遊戯王5D's ~剣纏う花~   作:大海

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こんにちは~。
第十二話できました~。
行ってらっしゃい。



第十二話 力を求めて

視点:外

 

「……」

「……」

 

『……』

 

 現在、梓とアズサの二人は、里の外に広がる森を抜けた先にある山を登っていた。

 一歩踏み出せば、厚く積もった雪が深い足跡を作り、冷たい風は容赦なく雪を運んでくる。その中を、二人の(アズサ)は黙々と登り続けた。いつもの二人なら、歩きながら冗談の一つも口にする場面だろうに、どちらも一切の口を聞こうとはせず、むしろ硬く閉ざし、歩くだけ。

 そのどこか緊迫した空気に、アズサは息苦しさを感じつつも、言葉を掛けることができずにいた。

 ただ無言で、そして無表情で、だが、その身には大きな使命感を帯びながら、自分の役割を自覚し、それに向かい歩いていく。それが今の梓から感じられる雰囲気だった。

 昨日、自分の腕の中で泣いていた少年は今、どこにもいない。昨日はあんなに弱々しかった少年が、今は誰よりも勇ましく、そして、強い姿を見せている。

「……」

 そしてそんな梓の表情を、改めてまじまじと見つめた。

(本当に綺麗な顔してるよなぁ……)

 随分と今更な感想ではあるが、コウ、もとい『ワーム・キング』を圧倒するだけの力を備え、傷つきながらも『レイジオン』を下し、そして今、力を求め虎将に会いにいく。それだけのことをしてのける人間として、梓のその顔は、あまりにも無防備で、儚くて、そして、美し過ぎた。

 

「止まって」

 

「!!」

 突然発せられた声に、アズサは指示通り止まったと言うより、ほとんど反射的に固まってしまった。

「どうしたの?」

「分かりませんか?」

 周囲を見やりながら、その質問の意図を探そうとするも、どこにもその答えらしきものは見当たらない。

「何のこと?」

「……」

 梓は答える代わりに、地面の雪を掬い上げる。そしてそれを両手で丸め、球状に固めた。その間、一切視線を、前方から外しはしない。

「あそこです」

「あそこ? ……あれって、岩じゃないの?」

 梓の差すその先には、大きな白い岩が見えるのみである。

「……」

 梓はやはり言葉では答えず、雪玉を持った左手を振り上げ、

 

 ヒュ

 

「お!」

 その音の鋭さに、思わず声が出る。

 だが、本当の驚愕はそのすぐ後に起こった。

 

 バシッ

『グォオオオオオオオオオオ!!』

 

「な!!」

 岩に雪玉がぶつかった瞬間、岩は突然動き出した。そして、徐々に岩の中から細長い脚、平たい羽、長い首、そしてその先端の嘴が、まるで形作られていくように現れる。

「『ファルコ』だ」

「ファルコ?」

「見ての通り、鳥に近い見た目のワームだよ。もっとも、見た目だけで空は飛べないんだけどね」

「ほぅ……」

 その話しを聞いているのかいないのか、判断のつきかねる軽い返事。

 その返事の直後、梓はファルコへ向かって歩き出す。

「どうするの?」

「……」

 聞いても答えない。仮に襲われても梓のこと、心配はいらないだろう。だが、雪玉をかなりの威力でぶつけられたファルコも、翼を広げ首を伸ばし、怒りを露わにしているのが分かる。

 そんなファルコに向かい、梓はただ歩いていくだけ。武器さえ持たず、また取り出す気配も無い、あまりにも無防備な姿。例え梓でも、攻撃されたとして身を守ることができるのか。

 

「……」

 ファルコの前で足を止め、向かい合う。近くに立ったことで、その大きさを改めて理解する。梓の身長は、ファルコの細長い脚の八割ほど。残りの二割と、胴体、首を含めての体長、そして、翼を広げたことでの全長は、コウには遠く及ばないまでも十分大きい。

『グオォオオオオオ……』

 威嚇と言うより、脅すような呻き声を梓に浴びせながら、顔を梓の眼前まで近づける。

 お前など、いつでも殺せる。そして今、殺す。そんな俺様の顔を目に焼き付けろ。

 言葉にせずとも伝わってくるそんな言葉と、光る鋭利な嘴。普通の人間なら、それだけで恐怖に動けなくなるだろう。

 だが、(アズサ)は二人とも、そんな脅しには何も感じない。

 梓は当然として、いつもなら僅かばかりの動揺もあったろうアズサにとっても、それほどの脅威とは感じられなかった。それは、梓の強さへの信頼、いやそれ以前に、梓の前に立つファルコの姿がアズサにとっても、随分とちっぽけな物にしか見えなかったから。

