放課後。結城家で夕食の下ごしらえを終わらせた真白はララに自分の部屋へ招かれていた。リトの部屋にあるタンスから繋がる異空間に存在するララの部屋。本人曰く整理をしたらしいその足元には、謎のガラクタが所々に落ちていた。恐らく整理する前はもっと酷かったのだろう。共に訪れていたナナとモモもララの言葉に「整理?」と部屋の中を見て思わず首を傾げる。
「飲み物を用意しますね」
部屋の中を見た後、寛ぐ事になった4人。モモの言葉にララが笑顔でお礼を言った後、飲み物が何処にあるのかを口で説明する。モモはララの話を聞きながら歩き始めるが、その足元にはガラクタが落ちていた。ララに意識を向けていたモモはそれに気付く事が出来ず、先に気付いたナナが声を掛けるがもう遅い。足を引っかけて転んでしまったモモは、身体に痺れを感じ乍ら咄嗟に何かへ手を伸ばす。伸びた先にあったのは……真白の身体であった。
「大丈夫!?」
ララが焦りながら声を掛けてナナも心配そうに駆け寄る中、モモは身体を起こそうとした。だが右手が上手く動かない事に気付いて確認する為に視線を向ける。……そこには真白の左手をまるで恋人繋ぎの様に握ったまま離れない自分の手が存在していた。真白も自分の手とモモの手に気付いて驚いているのか少しだけ目を見開きながら、何とか一緒に立ち上がる。当然離れない手をそのままに。
「平気か? ってか何時まで手を繋いでんだよ?」
「離れないのよ。何故か」
「……は?」
無事である事を確認したナナが手を離さないモモをジト目で睨み始めるが、告げられた言葉で呆気に取られてしまう。そして確認する様に真白へ視線を向ければ、何も言わずに頷いてモモの言葉を肯定した。離れる事が出来なくなった原因で思い当たるのは1つだけ。モモが躓いたガラクタを拾い上げたララは、それが以前作った発明品である事を告げた。『触れたものに強力な磁場を発生させてくっつける』効果を持つ発明品であり、誤作動でモモと真白の手が付いてしまった。と。
『誤作動であれば、時間で効力が切れる筈です』
ペケの言葉に安心すると共に、しばらくこのまま過ごすしか無い事を理解した真白とモモ。そして2人は文字通り、離れられない生活を送る事になる。
「ララさんの発明でねぇ。じゃあ仕方ないか」
「……」
ララの部屋である異空間から結城家へ戻った真白はモモと一緒にリビングへ入った。そこでは美柑とヤミが適当に談話している姿があり、やって来た真白の姿を笑顔で迎える……と共に恋人の様に手を繋ぐモモの姿に驚いた。そしてモモが説明をした事で、美柑は苦笑いを浮かべながらも納得。ヤミは何も言わずにジッと繋がれた真白とモモの手を凝視していた。
「その状態じゃ大変だろうから、今日の夕飯は任せて」
「ん……お願い」
「御免なさい、美柑さん」
この後、普段通りに夕飯を美柑と共に作る予定だった真白。だが状況が状況故に美柑は笑顔で告げる。真白はそれに頷いて、モモは申し訳なさそうに謝った。「気にしないで」と美柑はそれに答えた後、キッチンに向かい始める。そしてリビングのソファに座る事にした真白とモモ。手を繋いでいる為当然隣同士であり、その距離は非常に近かった。すると、モモの座る左側とは反対の右側に何も言わずにヤミが座り込む。
「シア姉様。御免なさい。ご迷惑をお掛けしてしまって」
「……平気」
モモの言葉に首を横に振って答えた真白。するとリビングの扉が開き、リトが現れる。美柑だけがキッチンに立ち、真白がソファに座っている事に当然違和感を感じたリト。そして繋いでいる手を見て「何してんだ?」と質問した。モモが美柑とヤミにした様に説明すれば、リトはララの発明品が引き起こした事と聞いて少しだけ頭を抱える。が、すぐに真白たちの場所から離れるとキッチンへ向かい始めた。
「美柑。何かやる事、あるか?」
「それじゃあ……」
