二部いきま~す。
第二部ではちょっとしたチャレンジをしたいと思っています。
どんなかは、まあ読みゃ分かるかもね。
じゃ、行ってらっしゃい。
第一話 異なる世、花の出会い
視点:外
「やれやれ、これも不幸中の幸いというべきか。あの騒ぎで梓だけじゃなくて、先代までいなくなってくれるとはな」
広い和室に腰掛けながら、数人の男女がほくそ笑み、会話を楽しんでいた。
「あら、仮にも一人の人間の不幸を、そんな風に言うのはちょっと……」
そう言いつつも、その女性もまた、会話の内容とは逆に顔はニヤけている。
「まあいいじゃないか。邪魔者は全員いなくなったんだ。今は素直に喜んでおこう。この屋敷も、水瀬家も全て僕達のものになるんだから」
そこは、梓の住んでいた屋敷だった。
つい最近まで多くのマスコミに囲まれていた家が、今ではその翌日起きた災害のせいで、マスコミどころか通行人さえほとんどいない。そんな屋敷で、梓の寝室やら台所やら、居間やらを好き勝手に使い、今や元の家主の存在など無かったことのように振る舞い、くつろいでいる。
「けど、あの先代がねえ。本当に死んだのか? 病気とは言え、ずっと殺しても死ななそうな男だったろう」
「だが、あの部屋に残ってた血は明らかに先代のだったらしいし、量からしても完全に致死量だったそうだ」
「そうか。じゃあ、一応ご愁傷様ってことかな」
「それで、梓は今どこにいるか分かったのか?」
「それがまだなんだ。先代は口を割る前にくたばっちまったし、大谷も問いただしてる最中に行方不明になっちまったし」
「まああの二人が、大事にしてる人間の不利になるようなことをわざわざ教えるとも思えないけどね」
「ったく、あんなガキにうつつを抜かしてるから早死にしするんだ」
「言えてる」
『はははは』
「しかし、シティをこれだけ捜して見つからないんだ。おそらくはサテライトじゃないかな? あそこなら広い上に隠れる場所も多くあるし」
「そりゃいいや。サテライトの屑が、正に屑籠に逆戻りってわけだ」
『ははははは』
誰一人として、梓の心配をする人間はおらず、死んだ人間を悼む者も無い。
ただ邪魔者の消失という願ってもない事実に、人の命以上の価値を見いだし、これからもたらされるであろう本人達にとっての明るい未来に祝福を上げている。一人の人間の消失と言う、本来そうすべきでない、なのに誰もが常に求めて止まない、甘味だが
「さて、これからどうする? 今までは先代がいたから、梓の正体がばれて、いなくなっても決定的に彼を追い出すことはできなかったわけだけど」
「家のしきたりで、次期頭首は現頭首の子供か、現頭首からの襲名以外では決定できなかったからな。だから先代はあのガキを逃がして、仮に自分が死んでも他の人間が頭首にはなれないようにして、この家をずっと梓の帰る場所にしようとしたんだろうな。このことは多分梓も知らなかったはずだ」
「ガキのくせに仕事人間でしたからね。いずれにせよ、病院にいる先代には手が出せなかったので、梓を始末するしかなかったわけですが、その前にいなくなりましたからね。サテライトの人間なら、殺しても罪にはならないというのに」
「ああ。ずっと梓の命を狙ってた双葉さんは役立たずだったしな。あれだけ毒を盛ったり、暴力を振ったりして人一倍梓を目の
「けど、お陰で手は汚さずに済んだ。ずっと手枷になっていた先代も死んだ。現頭首がいなくなって、先代も死んだ場合、どうなるんだっけ?」
「確か……家内で選挙みたいなことをして、大勢の人間に選ばれた人が新たに頭首になったはずだ」
「ていうことは、ここからは正々堂々、てことかな?」