(見た目は強そうだけど、何だろうこの、仕様も無い感じ……)

『グォオオオオオオ!!』

 そんなアズサの思考など知るはずもなく、ファルコはその嘴を梓へ振りかぶる。

 

 ドッ

 

「っ!」

「……」

 その大きな音に、さすがにアズサは驚いてしまった。だが、梓は変わらず無言であり無反応でいる。そしてファルコはと言えば、アズサの体に顔をつけたまま静止してしまっている。

「……え?」

 よく見て、分かった。梓は最初から、身を守る気などない。ファルコの丸い嘴による一撃を、キングの拳と同じように、胸で受け止めていた。キングのそれと比べれば、その一撃はあまりにも矮小で、儚い一撃に他ならなかった。

 

 だが、ファルコにとってそれは、己との力の差を知るには十分過ぎた。

 自分よりも遥かにちっぽけな小動物が、自分の渾身の一撃を受けながら、平然としている。それはワームに限らず、生物として、恐怖を感じるには十分な衝撃。

 そしてファルコもまた、そんな目の前の小動物に恐怖した。自分の嘴を胸で受け止められた。そんな姿に、恐怖が体を縛り付け、体が動かない。

「……」

 そんな強い小動物からの反撃を覚悟した。だが何を思っているのか、小動物は微笑みだけを浮かべ、ジッとこちらを見つめるだけ。

「……」

 だがその微笑が、全てを語っていた。

 俺はいつでもお前を殺せる。間違いなく殺すことができる。逃げるのなら今だ。

『ッ!!』

 ファルコは広げた翼を畳み、踵を返すと急いで雪に染まる山を駆けた。

 ただ遠くへ。あいつのいない場所へ。あいつから限りなく遠く、あいつでも追ってこられない、そんな場所へ逃げるために。

 

 

「良かったのかな」

 梓の行動に感心しつつ、アズサは疑問を投げ掛けた。

「何がですか?」

「あいつ、殺さなくてよかったのかなって」

「……」

 その質問にやはり浮かべる、笑顔。

「彼らとて、私達と同じように生きているのです。それを、必要以上に奪う必要はありません。もしまた人を襲うようなことがあれば、その時はまた、力の差を見せつけて、それでもダメな時は……」

 その先の言葉を、梓は口にはしなかった。

 だが、話しの内容からも、その後見せた悲しげな表情からも、何を言いたいのかはよく分かる。

(敵だとしても、命は奪いたくないんだ。本当、梓らしいよね……)

 

 

 それからも数多くのワームが、(アズサ)達に襲い掛かってきた。時には巨大な敵が一体、また時には小さな敵が何体もの数で。だがその度に梓が前に出ては、その攻撃を、全て受けてみせる。やがてワームは自分達の攻撃が通じないことを悟り、そんな強い相手からの反撃を恐れ、逃げていく。

 それを繰り返し、襲い掛かるワームの全てを、無傷の状態で撃退していった。

 ただし、

 

