氷結の花と一緒にこっちもやりたいと思いま~す。
もっとも、こっちはあちらに比べて投稿は少なめになると思われます。
それでも良いよ~って人にはこの言葉を贈りたい。
行ってらっしゃい。
第一話 夜咲く花
視点:???
……
…………
………………
「……も……」
……
「……い……もと……」
……
「……えもと……」
……うぅ……
「家元」
「……」
瞼を開き、酷く重たく感じる体を持ち上げた時、私を呼ぶ声をはっきりと聞き取ることができた。
「お目覚めになりましたか?」
「……すみません。うっかり、眠ってしまっていました」
「お気になさらず。お疲れになって当然ですよ」
移動中の車の中で、私はすっかり眠ってしまっていたようです。
「もう少しで家に着きます」
「わざわざありがとうございます。大谷さん」
完全に目を覚ました後で、車の外を見る。
もうすっかり夜だというのに、ビルなど街からの光が眩しく光っている。何と言うか、こんな光景を前によく眠れた物だ。
ここは日本の中心都市『ネオドミノシティ』。
そして私達は今、そのネオドミノシティの最高階級区域、『トップス』へ続く道を車で走っております。
「大谷さん、明日の予定はどうなっていますか?」
白い着物姿の、スラリと背の高い短髪の中年男性、大谷さんに尋ねました。
「はい。明日はまず、午前十時からトップスの市民会館で日本舞踊のお稽古、十二時に茶道と華道、十五時までにお菓子博覧会場へ移動し、和菓子の展示会と試食会、十七時からシティで華道協会での稽古の打ち合わせ、十九時から日本舞踊のお稽古となっております」
「分かりました。では明日もいつもと同じ、五時には起こして下さい。まだ整理できていない資料等が多く残っておりますので」
「家元……」
私が返事をした後、大谷さんは深刻な声を出しました。
「しつこいようですが、もう少しスケジュールを緩めた方が。どう考えてもやり過ぎです」
心配してくれるのはありがたいですが、本当にしつこいですよ。
「私は多くの方々の期待に応える義務があります。この程度で音を上げるわけにはいきませんよ」
「ええ、分かっています。ですが……」
キキーッ!!
なおも大谷さんが何かを言おうとした時、車が急停車しました。
「何事だ!?」
大谷さんが運転手さんにそう叫んだ直後、前方を見ました。私も釣られて見てみましたが……
なるほど。
「さっさと出てこいよ!!」
「通りたかったら金出せ金!!」
まあ、この車が高級車であることも原因の一つでしょう。何人もの『Dホイール』に乗った、顔に『マーカー』を付けた男性の方々が、Dホイールを並べて大声で叫んでいます。
「まったく。すぐに追い払います」
そう言いながら大谷さんは出ようとしましたが、
「……家元?」
大谷さんの手を取り、制止します。
「私が行きましょう」
「家元が!?」
大谷さんが何か言う前に、私は車から降りました。
「おお! 着物美人」
「いいねえ。胸は無えが紫の着物が色っぽい」
そんな言葉を掛けながら近づいてきました。人数は、十人ほどでしょうか。近づいてくる間に、私は持っていた手提げからお財布を取り出しました。
「これでよければ、どうぞ持っていって下さい」
男性の一人がそれを受け取り、中身を確認しています。一応、中身はそれなりに詰まっています。
「じゃあ、貰ってくぜ」
そう言って下さったので、私は一礼した後で、車へ戻るために踵を返しました。
が……
「まあまあ、そう慌てないで」
別の男性が私の前に立ちました。
「なあ、せっかく出会えたことだし、俺達と良いことしていこうぜぇ」
ふふ。どこを触っているのやら。
「なあ、早く行こうよ」
今度はまた大胆に後ろから。やれやれ……
「お前ら!!」
大谷さんが大声を上げながら車から出て参りました。そんなに慌てずとも、ほんの戯れです。
「あ? 何だおっさん、野郎に用は無いんだけど」
そんなことを話しながら、大谷さんの肩を掴みました。
「ああちょっと、ダメですよそんな……」
「ぐあー!!」
……言わないことではありません。
肩に触れた瞬間、大谷さんにポーンと投げられてしまいました。ポーンと。
一応ケガをさせないよう気を配ったようですが。
