じゃ~三話目いこ~。
行ってらっしゃい。
視点:外
壁にはいくつもの習字が貼られ、生け花がいくつも飾られている。
そんな部屋の入口に立ちながら、目の前に立つ、三人の女子。
その後ろに更に広がる、女子、女子、女子。
縦に三分割されており、それぞれ左から、華道、書道、茶道を嗜む者達に別れている。
そして、それと向かい合うのもまた、二人の女子。
否、実際は、一人の女子と、女装している、男子。
そんな、向かい合っていた三人の女子は、二人の女子に教室内を案内していきながら、順に言葉を紡いでいった。
「先程も言った通り、この部は元々三つあった部である、華道部、書道部、茶道部の、三つの部を一つにしたものです。活動は主に、その三つ。三つの中から一つを極めるもよし、三つのうちの二つ、或いは三つ全てを極めることを目指すのもまた自由。とにかく、それらの三つの事柄を、お互いに教え合い、学び合いながら、和の道を極めること、それを
黒髪のおかっぱ頭、言葉遣いが最も丁寧な女子、『紬 紫』が、そう説明をした。
「ちなみにどうして三つの部が一つになったかっていうと、その三つの部に大勢の生徒が入部して、あんまり多くて学校側も管理できないからって、三つに固めちゃおうってことになったわけ。それで、ほとんどミーティング用にしか使われてなかったこの文化部棟をごっそり頂いちゃったってわけだよ」
桃色のショートヘアー、言葉遣いが最もフランクな女子、『ツァン・ディレ』もまた、そう説明を紡ぐ。
「無論、ただ学ぶだけではない。和装文化部としての活動が始まったのは今年からですが、実際にそれらの大会やコンテストなどにも出場し、多くの成績を残している。小さなコンテストならば二人から三人は必ず入賞し、大きなコンテストでも、必ず一人は入賞しているわ」
青色の髪、どこか威圧的だが上品な口調の女子、『海野 幸子』が、最後に言葉を紡いだ。
「ちなみに、こちらの紬紫さんは、全国華道コンクールで最優秀賞」
「恐縮です」
「ツァン・ディレさんは、全国書道コンクールで金賞」
「いやぁ……」
「そして私、海野幸子も、自慢ではないけれど、全国茶道コンクールに出場し、儀礼部門の最優秀賞を受賞しているわ」
「へえ……」
一連の説明に、雪乃はそれだけ返事を返した。
「ここまでで、何か質問はありますか?」
紫からのその問い掛けに、
「そうね……」
再び教室を見渡しながら、その質問をした。
「見たところ、女子部員ばかりで男子が一人もいないようだけど、ここは女子専用の部なのかしら?」
『……』
すると、三人とも顔を見合わせ、苦笑しながら答える。
「いえ、元々は全て男女混合の部だったのですが……」
「あんまり女子が多数派だったもんで、それで、自然と女子部に……」
「そもそもが決闘の学校だから、男子は決闘だけか、運動部に流れていたし……」
「なるほど……あともう一つ、この教室に入って一番気になっていたのだけれど……」
「何なりと」
紫からの許可を得て、雪乃は、その疑問へ視線を向けながら、尋ねた。
「あの壁のど真ん中に、でかでかと貼ってある、あの写真は何かしら……?」
わざわざ聞かずとも、雪乃にはそれが何か、よく分かっている。
分かっていても、聞かずにはいられなかった。なぜなら、
「よく聞いてくれたね!」
「あれは、この和装文化部の象徴にして原点」
「そして、私共の全ての憧れ……」
その、おそらく教室内で最も派手な華道作品に挟まれる形で飾られた、馬鹿でかい写真に写っている人物。それは、他でもない、
『水瀬梓先生です』
「……」
藤原雪乃の正体、その人なのだから。
「はあ……水瀬梓……」
「雪乃さんはご存じかしら? 水瀬梓先生のことは」
「ま、まあ、噂程度だけど……」
噂どころではないのだが、今の自分は、米国からやってきた転校生。知らないふりをするに限る、いや、限られている。
「やっぱり、アメリカでも噂になるくらいとは、さすが梓先生だよねぇ……」
ツァンが顔を染めながら言い、見ると、左右の二人、そして、周囲の女子全員が写真に顔を向け、敬愛の視線を向けている。
