【完結】ToLOVEる ~守護天使~   作:ウルハーツ

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第85話 好感度MAXの真白

 朝の陽射しがカーテンの隙間から部屋の中を照らし、それを目元に浴びる事でベッドに眠っていたモモは目を覚ます。普段からナナと一緒に使っている自室では無い部屋の内装を眺め、まどろみの中で自分がどうしてここで寝ているのかを思い出したモモは左右を確認した。左には飾り気の無い部屋の内装と廊下へ続く扉が、右には静かに寝息を立てる真白とその向こう側にある壁がモモには見えた。……そこは結城家の1室。真白が結城家で住む上で使われる様になった部屋であった。

 

「ふふ、おはようございます。シア姉様」

 

 モモは上半身を起こして眠る真白に近づくと、少しだけ姿勢を低くしてその頬に触れる。人肌の暖かさと彼女の柔らかさを感じて寝起きから上機嫌になったモモは、身体を再び横にして真白が被る布団の中へ手足を忍び込ませる。時刻は7時を回った頃であり、普段なら別の家から結城家へ来る為に起きている真白。だが朝食を作る場は起きてすぐとなった為、必要以上に早く起きる必要が無くなっていた。そして何よりも今日この日、真白たちが通う彩南高校は休みであった。

 

「シア姉様の身体。シア姉様の体温。はぁ~」

 

 真白が結城家で住む事を知った時、モモは目に見えて喜びを露わにするララと美柑や嬉しさを隠そうとして隠し切れていないナナの姿を見ていた。そんな彼女の尻尾も無意識に動き回っていたが、それを本人が知る由も無い。唯彼女がその話を聞いた時に感じたのは喜びと震えであった。前者はララ達と同じ様に。後者は今まで以上に傍に居られる現実に、である。

 

 引っ越しする上で大変な家具の移動はその殆どを失っていた真白にとって必要無い事。2階建ての結城家はララ達が来るまでリトと美柑が住んでいただけであり、元々部屋に余りは存在していた。何よりまだ幼い頃に真白が使っていた部屋を、リトと美柑が何時か来るこの時を願って残していた事で引っ越しは1日も掛からずに終える事が出来た。故に真白は結城家でその日から寝泊りする事が出来る様になったのである。

 

「今頃まだヤミさんは美柑さんと一緒の筈。今の内にシア姉様を堪能して置かないと」

 

 今まで真白と共に同じ布団で眠っていたヤミは現在、美柑の部屋で眠っている。彼女は自分の部屋を持つ事はせず、基本的に真白や美柑の部屋で過ごす様になったのだ。間違い無くヤミが今この場に居れば、モモが潜り込む事は不可能だっただろう。だが異空間とは言え結城家に住むモモがヤミの寝場所を把握出来ない訳が無かった。

 

「あぁ、良い匂い……少しだけなら」

 

「すぅ……んっ……」

 

 真白の首筋で息を吸い込んでその香りを堪能していたモモは、他に誰も居ない事を良い事に忍び込ませていた手を動かし始める。その身体を抱きしめるだけで満足していた筈なのに、気付けばパジャマの下へ手を入れて直にその柔肌に触れ始めた。身体を撫でるモモの手によって微かな吐息を漏らす真白の姿に目を細め、何かに気付いた様にモモは目をその見開く。

 

「し、シア姉様は寝る時、下着を着けないのね」

 

 胸元へ伸ばした手が触れたのは布では無く、柔軟性と弾力を兼ね備えた真白の胸であった。衝撃の事実とでも言うかの様にその背後へ雷を落として驚いたモモは1度廊下へ続く扉へ視線を向ける。誰かが入って来る気配も、誰かが近づいて来る気配も無い。……彼女は意を決した。

 

「んぁ!」

 

「! ……ふぅ、起きて無いですね」

 

 輪郭をなぞった後に片手で包み込む様にして柔らかい肌を撫でながら指で突起を摘んだ瞬間、余り聞く事の出来ない真白の嬌声に吃驚したモモは下手に動かずに真白の片乳を掴んだまま固まる。やがて聞こえて来る寝息に安心したモモはゆっくりと手を引き抜こうとする。が、突然真白が動き出すと共にモモは先程以上に血走った目を見開いた。

