やべぇ、本当に書くこと無くなってきたよ。
でもまあこの言葉だけは変わらない。
行ってらっしゃい。
視点:大谷
初めての決闘大会から三ヶ月。
あれから、夜になっては決闘の大会へ出場するという毎日が続いている。どれも夜に行われるような大会であるため、全ては非公式の物だ。当然変装も忘れず、あの日初めて名乗ったリングネーム、『サイレントフラワー』という名前をずっと使って出場している。
非公式であることから記録が残ることも無く、強過ぎることで有名になるという心配も無いため、家元も本気を出して決闘を行うことができる。そのため、全ての大会で優勝を飾り、初めての夜からだいぶ『決闘者レベル』とやらも上がっている。
当然仕事の方もおろそかにはしていない。朝と昼間は仕事のお稽古周りを行っている。だがそれまで夜に行っていた仕事も、武道の稽古に当てていた二時間が空いたため、今まで以上に余裕を持って行うことができている。処理する量が多過ぎることからやはり徹夜をする日もあるものの、決闘を始める以前に比べれば遥かに睡眠時間は増えてきている。大変良い傾向だ。
だが、同時に気になることもできた。
あの夜以来、なぜか家元は独り言を繰り返すようになった。また、仕事も大会も全く無い夜というのも時々あるのだが、そんな夜は必ずどこかへ出掛ける。私にも言えない場所らしい。おまけに帰ってくると必ず汗だくになり、風呂に入っている。病院かとも思ったが、時間的に病院が開いているとも思えず、何より、そんなに汗だくになるようなことを病院で行うことも無いだろう。
とは言え、秘密を抱いていることには若干の寂しさも感じるが、それもまた、家元の持つことができなかった少年らしさの一つだ。今まで、少年らしい生き方を全くしてこず、青春と呼べるものも皆無であった家元のそんな姿には、一種の親心のような感慨がある。
家元には、もっと年齢相応の楽しみというものを、多く感じて欲しいものだ。
視点:梓
「はぁ……はぁ……」
私が息切れを起こすなど、いつ以来のことでしょうか……
「こんなものか? こちらはまだ余裕だぞ」
「……ええ、分かっています……少々、息を整えていただけです……続けて下さい……キザン」
会話しながら、刀を杖に立ち上がり、目の前に立つ、黒い鎧姿の武将、『キザン』に話し掛けます。
「頑張るなぁ。その辺にしとけよ梓。体もたないぜ」
「お黙りなさいカゲキ……私はあなた方の主である身……ならば、あなた方以上に強くあることこそ必然」
「俺達以上か。志は良いが、そもそも人間と精霊じゃ生まれつきの体力が違う」
「それは、私が弱くて良い理由にはなりませんよ、エニシ……」
二人が返事をしたのを見た後で、またキザンと向かい合います。
「僕らは水でも汲んでこようか? ミズホ」
「そうね、シナイ」
「構えなさい! キザン!」
そう叫んだ直後、踏み込み、刀に手を掛けます。
「やれやれ。顔は女子なうえ普段は冷静な癖に、こういう時は熱血男子だよな」
「だが、それでこそ俺達も仕えるに足るというもの」
「以前の主は最悪だったしね。彼は若いけれど、素質もあるし努力も相当なものだよ」
「そうね。むしろ、その若い部分を私達で支えていくべきでしょう」
「はぁあああああ!!」
ガッキ!!
