遊戯王5D's ~剣纏う花~   作:大海

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七話いくでよ~。
書くこと特にないので行ってらっしゃい。



第七話 世界との別れ、散る紫の花

視点:梓

 負けたのか……

 残して……消えるのか……

 

 スゥ……

 

 体が後ろに向かって倒れた……

 

「うぅ……」

 体に走るはずの痛みが、いつまで経ってもやってこない。

 疑問に、閉じていた目を開くと、そこには、私の顔が。だがそれは、上下が反転していて、頭には、着けているはずの髪飾りが無い……

 何より、硬い地面の上に倒れているはずなのに、頭だけが柔らかい、不自然な感触……

「……ひざ、まくら……」

 ようやく、今私のされていることが分かった。

「……」

 青さんは、何も喋ることは無い。だが、その感触は、直前まで受けていたはずの、決闘の痛みを、和らげさせる。

 とても心地が良い。頭をひざに乗せているだけなのに、頭が楽で、しかも青さんが相手なためか、このままいつまでも、寝ていたい気分になってくる。

 そうか。あの時青さんは、これを感じながら、私の上で眠っていたのか。このままずっと、眠っていたいな……

 

 だが!

 

 ……カッ

「っ!!」

 カシッ

 

 目を開くと同時に、頭を彼に向かって持ち上げた。だが彼はそれを、左手を前に出したことで防いだ。

「……」

 また、彼のひざの上に倒れ込む。

 これが限界だ。もう、体に全く力が入らない。

 視界が赤く染まっているが、その赤い世界で、彼は傷付いた左手を眺めている。その左手からは、殊更に赤い液体が、まるで噴水のように吹き出ている。

 すると、懐に手を入れ、ハンカチを取り出した。色は、白だろうか。

 それを傷に当てるのかと思えば、彼は私の顔にそれを近づけ、そして、濡れた私の顔を拭き始めた。

 この人は本当に不思議な人だ。こんなことになっても、私のことを……

 そして、彼がハンカチをしまった時、世界は赤から、普通のものへと変わった。

「……っ」

 体が消えていくのが分かる。

 だけど、青さんに、これだけは、伝えなければ……

「……忘れないで……その傷を見る度、思い出して……あなたを愛し……あなたに殺された……そんな人達のこと……忘れないで……」

「……」

 沈黙するその顔には、分かっている、言われるまでもない、そんな言葉がうかがえた。

 あなたがずっと覚えているというのなら、それで良い……

 

 そして願わくば、導いて……

 彼を……あるべき道へ……

 

「梓!!」

 

「……!!」

「……!」

 この声は、アズサ? いつの間に目覚めて……

「梓! 梓……!」

 青さんの殴った腹部を押さえながら、這いつくばって、こちらに近づいてくる。

「梓……」

「いけない、来ないで……」

 そんな声も届かない。大きな声を出せない。アズサまで届かない。そして、体が動かない。

「梓……」

「……青さん」

 残った手段、青さんを呼ぶ。

「後生です。私を、アズサから遠ざけて……」

「……」

 もし今の状態の私に触れたなら、決闘の勝者である青さんはともかく、第三者でしかないアズサは、私と共に消えてしまう。そんなこと、絶対にダメだ! なのに、アズサは分かっているのかいないのか、私を見つめ、こちらに近づいてくる。

「青さん……」

「……」

 おそらく虎将の力で出血を止め、青さんは私を抱きかかえた。

「青さん……」

「……」

 安心に声を漏らすと同時に、彼は歩を進める。その先には……

「っ! 青さん……!」

 違う、そっちにはアズサが……!

「青さん!」

「私には、彼女の気持ちが分かる。そして紫さん、あなたの気持ちも

「……っ!」

 そして、それ以上の反論も許されず、彼はアズサの前に立って、私を足下に下ろした。

「ダメです……今の私に触れたら……」

「梓……」

 そんな……嫌だ……

「梓……」

 アズサの手が私に伸び、そして、触れた……

 

 

 それと同時だった。

 私と、私に触れたアズサ以外の、視界に見えるもの全てが変わった。

 何にも触れられない。何にもぶつかることはない。ただ、目の前の光景が、目まぐるしく変わっていくだけ。そんな空間に、二人は放り出されている。

 闇のゲームで消えた者は死亡するか、消える。消えた後はどうなるのか、それは分からなかった。だがどうやら、私達二人ともが、先程までとは違う場所へ、連れていかれるようだ。

 