「梓さぁ……」

「はい」

 途中で足を止め、アズサは梓に話し掛けた。

 その姿は、初めの美しい姿が嘘のように、服の所々が破け、大小様々な傷がいくつもでき、ぼろぼろに変わり果てている。

 そう。無傷なのはあくまでワーム達の方であり、全ての攻撃を受け切った梓の体は、ぼろぼろに傷ついていた。

「別にさ、僕だって梓のことは大体分かってるつもりだし、梓の戦い方にどうこう文句を言う気は無いよ。無いんだけど……」

「アズサ?」

 アズサは一度目を閉じると、意を決したようにまた目を開き、梓の正面に立つ。

「これ以上攻撃受けてばっかりじゃ体が()たないよ! なるだけ傷つけたくないって梓の気持ちもよく分かるけど、これ以上梓のケガする所見たくないよ!!」

「……」

 だが、そんなアズサの訴えにも、梓はただ、笑っている。

「私は大丈夫です。傷ついても構いません。私が傷つくことで、一つでも戦いを無くすことができるなら、体の傷など苦ではありません」

「……」

 思わずアズサは顔を伏せ、一歩下がってしまう。

「アズサ?」

「梓はさ、自分の言ってることとやってること、矛盾してる……」

「矛盾、ですか?」

「うん。矛盾じゃん……」

「……?」

 ただ、苦しげな顔を見せるアズサに対し、梓は何も言えず、疑問を感じるしかない。

「梓はさ、昨夜布団から飛び起きて山まで逃げて、その時僕に、何て言った?」

「……」

 ようやく、アズサの言葉の意図に気付き、表情からは疑問が消える。

「そのお話しはもう……」

「何て言った!?」

「……!」

 話しを中断しようとしたものの、アズサは無理やり口を挟み、答えを聞きだそうとしてくる。

「答えてよ」

「……」

「……」

「……怖い。そう言いました」

「でしょう……」

 正直な返事を返してみると、アズサはまた顔を悲しみに歪めた。

「怖いんでしょう。戦うのも、戦ってケガして、痛い目に遭うのもさ。そりゃ二人にとってはさ、里の人達との大事な約束なのも分かってる。僕だって、立場が同じなら同じことすると思う。だったらせめてさ、自分の身くらい守ったっていいじゃん。いくら傷つけたくないって言ってもさ、梓ばっかりがケガすること無いじゃん」

「何でそこまで優しくできるの? 自分ばっか痛い目に遭って、それでも相手にはそんな思いさせたくないなんてさ、自分で怖いって言っておいて、どうしてそこまでやろうとするの? 梓がそこまでしなきゃいけない理由なんてあるわけ?」

「……」

 その悲鳴にも似た質問に、梓はやはりというべきか、笑顔を見せていた。

 いつでも変わらぬ、人に対して向ける、優しく、純粋で、全てを物語る、不変なる笑顔を。

「私が怖いのは、戦いの中の痛みではありません」

「え?」

 心の思いを否定された直後、梓の口から語られたのは、昨夜の本音に隠された、本当の気持ち。

「アズサは、仮に私が戦いに負け、死んだとすれば、どう思いますか?」

「……! 嫌だ! 嫌に決まってるじゃん! 梓が死んで、梓がいなくなるとか、絶対に嫌だ!!」

 それは、素直で正直なアズサらしい、取り乱した姿だった。

「その気持ちこそが、私が怖いと言った物です」

「え……これが?」

「傷の痛み、怖いです。敵の脅威、確かに恐ろしい。ですが、そんな物は自分さえ耐えればどうとでもなります。けれど、失う恐怖はそうはいかない。どれだけその苦しみに耐えようとも、傷とは違って、失った物は戻ることはないのだから。私には詳しい記憶は残っていませんが、思い出したのが、かつて誰よりも愛した存在達を、一度に全て無くした記憶と、その時の感情です」

「……何があったの?」

「分からない。思い出したのは感情だけですから……しかし、戦争という状況下では、私と同じ思いをした人は大勢いるでしょう?」

「まあ、そうだけど……」

「だからこそ、そんな辛い思いを、これ以上誰かに味わわせるわけにはいきません。そして、私ならそれを止めることができる。敵にも味方にも、一切そんな思いをさせることなく。なら、私一人が耐えればそれで良いのなら、私はいくらでも耐えてみせます。そうすれば、大勢の命を守ることができるのですから」

「……」

 納得はできる。筋も通っている。だが、

「じゃあさ、その梓はさ、一体誰が守るっていうの?」

「私を?」

 訳が分からない。正にそんな表情を梓は浮かばせた。

「そうだよ。そんな痛い思いばっかして、自分以外ばっか守って、自分の身は守らないわけ?」

「……」

「僕だって、戦うことの怖さは知ってる。それ以上に失う怖さの方が強いことだって知ってる。だから、さっきも言ったけどさ、僕はさ、梓に死んでほしくない。反撃や抵抗をしないのが梓の戦い方だとしても、それで死んじゃったら意味無いからさ」

「……」

「お願いだから、死なないでよ。自分のことも、守ってよ……」

「……」

 苦しげに、そして、だからこそ切実な訴えの言葉。

 

「……」

 目を閉じて、その言葉を梓は噛み締めていた。

 理由は分からない。だが、ここまで自分のことを思いやってくれている。それがとても嬉しいと感じた。同時に、それはなぜか、梓にとってほとんど覚えの無い嬉しさだった。

 誰かが心配してくれて、思いやってくれて、そして、大切に思ってくれる。

 梓の存在からも、全くの初めてではない。だが、それを感じる経験が圧倒的に少ないことが、形の無い記憶から芽生える感情が教えてくれた。

 そして、だからこそ、その嬉しさも強く、アズサの声も重く胸に響く。

「ありがとう」

 いつもと変わらぬ笑顔で礼を言いながら、アズサの前を歩いていく。

「そんなふうに私のことを思ってくれる人がいる。それだけで、戦う価値があります」

 その言葉の直後、

 

