【完結】ToLOVEる ~守護天使~   作:ウルハーツ

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第53話 夏と夕立と戸惑う感情

 季節は暑くなり始めた夏。彩南高校の制服は夏服となり、動き易くなった服装にララが喜ぶ光景を真白は静かに見ていた。既に結城家を出て彩南高校へと向かう道中であり、美柑とも別れた事で共に歩くのはリトとヤミ。ララが一番前を歩き、その後ろに真白とヤミが並んで。最後にリトが3人を見る形で、季節の変化に若干の違和感を覚えながらも歩き続ける。っと、喜んでいたララが後ろ歩きになって真白に振り返ると半袖になっている真白の姿を見る。

 

「真白の夏服も久しぶりだね!」

 

「皆一斉に変わってるからな」

 

「ん……」

 

「そう言えばヤミちゃんは最近ずっとその格好だけど、前に着ていた服とか里紗未央がお勧めしてた服とかはもう無いの?」

 

「ありますが……何かあった際に、この戦闘服(バトルドレス)で無いと動き難いので」

 

 ララの言葉にリトが言い、真白が頷く中で気になった様に質問されたヤミは真白を見ながら答える。実はヤミ、以前に里紗と未央によってお洒落をしてみようという考えの元に連れて行かれた事があった。まだ真白が学校で危険な目に遭う前の話であり、半ば強制的に連れて行かれたヤミは様々な服を着るという経験をしたのだ。放課後だが、真白は結城家へと先に帰っていたので知らない事である。だが最終的には何も購入せずに終わったその出来事。実は真白と過ごす上で、その序盤に別の服は買っていたのだ。が、ヤミが普段着ている黒い服はヤミの変身(トランス)能力に対応している物であった。以前は別の服を着ていた事も稀にあったが、真白に危険が迫って以降、何時でも戦える為に元々の服しか着なくなってしまっていた。

 

「……大丈夫」

 

「油断は出来ません」

 

 早々危険な事は起きないと安心させる為に告げれば静かに、だが力強い声音で返すヤミ。簡単には考えを変える気が無い様で、真白はリトにしか分からない程度に残念そうな表情を見せて話を止める。やがて見えた彩南高校を前に、校門を通って何故かヤミも堂々と一緒に校舎の中に入る。そしてその光景を後ろから見ながら同じ様に校舎の中へと向かう唯の姿があった。唯は少し後ろから真白たちの姿を見ており、教室に入ってからも真白と少しだけ言葉を交わす程度で同じ教室にて授業を受ける。そして休み時間になった時、春菜の座る席の周りに里紗と未央が集まって話す会話がその耳へと届き始める。内容は春菜の姉が2人の男性に告白され、『何方も詰まらなそうだから』と振ったと言うもの。里紗と未央がその余裕に感心する中、それを聞いていた唯は頬杖を突きながら窓の向こうに見える景色を前に思う。

 

(学生の本分は勉強の筈よ。愛だの恋だの、どうして皆そんな話ばかりなのよ)

 

 真面目な唯にその話は合わなかった様で、廊下へと見回りのつもりで出た唯は生徒達の声を背後に歩き始める。頭の中で考えるのは否定ばかり。しかし建物から出て少し歩いた時、椅子に座る真白とヤミの姿を見てその足が止まる。もう少し歩いて近づけば、自然に声を掛けるか掛けられるかするだろう。だが何故か疚しさ等無いにも関わらず、近づく事を戸惑ってしまう唯。どうしてか分からず唯自身が戸惑う中、その背後から近づく存在に気付かなかった。足元に這い蹲り、下から覗き込む黒いサングラス。微かに聞こえる荒い息がその耳に届いた時、唯は振り返ってその姿を見た。小太りな男性が這い蹲って自分のスカートの中を覗きこんでいる姿を。

 

「っ! きゃあぁぁぁぁ!」

 

「!」

 

「あれは……」

 

