まあタイトルからも分かるように、かんなり季節外れの話ではありますが、執筆及び投稿当時の時期の都合なのでお許し下さいな。
ちなみに書いた動機としては、他作品でもよく書かれてたので、大海も書きたくなったことが主な理由です。
本編を待ってくれている人には申し訳ないのですが、できればこれも楽しんで下さいな。
それでは、行ってらっしゃい。
視点:梓
二月十四日。
クリスマスやお正月ほどでは無いにせよ、ある意味で言えばそれ以上の希望の笑顔をシティに住む人々に与える、そんな記念日。
そしてその日が明日に迫った今日ともなれば、いくら仕事が忙しい身の上であっても、今日一日を終えた翌日に何があるのかくらい、自覚できます。
それは、シティの風景や、道行く人々の言動をよく見れば分かることではありますが、それ以上に私の場合、私の周りにいる大勢の人が、そのことを教えてくれるからです。
……
…………
………………
お琴教室を終え、後片づけを済ませた時でした。
「梓先生」
私の近くに座っていた若い(と言っても、私より年上ではありますが)女性が、私に話し掛けてきました。
「はい、何ですか?」
いつもと同じように、笑顔で返事を返します。次の教室の準備も急がなければならないものの、大切な生徒の皆さんから話し掛けていただいたのです。それを無視できるほど、私も厳格にはなれません。
「実は、一つお尋ねしたいことが……」
「どこか分からない所でも?」
いつもの指導と同じように、お琴に関する質問かと思い尋ねてみました。
しかし、女性は首を左右に振りました。
「いえ、そういうわけではなく、お琴とはあまり関係無い、個人的な質問なのですが……」
「ええ。何でしょう?」
と、そう聞き返した時、彼女の後ろにいる数人の女性が、こちらを見ながらひそひそとお話ししているのが見えました。
疑問に感じましたが、すぐに女性が口を開いたので、そちらに目を戻します。
「先生はその……チョコレートは、お食べになりますか?」
「チョコレート……」
突然の質問に、少々呆気に取られてしまいました。
チョコレート。おそらく現代日本において、饅頭やお煎餅、果ては飴玉やケーキの
ですが、
というより、そもそも私の場合、チョコレートどころか、教室や接待以外、「自分の意志・希望で」何かを食べた記憶はしばらくありません。
「あまり食べる方ではありませんが、チョコレートは好きですよ」
当たり障りの無い返事を返します。最後に食べた日も、その味も覚えてはいませんが、少なくとも『美味しかった』という記憶は残っています。
すると、女性は笑顔を見せて下さいました。
「そうですか。ありがとうございます!」
と、質問に答えただけで女性は満面の笑顔でお礼を言い、下がりました。
そして、後ろで聞いていた女性達の輪に加わり、そのことを離して更に笑顔を浮かべる。やはり、彼女達のうちの代表として、私にそんな質問を投げかけたようだ。
それだけならまだ、『ふと感じられた素朴な疑問』程度の認識で済みましたでしょうが、その後の生け花教室、習字教室、日本舞踊教室と、三つの教室全てで、練習後に数の差異はあれど、数人の女性に同じことを聞かれれば、私とてそれが何を意味するかを理解し、近日中にある特別な日を連想するだけの知識はあります。
「そう言えば、明日は二月十四日、バレンタインデー、でしたね」
主に女性が、好意を寄せる男性、その他友人やお世話になった人達に感謝の気持ちを籠め、チョコレートを贈る。作り方は分かりませんが、中にはチョコレートを加工した手作りチョコと呼ばれるものを渡す人もいると聞きます。
「ということがあったのです」
帰りの車の中で、明日のスケジュールを確認した後、大谷さんにそのことをお話ししました。
「ふむ。明日はちょうどバレンタインデーですから。十中八九家元に対するプレゼントと見て間違いないかと」
「やはり、そうですか」
私より遥かに長い人生を歩んできた大谷さんの言葉なら、間違い無いでしょうね。
「しかし、私は贈り物などというものを頂けるほどの人間なのでしょうか?」
もっとも、一応は『先生』であるという立場上感謝されはしますし、過去には何度も性欲の捌け口として扱われた身なので、そう言った感情を向けられることにも納得はできます。