 ブワァッ

 

 また目の前の雪が盛り上がった。

 そして現れる、大きく、丸く、緑色に光る巨大な体。

「『イーロキン』……」

 だが、互いに慌てるそぶりは無い。梓も、結局いつもの笑顔を見せるだけ。

「それでも、私は戦います。私の戦い方で……」

 迫ってくる拳を見つめながら、優しく放った言葉。

 

 ドゴォッ

 

 放たれた拳は地面を、雪を抉り、大きな凹みを作った。

 そして、地面を穿つその拳から、右方向に、梓と、梓の服を握るアズサは倒れていた。

「アズサ……」

「君が、あくまで君以外のことを守るっていうならさ……」

 話し掛けながら、輪刀を両手に、イーロキンの前へ。

「僕が君を守る。そうしたら、文句は無いよね」

「そんな、無茶です……」

「無茶でもやる!! 梓がそこまで頑固なんじゃ、いくら言ったって変わらないもん!!」

 

「だから、僕が梓を守るんだー!!」

 

 叫びながら、イーロキンに向かっていった。

 

 ……

 …………

 ………………

 

 『ワーム・イーロキン』を下した後は、最初と同じように無言で山を登っていった。

 その後も何体かのワームが現れたが、戦わない梓に代わり、全てをアズサが撃退していった。

 それでも体にできた傷は、戦うアズサ以上に、戦っていない梓に多くできているという一見矛盾した光景。そんな光景を作りながら歩いていき、

 

「着いた」

 紫梓の目指した山の頂上に到着した。

「それで、まずは何をすれば?」

「虎将の遺体を探す。そこに虎王もいるはずだから」

「それで、その遺体は?」

「それは……」

 梓の質問に、アズサは答え辛そうに顔を歪めながら、答える。

「虎将の遺体は、普段は見えないんだ」

「見えない?」

「うん。虎将は『結界の柱』だって言ったの、覚えてる?」

「……ああ、なるほど」

 考えてみればそれほど不思議な話でも無い。

 三人の遺体は『結界の柱』。つまり、その場所から少しでも動いたなら、結界にも何らかの異変が起こる。仮に遺体が消失しようものなら、結界は消えるか、致命的なダメージを受けるとみてまず間違いあるまい。

 そんなことにならないよう、普段は生物の視界に映らないことも納得の事実である。

「では、まず虎将の遺体を探すことが問題ですね」

「うん。けど正直、探し方の見当もつかないよ」

「……」

 梓は無言になり、辺りを見渡した。

 アズサも何もできず目をあちこちに動かすが、結局途方に暮れるしかない。

「せめて何か一つでも手掛かりがあれば違うんだけど……」

「ありました」

「えぇ!?」

 突然の梓の言葉に、アズサは目を皿にした。

「あそこだけ、雪の動きが不自然です。おそらく見えない何かに遮られている」

「それが、虎将の遺体の在り処……?」

 右手を額に着け、目を細めて梓の指差す方向を凝視するが、梓のようにそれを見つけることはできない。

「行きましょう」

「ああ……」

 未だ見えないアズサをそのままに、梓は歩き始めた。アズサも、急いで梓に続いた。

 

 

「ここですね」

 梓が立ち止まったのは、山の頂上の端に位置する、そして、何も無い空間。

「ここに遺体があるの?」

「……」

 返事はしない。梓自身、まだ確信があるわけではないのだろう。

 そう思っていると、アズサは右手を出し、前へ。

 

 スゥ

 

 優しく、ゆっくり差し出された右手は、間違いなく何かに触れた。

「?」

 だが、何も分かっていないアズサは、無言で梓の様子を見つめるしかない。

 そしてその梓は、突然目を閉じた。

 

(あなたの力が必要です。もし、あなたが許してくれるなら、あなたの力を、私に与える機会を下さい……)

 

 目を閉じながら、声には出さず心で語り掛ける。

 その時だった。

「え!」

 今までそこには何も無かった。なのに、そこには氷漬けの巨漢の遺体が現れた。その肉体には確かな力強さを、しかし、その目にはこれ以上無いほどの優しさを灯す、そんな男の姿。

「これ、『ガンターラ』だ!」

「ガンターラ、さん?」

「うん。見た目の通り、素手での戦いがかなり強かった人。その腕力の何が凄いって、仲間が死んじゃっても、パンチ一発でその仲間の心臓動かして蘇生させちゃったって話だよ」

