それでは三部いきま~す。
細かい挨拶は抜きにしまして、行ってらっしゃい。
第一話 その頃の街、そこで……
視点:遊星
『WRGP?』
マーサハウスにいた俺とジャックに、クロウが持ってきたのはそんな文字の書かれたポスターだった。
「『ネオダイダロスブリッジ』が完成してシティとサテライトが一つになるだろう。その記念に、世界中から三人一組のライディング決闘チームを集めて世界一を決めるってイベントだ。なあ、俺達三人で出ようぜ!」
『……』
「本気で言っているのか、クロウ?」
「第一そんなものが、本当に開催されるのか?」
「え、そりゃあ……」
ネオダイダロスブリッジが完成したのは、ほんの一週間ほど前。そのことで最初に生まれたのが、未だサテライトの人間を差別する者達からの、怒りの声。
サテライト受け入れを許すなというスローガンを掲げてのデモ行進、過激派達によるサテライトの人間への暴力行為、過激派の中には完成したネオダイダロスブリッジに大仰なバリケードを建設したり、爆弾を仕掛けて破壊しようともくろむ人間達までいる。もっとも、その程度の人間が仕掛ける爆弾では、シティが世界に誇るネオダイダロスブリッジに、傷をつけることさえできないのが現実だがな。
そして俺達三人は、そんな過激派達を鎮圧するため、サテライトの中にあるマーサハウスに寝泊まりを続けている。シティでは、アキ、龍亜と龍可、そして牛尾達セキュリティがそれらの騒動を抑え、こちら側に侵入してきた奴らを俺達で押さえる。それぞれそう言った役割を持って、俺達は生まれ故郷であるサテライトを守っている。
この一週間、大勢の過激派を取り押さえては、説得して止めるか、無理な場合はセキュリティに引き渡した。ある時は決闘で、ある時は、力ずくで。三人とも、昔から喧嘩は強い方だったからな。
そしてその過激派の中には、それを口実に平気で犯罪に走ろうとする人間も大勢いた。サテライト出身の女性や少女に襲い掛かろうとした暴漢、子供を誘拐しようとする者、中には俺達が留守の間、マーサハウスに数人で押し入った者達もいた。もっとも、そんな奴らはマーサや雑賀によって、例外無く病院送りにされたんだが。
シティとサテライトがようやく一つとなり、差別が無くなるかと希望を持った矢先、今度はその希望を良しとしない者達からの一方的な暴虐。そんな日々が続いて、俺達は何のために、命を賭してまでネオドミノシティを守ってきたのか、そんな疑問に駆られている。
今のサテライトは下手をすれば、ネオダイダロスブリッジが完成する以前よりも酷い状態だ。生活の環境がじゃない。環境の安全性がだ。
そして、そんな疑問と、変わらない毎日に疲れていた時にクロウが持ってきた話。
「未だにサテライトとシティの確執は無くならず、平和な日々が訪れる気配も無い。そんな毎日だというのに、そんなライディング決闘の世界大会など、本当に開催されるとでも?」
ジャックの冷静な対応に、クロウも困ったような顔を見せた。
「いや、けどさ、実際こんなポスターまで出回ってるわけだし、それで開催されないってのもおかしな話だろう」
「確かに。だがそれも、単純にネオドミノシティを世界に売り出そうと考える治安維持局の考えからのものだろう。開催されたとして、結局は何も変わらないんじゃないか?」
「……」
まったく。今の混乱した状況をどうにかしようとも考えないままこんなイベントを開こうなんてな。イェーガーの考えることは分かり易いと言うか、単純過ぎると言うか。
「……悪いが、少し散歩してくる」
立ち上がりながら二人に言って、俺はマーサハウスを出た。
歩きながら目にするのは、変わらず残る瓦礫やゴミの山々。少し前までなら、こんな光景は当然のものだと受け入れていたが、今では、こんな光景はあってはならないと思えるようになった。