「ああ」
「ただ、これは普通先代も現頭首も死んだ場合にやる方式なんだが」
「別にいいんじゃないか? 梓だし」
「そうですね。梓だものね」
「ああ。梓なんだから許されるさ」
『あははははははは』
ピンポーン
「おっと、誰か来たようだな」
「私が出よう」
呼び鈴に、一人の男が立ち上がった。
視点:龍可
「梓先生、いるのかな」
「きっといるさ」
龍亜の提案でここまで来たけど、習字教室以外で梓先生と話すことなんて初めてだから、ちょっと緊張するな。
昨夜、アルカディアムーブメントって所で二人して捕まったんだけど、そのアルカディアムーブメントが急に崩れ出して、運良く助けられた。その時、唯一の生き残りだった人、『十六夜 アキ』さんと一緒に。
そして、そのアキさんは今、病院で目を覚まさずにいる。元キングで『シグナー』の一人、『ジャック・アトラス』と一緒にその様子を見てたんだけど、今彼女が目を覚ましたら、また暴れ出すかもしれないって言ってた。
その時龍亜が、
「そうだ! 梓先生なら、何とかしてくれるかも!」
「梓先生?」
「そうだよ! あの人、決闘中アキ姉ちゃんと色々話してたしさ。あの人なら、アキ姉ちゃんも話しを聞くんじゃないかな! それに、何かあってもあの人すっごく強いしさ!」
「た、確かに……」
「でしょでしょでしょ!」
そんなわけで、こうして梓先生の家を探して、二人で来てみたってわけ。
けど、確かに梓先生なら、アキさんのことをどうにかしてくれる気がする。
私も龍亜も、習字教室に通うこと、最初は嫌だった。お父さんとお母さんに無理やり生徒にされて、仕方なく行ってみた。その時、初めて梓先生と出会った。
梓先生は教え方も丁寧で、最初は嫌がってた私も龍亜も、楽しく学びながらぐんぐん腕が上達していった。龍亜はちょっと苦戦してた時もあったけど、梓先生が何か一言言っただけですぐに解消しちゃって、今ではその習字教室は、私にとっては一番の、龍亜にとっては二番目の楽しみになってる。龍亜にとっての一番は、いつまでも決闘だから。
おまけにフォーチュンカップで知ったことだけど、あの人は私と同じように、決闘モンスターズの精霊が見えてるみたいだった。精霊が見える人は大抵心優しい人。私の経験上での理想論でしかないけど、まさに、梓先生にはピッタリの事実だと思った。私達以外にも、誰にでも優しかったから。梓先生。
そんな梓先生だから、あの時のアキさんとの決闘だって、観客の人達にあれだけのことが言えたんだと思う。そして、少しだけかもしれないけど、アキさんもそんな梓先生に、心を開きかけてたみたいだった。
だから梓先生ならもしかしたら……
ガララ……
そんなことを考えてるうちに、目の前のドアが開いた……
視点:龍亜
「こ、こんにちは」
「おやおや、可愛らしいお客さんだな」
……見下されてる。
どうしてか、直感的にそう感じた。褒められてるのにこのおじさん、何だか全然今言ったことを考えてなくて、上手く言えないけど、向かい合ってるとすごく嫌な気分にさせられる。
「あ、その、えっと、俺達、梓先生に会いたいんですけど……」
嫌な気分だし緊張はするけど、一応要件は伝えないとね。じゃないと話しが進まないし。
「梓先生? 君達は……」
「えっと、俺達、梓先生のやってる習字教室に通ってて、その……」
気のせいかな? 梓先生の名前を出した途端、なお更嫌な気分が強くなったような……
「悪いけど、梓先生は今はいないんだ」
「じゃあ、いつ戻ってくるの?」
「多分もう戻らないだろう」
「えぇ!?」
戻らないって!!
