今回は短いです。
すぐに終わるけれど、それでも言うことは変わらない。
行ってらっしゃい。
視点:梓
「大谷さん……」
「……家元」
決闘が終わり、青い炎が消えた直後、倒れた大谷さんを抱え上げ、話し掛ける。
決闘に夢中になっていましたが、ようやくことの重大さを思い出した。双葉さんの時と同じだ。もう助からないということが、分かる……
「申しわけない……こんな手段でしか……家元と、語り合うこともできず……」
「悪いのは私です。私が、大会で正体を明かすようなマネをしなければ、こんなことには……」
私のせいだ。全部、私の……
「家元……そう、悲しまないで下さい……」
泣いている私に向かって、大谷さんが向けてくれたのは、笑顔だった。その笑顔を直視できず、反射的に、目を背けてしまった。
「家元……覚えておいて下さい……人とは、結果を選ぶことはできません……どんな行動を取り、それがどんな結果になろうとも……それに後悔することは誰でもできます……ほとんどの人間は……そんな結果を恐れ……やろうとしないうちに逃げてしまう……かく言う私にも、経験があります……」
「しかし……あなたは違った……どんな結果になろうとも……今できる精一杯を、全力で生きてきました……拾われてからの日々……お仕事回り……フォーチュンカップ……そして、この、決闘もそうです……そんな全力の生き方ができることは……誇って、良いことです……」
「私はただ、失うものが無かっただけです。父の期待に応えたかっただけです。周囲の人達の、期待に応えたかっただけです……多くの人達に……喜んで欲しかっただけです……」
「……それでそ、家元だ……自分以外の誰かのために、失敗を恐れず、全力で生きる……家元だからできることです……」
「私は……」
「家元……」
喋る途中で、今までとは違う声色で話し掛けられた。
「この街には……危機が迫っている……得体の知れない、しかし、危険な何かが……」
「危機……」
「すぐに、お逃げなさい……先代を連れて、早く……」
「ええ、もちろんです。だから、大谷さんも一緒に……」
けれど、大谷さんは、顔を横に振った。そして徐々に、その体が黒く変わって……
「家元……あなたの秘書であったこと、私は……誇りに……思います……」
サァ……
「大谷さん!!」
「行くな!! 私のもとから去るなあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
視点:外
大谷の姿が、梓の手から跡形も無く消えた、その直後。
キイィィィ
それは、梓も一度見たことがある光景。
『梓!』
ずっと後ろに立っていた、五人の真六武衆。声を掛けたのはミズホだった。
『見て下さい。『氷結のフィッツジェラルド』の時と同じです』
そう。サテライトでの双葉との決闘。その直後に現れた、『氷結のフィッツジェラルド』。これはまさに、その再現と言える現象だった。
「……」
『梓?』
ミズホの問い掛けに、梓は答えない。ただその場に座り込み、沈黙しているだけ。
そして、
スパァ
『!!』
五人全員が驚愕し、目を見開いた。
誰よりも純粋に決闘を、自分達を、そしてカードを愛してくれていた。そんな梓が、現れたカードを見向きもしないどころか、一瞥もせぬ間に手刀で真っ二つに切り裂いてしまったのである。
切り裂かれたカードは無残に地面に落ち、先程の大谷と同じように、塵となって消えた。
『梓! 何と言うことを!?』
「そんなカード……私がなぜ手に取ることができる!?」
『……!!』
また五人は目を見開いた。
ずっと背中を向けていた梓がこちらへ向き直り、叫んだ時、初めて分かった。
梓の目から流れている涙は水ではなく、真っ赤に光る、血だった。
「どうして……私はただ、決闘がしたかっただけなのに……その決闘は、私から全てを奪っていく……大切なものを全て……私の選択は……私の行動は……私の決闘は、それほどまでに、罪深いというのか……」
号泣しながら立ち上がり、体を五人に向けた。
「どうやって生きたらいい……どうしたら良かったんだぁあ!?」
顔を血に染め、嘆く梓。
そんな梓の姿に、五人は言葉を失い、質問に答えることもできない。