「……」
そんな視線を向ける女子達に、雪乃は、自身のことを、敢えて言ってみたくなった。
「大勢のネオドミノシティの人間を騙して、名前を売って私腹を肥やした挙句、最後には裏切って、そのことに謝罪も弁明も無しに逃げていった、史上最年少の悪質詐欺師にして、ネオドミノシティ史上最悪最凶の汚点。読んだ雑誌にはそう書いてあったわ」
「……」
「……」
「……」
『……』
予想通り、と言うべきか、敢えて、意外にも、と、言うべきなのか。
そんな言葉を漏らした雪乃に対して向けられたのは、部員の数だけの殺気だった。
「……雪乃さん」
「え?」
オクターブがだいぶ下がった低い声で、紫が雪乃を呼ぶ。雪乃は特に気にした様子もなく返事をしたが、
「……」
隣に立つアキは、身を縮めてしまっていた。
「米国出身で良かったですね……」
「本当。もし君がちゃんと事情を知った普通の人なら……」
「私達全員で、あなたを袋叩きの目に逢わせているわ……」
「……」
なぜそこまで怒っているのだろう。
この程度の人数なら、囲まれても余裕で反撃できるけれど。
いや、ケガをさせるのはまずいか。
このくらいでアキはなにを恐れているんだ。
と、様々な疑問が浮かぶ中で、とりあえず、聞いてみた。
「私は悪い噂しか聞いたことの無いその人のこと、みんなはそんなに好きなの?」
「好きかですって!?」
幸子が大声を出しながら、顔をズイッと近づけてきた。
「好き以上よ!! この教室にいる女子全員が、偉大なる梓先生の弟子であり、師匠である先生のことを慕い、敬っているわ!」
「はあ、弟子……」
生徒にはしたけど、弟子にした覚えは無いのだけれど。
「何がそんなに偉大だっていうの? 要するに、若いけどたくさん教室を開いていた先生だったんでしょう?」
これは、アキの母親、十六夜節子と再会した時にも感じた疑問だった。
返せないほどの恩。アキの両親はそう言っていた。
そしてそれは、少なくとも、梓にとってはまるで覚えの無いことだった。
自分はただ、教室を開き、そこで自分の知ることを教えていた。それだけに過ぎない。なのに、全ての生徒がそんな自分に、不必要なほどの感謝と敬意を向けてくれていた。
節子や、龍可に尋ねることもできた。だがどうしても、当人である自分が聞くことは憚られた。
だが今ようやく、梓ではなく、雪乃として、それを尋ねることができ、そして、聞くことができる。
「そう。確かに、彼がしたことは、教室を開き、私達を教え、導いてくれた。それだけのことです。少なくとも、彼を知らない人達、そして、おそらくはお淑やかな性格の彼自身も、そんなふうに考えているでしょう」
(ええ、まあ……お淑やかなのかは知りませんけど……)
「しかし、梓先生はそれらのことを教えながら、同時に私達生徒全員を正しい道へと導いてくれていました」
「はあ、正しい道……」
「そうです」
「……何だかいまいちピンと来ないけれど……」
「いいえ」
疑問の声を上げた雪乃の言葉に答えたのは、隣のアキだった。
「紫の言うように、彼の言葉は正しくて、人を導く力があった」
「え……?」
「その通り!」
ツァンに続いて、幸子もまた叫んできた。
「十六夜アキさんに対して、決闘をしながらそうしていたように、彼は教室を通して、私達をも救ってくれていたのよ」
(何の話しですか?)
疑問に思う間もなく、幸子は目を閉じながら、過去を想起しながら、語った。
「私の家はかなりのお金持ちで、生まれる前から
「そんなことに悩んでいた時、梓先生の開く茶道教室へ通うことが決まった。正直なことを言うと、最初は彼に対して、あまり良い感情は持っていなかった。ただ評判が良いからそこへ行けと、いつも通り親の言うことを素直に聞いて通っていた習い事の一つに過ぎなかったし、むしろ、そのために同い年の少年から物を習うのはいかがなものか、と。何より、教室になど通わずとも、ある程度の礼儀作法は身に付けていたつもりだったから。けど……」
(……もしかして、あの時のこと、か……?)
