結城家にて、アイスを舐める美柑とヤミの姿を視界に映しながら自らもアイスを舐める真白。その頭の上にはアイスを舐めるセリーヌを乗せており、バニラの甘い味を感じて微かに目を細める真白の姿は他人が見れば普段通りである。だが美柑とヤミは美味しそうに、嬉しそうに食べる真白の姿を真白が自分達を見つめる様に見つめていた。
『ただいまー!』
『お、お邪魔します』
「まう?」
「ナナさんが帰って来たみたいだね。春菜さんの声も聞こえたみたいだけど」
突然玄関が開くと同時に聞こえて来るナナの声。続いて控えめに春菜の声が聞こえた事で全員は玄関へ続く扉へ視線を向ける。そして出迎える為に美柑と真白が立ち上がれば、真白の頭に乗ったセリーヌは勿論ヤミもその後を着いて行く。玄関にはナナと春菜、そしてお静の姿があった。
「あ、皆さん! お邪魔します!」
「こんにちは」
「お帰りナナさん。春菜さんとお静さんもこんにちは。リトは出掛けてるよ? ララさんも何処か行ってるみたい」
「あぁ、違う違う。今回2人はあたしのお客さんだからな。あ、そうだ。シア姉達も一緒にやらないか? おっぱい作戦!」
「お、おっぱい作戦……!?」
挨拶を交わした後、美柑は春菜達がリトかララに用事があると予想する。それもその筈。春菜やお静と仲は良いものの、一緒に遊んだりする事等集まりでもない限りしないのだ。その点、ララは普段から春菜と遊ぶことが多い。お静は誰とでも仲良くしているため、今回は一緒だと思ったのだろう。が、ナナの言葉に珍しいと思った美柑。その後続けられた言葉に思わず首を傾げながら反応すれば、隣で真白も首を傾げた。セリーヌは落ちない様、器用にバランスを取っていた。
「あ~、美柑はこれから大きくなるかも知れないから必要ないかもな。シア姉はそこそこあるし、ヤミは自由に変えられるし」
「あ、あはは……」
ナナは困惑する美柑達の姿を前に顎に手を当てて1人で考え始める。呟いた言葉に春菜が苦笑いを浮かべる中、作戦名とその言葉から胸の大きさについての話だと察する事が出来た美柑。何をするかは分からないが、余り関わらない方が良いと思った美柑は「遠慮しとく」と答えた。美柑の答えにナナは少し残念そうにした後、真白とヤミの答えを聞く為に視線を向ける。……何処か官能的に溶けそうなアイスを下から舐める真白と食べ終わったヤミの姿がナナの視界には映った。
「! そ、それじゃああたしの部屋に行こうぜ!」
前者の姿に顔を赤くしながら視線を逸らしたナナは逃げる様に連れて来た2人を先導しながら階段を上って2階へ上がり始める。美柑が真白へ振り返った頃には彼女も既にアイスを食べ切っており、ナナに着いて行く2人の姿を見送った後に3人はリビングに戻った。だが真白は棒を捨てると冷蔵庫の前に立つ。冷蔵庫の中に存在する冷凍庫。引きだし部分になっているその中には、まだアイスが数本入っている。
「真白さん。あんまり食べるとお腹壊すよ」
「…………ん」
無表情で冷蔵庫の前に立つ真白の姿に考えている事が分かった美柑が警告する様に告げる。決して駄目とは言わないが、再び食べるのは余り褒められた事では無い。甘い物が好きなのは美柑も知っている為、悩んだ真白が長い間の後にアイスの誘惑を振り払って戻って来る姿に美柑は満足そうに微笑んだ。
「お客さんも来てるし、何か持って行ってあげようか?」
「鯛焼きが良いと思います」
「それ、ヤミさんが食べたいだけじゃ……」
「……分かった」
美柑の提案にヤミが続けるものの、美柑にはどう見ても自分が食べたい故に発言した様にしか見えなかった。だが真白は美柑の提案とヤミの注文を受けて鯛焼きを用意し始める。実はヤミが真白と再会して以降、真白の家と結城家の家の冷蔵庫には必ず鯛焼きが入れられる様になっていた。以前美柑とヤミが身体を入れ替えた際、リトに出した鯛焼きの創作料理も常に入れて置いた故に出せた品である。
1人1つずつ。合計7個の鯛焼きを用意した真白。コップを3つ用意して飲み物を注ぎ、お盆に乗せて鯛焼きを小さなお皿に3つ乗せる。残りの4つはリビングのテーブルに置き、真白は渡す為にリビングを後にする。リビングでは用意された鯛焼きを手に取るヤミと、何時の間にか降りていたセリーヌが鯛焼きを嬉しそうに頬張る姿があった。
ナナの部屋は屋根裏にある異空間の中。真白は既に何回か入った事がある為、迷わず扉の前に到着するとノックしようとする。だが聞こえて来た声にその手が止まった。
『ひやぁ!』
『や、止めてぇ……!』
『誰か助け……』
何が起きているかは定かでは無い。だが間違い無く良く無い事が起きていると悟った真白はその扉を開いた。過去に何度か見た事のある部屋の内装と共に真白の視界に入ったのは、小さな蛸の巨大な足に絡み付かれる3人の姿だった。何故か吸盤で執拗に胸を吸われており、甘い声と共に逃げ出そうとして出来ない様子である。