「な、この野郎!!」
他の男性方も叫びました。
「ダメですよ大谷さん」
「うお!」
大谷さんに呼びかけながら体を軽く捻ると、私に抱きついていた男性は簡単に倒れてしまいました。
「家元も、お遊びが過ぎます」
「良いではありませんか。……それより、きちんと鍛えないといけませんよ。せっかくの良い体格が、宝の持ち腐れではありませんか」
「何だと!?」
今度は乱暴に着物を掴んできました。しかしそれも、力を入れている方向に向かって体を捻ることで簡単に転んでしまいます。単純な方々だ。
その後は殴る蹴るの暴力ですが、なっていませんねえ。打撃の打ち方というものをまるで分かっていない。どれも単調な上に遅すぎる。なので簡単に避けられるうえ、皆さん五発目以降には息が上がっております。
「もう許さねえ……」
今度は刃物ですか。
キンッ
「……は?」
その人は、折れた刃物を見ながら呆然としています。まあ、直前まで持っていた普通の刃物が、出した瞬間には真っ二つに折れていればそうなりますか。
「今度は何をしますか?」
一応、笑顔で話し掛けます。
「この、
ああ、やはり勘違いしていらっしゃる。
「あの……私は一応男子なのですが……」
『はあ!?』
そんなに驚かないで下さい。慣れてはいますが心外ですよ。
「だったらなお更容赦しねー!!」
やれやれ。まだ懲りないのですね。
「家元、いい加減片付けてしまっては?」
「ダメです。そんなことをしては」
「なにゴチャゴチャ喋ってんだ!?」
大声を上げながら振り下ろされる鉄パイプ。避けることは簡単なのですが……
ゴッ!!
エンジン音だけが響く空間に、そんな鈍い音と、頭頂部への鈍い痛みが響きます。
「家元!!」
大谷さんが叫びましたが、大したことはありません。そこでじっとしていなさい。
「……これで気が済みましたか?」
米神に生暖かい感触が滴りますが、気にせず男性方に話し掛けました。皆さん、先程まであれだけ意気込んでいたというのに、頭を打った途端完全に恐れています。
「殴られても平気でいる私を恐れているのですか? それとも、殴ってしまった自分達を恐れているのですか?」
そう尋ねても、誰も何も答えはしません。それでも、私は笑顔を作ります。
「いずれにせよ、あなた方にも、まだ人をいたわる心が残っている、ということですね」
「なに?」
男性の一人が聞き返してきました。私はハンカチで血を拭き取りながら、続けます。
「あなた方がそんなふうになってしまった理由は分かりませんが、少なくとも、一瞬でも私を気遣ってくれる心があるのなら、まだ、変わることができます」
「気遣った? 何だよそれ?」
「もしあなた方が、こういった行動でしか自分の身を守るすべを知らない人達ならば、私を殴った後も容赦はしなかったはずです。それをしなかったのは、あなた方の優しい心によるものに他なりません」
「優しいだと……」
……今度は怒りですか。
「ふざけるな!! このマーカーを見ろよ!! こいつがある限り、俺達は一生悪人として生きるしかねえ!! 恵まれたお前には分からねーだろうな。街のどこを歩いても、返ってくる目は犯罪者だ、無法者だ、悪だ!! 居場所も無え!! 助けも無え!! そんな俺達が、どうして優しさなんか持てるってんだ!?」
「……持っていますよ」
ずっと叫んでいた男の手を取り、もう一度笑い掛けました。
「あなた方なら……いいえ、あなた方だから、持てる優しさがあるのです」
「何だよ、そりゃ……」
「あなた方は……そう、恵まれた私や、私を除く多くの人々にはできない辛い思いをしてきた。そんな気持ちを知っているあなた方が、人の痛みや、苦しみを理解できないわけがありません。今はただ、その苦しみに耐えかねているというだけです。その苦しみを、誰かのために感じたいと思うことができた時、あなた方は変わることができます」
「そんなこと……俺達にできるわけが……」
「今は無理でも、きっとできます。なぜなら……」
私は手を握ったまま、皆さんの顔を見やります。
「あなた方は今、一人ではないのですから」
『……!!』
そう言うと、皆さんは目を見開きました。そして、お互いに顔を合わせています。
