【完結】ToLOVEる  ~守護天使~   作:ウルハーツ

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第90話 中途半端な猫化

『絶対に1人で行動しないでください。黒咲 芽亜に狙われる可能性がありますから』

 

 ヤミは定期的に御門の家で身体を見て貰っており、今までその間はヤミを連れずに過ごしていた真白。だがここ最近の出来事から1人になるのは危険だとヤミに告げられた真白は結城家の自室で静かに過ごしていた。質素な部屋に新しく用意された本棚には、ヤミと真白が読む為に入れてある本が並べられている。真白はその中から適当に1冊を手に取り、ベッドに座って読書を開始。部屋に居るリトやララ達にリビングでセリーヌと2人ソファで眠る美柑等、結城家は各々が静かに過ごしていた。

 

 しばらく何も無い静寂を真白が過ごしていた時、突然聞こえて来る足音に真白は本を閉じる。その足音は徐々に近づいており、やがて真白が居る部屋の扉をノックする音が響いた。本来であれば中から返答が返って来た後に開けるもの。だが真白の場合は声を余り出さない為、少しの間を置いて静かにその扉が開かれる。

 

「真白! 面白い発明が出来たよ!」

 

 笑顔でそう言って入って来たのはララであった。彼女は部屋の中に入って扉を閉めると、真白の元へ一気に近づいて同じベッドに座る。突然言われた言葉に真白が首を傾げるが、それを気になっていると解釈したララは小さな丸い何かを取り出して説明を始める。

 

「まだ名前は決まってないんだけど、これを使うと何でも好きな動物に変身出来るの!」

 

「……動物」

 

「真白はどんな動物が好き?」

 

 真白はララに言われて好きな動物を考え始める。基本的に変な生き物で無ければ動物に好きも嫌いも感じていなかった真白はふと、唯が風邪を引いた時にお見舞いに行った時を思い出した。彼女の部屋には沢山の猫が写真やぬいぐるみとして置かれており、彼女は猫が好きだと実際に口にもしていた。真白も猫は何方かと言えば好きであり、故にララの質問に真白は答える。

 

「猫だね? それじゃあここをこうして……行っくよ!」

 

「!?」

 

 答えを聞いたララは持っていた丸い何かを少し弄った後、それを掲げ始める。途端にそれは強い輝きを放ち始め、真白は驚いて目を閉じてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでこうなったと」

 

「うん。完璧だと思ったんだけどな~、何処が間違ってたんだろ?」

 

「……にゃ」

 

 リビングにて、呆れ乍ら真白を見て告げるリトの言葉に頷きながらララは悩み始める。そしてそんな彼女の姿に真白は無表情のまま、静かに『鳴いた』。

 

 現在、真白の頭には人とは明らかに違う可愛らしい猫耳が生えていた。薄い銀髪の隙間から生える耳は彼女の思いとは関係なく稀にピクピクと動き、後ろ腰から生えた尻尾が意思とは関係なくゆらゆらと揺れ動き続ける。それは付けた訳では無く、ララの発明によって生えてしまったもの。話を聞いていたモモが驚きと別の感情から口と鼻を塞ぐ中、恐る恐ると言った様子で美柑が話し掛ける。

 

「真白さん、言葉は分かる?」

 

「……にゃ」

 

「分かるみだいでずね。でもおはなじをずる事は出来ない訳でずね」

 

「……んにゃ」

 

 美柑の質問に頷きながら返す真白だが、その言葉は鳴き声のみ。気付けば両方の鼻にティッシュを詰め込んだモモが真剣な表情で状況を整理し始めるも、その姿は余りにも滑稽であった。それでも真白はモモの言葉を肯定する様にもう1度頷き、リトが溜息を吐いてララへ視線を向ける。

 

「直す方法はあるんだよな?」

 

「時間で解除される様に作ったから、半日もすれば治ると思う!」

 