今まで誰よりも決闘を、自分達を、カードを愛してくれていた。どんな時も笑顔を絶やさず、泣くこと、怒ることはあっても、それはいつも、誰かのためだった。
それが今、明らかに自分のための涙を流している。
大切な存在を、自分のせいで失う。自分の選択の結果、大切な人の喪失と言う最悪な仕打ちを受け、それに怒り、悲しみ、様々なものを憎悪してしまっている。
『……』
やはり、五人とも答えることはできなかった。こんな時、いつも答えてくれていた存在も今はいない。その存在と同じ真六武衆が五人もいながら、五人とも、その存在ほどの掛けられる言葉を持ち合わせてはいなかった。
そして、真っ先に口を開いたのが、
「……お父さん」
ずっと泣いていた、梓本人だった。
「行かなくては……このままでは……お父さんも危ない……」
呟きながら、踵を返す。おぼつかない足取りで、ふらつきながら歩いていく梓を見ながら、五人とも、一言の言葉も掛けられないまま、消えていった。
「……おおたにさん……おとう、さん……」
……
…………
………………
病院へと向かう道中、
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
轟音と地響き。それは、サテライトで経験したものと同じだった。
「これは……」
反射的に振り返ると、炎による青色の光。それが、女性の降ってきたビルから発生している。
「まずい、急がないと……」
大きな喪失感から、ずっと歩きだった足を、その光景で初めて走りへと変えた。
病院に着くと、先程までいたマスコミの人間達は既にいなくなっていた。だが変わりに、大勢の医者や患者達が、我先に避難せねばと入口に押し寄せている。
こんな時でも姿を見られるわけにはいかない。瞬時にそう判断し、先程窓を覗いた時のビルを目指す。
「あそこなら、窓から入れる」
そして、そのビルの上に立ち、先程と同じように窓を見る。もう逃げたのか、既に父親の姿は無い。
「お父さん……」
意を決し、その窓に向かって飛び下りた。
ガシャアアアアアアアアアアァァァ……
ガラスの割れる大きな音は、外にいる大勢の人間の声によってかき消された。
「……!!」
だが、それを見た瞬間、外からの悲鳴も、炎の青い光も、意識の外と化してしまった。
目の前にあるのは、自分の愛した二人の存在。
最愛の父親と、最愛の親友。
最愛の父は、血を流して床に倒れ伏し、最愛の友は、血の着いた刀を手に、こちらを見つめている。
「……」
その光景を、理解できずにいた。理解するより、新たな言葉が口を突く方が先だった。
「シィィィィエェェェェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエン!!」
親友の名前を絶叫すること、走り出すこと、刀を抜くこと、全てが同時だった。そして、目の前の親友に斬りかかることもまた。
だが、シエンはその刀を避けると、すぐに窓から出ていってしまった。梓が振り返った時には、既にその姿は無かった。
カラン……
「ああ……あああ……」
抜き身のまま刀が床に落ち、儚い金属音が響く中、父に触れた瞬間、理解した。
自分がこの世で最も愛した存在。
その死を。
その死の現実を。
その死の真実を。
「シエン……」
「貴様だけは許さなぁぁああいぃ……」
「えぇええええええええええええええええええええぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ……」
絶叫したと同時に、梓の体は光に包まれた。
最後に梓の目に映ったもの。それは、ビルをも越えんとするほど巨大な、黒いトカゲと、黒い鳥の姿。
だが、既にそれは梓の意識にも、視界にさえ届かない。
今この瞬間、梓を支配しているものはただ一つ。
ただ純粋な、そして強烈な、親友への、憎悪。
それだけだった。
第一部 完
お疲れ様~。
というわけで、無事に一部終了。
いや~ここまで読んでくれた人、感謝します。ありがと~。
にしてもシリアス全開のこっちとギャグ満載のあっちってどっちのが好評なのだろうか。
まあUA数とか見たら一目瞭然だろうけれども。
まあいいや。
第二部まで待っててくれる?
くれるなら、ちょっと待っててね。