「もう一度、あなた方自身でも構いません。誰かの声に耳を傾けてみて下さい。そして、その言葉を思いやってみて下さい。そうすればきっと、あなた方は変わることができます。あなた方自身が、心から出会いたいと願っている人物に、あなた方自身が」
「……!! 俺達が?」
「そうです。あなた方が会えないというのなら、あなた方自身がそうなれば良いのです」
「……」
『……』
全員が、考えて下さっています。大したお話しはできませんでしたが、伝わってくれたでしょうか。
「いいや。俺達はもう出会ってる」
「え?」
「……あんたに会えた」
今度は私が驚く番でした。
「私……ですか?」
「ああ。全員が俺達を嫌な目でしか見ないのに、あんたはそんな俺達を嫌がるどころか、優しい言葉を掛けてくれて、まだやり直せるって気付かせてくれた。だから、俺達も変われそうだ」
彼の顔を見た後で、他の方々の顔を見てみました。皆さん、笑って下さっている。
「約束するよ。いつになるかは分からんが、俺達も、あんたみたいに変わってみるよ」
私のように、ですか……
「私のようにはならないで下さい」
「え?」
「あなた方は、あなた方にしかなれないあなた方自身になれば良いのです」
それが、一番良いのですから。
「……そうか。分かった」
また、笑顔を向けて下さいました。
「その……悪かった。こいつは返すぜ」
そう言って、先程渡した財布を返して下さいました。私も、それを無言で受け取ります。
「最後に頼みがある」
「何ですか?」
「名前を聞いてもいいか?」
ああ、そう言えば……
「申し遅れました。私の名は、『
「水瀬……水瀬梓!?」
男性の一人が、そう驚きながら声を上げました。
「家元、そろそろ行きましょう」
「そうですね。では皆さん、ごきげんよう」
最後に挨拶をした後で、皆さんは急いでDホイールを退けて下さいました。最後に皆さんに会釈をし、車が走りました。
視点:外
「おい、あいつがどうかしたのか?」
「バッカ!! 知らないのか!? 水瀬って言ったら、日本一の名家だろうが! しかも水瀬梓って言ったら、十五歳でその水瀬の頭首に選ばれた神童で、茶やら花やら料理やら琴やら三味線やら舞踊やら、大よそ和と名の付くものは全部こなしちまう天才児で、今じゃ色んなところ周って、自分より倍以上年上の人間相手に色々教えて周ってるって話だ」
『な!!』
「そんな人に、俺達はカツアゲしようと……」
『……』
「けど、良い女……じゃなかった。良い人だったよな」
「ああ……」
視点:梓
「家元」
「はい」
大谷さんに呼ばれ、返事をしました。
「広い心で誰にでも優しく接し、時にはその心を変えてしまう。そんな家元を、私は心より尊敬しております」
「ありがとうございます」
「ですが、それは同時にあなたの悪い癖だ。今回はあれで済みましたが、もしものことがあれば……」
「平気です。私の強さはあなたが一番知っているでしょう?」
「それだけではない。まるで自分が、辛い目になど遭ったことが無いと言うような姿勢も頂けない。少なくとも私は、あなたほど辛い目に遭ってきた人を知りません」
……
「……不幸というものは、自慢するものではない。そして、不幸に差はありません。不幸である期間が長いか、それが大きいかです。あの人達も、不幸な目に遭ったのなら必要なのは、その不幸を思いやってくれる心と、その出会いです。私も、出会えたから変わることができた」
「……」
そう。だからこそ、私は水瀬家を支えていかなければならない。水瀬家二十一代目頭首として。そして……
そのためには、休む暇など無いのです。
「それともう一つ」
「何ですか?」
「……夢は、もう諦めておいでなのですか?」
「……」
夢。その言葉を聞くと、一瞬、言葉が詰まります。
「……私の夢は、水瀬家を支え、
「……そうですか」
そんな顔をする必要はありませんよ、大谷さん。これが、本当の私なのですから。
お疲れ様です。
一つだけ言いたい。
君が読んでいるのは間違いなく遊戯王5D'sだ。
大海自信、書いてて何度も思った。
あれ? 俺何書いてるんだっけ?
てね。
まあ、大海にも色々やりたいことがあるんだよ。そこんとこを分かっておくれ。
んじゃ、次まで待っててね。