以前真白が子供に成ってしまった時と同じ様に、リトは真白が居ない負担を補おうと美柑の手伝いを始める。一度見ている真白とヤミは彼らしいと思い、初めて見るモモはその優しさに内心で感心した。そして夕飯の準備を2人に任せた真白とモモは、ヤミと共に時間を潰す事に。片手の自由は効かないが、まだ不便さを大きく実感していなかった2人。時間が経過して夕飯の時間になった時、離れられないモモは真白と共に結城家のリビングで食事を取る事に。ララは最初から結城家で食事を行っている為、必然的に1人になってしまわない様、ナナも参加する。そしてそこでモモは左手しか使えない不便さを実感した。
「箸が……くっ」
この日の夕飯は豚カツと豆腐の入った味噌汁。当然片手が使えない故にお椀を持つ事は出来ず、更にモモは聞き手では無い左手で箸を使わなければいけなかった。力加減が上手く行かずに崩れて行く豆腐。米を摘もうにも殆どがお椀に落ちてしまい、苦戦するその姿を前に真白が使える右手でモモに用意された味噌汁から箸で豆腐を掬い上げる。そしてそれをモモの口元に差し出した。
「し、シア姉様!?」
「なっ!」
「……」
「……手伝う」
食べさせて貰うその行為は世間一般に『あ~ん』と呼ばれており、無意識に行う真白の厚意にモモは驚き意識してしまう。見ていたナナが驚き、少し鋭くなるヤミの視線を受け乍ら真白の言葉を聞いたモモ。不意打ち気味だった為に戸惑ったものの、何とか平常心を取り戻しながらモモはそれを口に入れた。
「はむっ。……ふふ、美味しいです」
箸を持ちながら頬に手を当てて嬉しそうに感想を言うモモ。するとそれを見ていたララが自分もやりたくなったのか、真白に箸で挟んた食べ物を差し出した。真白は食べ方に困っていない為、ララの行動に首を傾げる。だが眩しい程の笑顔で「食べて食べて!」と告げるララを姿を見て、言われた通りそれを口に入れた。
「真白。どうぞ」
「ヤミさんも!?」
ララに続いて見ていたヤミが同じ様に真白へ食べ物を差し出した光景を見て、美柑は思わず驚いてしまう。そしてそれから始まるあ~ん合戦。食べさせた後は食べさせて貰おうとララもヤミも真白に催促し続け、長い時間を掛けて食べ物が無くなるまでそれは続く。特に意識している様子は一切無く、食べさせて貰う真白の姿はまるで餌付けをされている様にも見えて美柑とナナは思わず加わろうかと少し考えてしまう。だが恥ずかしさが勝った為に結局加わる事はしなかった。
「何か、平和だな」
「まう~?」
リトだけが普通に食事をしていた為に誰よりも早く夕飯を食べ終え、その光景を前に呟く。そしてその言葉を聞いていた大好物のラーメンを啜るセリーヌだけが、反応する様に首を傾げるのであった。
シャワーから飛び出す暖かいお湯を浴びながら、真白とモモは至近距離で並んでいた。夕食の後、普段ならヤミと共に帰宅する真白。だがモモと離れられない現状、真白が帰る為にはモモを連れて行く必要があった。モモは真白とヤミの家に行く事に嫌がるどころか楽しみといった様子を見せるが、何故かヤミとナナが反対。真白が結城家に泊まる事で話は進み、ヤミは美柑の部屋に。真白はモモとナナの部屋に泊まる事が決定した。そしてお風呂の時間になった時、当然離れられない真白とモモは一緒に入る事となったのである。
「湯加減は平気か?」
「えぇ、大丈夫よナナ。ところで何時までそこに居るつもり?」
「モモがシア姉に変な事しないか、警戒してんだよ」
「?」
浴室と脱衣所の間を塞ぐガラス製の扉越しにナナが2人に声を掛ける。モモはそれに返事をしつつ、真白には見られない様に振り返って訝し気に扉の向こうに居るナナへ質問した。そして返って来た答えに聞いていた真白が首を傾げる。今までモモが何かをした過去は無いが、ナナからすれば夕食の出来事が警戒するに値する事だったのだろう。モモは溜息を吐いた後、何かを思いついた様にニヤリと笑みを浮かべた。
「シア姉様、洗いっこしませんか? お互い片手が使えませんから」
「……ん」
「あ、洗いっこ……だと……!?」