 

「し、しし、シア姉様……!」

 

「すぅ……すぅ……」

 

 寝返りをして体勢を変えた真白は無意識にモモの目の前にその顔を移動させていた。1㎝にも満たない距離でその顔を見たモモは顔を真っ赤にして服から手を抜く事も忘れたまま、その寝顔を見つめ続ける。気付けば布団の中から飛び出た尻尾を真白の身体に1周させ、やがてそれは2人の間に入り込む。

 

「ふ、ぅ……シア姉、さまぁ……んっ、あ」

 

 真白の顔を見つめ乍ら、真白の身体にデビルーク星人特有の敏感な尻尾を擦りつける事で快感を得るモモは熱い吐息を漏らす。起きない様に弱く、だが着実に達する事が出来る様に続けたモモは数分後にその身体を震わせる。額から汗が流れ、途端に罪悪感の様なものを感じた彼女は巻き付けていた尻尾を真白から遠ざける。

 

「どうして、私は……」

 

 もう1人の姉として敬愛する真白にした行為を思い出して思わずモモは呟いた。罪悪感と共に感じる別の心の中にある感情。彼女はそれに気付き掛け乍ら、真白に気付かれる前に部屋を後にするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……おはよう」

 

「あ、おはよう! 真白さん!」

 

「おはようございます、真白」

 

 目が覚めた真白は私服の姿で1階のリビングに顔を出す。そこではまだパジャマ姿の美柑とヤミが過ごしており、真白の声に振り返った2人は返事を返した。

 

「……誰かと一緒でしたか?」

 

「? ……1人」

 

「そうですか。何故か身体から違う誰かの匂いがするのですが……」

 

 2人の元へ近づいた時、真白は唐突にされた質問に首を傾げながら答える。ヤミはそれを聞いて呟きながら考え始め、美柑はヤミの言葉に顔を引き攣らせる。人それぞれ特有の匂いを持ってはいるものだが、美柑にそれを判別する能力は無い。そもそも犬や猫でも無い人が人の匂いを判別する方が難しい事である。が、真白に対してだけ敏感に察知するヤミの姿に引かずにはいられなかった。「混ざっている匂いは近しい者な気がするのですが」と呟くヤミに今だけは関わらないと決め、美柑は真白へ視線を向ける。

 

「朝ご飯、作ろっか。着替えて来るね」

 

「ん……」

 

「私も着替えて来ます」

 

 美柑とヤミが着替える為にその場を後にする姿を見て、エプロンを手に取った真白はそれを付ける為に背中へ手を回す。その瞬間、前方から何かが胸目掛けて飛び込んだ事で真白は尻餅をついてしまう。

 

「まぁまぁ、ぅ~」

 

「……セリーヌ……!?」

 

 それは寝起きのセリーヌであった。真白が立ち上がる為、まだ結べていないエプロンの紐をそのままに彼女の身体を両手で持ち上げた時。セリーヌの頭に付いた花から突然噴き出した花粉が真白の身体を包み込む。突然の事に驚きながらも怪我させない為にセリーヌはしっかりと持ち続けた真白。やがてその花粉が全て地面に落ちた時、真白の頭には綺麗な1本の花が咲き誇る。

 

「お待たせ……って、真白さん!? 何その頭の花!」

 

 着替えを終えてリビングへ戻って来た美柑が真白に声を掛けた時、振り返った彼女の頭を見て驚きの声を上げる。美柑の背後から同じ様にヤミも姿を見せ、頭の花と持ち上げているセリーヌの姿を見て理解した。嘗てヤミは真白の知らぬ所でセリーヌの花粉を浴びた事があったのだ。セリーヌの花粉を浴びた者はセリーヌが大好きな人物の事を自分も好きになってしまう。……セリーヌが一番好きな人物は、自分を一番世話してくれたリトであった。

 

「不味いですね。結城 リトに絶対会わさない様にしなければ」

 

