日曜日。結城家で住む様になった真白だが、変わらず1週間に1度は御門の家を訪れていた。顧問をしている訳では無いが、部活等がある故に土曜日と平日は彩南高校に居続ける御門。しかし日曜日は朝から晩まで家の為、真白が家に入れば最初にお静が。次に寝起きの御門が出迎えた。
「朝ご飯、作りますよね?」
「ん……」
「用意して来ます!」
お静がそう言ってキッチンへ向かったのを見て、真白も後を追おうと動き出した時。去って行ったお静の姿を見ていた御門が静かに口を開いた。
「昨日からあの子、少し様子が可笑しいのよ」
「?」
「何処かうわの空で、時折何かに怯えているみたい。心当たりはあるかしら?」
御門の言葉に首を傾げた真白は、続けられた問いに首を横に振って答えた。学校でお静と一緒に過ごす回数は決して少ない訳では無い。だが一緒に居ない時も当然あり、その間に起きた出来事に関して真白は知る由も無かった。御門は「出来れば気に掛けてあげて」と言って部屋へ戻って行き、残された真白はキッチンへ。既にリビングではテーブルを前にしてジッと椅子に座るヤミの姿があり、彼女の視線を受け乍ら真白はキッチンの中へ入る。
「……」
「……危ない」
「へ? あ、すいません!」
入って早々、真白が見たのは包丁を手にし乍ら自らの手を見ないお静の姿であった。動かしていた包丁は片手で抑えた野菜を適当な大きさに切ってはいるが、その大きさはどれもバラバラ。放って置けば怪我をする可能性もあり、真白は御門の言葉を思い出してお静から包丁を奪った。
「? 真白さん?」
「……何か……あった?」
包丁を取られて首を傾げたお静は真白の質問に目を見開いた。彼女はある事を抱え乍ら、それをどうするべきか分からずに困惑し続けていた。それでも日常生活において支障が出ない様に、心配されない様に努めていた……つもりだった。真白の言葉でそれが出来ていなかった事を知り、お静は空笑いした後に決意した様子で真白と目を合わせる。
「黒咲 芽亜さんの事です」
「!」
お静の言葉に今度は真白が目を見開く事となった。
「彼女がヤミちゃんの妹を自称している事も、真白達へ襲い掛かった事も既に知っているわ」
「そ、そうだったんですか! うぅ、『必死に悩んでいた私は一体……』」
お静が抱えていた内容は数日前、彩南高校に居た時に興味本位で起こした事が始まりだった。新しくナナに紹介されて交流を持つ様になった黒咲 芽亜ともっと仲良くなれる様に、彼女の中に霊体となって入ったお静。彼女の心の内を知る事が出来れば、より仲良くなれると思ったのだ。が、その結果お静は芽亜の過去を見てしまう。それはヤミを探す彼女が宇宙人を相手に戦う姿であり、更にその奥にあった『何か』によってお静は消される寸前になったと語る。何とか芽亜の中から抜け出す事には成功するが、その時に見つめられた芽亜の視線を思い出す度に彼女は震えてしまう。自分だけしか知らない芽亜の本性と、その内に秘めた『何か』。お静は誰にも相談出来ず、抱えていたのだ。だがお静は御門から告げられた事実に驚き、一気に脱力。身体からも抜けてしまう。
真白とヤミが消息を断った時、御門は真白をお静にも隠して自分の元へ匿っていた。だが当然何の理由も知らされずに協力する訳では無い。ヤミから唯一説明を聞いていた彼女は既に黒咲 芽亜が唯の生徒では無いと知っていたのである。ヤミについてはその身体を調べる等して多少の知識を持つ御門。だが芽亜については分からぬ事ばかりらしく、警戒し続けてはいるものの現在出来る事は何も無かった。故に芽亜の本性を知り、共有する者は真白・ヤミ・御門の3人だけであった。が、今日この日お静が仲間入りする事となる。
「……内緒」
「既に貴女が彼女の内を知っている事を、彼女は知っている。その上でここに居られると言う事は、今すぐ手を出す気は無いと見て良いわ」