……
…………
………………
それは、初めて出場した決闘大会で勝利した直後、セキュリティが来たことで急いで逃げた後のことでした。
「私はきっと、なってみせます。お父さんも喜んで下さるほどの決闘者に! きっと!」
大谷さんに向かって、年甲斐も無くそんな大声を上げた直後でした。
『我らが主(あるじ)……』
突然声が聞こえ、複数人分の気配を感じました。後ろを振り向くと、そこには……
「な……!」
その、私の前にひざを着く六人の影を認識した直後、すぐに消えてしまった。
「どうしました? 家元」
「大谷さん……」
呼ばれて見てみましたが、大谷さんは何事も無かったような顔を見せていました。
「……いいえ。早く戻りましょう」
きっと、夢幻(ゆめまぼろし)の類(たぐい)であろうと自分に言い聞かせ、今の光景は忘れることにしました。
しかし、その後ですぐ自宅へと戻ったのですが、自室へ入るなり、
「夢ではなかった……」
「ま、そういうこった」
六人中、茶色く光る最も派手な鎧を着た武将が話し掛けてきました。
「あなたは……もしかせずとも、『真六武衆-カゲキ』ですか?」
「ああ。今後ともよろしく。主様」
その言葉と同時に鎧が消え、彼の素顔と、普段着と呼ぶべきか? 黄色に光る着物姿となりました。カゲキ、思っていたよりも若い見た目なのですね。
「……先程もそう言っておりましたが、主とはどういう?」
「それはな……エニシ、説明」
「俺か……」
少々呆れた声を出しながら、緑色の鎧の武将、エニシが前に出て参りました。やはり鎧が消え、緑色の着物姿と端正な素顔が。
……
…………
………………
「……つまり、あなた方は決闘モンスターズの精霊であり、そして今日から私が、あなた方の新たな主として選ばれた。そういう意味ですか?」
「そういうことだ。今日からよろしく頼む。主」
「主と呼ばれましても、私は具体的に何をすれば……」
そう聞き返そうとした時、急に後ろから抱きつかれました。
「別に何もしなくても良いって。君はただ、僕達を使って決闘をする。そして僕達は大暴れする。それだけ」
後ろを向くと、青色の着物を着た美形の男性。
「あなたは、シナイですか?」
「そだよ~。今日からよろしく~」
随分軽々しい口調ですね。武将というイメージとは正反対の、現代風の男子のようだ。
「ちょっと、シナイ、主となる方に馴れ馴れしくするんじゃない!」
今度は赤色の着物の女性。確認するまでもありませんね。
「あなたはミズホですね」
「あぁ、はい」
返事をしながら、必死な顔で私からシナイを引き剥がしました。
「あは、ごめんごめん。彼女、僕の奥さんなんだけど、武将の癖に嫉妬深くてさ。僕が真六武衆以外で男女問わずいちゃついてると、すぐこうなっちゃうんだ」
「シナイ!」
ミズホが叫んだ直後、シナイは彼女の手を取り、顔を近づけました。
「安心して。僕が誰と一緒にいようとも、一番はいつだって君だから」
「シナイ////」
「愛してるよ。ミズホ……」
そして、二人は無言で見つめ合います。
おしどり夫婦で微笑ましいことですね。何やらあの二人の周囲に桃色の空間が広がっているように見えるのは気のせいでしょうか。
「まあ、あの二人は基本あんな感じだ。戦いの時は頼もしいんだが」
「良いことですよ。それだけお互いのことを思い合っているということなのですから」
そんな二人をずっと見ていたかったのですが、
「……その辺にしておけ」
そんな、低い声が聞こえました。黒い着物。私よりは短いですが、背中まで伸ばした髪。
「キザンですか?」
「そうだ」
それは無表情ですが、全てを見透かすかのような目をして、私を静かに見据えています。
「とにかく。今日からあなたが私達の新たな主だ。今後とも、よろしく頼む」
「はい」
彼の真剣な態度に、自然と私も気が引き締まるのを感じました。
……のですが、
「お前はいつでも固いよなぁ!」
そんな声と共に、白い着物を着た、最後の一人が後ろからキザンと肩を組みました。
「……やめてくれ」
「固いことは言いっこなしだ。それより主!」
「はい!!」
突然大声で呼ばれ、目が合います。
「何でさっきは私だけ呼んでくれなかったんだよ! こっちはやる気十分だったってのに、差別か!?」
叫びながら徐々に近寄ってきました。