「アズサ……」

 そしてそんな空間で、私を掴んで離さないアズサに、声を掛ける。

「どうしてこんな、無茶を……」

「……無茶って言葉、君にだけは言われたくないよ……」

 前にも言われた言葉だけど、今回は顔を伏せながら、涙に揺れる声で返事をしている。

「一体、どうして……?」

 それでも、答えを聞きたかった。

 アズサだけには、消えて欲しくない。

 彼女のそばにいたい、そう言ったのは私だけれど、そのせいで彼女が消えるなど、あってはならない。なのに……

「どうして……?」

 もう一度尋ねると、彼女はうつむいていた顔を上げた。涙に濡れて、真っ赤に染まり、ただ必死な感情を、私に向けている。

「……きなの」

「え?」

 聞き返すと、彼女は更に顔を近づけた。

「好きなの」

「は?」

 

「君が好きなの! 梓のこと、大好きなの! だから、離れたくないの!!」

 

「!!」

 好き……彼女は私にそう言ったのか?

「それはつまり、私のことを……」

「うん。愛してる。仲間とか家族とか、そんなこと以上に、君のことが大切なの。だから、離れたくない。君が僕に、私にもそう言ってくれたみたいに、僕も君から、離れたくない……」

「……」

 

 やっと分かった。私が、彼女から離れたくないと思った理由。

 ずっと共に生きてきた家族だから、彼女を失いたくない。そのために、離れたくない。

 そう思っていた。と言うより、そう、自分に言い聞かせて、必死に私自身をごまかしていたのかもしれない。

 そんなもの、初めから関係無かった。そんな理屈や理由があっての行動では無い。

 私はとっくに、彼女無しではいられなくなっていたんだ。

 なぜなら私の心は、あなたで満たされていたのだから。

 

「アズサ……」

 私は、重い両手を動かして、彼女の背中に回した。

「私は、最低だ……こんなことになったのに……あなたがそばにいることに、感謝している……あなたの言葉に、歓喜している……あなたの存在が、私の心を満たし、癒している……これから私達は、どうなるのか分からないのに……」

 私も同じだ。私も、アズサ、あなたのことを……

「じゃあ、僕も最低だ」

 アズサが、最低……?

「僕は君が必死に止めてくれたのに、僕の我がままで、ここにいるんだもん。好きだって言ってる人のお願いも聞けない女だよ。だから僕だって、君と同じ、最低だよ」

「……」

 嬉しい……

 こんな、愚かな私のために掛けてくれる言葉が、嬉しい……

 こんな私を思ってくれることが、嬉しい……

 あなたがここにいることが、嬉しい……

 彼女の何もかもが、全て、嬉しい……

「アズサ……」

「……」

「愛しています……グリムロさん」

「うん……」

 

 その言葉が最後だった。

 突然周囲の空間が光り、何も、彼女も、見えなくなった。

 ただ、唇に触れた、儚いけど、柔らかく、温かい感触だけを残して……

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

 

視点:外

「……!」

「ノエリア?」

 母親の腕に抱かれながら、エリは突然、顔を上げる。

「……戦いが、終わった……」

「本当に?」

 そんなエリの言葉で、周囲の者達は一斉にエリを見る。

「トリシューラが、いなくなった」

「本当か!?」

「うん。あとワームも、魔轟神も、全部いなくなった」

 

「マジかよ……」

「いなくなった? 俺達の敵が全部?」

「本当か……」

「終わったんだ……戦争が、終わったんだ……

惑星(ほし)に……ターミナルに、平和が戻ったんだ!!」

 

『ウオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』

『ウオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』

『ウオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』

 

 歓喜、安堵、興奮、それらの声が、一気に壊れた里を包んだ。

 戦争が終わった。

 敵も全ていなくなった。

 そのことで、それぞれの形で体中から溢れ出る喜び。誰もがその喜びに身を浸し、それを、絶叫と言う形で周囲へと轟かせた。

 魔轟神も全部。その言葉の真意を理解できないまま。

 

「でも……」

 そのエリの小さな声に、気付いたのは母親と、その前にいた数人だけ。

「……舞姫も、青も、紫も、ハジメも、カナエも、誰も帰ってこない」

「え……」

 未だ喜びの絶叫が響く中、その話しを聞いた者達は、一様に落胆の色を浮かばせた。ワームを、魔轟神を、そして三体の龍を、全滅させ、自分達を救ってくれた英雄達。その死は、喜び以上の、悲しみそれぞれの心に芽生えさせた。

 