「ですが誰かに言おうとすれば、黙っている訳には行きません。必ず動きます」
真白の言葉に御門とヤミが続ければ、流れぬ唾を飲んで緊張した面持ちで頷いた霊体のお静。正直者の彼女が周りに話をすれば、信じて貰える可能性は十分にある。だが始めての友達として芽亜を大事に思っているナナ等は否定する可能性もある。そして芽亜本人に確認しようとすれば……他の者にも危険及びかねない。今1度心の中に知ってしまった事実を抱えると約束した4人。他の誰かに話す事は出来なくても、自分と同じ事実を知る者が居る事にお静は安心するのであった。
結城家にて、暑さ故に薄着でアイスを食べる美柑は頻繁に時計を眺めていた。真白が朝早くから出た事は知っており、彼女が日曜日は結城家以外の場所へ行っていた事も当然美柑は知っている。だが日曜日は殆ど会えなかった真白の家は現在、結城家である。何時帰って来るのか気になっている美柑の姿にモモが微笑んだ後、ふと思い付いた様に口を開いた。
「そう言えば、シア姉様の子供の頃ってどんなだったんですか?」
「真白さんの?」
モモは嘗てデビルークとエンジェイドの関係として交流していた時の真白しか幼い頃の彼女を知らない。エンジェイドが滅んだ後に逃げた彼女がヤミと出会い、そして地球に来た事は既に知っていたモモだが、どんな風に過ごしていたのかは何も知らなかった。記憶にある一番古い時から無口で無表情だった真白が今でもそうである為、その辺りは何も変わっていないと言う確信がある。が、それでも自分の知らない真白の幼少期がモモは気になった。
「う~ん、最初はあんまり上手く行かなかったよ。私もあまり覚えて無いけど、最初は避けてたみたい。怖いって、ちょっと思った記憶はある」
「今はそんな事無いけどね?」。そう言ってアイスを口に入れた美柑は甘さを感じて微かに微笑んだ後、話を続けた。
「真白さんは今と同じで全然笑ってくれなかった。だからリトが必死に笑わせ様として、結局駄目で落ち込んでさ」
「ふふ、リトさんらしいですね」
「私は必死なリトがおかしくて面白かったけど……多分あの時、真白さんには私もリトも見えて無かったんだと思う」
食べていたアイスの残りが少なくなり、美柑はそれを一口で食べ切るとテーブルに置いてあったお皿の上へ残った棒を置いた。モモは美柑の言葉に訳が分からず首を傾げ、美柑はそんな姿に何と続けるか悩む。だが少し考え続けた後、再び話を続けた。
「お母さんに拾われて、いきなり帰って来たと思ったら『新しい家族よ』って真白さんを紹介されてさ。私もリトも当然驚いたけど、真白さんからしたら受け入れられなかったのかも知れない。だって真白さんは本当の家族が居なくなって、一緒に居たヤミさんとも離れ離れになったんだよ? 私だったら、多分思っちゃう。『家族何てもう要らない』って」
「そう、ですね。2度も失ってしまったら、3度目が来ない様に自ら拒んでも不思議ではありません」
モモは悲痛な面持ちで美柑の言葉に同意した。真白の家族を奪ったのが自分の父親故に、その痛みを感じさせてしまった事をモモは苦しく思ってしまう。
「でもね。どんなに真白さんが私達から距離を取ろうとしても、リトだけは絶対に諦めようとしなかった。『笑わないなら絶対に笑わせてやる!』って意気込んで、私も一緒に色々な事やらされたっけ。……でもある日、真白さんが私達に言ったんだ」
『……私は……家族じゃ、無い』
「……」
「それから真白さんはもっと私達を避ける様になった。普段から喋る事が少なかったけど、殆ど1日中話さない時だってあったんだよ?」
今現在の生活を知るモモからすれば、それは驚くべき事であった。決して口数の多く無い真白だが、それでも彼女は挨拶もすれば話もする。結城家に来た時からそんな姿を見ているモモからすれば、リトや美柑との会話を拒否する真白の姿は想像する事すら難しい光景であった。