「そんな……ただあなたを呼ぶ必要が無かっただけですよ。それに、ルール上フィールドにモンスターは五体しか並べられませんし……」
「あぁー! 何で六体並べられないんだか! まあ良い! 今度やる時は私を呼べよ!」
「いやぁ……あなたを呼んでしまうと、勝負が簡単に着いてしまいますので……」
「はぁー!? じゃ何か!? 私の初陣はまだまだ先ってことか!?」
「す、すみません。あなたには、もっと然るべき舞台で召喚しようと、デッキを組む時点で決めていたものですから……」
「それいつだよ!? 私はいつになったら戦えるんだよ!? 仕舞いには泣くぞ!!」
「あはは……」
「あははじゃねーよ!!」
その絶叫とほぼ同時に、左右からエニシとキザンが現れ、彼の両腕を押さえました。
「……許して欲しい、主。こいつはすぐにこうなる」
「三度の飯より戦いが好きなやつなんだ。俺達の中では一番強いが、同時に一番面倒臭い」
「……たく。強過ぎるってのも考えもんだぜ」
「……」
目の前に立つ三人、そして、その左右に立っている三人の、計六人。彼らを見ながら、私は思いました。
「……ではさっそくですが、主として、二つお願いがあります」
その言葉と同時に、六人ともに顔が真剣な物へと変わる。それは、主君を見つめる武将の姿に他なりません。
「まず、一つ目ですが……」
そして流れる緊張感。彼らは何を言われるのか、体を硬直させながら聞いています。
「……私のことは、主では無く、梓とお呼びなさい」
そう言うと、六人はなぜか力が抜けたような顔を見せました。
「そんなことかよ。妙に真剣な顔するもんだから無駄に身構えちまったぜ」
カゲキが言いました。
「だが、あなたは主だ。それを気安く、名前など……」
キザンが話していますが、それを遮ります。
「私があなた方と戦ったのは今日が初めてです。私はまだ、あなた方に主と呼ばれるだけの功績は挙げていない。何より、私はあなた方を、家来のように扱うことだけはしたくない。私はそこまで偉い人間ではないのですから。だから今後、私を目上の者として見ることは許しません」
そう言った後、また沈黙が流れました。
今の言葉に嘘はありません。彼らは仲間なのです。仲間達に目上として見られることなど、おかしいこと。いつもの教室のような、先生と生徒、そんな関係ですら無いのですから。
「……分かったよ。梓」
真っ先に返事をし、目の前に立ったのは白い着物。
「まあ、別に主と言っても、主従関係なんて言えるほど大げさなもんでもねーから、気軽に構えてりゃ良い。それでお前が名前で呼べってんなら、私達はそうさせてもらうさ」
「それもそうだね」
シナイが返事をしながら、私の前に立ちます。
「よろしくね。梓」
そして笑顔。綺麗な笑顔ですね。
「ほら、ミズホも呼んでごらんよ」
「あ……梓……」
「はい」
私も返事を返します。すると、ミズホは笑って下さいました。
「じゃあ俺達もだ。梓」
カゲキが笑いながら呼んで下さいました。
「梓」
エニシも。そして最後は、
「……梓」
相変わらず表情は暗いですが、キザンも呼んで下さいました。
「それで、二つ目の願いは?」
尋ねられたので、また笑顔を浮かべます。
「二つ目の願いは……」
……
…………
………………
二つ目の願いが、これというわけです。
「はあ……はあ……」
遂に体力の限界が訪れ、地面へ仰向けに倒れてしまいました。
「はい、お水」
シナイから水を受け取り、横になったまま飲み干します。
「あり……がとう……」
ここは決闘モンスターズの精霊世界。多少暴れても被害は起こらない広い草原。
倒れた場所の草が私を包み、風が肌に心地良い。
「三ヶ月……間違いなく強くなった」
「キザン……まだ、あなたには、勝てませんが……」
「私以外には勝っている」
その言葉と同時に、あとの四人も私の前に立ちました。
「たった三ヶ月で大したもんだな。俺は修行を始めてから一ヶ月目で倒されちまうしよ」
カゲキが笑いながら言いました。彼の四本の腕は厄介でしたが、徐々に目が慣れていき、全て見えるようになった所で勝つことができました。もちろん、私が人間だからと手は抜かない。お互いに本気で戦った結果です。
「その二週間後には、私とシナイの二人まで破ってしまわれた。あの時は、さすがに少し落ち込みました」