「あれは、彼から初めての指導を受けた日……」
視点:幸子
―「幸子さんは、作法の基本は出来上がっているようですが、その心持ちに乱れが感じられます」
―「……へ?」
そんなことを言われたのは生まれて初めてだった。子供の頃から、大抵のことは少し練習すれば完璧にこなすことができたから、褒められたことはあっても、指摘をされたことは無かった。
今思えば、親を知る人間からすれば、下手なことを言えずに遠慮していたのかもしれない。しかし、そのことを踏まえても、彼は私にそう、声を掛けた。
―「何か悩み事があるのですか?」
―「悩み事って……」
―「いえ、申し訳ない。仮にあったとしても、私如きが立ち入っていいことではないでしょう」
―「あぁ……」
―「けど、茶道の先生として、一つだけ言わせて頂くと……」
そして彼は、言って下さった。
―「疑問や迷いを持ち、それに悩み続けることは、必ずしも悪いことではない。悩むということは、それだけ選択肢には可能性が広がっている、ということだから。たとえそれが、ほぼ確定された物だとしても、それを最善だと受け入れるか、それは違うと拒否するか、選ぶことができるのだから。誰もが同じ。あなたのこれから進む道にも、無限の選択肢があり、そのどれも、大きな可能性が広がっておりますよ」
―「……!!」
視点:外
「その言葉を受けて、悩みが吹っ切れた気がした。いえ、むしろ、もっとたくさん悩んで、自分のこれから歩く道を見つめよう。親に従うだけではない、彼が言ったように、無限の選択肢の中から、親の言うことも含めて、最善だと確信できる道を必ず見つけてみせると」
「そして、同時に思ったのです。私は、この人についていきたい。そして、いつか最善の道を見つけ、迷いなく進むことができた、私の姿を見て欲しい、と」
(それほど大した言葉ではない……)
「僕もそうだよ」
と、今度はツァンが、声を上げた。
「聞いての通り、僕、口調はもちろんのこと、正確も全然女の子っぽくなかった。それだけならまだ良かったかもだけど、すごく短気で喧嘩っ早くて、それでよく、口調のことバカにしてきた男の子とかと喧嘩したりして、そんなことがあったせいで、周りからは不良扱いされてさ。親からも、もっと我慢を覚えろって何度も叱られて、けど、直せって言われてはい分かりましたって直せるものでもないし、何よりそんなこと、関係なく僕のままでいたかった」
「そんな感じだったから、ちょっとでも落ち着かせるためにって、無理やり習字教室へ通わされた。そんな親にも怒ったし、だから梓先生のことだって嫌いになるって思ってた。凄く評判が良いんだか知らないけど、同い年だし良い家のお坊ちゃんだし先生だし、どうせいけ好かない人なんだろうって」
(……ああ、そう言えば……)
「けどさ、全然違ったんだ」
視点:ツァン
―「ツァンさん、その文字は……」
―「……ふんっ」
その時、各自好きな文字を書けって言われたんだけど、正直、何を書けばいいのか分からなかったし、周りは変に上品な人ばっかなのが余計に気に入らなくて、どうせ一日で辞めてやるつもりだったから、適当に書いてやったんだ。文字なんてとても言えないような、ただ書き殴っただけ。周りはそんな僕を見て完全に引いてた。だから先生も、その文字を見て、周りと同じように引いて、怒りだす。そう思った。そして、怒ったところで適当に逆切れして、さっさと帰ってやろう。そう思ってたんだ。ずっと不良のままだろうけど、それがどうしたって感じだったし。
そう思ってるうちに、大勢の生徒がいる中で、先生が僕の前まで来て、驚いた声を出した。
期待通り、その文字を見て、周りと同じように引いた。
そう思った、けど……
―「とても力強くて、良い字ですね」
―「……へ?」
先生はさ、引いて怒りだすどころか、そう褒めてくれたんだ。
―「しかし、これでは少し、私以外には読み辛いですね」
―「え……?」
そう言って、有無を言わさず僕の後ろに来て、筆を持つ手を握られてさ。
―「いや、ちょっと……////」
―「やはり、少し力が入り過ぎていますね。おそらく癖によるものでしょうが、もう少しだけ力を抜いてみましょう」
―「力を、抜いて……?」
―「ええ。それだけで、文字の形が何倍も良いものに変わります」
―「……」
言われた通り、ただ書き殴るだけが目的だった手から力を抜いて、先生の手に合わせて、文字を書いてみた。
―「……全然違う……『我』?」
―「私にはこの字に見えましたが、違いましたか?」
―「いや、その……は、はいそうです。我、我って、書いたんですよ、僕」
周りとは違った、純粋な気持ちと、先生としての愛情を向けてくれてる顔を見てると、逆切れしてやろうとか周りが気に入らないとか、そういうイライラが段々治まってきて、むしろ、この人の前で、そんなところは見せちゃいけない、そんな気にさせられたんだ。
―「えっと……ごめんなさい。いつも字を書く時、力が入り過ぎちゃって、こんな字に……」