「何で……」
「何でですか!?」
「おわぁ……!」
急に、隣でずっと黙ってた龍可が前に出てきた。
「何でって……そうか。君達は雑誌は読まないのか」
「雑誌?」
おじさんは玄関に置いてあった雑誌を取って、それを見せてきた。
「これを読んでみて」
龍可がそれを受け取って、俺も一緒に読んでみると。
「うそ……」
龍可が声を出した。俺も、声が出そうになった。
その雑誌には、梓先生について悪いことばかり書いてある。サテライト出身で大勢の人達を騙して、そうやって私腹を肥やした最低の詐欺師だって。
「これだけじゃなくて、今もその辺りで雑誌を買えば書いてあるよ。今でも大勢のマスコミが彼のこと追ってるんだ。こんな状態じゃ、戻るのは無理だろうね」
「こんなの嘘だ!」
つい大声を出しちゃった。だって、このおじさんの言ってること、間違ってるから。
「梓先生はサテライト出身かもしれないけど、すっごく良い人だったんだ! あんなに優しい人他にいないよ! それが、サテライト出身だからって、こんなに言われるわけないじゃんか!!」
(チッ、うっぜえガキだな……)
「え?」
「いや。そう思ってるのは君達だけだよ。サテライトの人間がどんなふうに思われてるか、知らない歳でもないだろう?」
「それは……」
「実際おじさん達も傷ついてるんだ。君達にはちょっと分かり辛いことかもしれないけど、サテライト出身の人間を、ずっと頭首だって言って敬ってきたからね。なのに、あいつはおじさん達にも、君達にも謝ってない。つまり、あの男はそういう男だってことさ」
「……」
何も言い返せなかった。絶対に違うって分かってるのに、梓先生がどんな人か、分かってるはずなのに……
「ごめんね。あいつが謝らなかった分も謝るよ。だからあんな奴のことは忘れて、今日はもう帰りなさい」
「……」
「……信じないもん……」
また、龍可が声を、今度は小さく出した。
「あの人がそんな人だなんて、信じないもん……私は梓先生のこと、大好きだもん……私以外の人だって、みんな好きだって言ってたもん……だから、きっと帰ってくるもん……」
そう言い残して、龍可は雑誌を返して帰っていった。俺もそれを追いかける形で戻っていった。
龍可、かなり傷ついて、怒ってる。
隠してたみたいだったけど、梓先生に恋してるのバレバレだったからなぁ。まあ龍可に限ったことじゃないけど。俺も、最初は女の人だと思って恋しそうになったし。
けど、龍可の言ったことは俺も信じてる。梓先生はきっと戻ってくるって。
サテライト出身でも良い人、俺はよく知ってる。何よりあんなに優しい梓先生が、サテライト出身だったからってだけで、そんなひどい人なわけない。みんなただ、そんな目立つ現実ばっかり見て、本当の梓先生を見てないだけなんだ。
視点:ジャック・アトラス
あのうるさい双子が出ていってから小一時間経つ。
奴らは、十六夜が準決勝で闘った、水瀬梓ならば、今目の前で眠る十六夜を助けてやれる、そう言っていた。
確かにあの男も、決闘中正体を隠してはいたが、十六夜に呼び掛け、心を開こうとしていた。それに十六夜も、心を開きかけていた。
あの男のことは俺も知っている。キングとして、ネオドミノシティの頂点に君臨していた俺と、水瀬家現頭首として、日本の象徴として輝いていたあの男とは、必然的に顔を合わせる機会が多かった。実際に話しもしたが、率直な印象として、偽りの無い純粋さを感じさせる、心優しい人間だと分かった。
だが、優しく純粋で、ゆえに
十六夜を準決勝で説得していた時、十六夜に近づくためにと、自らの正体を明かした。そして、十六夜の心を諭し、十六夜自身もまた人間なのだと語り掛けた。魔女だの化け物だのと揶揄され続けた十六夜からすれば、最も欲していた言葉だったろう。
だが、それだけだ。十六夜に気付かせることはできても、それで十六夜を変えることができるのかと言われれば、はっきり言って難しい。
あの男の行動は言わば、優しい言葉を掛けながら、心の扉をただ叩くだけ。相手が自分から開くまで待つだけのやり方だ。
本当にその人間を変えたいと思うなら、心の扉を力ずくでこじ開け、直接声を掛けるしかない。そして、ただ耳に心地良い言葉、安らぎ与えるための言葉を掛けるだけでなく、時にはその人間を批判するような、清濁を合わせたような真実の言葉。相手の今ある安らぎを奪うほどの、強い言葉が必要だ。
だから俺は、あの双子が言うように、水瀬梓という男に十六夜を説得させるのは難しいと感じている。あの男の言う事実や綺麗事だけでは、解決できないこともあるからだ。
だが、あいつならばあるいは……
そう思っていた時、後ろから足音が。
夫婦らしい、一組の中年男女。話しを聞くと、十六夜の両親らしく、十六夜がああなってしまったのは自分達の責任だと後悔していた。何とか助けてやりたいと。だが、その話しが本当ならば、その原因となった存在がいてはまずいことになりかねん。
だから俺は、一人の男に賭けてみることにした。
「一人だけ、十六夜の心を開きかけた男がいる」
視点:十六夜アキ
これは、夢? あの時の光景が……
幼い頃、私の人としての人生は、あの日を境に終わりを告げた。
普段から忙しい父と、久しぶりに決闘ができる。すごく嬉しかった。けど、その決闘中に電話が掛かってきて、父は申し訳なさそうに私に、仕事に向かうと言った。
父は悪くない。今ならそれも分かるけど、まだ小さかった私はそれが許せなかった。やっと私と遊んでくれたと思ったら、またすぐに仕事へ。
そんなに私が嫌い? 私とは遊びたくないというの?