サテライトの人間も、シティの人間も、同じネオドミノシティに生きる人間のはずだ。なのに、ただ生まれた場所が少し違ったというだけで、こんな環境で生きることを強いられて、いわれの無い差別を受ける毎日。
平等という言葉は、心が贅沢な人間だから口にできる、傲慢な言葉だという話しをどこかで聞いたことがある。ならば聞きたい。贅沢な心を持って何が悪い。ただ、他と一緒でいたい、そう思うことの何が間違っているんだ。
俺の疑問はそんなに子供じみているのだろうか。持つだけ無駄な思いなんだろうか。
「よう」
と、歩いている途中で話し掛けられ、そちらを向くと、数人の男達。
「また会ったな、不動遊星さんよぉ」
「……」
「だんまりかよ。相変わらずクールだねぇ」
そんなんじゃない。正直、話すのも辛いだけだ。
こいつらは以前、サテライトの子供を誘拐しようとした所を押さえて、セキュリティに引き渡した連中の生き残りだ。牛尾達も必死で追いかけたらしいが、全員は捕まえることができず、何人かは逃がしてしまったらしい。そして、あの時捕まえた連中の中に、こいつらの顔は見覚えがあった。
「たくよぉ、サテライトの屑の分際で、よくも俺達シティの人間様を売ってくれたな」
「……間違ったことをしたのはお前達だ」
「抜かせ! サテライトの屑が俺達に逆らってんじゃねえ!!」
そう言いながら殴り掛かってきた。
すぐに避けて反撃すると、相手は一撃でその場に倒れてしまった。あの時分かったと思ったが、集団なら俺に勝てると思ったんだろうか。だとしたら、甘過ぎる。
「まだやるか?」
三人を一撃で殴り倒した後で、残りを見ながら話し掛ける。残りは三人か。
「ちくしょお、良い気になりやがって……こうなったら決闘だ!!」
「良いだろう」
……
…………
………………
「ぐぁあああああああああ!!」
最後の一人のライフをゼロにし、そいつはその場に倒れた。
「ちくしょう、覚えてやがれ!!」
そんな言葉を吐き捨て、倒れていた者達と共に去っていった。
「……」
こんな毎日がいつまで続くんだ。ダークシグナーとの戦いから二ヶ月、ネオダイダロスブリッジが完成してから一週間。なのに、平和な日々などやってこない。
どうしてここまで、人を拒絶することができるんだ。一体、俺達の何が、そこまでの拒絶を生まなければならないんだ……
「……?」
と、そう思っていると、目の前に何かが飛び込んだ。
それに近づいてみると、
「木箱?」
別段落ちていても不思議でも何でもない。だが、それには習字で文字がかかれている。瓦礫に埋まっているそれを引っ張り上げてみると、
「水瀬……」
まさかと思い、開いてみる。そこに入っていたのは、柔らかい半紙に、習字で書かれた一文字の漢字。その横に、
「『水瀬 梓』」
やはりそうだ。これは、水瀬の書いた文字だ。そして、その漢字一文字は、
「『絆』……」
……
…………
………………
視点:アキ
「『ローズ・テンタクルス』で攻撃!」
「ぐあああああ!!」
「『パワーツール・ドラゴン』、クラフティブレイク!!」
「うおおおおおおお!!」
今、私と龍亜の二人が決闘してるのは、サテライトの人間との繋がりを反対する団体の人達。一週間、彼らと話し合っては決裂し、決闘をして黙らせる、そんな毎日が続いてる。
「いい加減に諦めなさい。あなた達では、私達に勝つことはできないわ」
いつもと同じ、諭すつもりでそう話し掛けたけど、彼らの反応も、いつもと同じ。
「うるせえ!! 自分と同じ屑仲間のことを庇って良い気になってんじゃねえ!! この忌々しい魔女が!!」
魔女……