「……これからどうしようか?」

 母親のそんな問い掛けに、エリは答える。

「別の所行こう」

「別の所?」

「うん。だって、もうここにはいたくないもん」

「……そう」

 母親も、その気持ちを察したのだろう。エリに答えながら、共に立ち上がった。

「どこに行くの?」

「……お婆ちゃんが言ってた所」

「……ノエリア、それって……」

「うん。元いた場所に帰ろうよ。風水師の故郷の、『リチュアの海』」

「……」

 母親は返事をしなかったが、それでもノエリアの手を引いて、歩いた。

 

 その後、しばらく歓喜の声を上げていた者達も、立ち上がり、里に背を向ける。

 

「さて、とりあえず霞の谷(ミスト・バレー)の、祭壇の様子を見にいって、その後は、『ガスタの湿地草原』辺りの様子でも見にいってみるかな」

 

「ずっと寒い場所にいたからな。暑いところ……となると火山か。よし、『ラヴァル炎火山』だ」

 

「さて、これからどうするお姉ちゃん?」

「そうだねぇ。私らの取り柄なんて、戦闘以外には飾りくらいしかないしねぇ……」

「じゃあ、宝石(ジェム)でも探しにいってみる?」

「おお、名案! そういえば火山地帯の近くに宝石が、取れるどころか歩いてるって噂を聞いたばかり」

「オッケー。じゃあ、行こー!!」

 

 それぞれの行くべき場所を求め、歩き始めた。

 もう、氷結界の里は存在しない。だからこそ、ここに立ち止まるのではなく、新たな場所を見つけよう。そしてまた、生きていこう。

 そんな共通の思いを、胸に抱きながら。

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

 

視点:???

 ……

 ……

 ……?

 ここは……

「……山、か?」

 ……間違い無い。地面は土と草、周囲に木々、夕暮れらしく薄暗い空は普通よりも近い。

 うん。山以上の何物でもない。

 もう一度周りを見てみると……

「カナエ……」

 あの時、俺と一緒に縛られていたカナエ。それがどういうわけか、俺と同じように、倒れて気絶している。

「おい、カナエ」

 呼び掛けながら、体を揺らすと、

「……うぅ」

 目を覚ました。

「良かった……」

 大きなケガをしている様子は無い。大丈夫だな。

「ハジメ……?」

 と、カナエは目を見開いて、俺に触れてきた。

「ハジメ? 本当にハジメ……?」

「お、おい……」

「透けてませんよね? 足は着いてますよね? 体温は平熱ですよね?」

「いや、ちょっと……」

 ……よく分からんが、とりあえず、満足するまで触らせることにした。

「ハジメ……」

 満足したのか俺とまた目を合わせてくる。おまけに、

「なぜに泣く? カナエ……」

 あの、俺、あなたに何かしましたか?

「ハジメ!!」

「そしてなぜに抱き付く!?」

 しかも抱き付きながら余計に号泣してるし! どうなってるんだ!?

 

 

 

視点:カナエ

 しばらく泣いて、心が落ち着いた所で、何も分かっていないハジメに事の説明をしました。

「俺が、消えた? あの決闘でか?」

「はい……」

 アズサに怒って文句を撒き散らした直後、消えてしまった。

 そのせいで私も、おそらく人生で一番の悲しみに包まれた。

 その後にこうして生きているあなたに出会えて、心からホッとしています。

「……」

「ハジメ?」

 私の話を聞いた後、なぜかハジメは、浮かない顔を見せた。

「どうして俺は、あんなことを言ったんだ?」

「あんなこと?」

 もしかして、アズサのことですか?

「俺はアズサのことを、受け入れようって決めてたんだ。魔轟神だが、ずっと一緒に過ごした家族には違いない。敵とか味方とか、そんなもの以前に、アズサを否定するなんてこと、俺にはできそうにないからな」

「ハジメ……」

「カナエは、どう思ってた?」

「私ですか?」

 ……私も、

「同じです」

「そうか……」

 その返事を聞いた直後、またハジメは顔を伏せました。

「なのに、どうしてあんな心にも無いこと、怒鳴っちまったんだ……」

「……」

 確かに、あの時のハジメは、いつものハジメとは違っていた。とても怖くて、どこかおかしかった。

「……」

 けど、今ハジメはここに、こうして生きてる。

 私には、それだけで良い。

 

「よう」

 