浴室から微かに反響しながら聞こえるモモの声と了承する真白の声。戦慄したナナを余所にポンプ式のノズルを数回押す音が聞こえ、次に聞こえて来た声にナナは一気に顔を真っ赤にした。
「っ! ぁ……」
「あら、シア姉様。去年より少し大きくなりましたか?」
「……わから……なぃ。んっ!」
ナナの顔を赤くしたのは怒りよりも先に耳に木魂する真白の微かに漏れる喘ぎ。モモの言葉で今何処にボディーソープを塗っているのかも想像出来てしまい、だが文句を言おうにも今現在浴室に居る2人が身体を洗うのは当然の事故に我慢するしか無かった。
「後ろもお互いに
「……分かった」
モモは浴室の外に立って居るであろうナナへ聞こえる様に、そして一部の言葉を強調しながら提案する。しかしそれは僅かな差であるが故に一番近くに居る真白が気付く事は無かった。普通だったら気付いたのかも知れないが、微かにモモの手で感じている事で集中出来ないのかも知れない。ナナは聞こえてしまう言葉に恥ずかしさと気付けば湧き出る羨ましさを感じ続ける。その後、聞こえて来る真白の小さな声とモモの声を聞き続ける事になったナナ。2人は浴室から出た時、彼女が顔を真っ赤にして放心状態になっているのを見つける事となった。
真白は再び異空間に訪れていた。だがそこはララの部屋では無く、ナナとモモの部屋。真白は見慣れない天井を見上げながら、左右に温もりを感じていた。手が離れなくなってしまった事で、今日半日一緒に居続けたモモ。そして普段からモモと一緒に居る事が多く、この部屋の主の1人でもあるナナ。ベッドの上で2人に挟まれながら眠ろうとする真白だが、ふとモモの目が静かに開かれる。ベッドの上で真白へ向いて横伏せで眠るモモは、今現在も繋いだ手を見て口を開いた。
「大変な1日でした。……でも、少し楽しかった気もします」
「あたしは楽しくなかったけどな」
「まだ起きてたのね。……お風呂の時は流石にやり過ぎたと思ってるわよ。まぁ、後悔もしていないけど」
モモの言葉で目を開けた真白。そして今度は反対から聞こえて来るナナの声に再びモモが口を開く。そしてモモは目線を上げて真白の横顔を見ながら呟いた。
「シア姉様とこうして一緒に寝るのは、再会した時以来なんですね」
「……半年以上……前」
「結構あっと言う間だよな」
既に半年以上前、ナナとモモがゲームの世界を作ってリト達を巻き込んだ際に真白は囚われの身となっていた。囚われと言っても拘束されていた訳では無く、再会した2人と共に眠るなどしていただけだが。そしてそれ以降、こうして3人が一緒に眠る機会は訪れなかった。モモの言葉に真白は思い出す様に過去の事を、ナナは過ぎる速さを想う。すると、真白の手を握るモモの手に力が籠る。真白がそれに気付いてモモへ視線を向け、2人は見つめ合い始めた。
「シア姉様。明日にはきっと手も離れます。でもまた、こうして私達と一緒に居てくれますか?」
「偶にはこっちで泊まっても良いだろ?」
「……ん」
結城家に泊まる事は何度かあれど、真白が2人と一緒にこうして過ごした回数は少ないと言えるだろう。モモの言葉とナナの言葉を聞いて真白は静かに頷いた。何時も通りの小さく短い肯定の返事だが、2人は満足した様子で姉妹故に似た笑みを浮かべる。
「約束ですよ。……お休みなさい、シア姉様。ナナ」
「お休み、モモ。シア姉も、お休み」
「……お休み」
改めて眠る為、モモの言葉を皮切りに目を閉じる3人。気付けばナナも真白の空いていた手を握っており、3人は一緒に繋がる様にして眠りに付いた。
翌日、モモの予想通りに目が覚めた2人の手は無事に離れる事が出来るのであった。
各話の内容を分かり易くする為、話数の後に追加するのは何方が良いでしょうか?
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サブタイトルの追加
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主な登場人物の表記