「それから、どうしたんですか?」
「さっきも言ったけど、真白さんは私達を避ける様になったよ。だから顔を合わせるのは家の事をしてくれる時と、ご飯の時だけ。一緒に居る時間も減って、機会も無くなって……だけどやっぱりリトは諦めなかったんだ。『俺達が諦めたら、誰が真白の家族になるんだ!』って」
美柑はその当時の光景を思い出し乍ら告げる。真白が食事を終えて食器を片付け、リビングを後にする姿を見て幼い美柑が不安そうな表情で見つめる中。椅子から立ち上がったリトが拳を握って強い意志を込めた目で告げる姿を。彼はリビングから出て行った真白の後を追い掛けて、美柑も彼の背中を追い掛ける。
『真白!』
『……』
『っ!』
『……』
階段を上がる真白の背に声を掛けたリト。真白は静かに感情すら失った様な無表情で振り返り、その姿を見てリトの背後に隠れる美柑の姿に再び階段を上がり始めようとする。だがリトは階段を上ると、離れ行く真白の手を掴んだ。
『!?』
『真白。お前がどれだけ俺達から距離を取っても、俺達は絶対に諦めないからな!』
「それからリトは真白さんを出来る限り1人にしない様にして、色々やったよ。私もリトの姿を見て真白さんと家族になるんだ! って思う様になった。真白さんが私達から離れれば、それ以上に私達は真白さんに近づいて……徐々に話も出来る様になった」
1日置きでは変わった様に見えない距離だが、1月置きで見れば徐々にその距離は縮まる。何も話さず何も反応しない真白が話を黙って聞く様になり、頷く様になり、言葉を発する様になる。リトと美柑の諦めない心が真白の乾いた心を満たし始めていた。
「ある日ね? 真白さんが私達に聞いたんだ」
『……どうして』
『?』
『……私は……家族じゃ、無い。……なのに、何で……』
『真白さん……』
当時の事を思い出しながら話す美柑の話にモモは続きが気になり、「何て答えたんですか?」と質問する。そこで美柑は優しい笑みを浮かべて答えた。
「リトがね。もう家族だ。って。『こうして一緒に居て。傍に居て楽しいと思えるなら、俺達はとっくに【家族】なんだって!』って。そう言ったの。私もその言葉で思ったよ。もう真白さんと私達は家族に成れてたんだって。前の真白さんだったら否定してたかも知れないけど、あの時真白さんは否定しなかった。それが凄く嬉しかったのは今でも覚えてる」
暖かく感じる胸に手を当て乍ら告げる美柑の表情は優しく、モモは彼女の言葉を聞いて自分もまた暖かい感情を抱いた。
「それからずっと一緒に居て、でも真白さんは中学生の時に自分から家を離れちゃった。宇宙人だって事を隠しているのが辛かったから、なのかな? 家の事は私と真白さんでやってたから朝も夜も来てくれて、だから寂しくは無かったよ」
それが美柑の語る真白の過去であり、その生活を続けていった果てに今がある。モモは話を聞き終えた時、溜息を吐いて美柑へお礼を言った。結城兄妹と真白が家族となる経緯は彼女の知りたかった事であり、聞く価値があったとモモは確信する。その時、突然玄関が開いた事で2人は顔を見合わせた。現在リトは2階に居り、ララとナナはセリーヌと共に異空間へ。故に結城家に帰って来るのは2人しか居ない。
「お帰り、真白さん! ヤミさん!」
リビングから廊下へ向かった美柑は笑顔で2人を出迎えるのであった。
各話の内容を分かり易くする為、話数の後に追加するのは何方が良いでしょうか?
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サブタイトルの追加
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主な登場人物の表記