 と、突然、ハジメとは違う男の人の声が聞こえました。

「何だ?」

 そちらを見ると、ボロボロの着物を着て、ぼさぼさの髪を揺らしながら、四人組の男の人達が近づいてくる。

「可愛い姉ちゃんがいるなあ」

「こんな所で出会えるなんてついてるぜ」

「なあ、ちょっと遊んでくれよ」

「……」

 ハジメは呆れ顔で見てます。まあ、私も正直、同じ気持ちですが。

「お! おまけに二人とも高そうな物持ってるじゃねえか」

 高そうな……ああ、ハジメの刀と、私の杖のことですか。

「男の方は用は無えや。適当に金目のものもらって放り出して、女で楽しもうぜ」

「なら、男は俺にくれよ」

「へへ、好きにしろよ」

「……」

 短絡的と言うか、唐変木というか、阿呆というか馬鹿というか……

「へへへへ……」

 

 ボカッ

 

「へ?」

 笑っているうちに、ハジメを狙っていた人を殴りました。

 そして、ハジメも、

「おい」

「は?」

 

 バキボコ

 バカスカ

 ドカバキゴッツン

 

「う、うぅ……」

 パッパッパ……

「女だからと、舐めないで下さい」

 今まで戦争でずっと戦って、ワームとも戦ってきたんです。暴漢が四人くらい、素手で十分です。

「まあ、そういうことだな。これ以上殴られたくなかったら、さっさと家に帰った方が良い。な……」

「ひ、ひぃ……!」

 結局全員、私達に怖がって、帰っていきました。

 

「さて、これからどうするか……」

 ハジメが山を眺めながら、困ったように声を出しました。

 最初から、違和感はありました。おまけに先程の人達を見て、確信しました。ここはどうやら、私達の惑星(ほし)……惑星(ターミナル)の存在した世界とは違う、異世界のようです。

「とりあえず、山を下りて町を探してみませんか?」

「いや、それはやめておけ」

「どうして?」

「さっきの男達を見ただろう。あの格好や外見が普通なんだとしたら、今の俺達の外見は、十分に目立つ」

「……確かに」

 ここがどんな世界かは分からないけど、確かにそんな人間を見て、良い反応を示す人は少ないでしょうからね。

「では、どうしますか?」

「……山を、登ってみるか」

「……はい」

 どちらにせよ、ここに立ち止まっているわけにはいかない。なので、ハジメに並んで、山を登りました。

 

 

 

視点:ハジメ

 カナエと並んで、山を登っていると、

「あ、あれを」

 カナエが指差した先、そこには、

「山小屋か……」

「誰かいるかもしれません」

 うん。誰もいなくとも寝泊まりできるし、いたとしてもあの大きさなら精々一人か二人だ。事情を話せば、入れてくれる可能性もある。

 そう判断し、二人で山小屋へ向かった。

 

 トントントン

 

「誰かいますか?」

 

「はーい……」

 

 一度のノックで、そんな老人の声が聞こえた。

 

 ガラ……

 

「はぁ、こらぁめんこい娘っ子だなぁ」

 随分と訛っているな。そんな爺さんは、俺達に笑顔を向けた。見るからに優しい人だと分かる。

「悪いが道に迷ってな。少しだけ休ませてくれないか?」

「ああ構わねえ。大したもてなしはできねぇが、入って休んでいくとええ」

 そう言って、横開きの戸を開けてくれた。

 

 

「ほれ、茶ぁ飲め」

「ありがとうございます」

「すまない」

 返事をしながら、出されたお茶を啜る。うん。味は少し薄いが、落ち着くな。

「所で、爺さん」

 お茶を飲んで、俺は疑問を爺さんに聞くことにした。

「済まないが、ここがどこなのか教えてもらってもいいか?」

「この山か?」

 爺さんはまた笑顔を向けて、話しを始めた。

「ここはな、『童実野山(どみのやま)』だ」

「どみのやま?」

「おお。ここは、江戸の外れにある山でよ、だぁれも登る(もん)もおらんで、おらはここに暮らしとるだ」

 えど……

「誰も登らないって、何かあるのか?」

「逆だぁ。なーんもねぇ。野生の果物やキノコが()って、普通に動物がいて、川が流れてるだけの普通の山だ。だからだぁれも興味を持たねぇ」

「なるほどな」

 確かに、何の面白味も無い山に、好き好んで昇るような奴はいないよな。

「では、お爺さんはどうしてここに?」

 カナエが爺さんにそう聞いた。

「ああ。ここに、畑を作ろうと思ってよ」

『畑?』

「おお。ここは見ての通り普通の山だがよ、果物も魚も動物も獲れるし、土だけは良くてな。昔登った時にたまたま気付いて、そんでここに住むついでに、畑を作って野菜を育てようと思っただ」