「それは凄い……」

 

 ズンッ

 

「!!」

 梓が感心した直後、その巨大な音が二人のすぐ近くで響いた。

 目の前に、ガンターラよりも遥かに大きな、青い毛の生えた虎が、立っていた。

「……」

 アズサは恐怖で、動けなくなった。

 巨大で鋭い爪と牙を光らせ、眼前に立つ者を圧倒せしめる鋭い視線を向ける目。コウを目の前にした時以上の恐怖に駆られた肉体の選択した行動、それは硬直だった。

「あなたが、ドゥローレン……」

 だが梓は変わらない。まるで余裕だと言うように、虎王を見つめるだけ。

「あ、梓……」

 恐怖に染まりながら話し掛けたアズサに、梓は顔を向ける。

「少しの間、離れていてもらえますか?」

「え……?」

「彼と語り合うには、私は一人でなければなりません」

「で、でも……」

「大丈夫」

 また、変わらぬ笑顔を浮かべ、そして行動も変わらない。梓の手を引き、遺体から少し離れた所へ連れて、そしてまた、遺体の元へ。

「梓!」

「約束します。私は必ず戻ります。だから、アズサも、私を待っていて下さい」

「……」

 こんな時でも、梓の笑顔は美しい。

 そんなことを感じた直後、梓の前にある遺体が光り出した。

 そして、その白い光が、梓の体を包み込む。

「梓……!」

 

 

 

視点:アズサ

「消えた……」

 目の前に立ってた梓が、光に包まれたと思ったら、そのまま消えちゃってた。虎王も、ガンターラも一緒に。

「……」

 優しかったな。アズサ。

「……そうだよ。アズサはさ、いつだって優しいんだ。いつも、自分以外の誰かのことばっか考えて、自分のことは後回しでさ、それが仲間や家族だけじゃなくて、敵のことまでそんな風に思ってるんだもん。正直、危なっかしくて見てられないよ……」

 けど、だからこそ……

「だからこそ、誰かが梓のこと守ってあげないといけないんだ。じゃなきゃ、いつか本当に死んじゃうから……」

 だから……

「だから、決めたんだ。僕が、梓を守るんだって。色んな物から……」

 

「お前からも!!」

 

 両手に輪刀を持ちながら、後ろを向いて、そいつに向けてやった。

「あんな男になど興味は無い。俺達はただ、お前を手に入れるのが目的だからな」

「そうなったら、きっと梓のことだから、悲しむだろうな。梓の悲しむ所、見たくない。梓にはいつだって笑っててほしい。梓は僕が守る! 梓の笑顔も僕が守る!!」

「ふん……」

 そいつは僕の言葉を鼻で笑いながら、構えた。

 

「さあきなよ!! 剛拳の騎士、『ヴァルキュルス』!!」

 

 

 

視点:梓

 白い光に包まれたと思った瞬間、目の前には真っ白な空間が広がっております。それは空間的な白さと言うより、環境的な白さと言うべきか。周囲には、向こう側さえ白く染めるほどの粉雪が降り、地面にはその雪が積もり、その空間全体を白く染めている。

 そして、そんな私の前に、白ではなく、黒い男が一人。

「あなたは……」

 それは、先程見た遺体と同じ形をした、と言うより、遺体であった本人が立ち、こちらを見つめている。

「ガンターラさん……」

 私を見つめるその目には、先程感じた優しさとは真逆な、氷をも砕くほどの鋭さの籠もった、強い闘志が見えました。

「そうですか。これが、試練……」

 苦しい試練ですね。少なくとも、私にとっては。

「けど、これがあなた達の望みなら、答えましょう。私の、全存在を賭して……」

 

「約束を、守るために」

 

 

 

 




お疲れ~。
無抵抗主義。ある意味一番楽ながら、一番難しい戦いなのかもしれませぬな。
打たれ強さがある程度あろうとも、中々にマネできることではありません。大海だったら間違いなく反撃します(そんな強くないけど)。
けど、殴られても抵抗しないのが敵を含めた誰かを守るためだってんなら、その殴られた本人は誰が守るんだろうってのは本当に疑問です。
無論本人はそげなこと望んでないんだろうけど、そんな形で守られて苦しむ人もいるってことなんだよな。

まあ長話はこの辺にして、次回は対虎将戦と、対ヴァルキュルス戦の模様をお送りいたします。
ん? 決闘? 気にするな。大海とて段々遊戯王じゃ無くなってきてるのは分かってる。
それを理解した上で、ちょっと待ってて。
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