 それは彩南高校の校長であり、自分の下着を覗いて興奮するその姿に悲鳴を上げた唯。その声を聞いて真白は唯の姿に気付き、ヤミはその真下に這い蹲る校長の姿に気付く。すると校長は唯の足に手を伸ばして顔を擦りつけようとし始める。突然の事と恐怖に腰を抜かし、必死に下がろうとするその姿に迫る凶威。やがて校長の手が唯へと届くその瞬間、校長の黒いサングラスを破壊しながらその顔面に靴が減り込む。そして勢いよく蹴り上げたその足は校長を大きく浮かし、宙に浮かんだその身体に今度は巨大な金色の拳がぶつかると同時にその姿を空の彼方へと吹き飛ばした。

 

「……平気?」

 

「ぁ……ま、しろ……! その……あ、ありがとう」

 

 怯えていた為か、目の前で手を伸ばす真白の姿に唯は弱々しくその名前を呼ぶ。真白の背後では校長に止めを刺したヤミが近づいて来ており、唯はやがて我に返るとお礼を言いながらその手を取る。そして地面についてしまった箇所を軽く叩きながら飛んで行った校長を方角を睨みつけた。

 

「どうかしてるわ! あ、あんな破廉恥な事するなんて!」

 

「真白。あれは殺してしまった方が良いと思います」

 

「……」

 

 唯の怒りも当然であり、ヤミも何度か校長に絡まれている故に校長を敵と見なしていた。恐らく彩南高校の女子生徒の殆どが、校長を危険人物と見ているだろう。だからこそ、ヤミの提案に真白は肯定はしないものの駄目とも言わなかった。

 

 気付けば真白と会話することになっていた唯。1年前と違い、ヤミと言う存在が居るものの何も変わらない筈だった。だが顔を合わせて話をしようとした時、唯はとある出来事を思いだす。

 

『……無事で、良かった』

 

 数日前までは意識していなかった筈の事。しかし先程から考えていた事と連想する様に思い出す真白の笑顔に、言葉が出なくなってしまう。金魚の様にパクパクと口を開いて徐々に赤くなるその姿に真白が首を傾げてヤミが目を細める中、唯を助ける様に予鈴のチャイムが鳴り響き始める。唯はその音に我に返ると、教室へ戻る様に促して逃げる様にその場を去ってしまう。何処か挙動不審なその姿に真白は離れて行く姿を見つめ、ヤミは何も言う事無く取り残されるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後。風紀委員として活動する唯は他の生徒達よりも少し遅めに下校する。既に知っている生徒は部活や帰宅で居らず、下駄箱を通って校門へと向かい始めた唯。だが校門を通った時、見知った姿に唯は目を見開いた。

 

「え……真白?」

 

「ん……」

 

 普段なら真っ先に帰る真白がそこで鞄を両手に持って門に寄りかかる形で待っていたのだ。予想出来ない突然の出来事に唯が困惑する中、真白は唯の前に立つと頷いて肯定する。そして一緒に帰る為にその隣に立った。

 

「な、何で待ってたのよ?」

 

「……心配……だから」

 

 それは嘗て言われたのと似た様な言葉。唯は何が真白を心配させたのかと困惑し、その傍に何時もは居るヤミの姿が無い事に気付いて質問する。普段ならピッタシ傍に居るヤミだが、真白はこの日先に結城家へと向かう様にお願いをしたのだ。守りたいという思いから傍に居るヤミだが、その本人である真白からのお願いをされてしまえば流石に断る事が出来なかった。結果、今現在1人になっている真白。唯はヤミが居ないという事実を聞いた時、微かに感じた思いにすぐに戸惑う。

 

(な、何で真白が1人の事に私……ホッとしてるのよ)

 

「……唯?」

 

 何も言わずに考え込んでしまっていた唯は真白に声を掛けられた事で現実に戻る。途中までは同じ道のりの帰路を並んで歩き続ける2人だが、予想外の出来事に見舞われる。小さく降って来た一粒の水滴。頬に落ちたそれに唯が冷たさを感じて驚き空を見上げた時、一粒。また一粒と水滴が落ち始める。そしてその間はドンドン短くなり、土砂降りになり始める。