だから、そんな怒りに身を任せて、召喚していたモンスターで攻撃した瞬間、その炎は現実となり、父は壁に叩きつけられ、部屋は燃えた。
光る痣と共に現れた力、サイコパワーだった。
「アキ! 何なんだその力は!? それはまるで、化け物……!!」
父が私に向かって放った言葉。
「化け物……」
実際あの時、父が私を見る目は実の娘を見る目ではなく、化け物を見る目に他ならなかった。
そして私は、そんな化け物としての力を抑えることができず、決闘をすれば必ず騒ぎになり、それが原因で父にぶたれることもあった。私のせいじゃない。私のせいじゃないのに、誰もが私を憎み、遠ざける。
そして、力の制御できないのに、それでも決闘だけは捨てられなくて、そんな決闘を理由に、私は決闘アカデミアへ入学させられた。全寮制のアカデミアでは、家に帰ることは無かった。子供心に感じたわ。私は、追い出されたんだって。
けど、そこで待っていたのは輝かしい学園生活ではなく、私の化け物としての新たな日々。決闘をすれば、力が暴走し、ダメージは実体化する。結果誰もが私を避け、決闘もできず、毎日侮蔑の目を向けられ、孤立していく。
そんな毎日に耐えられなくなり、一度だけ家に帰った。けど、窓から見えた両親は笑っていた。私がいないあの家で、笑っていたのよ。
それを見て、私は分かった。そう。私がいたからいけなかったんだ。二人は私がいない方が良い。だから、私を追い出して笑っていたんだって。
だから、カードを発動して、家をめちゃくちゃにしてやった。そして逃げながら、笑った。二人が笑うのなら、私も笑ってあげる。お前達の居場所を壊して、大声で笑ってやるんだって。
そして私は、この力と怒りをぶつける相手を探すため、後に『黒薔薇の魔女』と呼ばれる、仮面とマントを纏った。そして、ダイモンエリアで決闘者を狩る毎日。決して気持ちの良いものではなかったけれど、それでも楽しかった。私以外の人間が、私を傷つける力で傷ついていく様を見るのが。
そんな時、ディバインに出会った。ディバインは私のことを、人として扱ってくれた。そして、私に優しい言葉を掛けてくれて、私のことを受け入れて、居場所をくれた。ディバインがいたから、今の私がある。魔女としての私を見つめていてくれる。
なのに、そのディバインは……
(「十六夜さん!」)
っ!
突然、大きな声で私を呼ぶ声。この声は……
(「十六夜さん! 思いの無い人は、何かを恐れることはありません。あなたは何に脅えているのです? 傷つけることですか?」)
また、聞こえてくる。なぜ、あの男の言葉が……
(「力を恐れ、自分を恐れ、全てを否定し、それでもなおそんな自分を許してくれる誰かを求めたのは、人である証だ!」)
(「笑い、憎み、怒り、震え、また笑う……」)
(「胸を張れ!! あなたは誰より人らしい!!」)
あんな言葉を掛けられたのは、初めてだった。
こんな、魔女と呼ばれ、化け物と呼ばれた私のことを、誰よりも人らしい?
しかもその男は、私との決闘中、自分以外の人間が傷つかないよう、私だけでなく、私の力とさえ戦っていた。
そして、
(「あなたとの決闘、とても楽しかった。もしまた決闘したくなる日があれば、私を訪ねて下さい。今日と同じ、決して、あなたに人は傷つけさせませんから」)
……違う。
そんなことじゃない。私にとっての決闘とは、そんなことじゃない。
私が戦う理由、それは……
(「他人に答えを預けるな」)
っ!!