―「いえ。何を成すにしても、力は必要です。大切なのは、その力を入れるべき時と、抑えるべき時を見定めることです」
―「……え?」
そして先生は、教えてくれた。
―「人は誰しも、自分自身という力を維持し続けることに意志を見出している。しかし、その力が強すぎては、あなたが最初に書いた文字のように、我が身をも歪めてしまいます。真に我という力を見出すには、時にその力を抑えることもまた必要です。力が強くとも弱くとも、それは間違いなく、あなたの書いた、あなただけの文字ですよ」
―「……」
初対面だったのに、まるで、今までの僕を見て、しなきゃいけないことを語り掛けてくれてるみたいだった。
視点:外
「それでその日から、先生に言われた通り、ちょっと力を抜いて、我慢するようにしてみた。そしたら、周りがよく見えるようになって、自分のしてきたことを見つめることができた。それで、親とか、他にも迷惑を掛けた人達に謝って、短気な自分を変えようって気になった。そして、そんな自分を、先生に見てもらおうって思うようになったんだ」
(……私はただ、あなたの崩れた『我』という文字と、あなたの姿から感じたことを、そのまま言葉にしただけだ……)
「そして、私も、お二人と同じです」
(……そう言えば、紫さんの時も……)
「水瀬家ほどではないにせよ、代々続く由緒ある家系の末孫として、和の心を重んじることを物心ついた時から強要され続けてきた。周りの女の子達は可愛い服やお洒落をして、お外で遊び回っているのに、私はと言えば、窮屈で暑苦しい着物と、地味な飾りばかりを身に付け、言葉遣いや礼儀作法を習う毎日。我慢はしていましたが、内心では、そのことが嫌で嫌で仕方がなかった。華道教室に通うことが決まった時も、もう和の心などたくさんだ、そう叫びたい気持ちで一杯でした。ですが……」
視点:紫
―「ふむ……何やら、随分と辛い思いを懐いているようですね」
―「……は?」
今まで誰にも話したことの無い私の心の内を、先生は私の生けた花を見て、悟ったようでした。
―「紫さん、華道は、お嫌いですか?」
―「え……?」
あまりに唐突で直接的な質問で、言葉を返すことができませんでした。
そんな、何も言えず、黙っている私に、先生は言葉を掛けてくれた。
―「紫さん、生け花というものは、どうして存在するのでしょうね?」
―「……へ?」
―「私も正直なところを言えば、こんな、頑張って美しく咲いたお花の命を、私達の都合で好きなように切り刻み、形を変え、見世物にする。そんな残酷な行為に何の意味があるのか、いつも疑問に感じながら、こうしてお花を生けている。生きたお花と書いて『生け花』。酷い皮肉もあったものだと思います」
―「……」
華道の先生なのに。
そう思った直後に言われた言葉が、私の心を変えてくれました。
―「けど、同時に感じることもありました。そのお花達もまた、頑張ってくれている、ということを」
―「頑張って……お花達が?」
―「はい。たとえ、私達の都合で無残に切り取られたお花達でも、彼らは美しく輝いている。私達は私達の思う通りにしかお花の形は作れないけれど、そのお花もまた、一本一本が違い、そして、全てが美しい。お花達が精一杯輝いてくれるから、私達もまた、精一杯の愛情をお花に向けることができるのだ、と」
―「……!!」
―「私のような若輩者が生意気なことを言うようですが、あなたの目の前にいるお花達は、精一杯輝く過程で、あなたと出会うことができたお花達です。華道のことは嫌いでも構いません。ただ、そのお花達のことを、好きになってあげてはいかがですか?」
視点:外
「その後、私は自分のことを見つめ直しました。そして、大嫌いだと感じながら、それでも見出してきた和の心は、決して無駄ではなかったのだと気付きました。そして、そんな私の頑張りに対して、家族もまた愛情で答えてくれたことに気付きました」
「その日以来、嫌だという気持ちを変えることはできませんでしたが、せめて、それらのことを精一杯好きになってみよう。そう思いながら、毎日を過ごすようになりました。そして気が付けば、それらのことを大切だと感じるようになり、私は、今の私になれた。たとえ、家族や周囲から決められた形だとしても、自分自身として輝くことができる、そんな自分に。私は私のままでいられるのだと、梓先生が気付かせてくれたのです」
(……私はただ、あなたが華道に対して苦しそうにしていたから、それを少しでも楽にしてあげられないか、そう思って、つまらないお話をしただけなのに……)
「そして、私達三人だけではない。ここにいる女子部員は、そんな梓先生の言葉を受け、救われたり、変わることができた人達ばかりです。そんな私達にとって、梓先生は象徴であり、希望なのです」
「……けど……」
その話を聞いた後も、別の疑問もあった。
「それだけの人なのに、決闘という行為に及んだから、一気に信用を失ったって聞いたけれど?」