「し、シア姉! うぁ、助け……!」
「!」
ナナの弱った声に動こうとした真白は、突然下から迫る蛸の足に間一髪で避ける。しかし持っていたお盆が宙を舞い、鯛焼きや飲み物が床に落ちてしまった。逃げる真白を追尾する様に追い掛ける蛸の足だが、真白は足と足の間を通り抜けて一直線に小さなタコ本体へ接近。
「チュミ!?」
気付けば振り上げられた足に小さな蛸が驚く中、無情にもそれは振り下ろされる。踵は柔らかい小さな蛸の頭に大きく沈み込み、やがて跳ねあがる様に戻される。だが小さな蛸自身にしっかりダメージはあった様で、目を回しながらやがて伸ばしていた足を床に降ろした。無事に解放された3人の姿に真白は静かに部屋の中を見回す。
「……平気?」
『た、助かりましたぁ~!』
「ありがとう……真白さん」
「う、うぅ……戻れ! オクちゃん!」
真白の言葉に肉体から離れて霊体になったお静と春菜がお礼を告げる中、両手を床について四つん這いになっていたナナはデダイアルを取り出すと同時に小さな蛸を消し去る。どうやら小さな蛸は動物好きのナナが飼っている生き物だった様だ。帰って来た際にナナが告げていた作戦とどう関係するのか分からずに首を傾げる真白を見て、流石に説明しない訳には行かないとナナが口を開いた。
「胸を大きくしたかったんだよ……今日の朝、モモに馬鹿にされて……見返してやりたくて」
ナナによれば朝、モモにブラが必要の無い胸と馬鹿にされた事で大きくする事を決意。相談した春菜とお静の2人と共に胸を大きくする方法を考えていたとの事であった。誰かに揉まれれば、キューオクトパスと呼ばれる先程の小さな蛸に吸わせれば。そんな様々な情報を実際に行った結果、あの様になったと。人の成長は人それぞれであり、それは宇宙人でも変わらない。今までナナが悩む姿を何度か見ていた真白だが、本気で悔しそうな姿を前に出来る事は1つだけだった。
「……へ?」
「……無茶は……しない」
突然優しく抱きしめられた事に戸惑うナナ。そんな彼女へ静かに真白が告げれば、その変わらず抑揚の無い声音に心配が混じっている事にナナは気が付いた。何も言えずに抱擁を受けるナナの姿を前に、春菜が真白の背後からナナへ向けて口を開く。
「無理に大きくする必要、無いんじゃないかな?」
「で、でもさ……」
「周りには確かにスタイルの良い人が沢山いるよ。だからつい自分に自信が無くなっちゃう時もあると思う。でもね、ある人が言ってたんだ。『大切なのは外見じゃ無くて、中身だろ?』って」
「それ……リトか?」
「うん。そんな風に言ってくれる人もいるの。だからナナちゃんはナナちゃんのままで良いと思う。……無理に変わろうとする必要なんて無いんだよ、きっと。心配してくれる人がいるなら、尚更ね」
『ナナさんも十分可愛いですから!』
「春菜……お静…………ごめん、シア姉。心配掛けて」
「ん……」
春菜の言葉と霊体の姿で笑顔を見せながら続けるお静の言葉を聞き、ナナは自分を抱きしめる真白の背中に手を回して謝る。今でも胸を大きくしたいと思う心は変わらない。ナナにとって胸がある事は大人である証拠であり、子供の様に何時も見られる事は決して嬉しい事では無い故に。だがそれと同時に少しだけ、自分を包む暖かさに思う。
「(子供の方が良い時も……あるかもな……)」
胸の大きさを馬鹿にする者もいるが、決して気にしない者もいる。モモの様に胸がある者に比べれば大人っぽく無いかも知れないが、それでも今自分が受けている抱擁は自分の為に心配した真白の厚意だった。ナナは嬉しく感じ乍らしばらくその時間を感じ続け、やがて真白が離れた事で頭を切り替える。
「あたしはあたしだ! これからは外見も中身も磨いて行くぞ!」
ナナの言葉に胸に関して諦めていない事を悟った春菜が苦笑いを浮かべるが、彼女らしいとも感じた故に口を出す事は無い。無表情乍ら何処か優しさを感じる真白の視線を受けて、ナナは自分の部屋を見回した。……そして荒れた惨状に気付いてしまう。キューオクトパスが暴れた事で部屋の物は散らかり、入り口付近の床は真白が持って来た飲み物が零れたせいで濡れてしまっている。鯛焼きも不幸な事に飲み物を被って一部がふやけてしまっており、食べても余り美味しく無いだろう。ガックリと肩を落とすナナの姿に春菜が片づけを手伝うと言い出せば、身体に戻ったお静も笑顔で続ける。真白もナナを見て頷いた事で同じ意思を示し、ナナはお礼を言いながら3人と共に部屋の片づけを始めるのだった。
各話の内容を分かり易くする為、話数の後に追加するのは何方が良いでしょうか?
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サブタイトルの追加
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主な登場人物の表記