この声……
視点:クロウ・ホーガン
梓の奴が消えてから、時間がだいぶ経った。
あれから時々探し回ってみたりもしたが、未だに見つけられずにいる。
結局、あいつは俺達のこと、恨むだけになっちまってるのかな。
最初、俺が触れようとした瞬間その手を振り払って、その後に言った言葉で、マーサの言ってたこととは真逆のすっげぇ嫌な奴だと思った。俺はこんな奴に初恋しちまったのかって。
けど、その後のライディング決闘で、梓の見事なプレイングを見て、梓はそんな人間じゃないって感じた。めちゃくちゃ強くて、その上鮮やかな決闘をしてみせる。決闘をしていればその人間のことが分かるって言うけど、その通りだって感じた。
けど、その後だった。決闘の終盤、諭すつもりで話し掛けたのを引き金に、梓はキレた。それまでは優しい顔で決闘してたのに、急に叫んだかと思ったら、俺に対しての、怒りをぶつけるだけの決闘、それをされた。
今でも思い出す。あの時の梓はかなり怖い顔をしながら、だけど悲しそうな顔だった。俺のことを恨んでる。恨まれるようなことをした覚えは無いし、梓だってそうしたくないんだろうけど、とにかく恨んでるんだ。その後に消えちまって、もう会うことは無いのかって思った。
だがその後、遊星が鬼柳に敗れて、大ケガを負った時、あいつは遊星を助けてくれた。最初は触るのも嫌がってたくせに、すぐに触って、遊星に応急処置を施した。そして、そのまま遊星を担いで、俺のDホイールを追いかける形でマーサハウスに来た。
マーサにも感謝されて、やっと仲間になれるかって思ったけど、やっぱりあいつは、俺を避けた。そして、一言だけ謝って、消えちまった。
その後のマーサの話しで、全部納得した。
恨まれるもの仕方が無え。あいつにとって、俺は、いや、俺達サテライトの人間は、きっといくら憎んでも飽き足りない存在なんだろう。普段からサテライトの屑だってただ見下されることに慣れていただけに、そこまで純粋な恨みを抱かれるのは初めての経験だった。そして、その恨みを抱かれたまま、梓は今どこにいるのか分からねえ。
あずさ自身も、その恨みには後悔してるみたいだった。俺達のことを憎んで、そのせいでずっと苦しんでるようにも見えた。
そりゃ誰だって、誰かを恨むのは嫌に決まってるよな。誰かを恨むってことは、その誰かを思い出す度に自分のことを傷つけるってことだ。苦しいに決まってるぜ。特にあいつの場合、サテライトの人間全員っていう不特定多数の人間を恨んでるうえ、人一倍優しい性格だったから、その苦しみもかなりのもののはずだ。
だから、もしまた会うことができたら、じっくり腹を割って話し合いたいって思う。そして、今度は俺の口から言うんだ。俺達は、お前の恨む人間がやったようなことはしねえ。俺達は、お前と仲間になりたいんだって、言ってやりたいんだ。それくらいしか、俺があいつにしてやれることは無えからさ。いつになるか分からねえが、いつかきっと。
視点:不動遊星
水瀬梓。
あの男には、大きな借りができた。
あの男のことは、当然聞いたことがあった。おそらくはこのネオドミノシティで、ジャックの次か、同じくらい有名な存在だったからな。だが同時に、決闘には最も無縁な人間だとも感じていた。
それが、決闘をしていたという事実にも驚いたが、サテライト出身で、マーサとも交流があったことには更に驚かされた。
静花としての水瀬と出会った後は、このサテライトで、本来の姿である水瀬梓と出会った。俺達に対する反応を見て、本当にマーサの言っていたような人間なのかと疑問に感じたが、すぐにそうだと分かった。彼はとても真っ直ぐな決闘をする。決闘を愛し、決闘に愛されている。そして、クロウの一言に激怒した時。その一見恐ろしくも美しい姿の中には、目を奪われるほどの、他には無い純粋さを感じさせられた。
あの男は、誰よりも純粋なのだろう。自分の気持ちに正直に生きながら、誰かのことを常に思いやる。だから、準決勝で十六夜に、あれだけのことを言えたんだろう。
そしてその優しさが、恨む対象の一人であるはずの俺のことを、助けてくれたのか。感謝している。その気持ちには。
クロウはその恩に報いたいと感じながら、同時に、水瀬の心をどうにかしてやりたいと思っているらしく、今でも水瀬のことを探しているらしい。
俺も、できれば助けてもらった礼を言いたいが、あいつはそもそも、俺達に会ってくれるだろうか。
目を覚ました後でマーサから聞いたが、それ程サテライトを憎んでいるのなら、もしかしたら既にサテライトにもいないのかもしれない。シティからサテライトまで、泳いで渡ってきたというのもマーサから聞いた。それだけの体力に、クロウとのライディング決闘で見せた健脚の速度。水瀬なら、俺がやったよりも遥か簡単にサテライトからシティへ行けるだろう。
だがもしそうなら、理由はどうあれ、サテライトからシティに戻ったのだとしたら、水瀬は今頃……
そんな時だった。
ババババババババ……
急に、空からヘリの音が。これは……
……
…………
………………
視点:梓
……
…………
………………一体、いつまで続くのです?