「まあ、僕がすぐに元気づけてあげたけどね」
シナイが言いながらミズホを抱き寄せ、またミズホが赤くなります。
シナイとミズホの二人は、常に寄り添い生きている。それは戦場でも同じ、いつも二人で戦ってきたそうです。なので、私は二人にだけは二人がかりで相手をして頂くことにしました。二対一という状況も経験しておきたかったこと、そして、二人の全力と戦いたかったことが理由です。そして、勝つことができました。
「二ヶ月目には俺と互角に渡り合えるようになり、その一週間後には俺を超えた」
エニシの言葉。まさに光のような素早い動きで翻弄されました。なので、私も素早さを徹底的に鍛え上げました。人間の世界で車を追い越せるようになれたところで、始めて彼を倒すことができました。
「そして今、確実に私を追いつめつつある……」
キザンが言いました。エニシよりも早く、カゲキよりも手数多く、そしてシナイとミズホよりも正確な動き。
それでも、毎日戦うことで、ようやく彼の動きも見えてきました。何度も勝てる気がしては負けていますが、確実に、彼を追いつめている。
「もっとも、あいつは私より遥かに強いが……」
目を閉じながら言われました。そして、彼の方を見ます。
一人だけ、鎧とは違う色をした白の着物姿。そして今は、いびきを掻いて眠っている。
「……どの道、私を倒さない限り、奴には辿り付けない」
「分かっています……続けましょう」
横になっているうちに体力も回復しました。また立ち上がり、構えます。
……が、
「もう時間だ。さすがにもう帰った方が良い。明日起きられないよ」
シナイが言ってきました。
少し惜しいのですが、仕方がありません。
「分かりました。例によって次はいつになるかは分かりませんが、また次回に」
「ああ。梓もしっかり仕事しろよ。次の決闘の大会、楽しみにしてるからな」
カゲキに手を振られ、私も会釈しながら、精霊世界を後にしました。
そして、自室に戻ってすぐ私はお風呂で汗を流し、布団に体を預けました。
……
…………
………………
朝を迎え、いつものように大谷さんに起こされた時です。
「家元、あなたにお手紙が」
「手紙?」
まだ少し眠気は残っておりましたが、すぐにその手紙の封を開き、内容を確認します。
「……」
……!
「こ、これは……!!」
その内容に、眠気が一気に吹き飛んでしまった。
……
…………
………………
視点:???
いつ見ても美しい。ネオドミノシティの摩天楼。
この光の一つ一つが現在(いま)ある平和の象徴であり、人々が生きているという証でもある。一つ一つ色が違うように、人もそれぞれ違っている。まさに、人と言う名の光の芸術。
そうしみじみ思いながら、摩天楼を眺めていた時です。
『長官』
コールセンターの女性スタッフの声。そして、目の前の画面にその顔が表示される。
『お電話です』
「どなたから?」
『水瀬梓様と』
ほう、来ましたか。
「繋いで下さい」
そう話し掛けると同時に、女性の顔が消え、代わりに美しい顔の出現と共に、高い少年の声が響きました。
『レクス・ゴドウィン長官ですか?』
「はい」
『初めまして。水瀬梓と申します。夜遅くの時間でのご連絡、お詫び申し上げます』
ふむ。こちらから呼び掛けたにも関わらず、その応え方に対する謝罪。評判通り、とても礼儀正しいようだ。
「お気になさらず。お呼び立てしたのはこちらです」
『では、さっそくですが本題に入らせて頂きたい』
彼はそう言うと、足元から一枚の手紙を取り出した。
『これは一体どういうことなのでしょう?』
いぶかしげに聞いてきている。それも当然でしょう。
なぜなら……
「手紙に書いてある通りです。近日行われる決闘者の祭典『デュエル・オブ・フォーチュンカップ』。それに水瀬梓さん、あなたを出場者として招待したい」
視点:梓
わけが分からない。この男は何を考えているのか。
「私は決闘などしたこともありません。知ってはおりますが、カードにすら触ったことも無い。招待する人間を間違えているのではありませんか?」
私は決闘を行わない。私は数ある教室の先生というだけの人間。それを、治安維持局長官が知らないはずはない。
『ふむ。そうおっしゃるかと思いました。では、私からも一つ、お尋ねしたい』
今度は質問? 一体何を?
『……』
『……サイレントフラワー』
!!