「えっと、どう言う……! 真白さん?」

 

 ヤミの言葉に訳も分からず首を傾げた美柑。だが次に真白へ視線を向けた時、彼女が自分達の目の前に立っていた事で美柑は再び首を傾げる。何も言わずにそっと手を伸ばした真白は美柑の右手とヤミの左手を取り、優しく握り込んだ。

 

「……待ってた」

 

≪!≫

 

 明らかに可笑しい真白の姿に理解していた筈のヤミと理解の出来ない美柑が絶句する中、他の者達も起床するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「恐らくは寝起きのセリーヌ殿の花粉を宇宙人である真白さんが浴びた為、効果が変化したのだと思われます」

 

「まだまだ分からない事が多い種ですから、何が起きても不思議ではありませんが……まさかこんな事になるなんて」

 

 ペケの説明を受けて難しい顔で考えるモモ。彼女は現在、必死にとある現実から目を反らしていた。現在リビングには結城家に住んでいる者達全員が集まっており、ペケの説明を受けてリトが真白へ視線を向ける。……現在、彼女はソファに座っていた。隣で座るナナの手を握って。

 

「し、シア姉? そろそろ離れないか?」

 

「……や」

 

「! や、やばいぞこれ。姉上、モモ……助けて」

 

 緊張した面持ちで手を握る真白に話しかけたナナだが、髪を大きく揺らしながら首を横に振って断られた事で、彼女は空いていた手で鼻を塞ぎながら自分達を眺めるモモとララに助けを求める。彼女はある意味現在、命の危機に瀕していた。普段は絶対に甘えて来る事の無い真白が自分を離さない現状に、悶え死にそうになっていた。

 

「後10分もしたら対象が変わるから、それまで頑張りなさい」

 

「無理無理! こんなの10分も耐えられないって!」

 

「……ナナ。……私の事、嫌い?」

 

「き、嫌いな訳ないって! そ、その、好き……だぜ?」

 

「! ……ナナ、大好き」

 

「ぐはっ!」

 

 冷たい視線で告げるモモの言葉に必死で首を横に振ったナナだが、無表情乍らも何処か不安そうな声音で聞く真白の質問に顔を赤くして返答。直後、自分の身体を寄せてナナに弱々しくも抱き着いて告げた真白の言葉にナナの周りに鮮血が舞った。そんな光景を見て更に冷たい目線を送るモモ。その理由の多くは嫉妬であった。

 

「そろそろ時間です」

 

「次は誰に……!」

 

 ヤミの言葉にリトが緊張した面持ちで唾を飲んだ時、血溜まりに伏せるナナから離れた真白が立ち上がる。そしてゆっくりと歩きだした彼女が近づいた相手はララであった。自分の元に近づいて来た真白に満面の笑みを浮かべたララが両手を広げれば、真白は自らその身体に抱かれる為に身を寄せる。リトが安心した様に溜息を吐いたところで、朝食を作り終えた美柑が皿を手にキッチンから顔を出した。

 

「取りあえず30分は安心だね」

 

「まさか時間毎に相手が変わるとは思わなかった」

 

「リト殿の事が一番に好きなセリーヌ殿ですが、他の皆さんの事もやはり好きなのでしょう。寝起きである事と真白さんが宇宙人である事が重なり、リト殿だけに特化するのでは無く全体を対象に異常な好意を抱く様になった様ですね」

 

「ちゃんと戻るんだよな!?」

 

「過去の出来事から見るに、時間で戻ると思います。どれ程の時を有するかは分かりませんが」

 

 ペケの言葉に一先ず安心するリトは改めて頭に花を咲かせた真白を見る。過去にセリーヌの花粉を浴びた者達を見て来たリトは最初、真白の頭に咲く花を見て不味いと感じずにはいられなかった。セリーヌの好きな人物が自分であり、同じ様に花を咲かせた者が急に自分へ好意を抱き始めた過去を体験しているのだから当然である。普段から無表情な真白がどんな風になるのか想像もつかず色々な意味で戦慄したリト。だが実際に見て見れば、彼女の好意を抱く対象は時間毎に切り替わると言うものであった。最初は美柑とヤミ。次にナナとなり、現在はララに抱きしめられている。

