遊戯王5D's ~剣纏う花~   作:大海

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三部第二話いくよ~。
こっから二人の梓の行動理念はまるきり違っていきます。その結末はどうなることか。
あとここで言っておきますが、第三部では、今まで通り結構な数の差異と偏見とオリ設定が入ってますゆえ、それ見て気分を害した時のために先に謝罪しときます。
まあそんな感じで、行ってらっしゃい。



第二話 あなたの居場所

視点:梓

「ふぅ、ここまで走れば大丈夫でしょうか」

 あの後だいぶ走って、先程の山の頂上から結構な距離にある、森の木々に囲まれた湖の前で休憩しております。

「おケガはありませんか?」

 ここまで何も考えず抱えて走っていたので、どこかにぶつかったかもしれません。

 と、思っていたのですが、本人は返事をせず、湖を覗いてジッとしております。

「アズサ?」

「……違う」

 違う?

「……私の名前は、アズサじゃない……」

 ああ、そうでした。

「では、グリムロさん」

 

 ギッ!!

 

 と、グリムロさんは私に、赤い目と、真っ白な怖い顔を向けてきました。

「……どうして助けたの?」

 助けた?

「……その質問はつまり、私の取った行動は、あなたにとって、助けになったということでしょうか?」

「……!」

 

 

 

視点:グリムロ

 えっと……

 

 レイヴンに姿を変えられて、同時に私の記憶も蘇った。

 

 氷結界の舞姫、アズサを殺した後、その舞姫になりすました。目的は、舞姫の力と記憶を手に入れて、それで三匹の龍を制御するため。三匹の龍を制御して、滅ぼして、その後で人間を滅ぼす。その目的を果たすため。

 けれど、そのアズサの意思が強過ぎた。私の意思はあっという間に支配され、グリムロを倒したアズサとして生きることになった。

 けどそれも当然かもしれない。私には、レイヴンや三神将のような、人間達に対する明確な恨みなど無い。

 レイヴン達が封印された後でたまたま生まれ、封印が解けた後でたまたま巫女になった。仲間達からは、人間達への恨み事を散々聞かされてきたけど、私にとっては他人事でしかなかった。ただ、そうしろと言われた自分の役割だけを、そうしなければいけないからまっとうする。それだけ。それ以外の目的など無い。

 そんな、あって無いような巫女の意思は、アズサになった途端、舞姫の強い意思にすぐに支配されて、(グリムロ)は消えて、(アズサ)に変わった。

 

 それからはずっと、私は私でなく、僕として、魔轟神やワームと戦い、僕として、人間達を守り、僕として、あの結界の中に里を作り、そして、僕として生きていった。

 

 なのに……

 

 ずっと忘れていたそのことを、今になって思い出した。レイヴンの言葉で、失っていた私の記憶を蘇らされて、レイヴンの力で、ずっと忘れていた本当の私の姿に戻された。それも、一番それを見られたくないって思ってた人達の前で。

 もう終わりだって思った。ハジメもカナエも、それに梓も、僕が私だと分かって、驚いた。そして、もう僕に向けてくれていた目は無くなり、その目は私と言う、敵を見る目に変わっていた。

 もう、僕としては生きていけない。僕としての居場所は無くなった。僕がどれだけ里の人達や家族のこと思って、みんなも僕のことを思ってくれていたとしても、それは僕に向けられたもので、決して私に向けられたものじゃないから。

 

 だから、もう全て終わったから、私は私としての居場所、魔轟神の居場所へ行くしかなくなった。

 

 

 そう思ったのに、レイヴンの元へ行こうとした私を、梓が止めて、私を抱えてあの場から逃げ出した。

 何をしているのか分からなかった。どういう意図かも分からなかった。だから走っている最中のアズサに尋ねたのだけれど、走っている最中はとても話せはしなかった。そして、そんな私に、いつもと同じように返事をしただけ。僕が私に変わる前と、何も変わらない。

 

 どうして?

 

 私は魔轟神なのに。どうして、ハジメやカナエは変わったのに、梓は何も変わらないの?

 ハジメやカナエよりも、過ごした時間が短いから? それだけ?