 リトの質問にそう答えたララは真白へ視線を向けた。今までも時間経過に伴って問題が解消された事柄が多数ある為、今回も大丈夫だと思ったリトは改めて真白を見る。猫耳と尻尾が生えてしまったその姿では流石に外出も出来ず、だが真白と美柑が一緒に買い物に行く予定を話し合っていた光景を見た記憶があったリトは確認する為に話し掛けた。

 

「美柑と買い物に行く予定だったんだよな?」

 

「……んにゃ」

 

「そうだよ。でも流石に今の真白さんを外には連れて行けないよね」

 

「あぁ。……仕方ねぇ、今日は俺と美柑で買い物に行ってくるよ」

 

「まぅまぅ!」

 

「はは、セリーヌも一緒に行くか?」

 

 少し考える様な姿を見せた後にリトが告げた時、傍に居たセリーヌがリトの頭へよじ登った。どうやら彼女も買い物に着いて行きたい様子であり、それを察したリトの言葉に彼女は笑って喜び始める。その後、リト・美柑・セリーヌの3人は買い物の為に外出。ヤミの居ない結城家には真白とデビルーク三姉妹が残る事となった。

 

「あれ? そう言えばナナは?」

 

「学校の宿題が分からないとかで今必死に勉強してます。あ、シア姉様。お菓子食べますか?」

 

 必死に頭を抱え乍ら勉強するナナの姿を思い出しながら答えたモモ。気付けば彼女の鼻からティッシュは無くなっており、彼女の提案に真白は頷いて答えた。それを見てモモは立ち上がり、キッチンの中へ。するとララが真白と目を合わせて口を開いた。

 

「ごめんね、真白。迷惑掛けちゃって」

 

「……にゃ……にゃぁにゃ……にゃにゃ」

 

「あはは、何言ってるか分からないや。でも慰めてくれたんだよね? ありがとう」

 

 ララの言葉に首を横に振って真白は言葉を話す様に鳴き始める。何を言ったのかがララに伝わる事は無かったが、何をしようとしていたのかは彼女に無事伝わった事で優しい笑顔を浮かべてお礼を言ったララ。ふと、彼女は無意識の内に手を伸ばしていた。真白の頭を撫でる為に伸ばした手が彼女の柔らかく暖かい耳の感触を感じた後に髪の肌触りを感じ、それと同時に擽ったそうに目を細める真白。……ララの手は止まらなかった。

 

「用意出来まし……!」

 

 何処か心地良さそうにララの手を受け入れる真白と、ニヤケ顔でそんな真白の姿を眺める幸せそうなララの姿を前に、ケーキと紅茶の乗ったお盆を持って戻って来たモモが固まる。2つの意味で美味しいその現状に素早くお盆を置いて地球に来て用意した携帯を取り出したモモ。2人がその行為を止める前に、機会のシャッター音が響いた。

 

「? ……にゃにゃ?」

 

「気にしないでください。ふふ、良いのが撮れました♪」

 

 音を聞いて真白がモモに視線を向けるが、既にモモの手に携帯は握られていなかった。もう1度お盆を手に近づいたモモは真白とララ、そして自分の前にケーキと紅茶を置く。何度か用意した事のあるモモは砂糖等の配分も完璧であった。美味しそうな香りにララが笑顔で「頂きます!」と言った時、真白も静かにお辞儀をしてケーキを一口。無表情な仮面が微かに微笑んだ様に見えて、モモの顔も無意識に笑みを浮かべていた。

 

「にゃ!?」

 

「シア姉様!?」

 

「だ、大丈夫!?」

 

 突然普段は聞けない様な大き目の声に驚いたモモとララが見たのは、口元を抑える真白の姿だった。テーブルの上には傾いたティーカップが残されており、淹れられていた紅茶が零れてしまっている。だが2人は拭く事を後回しにして真白の傍へ近づいた。そして何処か辛そうに口元を抑える真白の姿を見て大きな怪我が無い事を確認。安心した様に2人は溜息を吐いた。

 

「何があったの?」

 

「恐らく、猫舌なのかも知れません」

 

「猫舌?」

 