日本の誰よりも、和の心を重んじた一族。その一族の長でありながら、手を出してしまった洋産娯楽文化の代表格、決闘モンスターズ。
水瀬家当主として、決して手を伸ばしてはならなかったそんなものに手を伸ばしたことで、一気に信用を失った。そのはずだ。
なのに、彼女達は信用を失うどころか、その目には、一点の疑いも陰りも無かった。
「そんなこと、信用を失うどころか嫌いにさえならないよ。当然、サテライト出身だったって事実だって、少なくともここにいる先生の生徒達には関係ないことだよ」
「その通り。むしろ、私達と同じように決闘を愛していたことを光栄に感じたくらいです」
「ツァンなんて、先生の雄姿に憧れて六武衆デッキに切り替えたくらいだものね」
「な、違……僕はただ、六武衆がすごく強いから、使ってみたくなったってだけで……////」
「はあ……そんなものなの?」
「そんなものです。むしろ、私達と同い年で、それまでよく我慢してきたものだと感心します」
「……」
「それに、たまたまではあったけど、お陰で私も、彼の言葉と行動に救われたから」
突然、隣に立つアキが、そう話し掛けてきた。
「仮面で素顔を隠して、そのことを指摘した私に向かって、彼は正体を少しだけ明かして、そうやって、私と同じ目線に立って、呼び掛けてくれた。その言葉で変わることはできなかったけど、変わるきっかけにはなってくれた。あそこまでやってくれる人は多分、水瀬梓、彼以外にはいない。今でもそう思って、感謝しているわ」
「アキ……」
「ええ。私も、フォーチュンカップが行われた当時、会場には行けませんでしたが、テレビであの決闘を見ていました。静花の正体が梓先生だということには心底驚きましたが、それ以前の、先生のアキさんに対する言葉には、感動させられました」
「僕も。まるで梓先生みたいだなって感じてはいたけど、本当に梓先生だったから。驚きながら納得したよ」
「私もよ。外でも教室でも決闘でも、あの人は、誰かを救うことができる。そのことを強く感じました」
「……」
(そう言えば……)
思い出したのは、節子や、龍可の姿。
節子は、一人娘であるアキを孤独に追いやってしまい、そのことをずっと気にかけていたらしい。
龍可は、病弱である自分が、兄である龍亞の足枷になってしまっていることに悩んでいたらしい。
そんな二人に対して、梓であった頃、教室を通して、語り掛けた。
梓としては、ただ教える身として、いつもそうしているように、目の前の人に対して最も必要であると感じた言葉を掛けた。それだけのことだったのに。
(……ああ、そうか)
そして、梓は気付く。それこそが、彼女らにとっては救いになっていたのだと。
人は、ただ手を差し伸べるという行為一つで、変わることができる時もある。かつて、サテライトに捨てられ、売られた自分に、父がそうしてくれたように。
今の自分は、父ほど偉大ではないけれど、それでも彼女達は、そんな自分に感謝してくれている。彼女達だけでなくて、節子も、龍可も、教えてきた生徒全員が、そう思ってくれていた。かつて自分が、父に対してそうだったように。
(そうか……私は、先生としてだけでなく、彼女達のお役に立てていたのか……)
「梓先生の言葉には、心の迷いやわだかまりを溶かしてくれる癒しがあり、人々を導く力がある」
「それに、誰にでも変わらない、同じ形の愛情を向けてくれる」
「そして、人々を導いてくれる。私共にとってはまるで、神様以上に神聖な存在でした」
(神様、か。そんなものになるなどおこがましい話しですが、それで、彼女達の心は救われたのか……)
思わず目を閉じて、彼女達に対して、感謝の念を籠めた。
「だから決めたのです! 私達和装文化部は、梓先生を神と崇めましょうと!!」
『え?』
思わず出した疑問の声が、隣のアキと重なった。
「そう。梓先生は私共にとって、紛れもない神! だから、私共で神格化することにしたのです!」
物静かな印象の紫が、拳を握り、そう、力強く発した。
「その通り! 僕らにとって、先生は神だ! そんな神様を、いつかここでお出迎えするんだ!」
「それこそが、私達和装文化部の夢! 今は行方不明だけど、先生は必ず生きている! そして、彼をここへお出迎えして、文字通り神と称え敬うのよ! ねえみんな!」
『そうですわ! 梓先生は、私達の神です!』
「梓先生!」
『梓先生!』
『……』
そんな、和装文化部の様子に、完全に言葉を失いつつ、
(その夢が、既に叶っている……)
(途中までは良い話しだったのに……)
そう、雪乃とアキは感じていた。
「神様、ねえ……教室の先生が、ねえ……」
「そうです! 教室の先生である梓先生は、私達全員の神です! 神とは誰よりも神聖で、正しく愛情に溢れた存在。正に、梓先生そのものではありませんか!」
「……」
紫の力強い言葉と姿に、再び言葉を失いながら、
(アキさん)
(なに?)