「おい!! それ以上アキ姉ちゃんのことバカにするな!!」
「ガキはすっこんでろ!!」
ドッ
「うわ!!」
「龍亜!!」
龍亜が突き飛ばされて、後ろでジッとしていた龍可が悲鳴を上げた。
「決闘の結果なんて構うことはねえ! やっちまえ!!」
このパターンもいつもと同じ。決闘で敵わないから、数に物を言わせて力づくでどうにかしようとする。そして私もいつもと同じように、決闘ディスクにカードをセットした。
「うわあああ!!」
「うおおおおお!!」
遊星との決闘を通して、こんな力の使い方はしたくないって思っていたのに、結局はこうすることを強いられる。そうしなければ何も解決しないから。私も龍亜も龍可も、遊星達とは違って腕力は無いし。こうする以外に無い。
「この……この化け物が!! いつかてめえも、サテライトの屑どもと一緒にぶっ殺してやるからな!! お前も、そこの双子のガキ共もだ!!」
「サテライトの人間も、サテライトの味方をする奴らも、化け物も全員死んじまえば良いんだ!!」
「死ねえ!!」
『死ねえ!!』
『死ねえ!!』
『……』
歩きながら、この先どうすれば良いか考えていた。
私は見ての通り、元々魔女と呼ばれて嫌悪されていたのが、今回のような活動もあってなお更それが顕著になってる。龍亜と龍可も活動をしているせいで、以前家へ帰る途中、大人達に襲われそうになったこともあった。それ以来二人には、牛尾さんの計らいでセキュリティのボディガードがつくようになったから良いけど。
間違っているのはそんな考えを持っている人達のはずなのに、そんな人達の方が多いせいで、間違っているのは自分達じゃないのかという錯覚を芽生えさせられる。そして、正しいと信じてやってきた活動のはずなのに、それさえも信じられなくなってくる。
それが私だけなら良い。けど、まだ子供の龍亜と龍可には、この現実は辛過ぎるわ。
「アキ姉ちゃん」
そんなことを考えていると、龍亜の声が聞こえた。
「あんな奴らの言ったことなんて、気にしちゃダメだからね」
真剣な顔を作って、拳を握りながらそう言ってきた。
「あいつらだって、その内仲間も減っていって、自分達のやってることが間違ってたって気付くはずさ。そうなったら今度は俺達に謝ってくるんだからさ」
「……」
龍亜はいつもそう。たとえ辛くても、そのことを決して表情には出さない。誰かに何かをされてもそれを笑って受け流して、自分達の正しさをどこまでも信じられる。
けど、龍可はそうでもない。辛い時は、やっぱり辛い表情を見せる。龍亜がいるからまだ耐えられるけど、もし龍亜がいなければ、とっくに心が折れてるかもしれないわね。
「龍亜、龍可」
今まで言ったことが無かったけど、私は二人に、以前からずっと思っていたことを言うことにした。
「辛かったら、いつでもやめても良いのよ」
二人とも私を見て、意外そうな顔を見せた。
「毎日街中を歩き回って声を掛けても、その度に今みたいな暴力や暴言を返される。普通はそんなこと、耐えられることじゃないわ。ご近所でも良い印象は持たれていないんでしょう。だから、二人はもう……」
『……』
この活動のせいで、ご近所では友達以外からは無視されて、時には嫌がらせを受けることも増えたらしい。
身近な人達まで彼らから離れていってる。私はそんなことには慣れてる。けどだからこそ、二人にはそんな思いはさせたくない。
「何言ってるのアキさん」
と、いつもなら龍亜が返事をするところを、龍可の声が聞こえた。
「確かに辛いけど、やめたいなんて思ったことは一度も無いわ」
顔を見てみると、その目には嘘は無くて、一切の迷いも無い。
「確かに、家にいても、街でも嫌なことはいっぱいあるし、辛い思いもしてきた。けどこんなこと、サテライトの人達から見れば大したことじゃないもん」