 理由の分からないララが首を傾げながら呟いた時、テーブルを拭く為に布巾を用意したモモが答える。ララは猫舌の意味を知らない様であり、彼女の聞き返しにモモは頷いてテーブルを拭きながら説明を始めた。

 

「地球の猫は熱い食べ物が苦手とされていて、そう言った食べ物が苦手な人の事を言うそうです。今シア姉様の身体は人型でありながら猫にもなっていますから、舌も猫になっていて不思議ではありません」

 

「……」

 

「今、淹れなおしますね。アイスティーで大丈夫ですか?」

 

「……にゃ……にゃにゃん」

 

「気にしないでください。私も配慮が足りていませんでしたから」

 

 倒れたカップを手にキッチンへ戻るモモに弱々しく真白が鳴けば、彼女は微笑みながら優しく返した。人の言葉が話せなくても、真白が『ごめん』と言ったのが伝わったのだ。その後、真白は特別に冷たいアイスティーを改めてモモに用意して貰う。冷房の掛かった部屋では寒くなりそうであり、ケーキと飲み物を飲み終えた真白は案の定身体を震わせ始めた。

 

「シア姉様! 今、何か温める物を……!」

 

「……にゃ……にゃ」

 

「真白?」

 

 震える姿に急いで立ち上がったモモだが、真白は首を横に振って同じ様に立ち上がるとリビングを後にする。向かった先は自室であり、彼女は中に入るとベッドで布団に包まる様にして横になった。心配で着いて来ていたララとモモは安心した様に溜息を吐くと、モモが「片づけて来ますね」と告げてその場を後にする。残されたララは少し考えた後、真白の部屋に入って扉を閉めた。

 

「はぁ。真白、可愛いな~」

 

 それはずっと感じていたララの本音であった。微かに頭だけを出して眠るその姿にまた手を伸ばしていたララは、優しく撫で始める。気持ち良さを感じた為か、徐々に包まれていた布団から身体を出し始めた真白。そんな彼女の姿に欠伸をしてしまったララは、微笑んで彼女の隣で横になった。手は未だに真白の頭を撫で続け、やがてその目が徐々に閉じ始める。

 

「おやすみ……真白」

 

 その言葉を最後に真白の部屋は2人分の寝息しか聞こえなくなる。その後、片づけを終えたモモが様子を見に来たものの、並ぶ姉と真白の姿を見て静かにその扉を閉めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……戻った」

 

「やったね! 真白!」

 

 その日の夜、真白の頭と腰からは無事に耳と尻尾が無くなった。ララはその事に喜びを露わにし、後日改良を施した試作段階を春菜に見せる。だがその行為が再び波乱を引き起こし、春菜とリトがそれに巻き込まれる事等2人は知る由も無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「? 何かしら……モモさんから?」

 

 同日。湯上りの唯が自室へ戻った時、携帯がメールを受信した音で彼女はそれを手に取る。メールの差出人はモモであり、件名には『猫が好きと聞いたので♪』と書かれていた。唯はその件名に首を傾げながら画面を下げ……そこに映る1枚の写真に目を見開いた。

 

「な、ななな何よこれ! まし、真白がねね、猫に……!」

 

 思わず画面を凝視して目が離せなくなってしまった唯。その写真は猫耳に尻尾を生やした真白がララに撫でられているものであり、唯は一体何があったのか心底気になりながらも心を落ち着ける。自室にも関わらず周りに自分を見ている視線が無いかを警戒した唯は、やがて携帯を操作して画面を閉じた。何かをやり切った様に溜息を吐いた唯はベッドに横になって天井を見つめる。

 

「何やってるんだか……私は」

 

 そう言ってゆっくりと唯は目を閉じる。その日以降、滅多に開かれる事の無い写真のフォルダに1枚の写真が追加された。




ストック終了。また【5話】or【10話】完成をお待ちください。

各話の内容を分かり易くする為、話数の後に追加するのは何方が良いでしょうか?

  • サブタイトルの追加
  • 主な登場人物の表記

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