 

「私とヤミさんが一緒だったって事は、1人だけじゃ無い時もあるって事だね」

 

「セリーヌ殿が普段から見ている光景によって変わるかも知れません」

 

「美柑とヤミは良く一緒に居るから、セリーヌは一緒に居る2人を好きって考える訳か」

 

「恐らくは」

 

 リトと美柑はペケからの話を聞いて取り敢えず時間が来るまで真白を見守る事にした。まともに家の事を出来なくなってしまった真白に変わって美柑が1人で作った朝食を食べる為に席に着こうとすれば、普段はヤミと隣で座る真白がララの隣へ。何も言わずにジッと見つめるヤミの姿を見て美柑やリトが思わず恐怖する中、モモは瀕死のナナを連れて同じ様に席へ座る。全員が手を合わせて食べる為に言葉を告げた時、真白は迷わずに食べ物を端で掴んでララへ向けた。

 

「……はい」

 

「食べさせてくれるの! わーい! はむっ!」

 

「……美味しい?」

 

「うん! すっごく美味しい!」

 

 以前の片手が使えなかったモモの時とは違う。好意によって齎される所業。羨ましがるモモやナナとは対照的に、ヤミは恐ろしい程に無表情のまま黙って食事を続けた。自分が作った料理の筈なのに、それを食べて喜ぶララの姿に少しだけ不満を感じた美柑も黙々と食事を開始。何とも複雑な空気の中、リトは朝食を過ごし続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、おい真白!?」

 

「……逃げないで」

 

 朝食を終えた頃、真白の対象はララからリトへ変更された。幸い休日だった故に学校の心配は無いが、部屋の中でリトは真白から必死に距離を取る。真白は対象となった相手に必ずする行為がある。それは相手と手を繋いで絶対に離さない事だ。ここ数年で色々なものを見て来たリトだが、それでも初心である彼が女の子と手を握り続けるのは羞恥心が勝る故に難しい。何よりも他の者達と違い、自分に対象が向いた瞬間に向けられるヤミの射貫く様な視線がそれを良しとしない。仮に自分が我慢して真白の手を握り続けたところで、後に命が続かない予感が彼にはあった。

 

「……私の事……嫌い?」

 

「いや、嫌いとかじゃ無くて! うわぁ!」

 

 リビングの中を駆け周る2人。真白の質問を必死に返しながら距離を取り続けた彼は思わず足を滑らせる。離れていた身体が真白へ一気に近づき、その身体を押し倒して倒れたリト。顔が真白の胸に埋もれ、真っ赤にし乍ら急いで顔を離そうとしたリトの頭に優しく真白の手が乗った。

 

「ふぁ、ふぁしろ!?」

 

「んっ……リトが……したい、なら……良い、よ?」

 

 顔を引き剥がせないリトに向けて優しい声音で無表情乍ら告げたその姿に目を見開いたリトだが、背後からの恐ろしい程に向けられる殺気に気付いたリトは頭に力を入れて真白の胸から距離を取る。振り返ればそこには見ていた筈のヤミが片手を刃にして近づいて来る姿があり、リトの額に冷や汗が流れた。

 

「殺さないと言いましたが、今ならまだ前言撤回で済むでしょうか」

 

「や、ヤミ? 今のは業とじゃ無くて……真白もセリーヌの花粉で可笑しくなってるだけだから」

 

「問答無用です!」

 

 斬りかかったヤミに両手を交差させて思わず目を瞑ったリト。だが一向に痛みが来ない事で恐る恐る目を開けば、リトの前に庇う様にして真白が立っていた。

 

「……させない」

 

「くっ、退いて下さい真白。その男を殺せません」

 

 元々家族を守ろうとする真白がリトを守るのは当然であり、現在の真白がリトを守る為にヤミと対峙している事も決して不思議な事では無かった。真白を攻撃する訳にもいかず、手を元に戻して告げるヤミに容赦なく構えた真白。リトが驚きながら今正に戦いを始めようとする真白へその名前を叫んだ時、彼女はヤミに急接近した。そしてその拳がヤミへ襲い掛かりそうになった時、ヤミの目の前でその行為が止まる。と同時に真白はヤミの身体を抱きしめた。