「サテライトの?」
「そうだよ。俺達はトップス生まれで何不自由なく暮らしてきたけど、サテライトの人達はそうじゃない。俺、ずっとトップスで育って、サテライトの人達がどんなふうか知らなくて、知ろうともしなくて、今まで普通に生きてきた。ただ周りがサテライトのことを悪く言うから、そういうものなんだなって何となく感じるだけで、それ以上の興味は持てなかった」
「遊星達と出会って、一緒に戦って、少しはサテライトのことを知った気になってた。でも、これからサテライトの復興をしようって時に、大勢のシティの人達が反対運動をして、俺は今まで、結局シティの人達と同じだったんだって気付かされたんだ。俺は今までサテライトの人達への悪口とか、暴力とかはしたことは無い。けど、それ以前に無関心でいただけで差別してたんだよ。遊星やクロウや、ジャックのことも、俺はずっと、差別し続けてきたんだ」
「龍亜……」
まだ中学生になる前の龍亜からこんな言葉を聞くなんて、思ってなかった。
確かに、差別は何も行動だけで決まるものじゃない。あからさまな態度や行動を見せなくても、気持ちがそんな形を取っていて、そんな気持ちのまま無関心の形を取っていれば、差別しているのと変わらない。結局は、それを見て見ぬふりをしているということだものね。
「だからさ、その償いってわけじゃないけど、今逃げるわけにはいかないんだ。今逃げちゃったら、また今までと同じになって、そうなったら俺、遊星達の仲間でいる資格なんて無いからさ」
「……」
「わたしも同じ。今の自分が大事だからって、ただ周りの人達のことを見るだけっていうばかりで、それがどんなふうに感じるものなのか、考えたことも無かった。けど、こうしてサテライトの人達のために活動を続けて、やっと分かったの。とても辛くて、苦しくて、今にも心が折れちゃいそうになって、諦めたくなる。サテライトに生きる人達は、こんな気持ちを日常的に感じてたんだなって思うと、本当に辛い……」
「龍可……」
「だから、それも今日までにするんだって、毎日頑張ってるの。こんな思いを、わたし以外の人達にさせちゃって、わたしもそんな人達と同じだったんだって思うくらいなら、わたしも一緒に苦しむ方が良い。それが今まで差別してきたことの償いにはならないだろうけど、それでも、何もしないで無視してるよりはよっぽどマシだから。だから、目指すの。遊星達や、あの人が安心して暮らせるネオドミノシティに」
「あの人……」
あの人ね。確かに。
「なら、一生苦しんでろよ」
『……!』
その声に振り向くと、ついさっき撃退した男が、さっきよりも大勢の仲間を連れて、その手には武器を持って、私達の前に現れた。
「たく、さっきからどっかの三流小説みてえなセリフ並べやがって、気持ち悪くて鳥肌が立つぜ」
「別にお前らが何を考えてどんな行動をしようとどうでも良いんだがな、それに俺達を巻き込むんじゃねーよガキ共」
「何言ってるの!?」
男達に向かって、龍可が大声を出した。
「あなた達がそんな思いのままずっと生きてきたから、サテライトの人達はいつも脅えてるしかなかったんじゃない!! 同じネオドミノシティの人間なのに、どうしてそこまで拒否しなきゃいけないの!?」
「うるせえ!! それの何が悪いってんだ!?」
「屑を屑と呼んで、屑を踏みつぶして何が悪いってんだ!? てめえらはゴミをゴミ箱に捨てることに疑問を感じるってのか!? 感じねーだろうが!! ゴミ箱の中のゴミを覗いたら気持ち悪いだろうが!! それと同じだ!! サテライトの人間を見てるだけでこっちは気持ちが悪いんだよ!!」
「サテライトはゴミ箱じゃない!! サテライトの人達だって、ゴミじゃないぞ!!」