先程から、一面に木が生い茂るだけの道を歩いている。地面や木々には雪が積もっていている、一面の銀世界。
風景としては美しいのですが、ずっと見ているとさすがに嫌になってくる。
そもそも、なぜ私はこんな場所に。
私は直前まで、サテライトにいたはずだ。サテライトで、多くの友に囲まれて……
友? はて、何のことでしょう……
と、今はそんなことを考えている場合ではない。ここがどこか分からない以上、歩かないことには何も始まらない。
歩きながら何度も周囲を見渡す。先程からほとんど風景は変わらない。どこを見渡しても、結局一面の銀世界だ。
本当にここはどこなのか。いや、そもそもここは、私のよく知る世界なのか。
私のいたネオドミノシティとは、随分と場の空気と言うか、雰囲気と言うか、とにかく空間自体が違っているように感じる。まるで、私を除いた全てのものが変わってしまったように。
そんなバカな話しがあるはずが無い。無いはずですが、実際にはどうなのか分からない。
とにかく、視界に映る、五感に感じるもの全て得体が知れない。例えば今すぐにでも、上から私に向かって、何かが襲い掛かってくるような……
ほら来た!
ゴッ
上に向かって拳を振り上げると、それは遥か後ろの、草むらへと消えたようだった。
鷲か何かでしょうか。正面を向いたまま殴ったせいで見えませんでした。そして動く様子は無い。のびてしまったのか。まあ、とにかく危険は無くなったようだ。
その後もしばらく歩きましたが、別段危険が襲ってくる気配は無い。代わりに何も、変わることは無い。
「どうしたものか……」
そう、呟いた直後でした。
「わぁー!!」
「!!」
悲鳴?
間違いない、これは人の声だ。
体の向きを変え、大急ぎで声のした方へと走る。
視点:外
一人の少女が、森の中を駆けていた。紫色の服に身を包み、ツインテールに縛った青色の髪をなびかせ、振り返る間も無く必死で走っている。
そして、そんな少女の後ろには、巻き上げられた雪によって、姿を隠した何者か。それが、少女と一定の距離を保ちながら、しかし徐々にその距離を詰めつつある。
「ヤバいヤバいヤバいヤバい……」
走りながら少女は繰り返し呟いていた。誰の目に見てもそれは明らか。追いつかれれば、まず無傷でいられる保証は無い。
だがそれは分かっていても、早く走ったところで既にそこまでやってきている。少女との距離にして、およそ一.五メートル。
そして、
「うわっ!!」
最悪なタイミングで少女は転んでしまった。
これ幸いとばかりに、
ガァンッ
「っ!!」
その驚愕が、それを見たことによって起きたものなのか、目の前の光景によって起きたものなのか、少女は混乱し、判断できなかった。
『おケガはありませんか?』
こちらに顔を向け、尋ねてくる。少女は目をパチクリとさせながら、礼を言うべきところを、質問で返してしまった。
「ご兄弟ですか?」
その質問に、二人は初めて顔を見合わせた。
視点:梓
目の前の、青色の光景に、困惑するやら狼狽するやら。
「あなたの名前は?」
「私は、水瀬梓。あなたの名前は?」
「私は、水瀬梓」
お疲れ~。
次もなるべく早く上げるよ。
じゃ、待っててね。