 

「……ごめん」

 

 そう言って抱きしめる力を強くする真白の姿にリトや見ていた者達は察する。次の対象がヤミである事を。リビングで戦いが始まらなかった事に全員が心底安心する中、真白はヤミの身体を解放すると同時に両手を握る。自分を見て、自分の手を握る真白の姿に気付けばリトへの殺意など忘れてソファへ移動したヤミ。2人は向かい合って見つめ合い、何も言わずに時間を過ごし続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ、幸せです……!」

 

 真白と手を繋いで傍にいるモモは幸福を感じていた。普段から手を握る事等頼めば行ってくれるだろう。だが自分から頼むのと真白からされるのでは大きな違いがある。周りの視線が気にはなるものの、モモはやがて今の時間を好機と見て真白へ話し掛けた。

 

「シア姉様、大好きです」

 

「ん……私も、大好き」

 

 自分の言葉に好意を言葉にして返してくれる真白の姿を見て、内心で身悶えたモモは少しだけ距離を詰めて肩と肩を触れ合わせる。手だけで無く、身体で互いの体温を感じるモモの表情は恍惚としていた。だが、そんな彼女の心に水を刺す様にヤミの声が告げる。

 

「そろそろ変わります」

 

 一気に冷水を掛けられた様な気分となり、離れてしまうであろう真白の手を強めに握ったモモ。心の中で離れたく無いと思った時、真白は片手をモモから離して立ち上がらずに手を伸ばす。距離がある故に届かないが、その手はモモを羨まし気に見つめるナナに向けられた。

 

「……来て」

 

「あたしか? でもモモの手も握ってるし……」

 

「私とヤミさんみたいに2人なのかも」

 

 ナナが驚きながら疑問に思うが、美柑の言葉を受けて納得した彼女は真白の言う通りにその傍へ近寄る。真白を挟んで左右にナナとモモが座れば、2人の手を握って真白はその手を自分の胸元に近づけ乍ら稀に頬で頬擦りをした。今朝同様、鼻の辺りに熱を感じて必死に顔を背け乍ら抑えるナナとは対照的にモモは真白の肩へ自分の頭を乗せる。ナナが混じりはしたものの、まだ離れなくて済んだ事に心の中で歓喜したモモ。3人はそのまま一緒の時間を過ごし続ける。

 

 数時間後、真白は好意を抱く対象を変えながら過ごし続ける。時間は昼食が近くなった頃、美柑がキッチンに立とうとした時に真白の対象が美柑になっていた事でそれは起きた。

 

「あちゃ~」

 

「……怪我、無い?」

 

「うん、私は大丈夫。でも服が……あぁ、下着も濡れちゃってる」

 

「ここは私達がやりますから、美柑さん達はシャワーでも浴びて来てください。シア姉様の事、お願いします」

 

 自分が対象ならば何時も通りに料理が出来ると思っていた美柑だが、真白が片手を握ったままである事を彼女は忘れていた。作り始めてしまっていた料理を止める訳にも行かず、片手で何とかしようとした美柑。だがそれは無理な話であった。幸い熱いものでは無かったが、汁物を大胆に零してしまった美柑。傍に居た真白と共にそれを浴びた2人は見事に濡れてしまう。驚きながら駆け寄ったモモが濡れた2人を見てそう言えば、美柑はその言葉に甘える事にした。

 

「よいしょっと。真白さん、大丈夫?」

 

「ん……入る」

 

 脱衣所で着ていた服を抜いだ美柑と真白は浴室へ入る。最初はシャワーのお湯が水である為、関係ない所で暖かくなるまで待った後に美柑は真白に一言告げてその身体にお湯を流し始めた。暖かいお湯に分かっていても一瞬身体を震わせた真白は、適当に暖まったところで美柑からシャワーを受け取る。同じ様に美柑へお湯を掛けた後、先に美柑から身体を洗う事となった。……そこで美柑は以前一緒に入った時にした洗い合いを思い出す。今の真白がそれをする可能性は非常に高く、その予感は的中した。