 確かにハジメもカナエも、アズサとは子供の頃から一緒だった。だから、それが魔轟神だったなら、その衝撃はかなりのものだったと思う。まして私は、言わばアズサを殺したアズサの仇。驚いたり、恨んだりするのが当然のこと。

 けど、それだけ? 梓とハジメ達との違いはそれだけなの?

 普通は人間じゃない時点で、拒否するものじゃないの? 拒絶するものじゃないの?

 

 

「グリムロさん?」

 ……!

 また、私の名前を呼んだ。

「どうかなさいましたか?」

 そう言えば、質問に答えてなかった。

 なぜ助けたのか、私はそう聞いた。

 そしたら梓は、「助けたことになったのか」と聞いた。

 確かに、そう疑問に感じるかもしれない。私はあのままレイヴンと一緒に行こうとしていた。つまり梓は、私の行動の邪魔したことになる。

 けど、あの場で連れ去られて、ここまで連れてこられて、感じたのは……

「……」

 答えられない。ここまで連れてこられて感じた気持ちを、言葉にできなかった。

 

「……やはり、余計なことをしてしまいましたか?」

 答え方に迷っている私に、梓はそう言葉を掛けた。とても寂しそうな顔。

「すみません。あなたがあのままレイヴンの元へいくことが望みだったのなら、私はそれを邪魔してしまいましたね。あなたが怒るのも当然ですよね」

「……」

 どうして、そんな顔を見せるの? 私はずっと、人間だって騙してたのに。

「どうして、私をここまで連れてきたの?」

「……」

 少し言い辛そうな顔を見せたけど、そのまま私の目を真っ直ぐ見た。

「……あのまま、あなたを行かせることは、なぜかできませんでしたから」

「なぜ?」

「もしあのまま、あなたをレイヴンの元へ行かせてしまったら、私達は、二度と会うことはできなくなる。というより、もう二度と、あなたと今までのように、言葉を交わすことができなくなってしまう。それが耐えられなかった。あなたとあんな形で別れることだけはしたくなかった」

「どうして……」

「分からない。ただ……」

 ただ?

「私は、あなたが虎将の試練を受けることを知った時、あなたがいなくなってしまうことが、すごく怖いと感じました。そしてそれは、今も変わりません」

「今も?」

「はい。あなたがアズサではなく、グリムロさんだとしても、その思いは、変わりません」

「私は、魔轟神なのに?」

「はい」

「人間じゃないのに?」

「はい」

「本物のアズサを殺したのに?」

「はい」

「……」

 

「……」

「グリムロさん!?」

 驚いたのかな。慌てた大きな声で、私の名前を呼んだ。

 梓の言葉を聞いて、感じたのは、嬉しさだった。

 ここまで連れてこられて、邪魔されたのに感じた感情と同じ、嬉しさだった。

 人間じゃない、アズサじゃない私のことを受け入れてくれる人。そんな人が、今目の前にいる。

 もう、人としては終わったと思っていたのに、なのに、僕じゃなくなった私のことを、心から思ってくれて、心配してくれてる。そんな人が、すぐ目の前に……

「グリムロさん!」

 大声で呼ばれたから、そっちを見てみた。

 

 

 

視点:外

 

「卑弥呼さまー!!」

 

「……」

「……」

「……はい?」

 突然梓は、自身の長い髪を二本に分けて持ち、それを顔の左右に立てながら、そんな奇声を発した。

「……」

 

 ズゥーン……

 

「えぇ、ちょっと……」

 

(いかん。よく考えたら、この世界に卑弥呼様は存在しなかったのだった。どうしよう……人物のモノマネではなく、もっと分かり易い笑いを……)

 

「梓ー……」

 と、グリムロが呼び掛けると、立ち上がり、グリムロの前に座る。そして、

「と、『隣の家に囲いができたそうですよ』『へー、それは格好良い』」

「……」

「……」

「……で?」

「その……布団がふっとんだ……」

「……」

「猫が寝転んだ……」

「……」

 何かを言う度に、段々と自身がみじめになっているようにも見える。そのことを自覚したのか、梓は行動を変えた。

「あ~……あっちょんぶりけ!!」

(か、顔芸!?)