『ご存知ですか?』
「……聞いたことも無い言葉ですが」
内心かなり驚いていますが、どうにか無表情を維持することができました。
『夜な夜な非公式に行われる決闘大会、そこに、かなりの力を持つ決闘者が出場していると聞きます。その決闘者の名がサイレントフラワー。そして、彼はどういうわけか、夜に行われる非公式の大会のみに出場し、ここ三ヶ月に行われた大会で全て優勝を攫っているという話です』
「ほぉ、それはそれは……」
く、この男……
『非公式大会であるため記録は残りませんが、それを見ていた人達からの情報を得ました。そして、ある非公式大会でカメラを設置させて頂き、その映像を入手しました』
そう言いながら、写真を一枚こちらに見せてきました。
『これは、あなたですね』
「……帽子とサングラスでよく顔が見えませんよ。こんな格好なら、私でなくとも誰でも可能なはずです」
『証拠はこれだけでは無い。決闘中の音声も録音し、あなたの声と照合しました。百パーセント、あなたの声と一致しています。何より、この写真の顔も既に解析済み。あなたであることは疑いようがありません』
……
『何なら、次の非公式大会で、彼を拘束しても良い。大会に出てこなくとも、それはこの電話を受けたから、と、受け取れますからね』
……く、
「……目的は何ですか?」
ここまでの証拠を揃えられては、私もこれ以上の言い逃れはできない。
「私を脅迫でもする気ですか?」
『まさか。このことは私と、信頼できる一人の部下しか知りません』
「では何のために?」
『誤解はしないで頂きたい。私はただ純粋に、あなたを決闘者として招待したいだけのこと』
「……」
本音を言えば、願っても無い申し出。しかし、
「大会概要を見ましたが、私には出場する時間などありません。私は毎日、いくつもの教室を回っている身。代わりの先生は存在しない。それを休みにすることなどできません」
大会は三日間。その間全て、真っ昼間の時間帯に行われる。私の開く教室とは完全に時間が重なってしまっている。私が大会に出場する時間など、全く無い。
しかし、ゴドウィン長官は微笑を浮かべました。
『それは重々承知しております。しかし、同時にあなたにはそれほど時間も残されていないのでは?』
「時間?」
『あなたのお父様のために、決闘者となる。そのための時間です』
「!!」
なぜ、そのことを!?
「どこでそれを!?」
『ある情報網から入手しました』
そんなことを知っている人間は、私や父以外には……
「大谷さん?」
隣に立っていた大谷さんに尋ねます。
「違います! 私は何も話しておりません!」
真剣な顔で必死に否定している。
『敢えて私からも言わせて頂きましょう。彼ではありません』
ならば一体誰に……彼の情報網はそれほどの物だということか……
『あなたは決闘者になることを、幼い頃から望んでいた。そして、現在の地位に立つまで血を吐くほどの努力をし、水瀬家二十一代目頭首へと上り詰めた』
『しかし、水瀬家頭首として、決闘者としての表立った行動は取れない。正直なところ、私も驚きました。日本一の名家、水瀬家の現頭首が、人知れず決闘者として動いていたことには』
「……」
『もちろん、表立って行動できない理由も分かっています。多くの教室の生徒達の手前、決闘者であるなど口が裂けても言えない。何より。水瀬家の内部では今でも、あなたを快く思わない方々が多数派であることは把握しております。もし決闘者であることがばれれば、今度こそ言い逃れはできない。間違いなく、現頭首の座を追われる恰好の口実を与えることになる』
く……この男は、どこまで私のことを調べて……
『しかし、決闘者を目指しているのならば、こういった大きな表舞台もいつかは通る道。いつまでも非公式の大会では、それが記録として残ることも無い。おまけにあなたのお父様の余命は、残り約半年。この機を逃せば恐らく、あなたの雄姿をお父様に見せる機会は永遠に訪れない。そうなれば、お父様との約束は永遠に叶えることはできなくなる』
「……」
『だからこそ、私はあなたにきっかけを与えたかった。あなたの志には感動しました。何より、決闘を始めてたった四ヶ月だというのに、初めての決闘で勝利、その後も負け無し。あなたの決闘者としての実力はかなりのものです。私の見る限り、キング『ジャック・アトラス』にも引けを取らないタクティクスを持っている』