「俺達にとっては同じなんだよ!! ずっとそう聞いて生きてきたんだ!! そいつを一方的に否定しようとするお前達の方がよっぽど
『っ……』
「……」
ここまで差別の根が深いと、元から叩き直さないとダメみたいね。
「てめえらと話してても時間の無駄だ」
「苦しみたいんだろう? だったら苦しめてやるよ」
「うぜえガキは血祭り。女は二人とも俺達の遊び相手だ」
そんなことを言いながら、鈍器や刃物を手に近づいてくる男達に対して、私はまた、カードを取り出す……
ウィンウィン……
『セキュリティだ。お前達そこで何をしている』
「やべ、セキュリティだ! 逃げるぞ!」
「ち、どいつもこいつも!」
文句を言いながら、男達は帰っていった。
「大丈夫だったか?」
Dホイールから降りて話し掛けてきたのは、セキュリティの牛尾さん。
「私達は無事よ。ありがとう」
「なら良かった。すまねえな。俺達セキュリティが不甲斐ないばかりに、お前らには苦労させちまってよ」
「気にしないで。セキュリティはよくやってくれてるわ」
謝りながら落ちこんでる牛尾さんに、龍可が声を掛けた。セキュリティも、各地で起こる暴動を抑えていってる。その先頭に立っているのが、セキュリティを担当していた人達。そして、セキュリティのことをよく知ってる牛尾さんだから。
「俺達ももっと動ければ良いんだが、ここまで数が多いと切りがねえ」
そう言ってる牛尾さんは、目の下に隈が目立ってる。疲れきってるわね。当然か。彼も私達と同じことを毎日、私達の何倍もやってきてるんだもの。
「俺達に任せておけ……そう言いてえが、結局はお前らにも頼むしかねえよ」
「そんなの気にしなくて良いって」
今度は龍亜が、笑って話し掛けてる。
「むしろ、セキュリティみたいな偉い人達より、俺達の方がやる意味があるよ」
「意味?」
「そうだよ。俺達シティの人間が動く方が、同じシティの人達には色々と伝わるでしょう。だからむしろ、俺達は喜んでバカにされたり、決闘を挑んだりしてるんだ。だからさ、苦しいのは苦しいけど、嫌になることなんてないよ」
「……すげえなお前。子供が言ってることとは思えねえよ」
「まあね。俺だって、いつまでも子供じゃないってことだ」
「そうやってすぐ調子に乗る所は子供っぽいけど」
「何だよ!! 良いじゃんか別に!!」
喧嘩してるけど、牛尾さんの言った通り、二人とも、子供とは思えないほど強い人ね。
私も負けていられないわ。二人の言った通り、セキュリティのような、立場が上の人間が行動を起こすより、私達のような、呼び掛けられる側の人達と同じ立場の人間の声の方が届くはずだから。
龍可が言った通り、今はいなくなってしまったあの人が、安心して戻ってこられる場所にするためにも、負けないで、頑張ろう。いつか、本当の意味で、シティとサテライトが一つになる日が来るはずだから。
……
…………
………………
視点:遊星
ガチャ
「おお、帰ったか遊星」
「ん? 何を持っている?」
ジャックに尋ねられ、俺は拾ってきた木箱を机に置き、中身を開いた。
「こいつは……」
「習字だ。水瀬の書いた」
「水瀬梓か……」
噂で聞いたことがある。水瀬梓がサテライト出身だと聞いたシティ住民の多くは、彼に関する品々をゴミとして捨ててしまったらしい。それがサテライトのどこかに落ちていても不思議ではないが、まさかこんな所であいつの文字と出会えるとはな。
しかも、その文字が、
「『絆』、か……」
俺達が最も大切にしているもの。その一文字。
「水瀬もどこかで祈っていたのかもしれない。サテライトとシティが一つになることを」