 今度はそんな奇声を発しながら、自身の頬を左右から潰した。

「……」

「……」

 しばらくその顔を維持していたものの、結局手を離し、落ち込みながら視線を落とした。

 

「……くす」

 そんな梓の姿に、グリムロは笑みを浮かべる。

「あははははは……」

 そして、直前まであれだけ涙に濡れていた顔が嘘のように、腹を抱えて笑いだした。

(梓が、私のこと、元気づけてくれようとしてる。私のこと、笑わせようとしてるんだ……)

 その事実が嬉しいと感じると同時に、なぜかとても滑稽なものに感じられた。だから、声を上げて、腹を抱えて、笑ってしまった。

 

「……」

 そんな、グリムロの姿に、梓もまた、笑みを浮かべる。

「え、梓?」

 それは、グリムロにとって、実に三日ぶりに見た、梓の笑顔だった。

「良かった。あなたがアズサであろうとグリムロさんであろうと、あなたは笑っているのが一番です」

「……」

 その言葉に、またグリムロは歓喜を感じた。そして同時に、理解したことがあった。

(そうか。私が……僕がずっと見たかった梓の笑顔って……僕が笑えば、見られたんだ……)

 たまたまそうなっただけかもしれないし、単なる希望的観測かもしれない。ただ、この三日間、ずっと笑顔になれなかったこと。そして今、笑顔になり、梓も笑顔になったこと。その事実に感じた、三日間求め続けたものの答え。

 そして、そんな梓に対して感じた言葉。

「ありがとう。梓」

「……」

 

 

 

視点:梓

 

 ガバッ

 

「あ、梓?」

 ありがとう。そんな彼女の言葉に、私は思わず、彼女を抱き締めていた。

「こちらこそ、ありがとう……そして、ごめんなさい。私のせいで、こんなことになってしまって……」

 いくら彼女が笑っても、彼女の身に起きてしまった事実は消えはしない。彼女はアズサではなくなり、グリムロさんとなり、アズサとしての居場所を無くした。それがどれだけの苦しみなのか。

 

 今ある自分の居場所を失う。その気持ちは、なぜだかよく知っている。その辛さも、苦しみも、孤独も、全て知っている。

 ずっとそこにいただけなのに、突然そこにいることを否定されて、なのに他に居場所は無くて、自分の存在すら否定されているようで。

 それが怖いから、誰もが居場所を求める。自分自身が否定されることは、誰もが恐れることだから。

 けど、私は耐えられた。ほとんど記憶には無いけれど、そんな私のそばに、私を肯定してくれる存在があったから。

 

 だから……

 

「私に、あなたを守らせてはもらえませんか?」

「え?」

 彼女にとってのそんな存在になる。思い上がりも良い所だ。

 それでも、彼女のことだけは守りたい。彼女をこのまま、一人にすることはできないから。

「もし今、あなたの居場所が無くなってしまったのなら、私をあなたの居場所にしては頂けませんか?」

「梓を?」

「私はハジメさんやカナエさんのような家族ではない。魔轟神にもなれない。あなたにとって、ほんの数日一緒にいただけの存在だけど、それでも、あなたを失いたくない。あなたとこのまま離れることは、私には、できそうにないから」

「……」

「もしあなたが、誰にとっても敵になってしまったとしても、私だけは、あなたと共にいます。共にいたいのです。だから、このままお別れするということだけは、ご勘弁願えませんか? 私を、あなたのそばに置いては頂けませんか? あなたのことを守る権利を、私に与えてはくれませんか?」

「……」

 グリムロさんは答えない。

 私の言葉は、やはりおこがましいことだったのでしょうか。彼女にとって、失礼極まりない言葉だったのでしょうか……

 

「……嬉しい」

 