「もちろんです。あなたは今や、シティ中から尊敬される名家の頭首であり、数多くの教室の先生なのです。むしろこういう行事ごとで贈り物を受けることは必然でしょう」
納得はできますが、
「しかし、彼女達にはそれをすることで得られる利点は無いはずです。今まで私は、そう言った贈り物を受け取ったことが無い」
「は? それはどういう? いつも何かのお祝いがある日は、料亭やお得意先からよく贈り物を頂いているではりませんか」
「それは……言い方はよくありませんが、私では無く、自分自身の利益のための、私への贈り物です」
そんな指摘に、大谷さんは納得したように口を閉じました。
尊敬も好意も日常的に寄せられます。贈り物もよく届きます。しかし、それはあくまで『向こう側が満足するため』のそれでした。
あまり言いたくはありませんが、要するに、私からの好印象を求めて贈り物を贈っている、ということです。
こんなことは思いたくありません。
思いたくありませんが、実際、サテライト時代はそうでした。
わずかな食糧を与えると言ってくれた人達は、必ず代償として体を要求してきました。それが普通のことだと思っていましたし、それが私のためだと子供なりに自分に言い聞かせていました。それが、私のためではなく、与えてくれる側自信の行動であることを知ったのは、私が水瀬家に来た後のことです。
水瀬家に来た後も、『自分のための贈り物』は何度も受け取ってきました。
私にと受け取ったお菓子のうち、三つに一つは毒入りでした。
誰もがやっている常識であると教えられた遊びは、リストカットや首吊りでした。
私のためにと勉強中に受けた『指導』は、単なる横槍と暴力でした。
遊びにいくと言われて連れて「行かれた」先で、連れて「帰られる」ことは一度もありませんでした。
私のためにと作られた『離れ座敷』は、そこへ私が入った直後、燃やされました。
そして、頭首になった後はそんなことは無くなりましたが、代わりに月に一度以上受け取る贈り物も、単なる接待、好印象を受けるためだけのそればかり。
『贈り物』と聞いて明るい想像をする人の方が多いことは知っています。しかし、私にとって『贈り物』とは、自分の利益のために相手に一時的な利益を与えるための物。
明らかに間違った解釈であることも自覚しています。それでも『贈り物』のせいで何度も命を落としかけた人間として、その払拭は楽な行為ではない。
「私にバレンタインチョコを贈ることで、生徒の皆さんにはどのような利益があるのですか?」
はっきりと言ってしまえば、私にとって皆さんは、先生と生徒と言う関係でしか無い。月謝を受け取る代わりに、指導を行うという関係性で成り立っている。それだけの関係である私に対して、彼女達はそれ以上の何を望んでいると言うのか。
「……確かに、世間一般でも贈り物と言えば、相手を喜ばせるというより、自分のために相手のご機嫌を取るという目的のためのものが多いのも事実です」
大谷さんがそう話しを始めました。この人も、私の今までの人生のほとんどを知っている人です。私の考えは分かってくれたのでしょう。
「ですが、それが全てではありません。ご機嫌取りであれ自らの売り込みであれ、そのための贈り物には、『相手が喜ぶ』ことを前提とするものです。相手が嫌いな物を贈った所で逆効果になる。家元に贈られたものも、その中でも家元が好きなものは多かったはずです」
「それは、確かに……」
「そして、贈り物という行為は、家元が思っているほど醜い行為でもありません。世に言う贈り物と言われる行為のほとんどは、相手への感謝や好意の気持ちだけ伝えるためもの。そして、それに対する気持ちの形です。むしろ、世界中で行われている贈り物のほとんどはその形です」
「本当ですか!?」
大谷さんの話しに、つい目を見開いてしまった。
感謝と好意、それを伝えるためだけの、気持ちの形が贈り物。
そんな話しは、テレビドラマや小説の中だけのお話しだとずっと思っていました。もしそんな贈り物をしてくれる人がいるのなら、それはよほど親しい友人か、あるいは父のような、肉親だけだと思っていましたが。
そうではないというのですか?
実際に、気持ちを伝えるためだけの贈り物。そんなものが、存在するのですか?