 

「ふぁ! ま、真白さん……?」

 

「……私が……洗う」

 

 お湯を止めてボディソープを手に背中から抱き着く様にして真白は美柑の腹部を撫でる様に広げ始める。以前と違うのは真白が密着しようとする故、背中に感じる柔らかい感触。そして彼女の手が優しさとは別の何かを感じさせる事であった。

 

「ん、くっ……ぁ……ま、しろ、さん」

 

「……気持ち、良い?」

 

 美柑は真白の言葉へ正直には答えられない。恥ずかしさがその言葉を胸の内に押さえ付けるからである。腹部から右手が上へ、左手が下へ動き始めた時。美柑は咄嗟に身体を1回転させて真白と間近で向き合う。胸も大事なところも触られる事無く、だが至近距離で見つめる吸い込まれそうな赤い瞳に美柑は動けなくなってしまった。そしてそんな美柑へ徐々に真白の顔が近づき始める。何をしようとしているのかは明らかだった。

 

「(ど、どうしよう!? このままだと私、真白さんとキスしちゃう! 家族なのに! 女同士なのに!)」

 

「……美柑」

 

「(真白さんのこんな切なそうな顔、初めて見たかも。……あの花のせい、だよね)」

 

 目の前に見える真白の表情は変わらない無表情にも見えるが、美柑にはその違いが分かる。故に焦りながらも見せるその顔を見て美柑は真白の頭に咲く1輪の花を見上げた。全てはあの花が真白を可笑しくしているとペケが語った。真白はセリーヌが好きな人物を好きになり、本当の真白は今そこに居ない。……美柑は葛藤する。

 

「(今の真白さんは本当の真白さんじゃない。キスしたって何の問題も……ううん、身体は真白さん何だから結局本当の真白さんとした事になっちゃう! でも身体は動かないし、真白さんから迫って来たら逃げようが無いんだから仕方ないよね。うん、しちゃっても私は悪くないと思う)」

 

 赤い瞳を見つめ乍ら短時間で必死に自分へ弁解して納得した美柑は、やがて受け入れる様に目を瞑った。少しだけ唇を前に向け、完全に心から受け入れる覚悟を固めて。だが柔らかい感触が唇に当たるよりも先に、何か湿った者が胸に落ちた感触で美柑は目を開ける。真白の頭を見れば、そこに生えていた花は何処にも無かった。そして、2人の胸の間に先程まで生えていた花が落ちている光景。真白の接近も止まっており、美柑は急激にその顔を赤くする。

 

「ま、真白さん……!?」

 

「……?」

 

 気付けば背中を抱きしめていた真白の手から力も抜けており、美柑は後ろに下がって距離を取る。真白は異常な好意を失った事で美柑の反応に首を傾げ、周りを見た。今の彼女には記憶が所々抜け落ちて居るのだ。ナナやモモ達と手を繋いだ記憶はあるが、『大好き』と告げた記憶は無い。リトに押し倒された記憶はあるが、その先の行為を受け入れた記憶は無い。美柑と自分が濡れてしまった為にシャワーを浴びに来た記憶はあるが、キスをしようとした記憶は……無い。

 

「(私、真白さんと……しかも最後は受け入れようと……うぅ、真白さんの顔が見れない!)」

 

 恥ずかしさ故に顔を両手で覆う美柑の姿に真白は理由が分からず、暖かい浴室の中で平常心を取り戻すまで美柑を待ち続けた。やがて何とか動ける様になった美柑と身体を洗ってリビングに戻った真白。真白の頭から花が無くなっている事にリトとナナが安心し、ララ・モモ・ヤミの3人が残念に思う中。美柑が顔を真っ赤にしている事に気付いたモモによって、何があったかを聞かれた彼女は部屋へ逃げ込んでしまうのであった。

各話の内容を分かり易くする為、話数の後に追加するのは何方が良いでしょうか?

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