 

「夕立!? とりあえず何処かで雨宿りしないと!」

 

「ん……」

 

「! あの公園なら! こっちよ!」

 

 余りにも突然の雨に焦りながらも鞄を頭の上に乗せて少しでも防ごうとする唯。真白は特に何もする事無く唯の言葉に頷き、唯は雨宿り出来る場所を思いだした様に真白の手を掴むと走り始める。そこは『ときめき公園』と呼ばれる公園であり、その遊び場の1つであるドーム状の中に入る事で雨から逃れる。既に雨に濡れてしまっている2人はとりあえず雨から逃れられた事に安心する。っと、唯は目の前に座る真白の姿に顔を赤くして視線を逸らした。真白を見た時、そこに見えたのは濡れてしまったYシャツ。夏服に変わった事でそれしか上が無く、濡れて透け始めていたそのYシャツ越しに真白の下着の形が現在見えてしまっていた。色は白の様で、Yシャツの色と被って微かに形が分かる程度。だが唯はその光景に恥ずかしく思い、そしてドキドキする気持ちに困惑する。

 

(何で……何で私、真白にこんなにドキドキするのよ……!)

 

 自分に質問をしてもその答えが出る事は無く、雨が止むまで待つ事を決めた唯。だが微かに聞こえた声と足音に外を除いた時、包帯姿の校長が傘と本を片手に歩く姿に気付く。現在唯はドームの端に座って壁に寄り掛かっているが、真白は真ん中に座っていた。そしてその位置は真白からも校長からも簡単に見える場所であり、だが真白は気付いて居ない様子であった。もしも校長に気付かれてしまえば危険な目に遭うのは間違い無い。説明する時間も惜しく、唯は意を決して音を立てない様にし乍らも真白の手を掴むと自分の方へと引っ張った。突然の事に目を見開きながらもその身体は唯へと引き寄せられ、その胸に抱きしめられる形となった真白。唯は恥ずかしさを我慢しながらも小さな声で告げる。

 

「少しだけ、少しだけ我慢して」

 

「?」

 

 唯が頬を赤くしながらもドームの外を覗き込む姿に真白は抱きしめられたまま動く事も出来ずに数分待ち続ける。校長は本を見て上機嫌に去って行き、やがてその姿が見えなくなると同時に唯は安心の溜息を吐く。そしてもう大丈夫である事を伝えようとして、自分が真白を抱きしめている事を思いだした。

 

「あ、あの……これは……!」

 

「……」

 

 急いで解放した唯は説明しようとして、言葉を詰まらせてしまう。だが真白は特に何を言うでも無く唯のすぐ隣に座り込み、首を横に振った。恐らく気にしていない事を伝えようとしているのだろう。そしてそれは唯に伝わり、唯は安心しながらもすぐ隣に感じる温もりにそれ以上の安心を得る。雨は少し待てば止むと予想し、ドームの中で待ち続ける2人。何を話すでもなく時間は過ぎて行き、しばらくすると土砂降りだった雨が嘘だった様に晴れ始める。唯は外に出ても大丈夫だと分かるとドームから外に出て、真白もその後を追って外へ。濡れた後はあれど、もう大丈夫な光景に2人は目を合わせる。

 

「もう大丈夫ね。私はこっちだから……また明日」

 

「ん……また、明日」

 

 2人が別れる道は丁度公園の傍であり、唯は空を眺めた後に真白へ告げる。真白はその唯の姿を見て少し驚いたのか微かに目を見開きながらも、やがて頷いて答えるとお互いに背を向けて歩き始める。真白の心配は気付けばもう無くなっており、唯は1人になった後に腕と身体に残る真白の感覚を思いだす。そして振り払う様に顔を強く横に振って、少し抑えられない笑みをそのままに帰宅するのであった。

各話の内容を分かり易くする為、話数の後に追加するのは何方が良いでしょうか?

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