「嘘だとお思いなら、明日になればきっと、私の言葉が嘘ではないということを、分かって下さるでしょう」
そう言って笑顔を向けた直後、車は止まりました。
その後、いつものように訓練を行い、家に帰り仕事をしました。そしてその日は、深夜は遥かに過ぎていたとは言え、約三週間ぶりにお布団に入ることができました。
……
…………
………………
視点:外
遊戯王5D’s ~剣纏う花~
KONAMI
「愛しき友たちよ、不肖なる私に、力をお貸し下さい」
「私に、あなた達と共に戦う資格がありましょうか。あなた達の主たる資格がありましょうか」
『真六武衆-カゲキ』
『真六武衆-シナイ』
『真六武衆-ミズホ』
『真六武衆-エニシ』
『真六武衆-キザン』
『六武衆の影武者』
『紫炎の寄子』
『真六武衆-シエン』
『紫炎の狼煙』
『紫炎の道場』
『時の飛躍-ターン・ジャンプ-』新規カード
「あなた達がそう信じてくれるなら、私はもう迷わない!」
「遊戯王5D’s OCG、
「丸月閥日、発売です」
「
KONAMI
遊戯王5D’s ~剣纏う花~
視点:梓
翌日、まずは和菓子教室です。
いつものようにお菓子を作ってみせ、それを皆さんに再現してもらう。実際に皆さんの前を回ったりして、質問があると呼び掛けられればすぐにそちらへ。そして、気になる点を指摘する。
いつもと変わらない、教室の風景です。
そんな教室が終わり、お片づけを始めた時でした。
「梓先生」
名前を呼ばれ、そちらを見ると、数人の若い(まあ私と歳は変わらないなのですが)女性達が、私の前に集まっていました。
「どうかなさいましたか?」
そう話し掛けると、女性達は顔を見合わせました。そして、「せーの」という呟きがきこえたところで、
『受け取って下さい』
と、様々な形で包装されたものを差し出してきました。
「これは?」
答えは分かっていますが、一応形式的に尋ねます。
「バレンタインチョコです」
やはり、予想していた答え。偽りの無い、純粋な笑顔です。
「なぜ、私に?」
そう尋ねました。私にこれを渡すことで得られる、彼女達の利益。それが、どうしても気になったからです。
しかし、それに対する返事は、
「いつもお世話になっていますし、それに……////」
なぜ赤くなるのです?
「とにかく、いつもお世話になってるお礼です。だからぜひ、受け取って下さい」
「……分かりました。ありがとうございます」
会話をしながら顔を見ていましたが、その顔に嘘偽りは見られない。
感謝やお礼、社交辞令としては無難な答えでしょう。しかし、少なくとも今目の前にいる彼女達は、全員が社会を知らない学生達。その言葉には、純粋さしか感じられない。
そして、その後は簡単に会話を済ませ、別れました。
(……まあ、今はとにかく、次の教室へ行かなければ)
そう考え、すぐに片づけを済ませて教室を出ました。
その後も、いつものように教室を回り、いつものように指導していくのですが、教室が終われば必ずと言って良いほど、女性達からチョコレートを頂きました。
極端な例では、その教室の子供達全員から、一斉にプレゼントされる、ということもありました。
(皆さん……どうして私などのために……)
そして、その日の最後の教室、習字教室を終え、帰路に立とうと教室を出た時でした。
「あ、梓先生!」
私を呼ぶ、これは、子供の声。
そちらを向くと、一人の少女。
「あなたは……龍可さん」
「え、わたしの名前、覚えていてくれてたんですか?」
そう驚かれてしまいましたので、私は笑顔を浮かべてみせます。
「生徒達の顔と名前は、全て覚えいますよ」
本当の話しです。さすがに教室に入りたての人は覚えるには時間が掛かるものの、一度覚えた顔と名前は忘れません。それが教室の生徒達であるというのなら、なおのことです。
そう答えた後、龍可さんは嬉しそうに笑い、私の前まで歩いてきました。
「先生……これ……////」
そう、赤面しながら手渡してきたのは、今日何度も見てきたものと同じもの。
「これは?」
条件反射で、分かってはいますが聞いてしまいます。
「その、ば、バレンタインチョコを……//// 先生の作るお料理や、お菓子には、全然敵わないって分かってるけど、その……////」