「ああ。あいつはサテライトを恨んでた。けど、マーサから聞いた話じゃ、あいつもサテライトをどうにかしたいって思ってたらしい。今はどう思ってるのか知らないけど、もしあいつが今ここにいるなら、俺達と同じことしてたと思うぜ」
「うむ。俺はお前達よりも奴との関わりは少ないが、あいつの純粋さと一途さは話しているだけで分かった。奴がそう思ったのなら、おそらくそうしていたのだろう」
水瀬……
うん、そうだ。
「そうだな。あいつはサテライトを恨み、同じだけ人間を大切にしていた。持ちたくない恨みに苦しむ人間を、これ以上生むわけにはいかない」
「おお! あいつがいつか帰ってきた時、安心して暮らしていける場所にしねえとな!」
「まったく。たった一人の男の存在でそこまで前向きになれるとは。単純な奴らだ」
「そう言うなって」
バッ
「遊星! クロウ! ジャック!」
突然ドアが開き、入ってきたのは、
「ラリー、どうした?」
聞かずとも、答えは大体分かっているが、
「また暴動だよ。シティの奴らが……」
よし。
「行くか」
「おう!」
「ふん!」
俺達は負けない。必ずシティとサテライトを一つにしてみせる。
お前がもしどこかで生きていて、シティのことを思っているのなら、安心しろ。ここは必ず、お前の安心して暮らせる場所になっているはずだ。
そして、俺達がお前の居場所だ。
『絆』。それは俺達が、守ってみせる。
視点:外
「いくぞ! ジャック! クロウ!」
『おう!』
「龍亜、龍可、準備は良い?」
『うん!』
『決闘!!』
……
…………
………………
視点:カナエ
一体、何が起こったの?
私はここに来るまで、ハジメと、アズサとの三人で、ずっと一緒に暮らしてきた。なのに、そのアズサが、レイヴンと同じ、魔轟神?
一体、目の前で何が起こっているの?
ハジメも同じことを思ってる。アズサを……いえ、アズサだったものを見ながら、放心している。
「さあ、私と共に帰ろう。魔轟神の巫女、『グリムロ』よ」
そんな私達をよそに、レイヴンは、グリムロと呼ばれた魔轟神に手を差し伸べた。
グリムロも、放心状態でいる。私達と、レイヴンを交互に見て、どうすればいいのか迷ってるように見えます。
けど、しばらく首を動かした後、その手を、レイヴンに向かって……
「はぁ!!」
ドゴォ!!
「!!」
突然の、紫さんの絶叫と、地面への衝撃。紫さんに殴られた地面からは雪が舞い上がり、同時にそこを中心に大きな氷の柱が出現した。
「っ!」
「え……」
そしてその直後、紫さんは、舞い上がる雪の中からグリムロを抱えて、走っていった。
視点:外
「ちょ、ちょっと、梓……」
「喋らないで、舌を噛みますよ」
「舌って……うおぁあ!!」
猛スピードで木々の間をかいくぐり、所々を曲がり、走る。そんな梓に、グリムロはしがみつくことしかできなかった。
「ちょ、ま、うお! その、あ、ぐお!」
「お話なら後で聞きますから、今は喋らないで下さい」
「いや、それは、うおお! そうだけど、ぐお! どわあ!」
「森を抜けます。一気に速度を上げますよ」
「ええ!! ちょっと待っ……」
ビュン
「おわぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
お疲れ~。
アニメではダグナー戦から半年後までの期間はすっとばしておりましたが、大海の中ではその間こんな感じだったんじゃないかと勝手にイメージしました。
サテライトとシティの確執がどの程度だったか大海にはよく分からんが、普通一度芽生えて大きく育ってしまった差別の根は、半年やそこらで払拭できるもんじゃありません。
現実に残る差別の歴史がそう言ってますわな。何の差別とは言わないけどこの日本でも。
つ~ことで長くなったけれど、次話まで待っててね。