「な……!」
キングにも、引けを取らない……
『それだけの雄姿を、あなたは見せたいとは思いませんか? フォーチュンカップは世界中に放送される大会です。間違いなく、あなたのお父様も見ることができるでしょう。あなたとお父様の、決闘者になる夢を叶えるという約束、それを、見せることのできるチャンスなのです』
「お父さんに、私の雄姿を……」
「家元……」
……今までは、非公式での大会でしか腕を振るえなかった。
変装したとしても、有名になれば、いずれは必ず正体がばれてしまう。それだけは許されなかった。生徒の皆さんを失望させてしまうかもしれない。何より、現頭首の座を辞され、お父さんにも申し訳が立たなくなってしまう。
しかし、いつまでも非公式大会に出ていては、その姿を見せてあげられない。それも分かっていた。いつかは公式での大会に出場しなければならない。分かっていたことです。それも、その姿を、病院にいるお父さんにも確実に見せてあげられる、そんな大きな大会に。
そしてそれが、目の前に……
『もちろん強制は致しません。最終的に決めるのはあなただ。出場するにしろ辞退するにしろ、またご連絡を頂ければこちらで手続きは済ませます』
『では、これで……』
そう話しながら、彼は電話に手を掛けようとしました。
「……待って下さい」
私がそう話し掛けたことで、彼も手を止めます。
「……一つだけ、許して欲しいことがあります」
『ふふ……お聞きしましょう?』
「……」
『そのくらいは構いません。こちらもそのように取り計らいましょう』
「……感謝に堪えません」
『いいえ。私はただ、あなたの純粋さを応援したかっただけですよ。それでは、大会でお会いしましょう。水瀬梓さん』
そして、今度こそ電話を切りました。
「……」
「家元……」
「……大谷さん……私に、許されるのでしょうか?」
「……」
「私が……大勢の生徒達を抱える私が……水瀬家頭首である私が……こんなことを、許されるのでしょうか……」
大会に出場することを、決意してしまった。
決闘者としての姿を披露すると、決意してしまった。
身分や生徒達のことを差し置き、決意してしまった。
「私は……そんなことをして……許される人間だと思いますか?」
夢を叶えたい……
生徒達に申し訳ない……
お父さんに見て欲しい……
私には身分がある……
様々な思いが交錯しても、目の前の誘惑を振り払えなかった。私に与えられた、恐らく最初で最後の機会。それを、掴むことしか考えられなかった。
しかし、決めた後で、後悔が私を襲った。私に、許されるのかと。
「その答えは、家元が見つける他ありません」
大谷さんはそう答えました。
「私としては、あなたは今まで、十分過ぎるほど努力をしてきた。そんなあなたが、夢を持ってはならないなど、あって良いはずは無い。しかし、あなたがそれを許せないと思う限り、それは永遠に否定されるしかない。あなたがあなた自身を許して差し上げられない以上、私には、何も言うことはできません」
「私が、私自身を……」
考えたこともありませんでした。ずっと、自分を否定的にしか見られなかった私が、そんな私自身を、許すなど……
『梓』
突然、複数人分の声と気配。そちらを見ると、六つの影。
『何を迷ってんだ?』
『僕達がいるじゃない』
『そんな姿は、梓らしくありません』
『自分に正直でいればいい』
『私達は、梓のどんな思いにも従う……』
『そういうこった。一人で苦しむなよ』
「皆さん……」
……そうですね。私は、決闘者であると同時に、あなた方の主でもある。
まだ、決意は揺らぐ。
迷いも消えない。
私を許せる自信が無い。
けれど、あなた方が、私を許して下さると言うのなら……
「フォーチュンカップ、そこで、あなた方の力を私に!」
『おう!』
六人の力強い返事と同時に、私は改めて、決意を強めました。
「家元、また独り言ですか?」
視点:レクス・ゴドウィン
さて、彼を招待することができた。
彼がシグナー達にどのような影響をもたらすか、私にとっての駒足り得るか、見せて頂きましょう。
お疲れ~。
ちなみに真六武衆の性格は適当だよ。マスターガイドとかにも色々書いてあるけど、めんどい。これでいく。
あと気付いてるろうけど、こっちはあっちに比べてギャグ少なめなあれだからね。
以上。次話まで待っててね。