赤面し、途切れ途切れになりながらも、必死に言葉を続けている。
「龍可さん……」
私は龍可さんの目線に合わせて、その前に座りました。
「なぜ、私などのために?」
今までチョコを貰っても、疑問に感じただけで聞くことは無かった。それを、目の前の、それより遥かに年下である龍可さんに尋ねるのもどうかと思います。
しかし、一日の仕事の最後に、二人きりという形で出会った人。そんな人に、どうしても聞きたくなってしまった。
「私にはおそらく、何のお返しをすることもできません。今までと同じ、教室の先生として、教えることしかできない。そんな私に、なぜ?」
今日頂いたお返しをする、ホワイトデーという日があることは知っている。しかし、そのためのお返しを用意する時間も暇も、とてもではないが確保できないのが現状です。
「……」
龍可さんは困ったように、目を泳がせました。
やはり、こんなことは子供に聞くようなことではない。もっとも、大人の人に聞くことでもないのでしょうが。
「おかしなことを聞いてしまってごめんなさい」そう言おうと口を開きました。
「わたしはただ……」
しかし、私が話す前に、龍可さんが話しを始めました。
「わたしはただ……梓先生に、今までのお礼と、感謝の気持ちを伝えたくて、それで、それを伝えるには、プレゼントが一番だって思って。それで、今日はバレンタインだから、チョコレートを作れば良いって、それで……」
そして、次の言葉に、私は衝撃を覚えました。
「梓先生が、喜んでくれたらなって、思ったから……」
「……!」
表情は変えないよう努力しましたが、それでもまるで、何かに殴られたような感覚を覚えました。
何と言うことだ。
龍可さんは、私に喜んで欲しいと、そのために私に手作りチョコを作ってくれた。
誰かに喜んで欲しい。今まで私がずっと思ってきたことです。
生徒の皆さんに、知り合いの人達に、大谷さんに、そして、お父さんに。大切な人達に、喜んで欲しい。その思いを
そして、それを喜んでくれるだけでなく、感謝してくれる人達がいた。そんな感謝から、私にも同じ思いをして欲しい。その思いから、私に手作りチョコを作って下さった。そういうことなのですね。
「ありがとうございます」
いつものように笑顔を作り、お礼を言いながら受け取ります。
「大切に、食べさせて頂きます。龍可さん」
……
…………
………………
「大谷さん」
移動する車の中で、龍可さんからのチョコを見ながら、また大谷さんに話し掛けました。
「贈り物とは、こんなにも温かいものだったのですね」
いつでも私は、相手に何かを与える立場の人間だった。与えられる喜びなど、私が感じさせれば良い。そう、無意識に感じながら生きてきた。
そして、あり得ないと思っていた、自分ではなく、相手のための贈り物。それは、実在していた。そしてそれを受け取り、その思いを知った時、心が満たされ、温かくなるのを感じた。
「そうです。昨夜もお話ししましたが、誰しもが贈り物に籠める思いは、喜んで欲しいという思いです。それ以上の思惑を込める方がむしろ珍しいと言って良い。贈り物とは本来、それだけ純粋な心からの行為なのです」
「……そうですか」
それだけ答え、自然と笑みがこぼれました。
それこそが、贈り物の本当の意味。
利益も見返りも求めず、ただ相手の喜びを願い、それを贈り物に籠める。それが、本当の贈り物。それが本当なのだと、やっと信じることができました。
移動する車の中、龍可さんからの贈り物を開き、中からチョコレートを一つ取り出しました。
このチョコレート一つ一つに、龍可さんの思いが籠められている。これだけではなく、今日頂いた全てのチョコに、その人一人一人の思いが。
それを感じながら、口の中へ。数年ぶりに食べたその味は、とても甘く、少し苦く、そして、良い香りがした。
父からデッキを受け取り、決闘者を志した日の、少し前のお話し。
お疲れ~。
プレゼントが純粋なものじゃ無くなるのって何歳くらいからなんだろう。
まあどんなプレゼントにせよ、いつまでも相手を思いやる気持ちを忘れてはいかんてことだろうね。
ちなみにGXの方も書いてるので、良ければそちらも読んでやって下さいな。
てなわけで、本編の方も頑張りますんで、ちょっと待ってて。