「なるほど……」

 畑、か……

「……それ、俺達にも手伝わせてくれないか?」

「えぇ?」

「ハジメ?」

 爺さんもカナエも、疑問の声を上げた。

「俺達に、爺さんの畑仕事を手伝わせてくれ」

 もう一度言う。

「そうかぁ……?」

 爺さんは少し疑問のようだ。

「お前さん達にできるか?」

「こう見えて、故郷では野菜を作って生計を立てていたからな」

「ほぉ……」

 そしてまた、俺を値踏みするように見て、

「んじゃあ、頼んでみっか」

「ああ」

 まだ疑いはあるようだが、一応は信用してくれたか。

「そういや、まだお前さん達の名前を聞いてなかったな」

「ああ、そうだな。俺はハジメ」

「カナエです。よろしくお願いします」

「名字は?」

 ……ん?

「……名字?」

「名字だ」

 名字……

 もしかして、あれか?

「えっと……みなせハジメと、みなせカナエ、だ」

「水瀬か、綺麗な名前だなぁ」

 やっぱり、これだったか。

 梓の名前を聞いて以来ずっと疑問だった。俺達には、名字なんて存在しなかったからな。

 だが待て。ということは、梓が来たのって……

「二人は、兄弟か? それとも夫婦か?」

「え?」

 カナエが声を上げた。これも当然の疑問、なのか?

「ああ。俺達は夫婦だ」

「っ!?」

 そう驚くなよ。

「そうかぁ。おらは、『大谷吉蔵(おおたによしぞう)』っちゅうもんだ」

「大谷さん……」

 

 

 互いに自己紹介した後で、俺達二人はこの山を案内された。

 畑の場所、川の場所、狩りの穴場など、なるほど自給自足には何の不自由は無い場所だが、それ以上の面白味はない。誰も登らないっていうのも納得できるな。

「こんなもんだが、他に聞くことあるけ?」

「いや、よく分かった。ありがとう」

「ありがとうございます」

「すったら明日は早速畑仕事頼むわ」

「ああ」

 

 これでしばらくの宿は確保できた。

 最後に爺さんと話した後、俺達二人は外で、二人だけで話した。

「ハジメ……」

「ん?」

「その……さっきの、夫婦って……」

 まあ、疑問にも思うよな。

「とっさのことだったからな。勢いでああ言っちまった」

「勢い、ですか……」

「ああ。勢いと、希望だがな」

「……希望?」

 まあ、言ったことは無かったがな。

「あり得ないこととは思うが、正直、俺が将来嫁をもらうとしたら、ずっと、カナエしかいないと思ってたからな」

「な!?////」

 まあ、あくまで希望だ。

「迷惑だったよな。ずっと家族として生きてきたことだし。明日ちゃんと説明する……」

「嬉しいです……」

「……ん?」

 今、何か言ったか?

「私……ハジメのお嫁さんになったんですね////」

「え?」

 顔を真っ赤にしながら、かなり嬉しそうに、俺を見てる。

「私もずっと、ハジメのこと好きでした////」

「……え?」

「だから、ハジメのお嫁さんになれて、すごく嬉しいです////」

「……本気で言ってるのか?////」

「はい////」

「……////」

 そうだったのか。

「じゃ、じゃあ、少しタイミングはおかしいけど……////」

 俺はカナエの右手を取って、その場にひざまずいた。

「カナエ、俺と、結婚して下さい」

「////」

 ……え、ちょっと待て!

「なぜに号泣だ!?」

「……だって、嬉しくて……////」

 やべ、泣くとは思ってなかった。

 だが、そんなふうに焦ってる俺の手を、カナエも握って、

「喜んで////」

「……////」

 

 こうして俺達は、『水瀬 始』と、『水瀬 叶』という夫婦になった。

 これから、この世界で何が待ってるのかは知らないが、少なくとも俺は、カナエがいてくれれば生きていける自信がある。カナエも、そうだったらありがたいが。

 

 さて、畑仕事は早朝仕事だ。眠るとしよう。

 

「ハジメ」

「ん?」

「ずっと、一緒です」

「ああ」

 

 

 

第三部 完

 

 

 

 




お疲れ様~。
さて、ようやっと前のサイトで打ち切ったところまで来ましたわ。
この先はどうなることか、大海にも分かりませぬ。
新しく書き始める分今までほど早く上げられなくなると思うけど、そのこと踏まえて待っててくれる人、ちょっと待ってて。
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