落下。それでもすぐに唯の身体を掴むと自分が地面に背中を打つ様に体勢を変える。唯はこのままでは真白が不味いと気付いて焦るが、その瞬間、真白の背中から翼が出現する。大きな風が真下へと吹き、その勢いは落下する2人を押し返し始める。そしてゆっくりと尻餅をつく様に地面に着地すれば、真白は安心した様に溜息を吐いた。真白の腕の中にいた唯は放心状態であった。
「?」
ふと男達の気配が消えている事に真白は気付く。探すのを諦めたのか、何かあったのか。どちらにせよもう追われる心配は無さそうであり、真白がそれに付いて伝えようと唯の顔を見れば……何故か顔を真っ赤にしている唯と目が合った。現在唯は真白に抱きしめられており、その顔は真白の胸の中であった。鼻先に感じる服越しの下着の感覚と真白の匂いに同性でありながらも恥ずかしいのだろう。ようやく我に帰った時、唯は冷静を装ってゆっくり顔を離す。
「……怪我、無い?」
「え、えぇ。大丈夫よ」
助けられてから今まで殆ど会話という会話が出来ていなかった2人。真白の確認に唯は頷きながらも立ち上がり、スカートなどを数回叩くと真白へ手を伸ばす。真白もその手を掴んで立ち上がり、唯は落としていた鞄を拾う。
「……もう……平気」
「そういえば、静かになったわね」
「……」
「……何よ? 何か言いたいって顔ね?」
真白の言葉でもう追われなくて済んだと気付き、安心した唯。しかし無表情乍らも何かを感じるその視線に唯が普段の強気に戻って聞いた時、真白は頷いた後に口を開く。
「……無茶……しない」
「うっ……で、でも放って置けないわ! あんなの!」
「……危なかった」
「そう、ね。……はぁ、分かったわよ。今度から気を付けるわ」
今の様な結果を招いた事に責任を感じているのか、真白の言葉に少しだけ狼狽えながらも答える唯。しかし続けられた一言に返す言葉が見当たらず、その場の勢いだけで後先を考えなかった事に反省する。そんな姿を見て真白は何気なく自分の胸元に手を当てると、唯に向けて告げた。
「……無事で、良かった」
「!」
言葉だけでは無い、告げた瞬間に見せた紛れも無い【笑顔】に唯は雷に打たれたかの様な衝撃を受ける。唯の表情は目を見開いて明らかに驚いているのが丸分かりになっており、真白は唯の反応に首を傾げる。
その後、駐車場を出て何とか商店街にまで戻った真白と唯。既に真白は買い物を済ませており、唯は何か目当ての物があった訳でも無く商店街に来ていた様で2人はお互いに帰る事を決める。そして別れる事になった時、唯は何かを言おうとして言えずにいた。
「……また、明日」
「えぇ……真白!」
別れの言葉を交わし、背を向けて離れ始める真白の後姿に唯は首を強く横に振って何かを振り払うとその名前を呼ぶ。真白は唯の声に振り返り、視線を受けながらも唯は口を開いた。
「助けてくれて……ありがとう」
唯はそう言って真白へ笑顔を見せた。そして真白の反応を見ずに唯は恥ずかしそうに頬を染めながらも「また明日!」と言って走り去る。対する真白は……去って行く唯の姿を無表情のまま見つめながら、やがて少しだけ目を瞑ると再び帰路を歩き始めるのであった。
「あ、ユウちゃん。用事は済んだのぉ?」
「あぁ。悪かったな。デート、続けようぜ?」
商店街のとある場所にて、1人の青年が女性の元へと駆け寄る姿があった。どうやら女性を待たせていた様で、女性の言葉に爽やかな笑顔を見せながらも答える。そんな青年がこの場に来るまでの通り道。その道を遡った終点は駐車場であり、そこにあったのは男達がボロボロにされて倒れ伏す光景であった。
「唯の奴、これで少しは大人になると良いけどな」
「? 何か言ったぁ?」
「いや、何でも無ぇよ……早くならねぇと、愛想尽かされても知らないぜ?」
空を見上げ乍ら呟き、女性と共に歩みを続ける青年……古手川 遊。唯の兄である彼の言葉は誰に届くでも無く商店街の雑音に紛れて消えて行くのであった。
各話の内容を分かり易くする為、話数の後に追加するのは何方が良いでしょうか?
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サブタイトルの追加
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主な登場人物の表記