 そんな言葉が聞こえた。

 体を離し、彼女を見てみると、

「グリムロさん、その姿は……」

 それは、魔轟神ではなく、人間の、アズサの姿に戻っている。

「居場所が無くなったって思ってた。もう戻れないって、諦めてた。けど、君がそう思ってくれるなら、私も、僕でいられる。僕でいてもいいんだよね」

 それは、少し違います。

「私が大切なのは、アズサだけではありません。グリムロさんも、今ここにいる、あなた(・・・)という存在全てです」

「梓……」

「お守りします。アズサも、グリムロさんも、あなたがここにいる限り」

「……ありがとう」

 

 もう一度、彼女を抱き締めた。

 私は、あなたがここにいてくれるだけで良いのです。人間でも、魔轟神でも関係ありません。私とずっと一緒にいた、あなたという存在がここにある。それだけで良い。

 生まれてきてくれて、そして、私と一緒にいてくれて、本当にありがとう。

 アズサ。

 グリムロさん。

 

 

『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ』

 

『……!!』

 突然、そんな悲鳴のような獣の雄叫びが、上空から響き渡った。

「あれは……」

 蛇のような長い体と大きな翼、青く輝く体。

「ブリューナク……」

「あれが?」

 そして、そのブリューナクは浮遊していたのに、地面へと落下していく。そして、その落下を促したのが……

 

「……アズサ」

「え?」

「……少しの間だけ、ここで待っていて頂けますか?」

「……分かった」

 たった今、あなたのそばにいたいと言ったそばからこの申し出。

 しかし、あの人とだけはもう一度、話しがしたかった。

 たとえこれが、最後の対話になるのだとしても。

 

 ……

 …………

 ………………

 

 ブリューナクの落下した地点に立つと、ブリューナクと目が合った。

『ッ!!』

 驚いている。そりゃ、直前まで空で戦っていた人と同じ顔の人間が、既に地面に立っていたなら、驚くでしょうね。

『グオオオオオオオオオオオ』

 最後の抵抗を見せようと、大きく口を開いた。しかし、

 

 キン

 

 そのブリューナクの体の上に、彼は降り立ち、とどめを刺してしまった。

 そんな彼に、私は声を掛ける。

「梓さん」

「……もう一人の、私……」

 少しの間、無言で見つめ合いましたが、

「……そこで見ていろ」

 そう言って、右手をブリューナクに添える。その瞬間、ブリューナクの体から光が生まれ、梓さんの右手へ吸い込まれていく。

 そして、それを全て吸い取った時、ブリューナクの上にいた梓さんは地面に降り立った。

 

「……」

「……」

 

 彼には私など眼中に無いでしょう。それでも、どうしても彼の口から聞きたかった。

「戻る気は、ありませんか?」

「……」

 答えない。だが代わりに、雪の結晶の髪飾りを外し、目の前にかざした。

 

 バキッ

 

 そんな音と同時に、髪飾りは砕け、破片が地面に落ちる。

「……分かりました」

 彼の気持ちは理解した。もはや、決別しかないらしい。

 それを理解し、目を閉じて背中を向けます。

 けど、

「これだけは言っておきます」

 彼の願いも、したいことも、私には理解できないけれど、これだけは伝えておかなければならない。

「彼女は私が守る。彼女を狙うのなら、例え相手があなたであろうと、絶対に許しはしない」

「……貴様に私が殺せるか?」

「……」

 その質問に、返事ができなかった。できないまま、歩きました。

 

 彼女を守る。そう誓った。

 しかし、そうなればいずれ、彼と戦う日も来るのでしょう。

 私にとって、彼は大切な人。それは、今でも変えることはできない。だけど、それでも、私の一番大切な存在を傷つけるというのなら、

 

「私はあなたを倒します……」

 

 先程答えられなかったその言葉を、歩きながら、私自身に言い聞かせた。

 

 

 

 




お疲れ~。
梓は今あるもの全てを投げ打ってでも、アズサと一緒にいることに決めましたとさ。奇しくも梓は二人とも魔轟神の側についたことになるけどね。
前に書いたことだけど、存在を認めてもらえるには大勢の人間に許して貰うのが一番ですわ。
でも、何だかんだでたった一人だけでもそんな人がいてくれりゃ、割とどうにかなるもんなんだよな気持ちの面で。
まあそげな当たり前のことここで言ってても仕方ないけどね。
んじゃ、次話も待ってて。
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