(誓って申し上げますが、私はそんなつもりで教えたことは一度もありませんよ)
(ええ、分かってる。私はあなたの生徒じゃないけど、そのことはよく分かってるわ)
「梓先生!」
『梓先生!』
『……』
変わらず、二人が彼女達の姿に言葉を失っていた、その時だった。
「おーっほっほっほっほ。相変わらずお騒がせな人達」
後ろ、教室の出入口から、そんな声が聞こえた。それに雪乃とアキが振り返った時、
「あなたが噂の転校生ね」
そこに立っていたのは、三人の女子生徒。そしてその後ろにも、三十人ほどの女子生徒達。
「自己紹介しておくわ。私は……」
(日本舞踊教室の、『
「そして私達は、日本舞踊、お琴、三味線の三つを取り入れ、今年新たに創設された、『
「え、同じ名前なの?」
「全然違うよ!」
雪乃の疑問に、答えたのは怒気を含んだツァンの叫びだった。
「僕らの和そうの『そう』は装いの装。そっちは演奏の奏の字だよ」
「ああ、そう……」
「ちなみに部室は、この文化部棟の三階ですわ」
今雪乃らがいるのは、二階。
「なぜわざわざ同じ名前に……」
なぜか、梓はそんな出来事に既視感を覚えた。
「大騒ぎが聞こえたから来てみれば、またつまらない妄言を吐いているの?」
全員が制服である中、一人だけドレス姿である、中央に立つ女子、小早川ランはそう吐き捨てた。
「つまらない、妄言ですって!?」
幸子が言い返し、教室内の女子全員の目に殺気が籠もる。
だがそんな殺気など意に介さず、ランは続けた。
「ええ、妄言です。確かに梓先生は偉大で神聖な存在ではありますが、それでも決闘をしている姿から、立派な欲望を備えた一人の人間ですわ」
(ええまあ、それはそのとお、り……?)
「決闘をしたいという欲望、それがあるなら、当然性欲とてある」
(いや、否定はしませんが、性欲って……)
「ゆえに私達、和奏文化部は思うのですわ」
「私達全員、梓先生の妻になるべきなのだと!!」
『妻!?』
再び、雪乃とアキは声を上げた。
「彼は誇り高き水瀬家の頭首。そんなお人なら、決められた人間と結婚することもまた頭首としての責務であったはず。しかし、頭首の座を追われた今、彼の妻は誰でもなれるチャンスがある。ならば! 私達梓先生を愛する者全員、彼の妻になるべきなのですわ!」
「その通りです! ラン様!」
「素晴らしいお考えです! ラン姉様!」
両隣のメイとサクラが、そうよいしょを掛ける。
「きっと彼は今、頭首の座を追われて困っているはず。そんな彼を、私達全員が妻として迎え、支え、そして、全員で彼の子供を産み、育て、新たな水瀬家を打ち立てる。そして梓先生を、そんな新たな水瀬家の頭首とするのです! 梓先生との子供を抱きながら!!」
「素晴らしい! 梓先生のためなら、何十個でもパートを掛け持ちしますわ!!」
「梓先生の子供……えへへへ……////」
『梓先生~////』
メイとサクラが、そして、後ろの女子生徒達もまた、そう言いながら顔を綻ばせ、ふにゃりとニヤつき、赤面していた。
「……」
(アキさん)
(なに?)
(もう一度言いますが、私はそんなつもりで教えたことは一度もありません)
(ええ、分かってる。私はよーく分かってる)
(というか、ここにいる女子の皆さんはいつもこうなのですか?)
(いいえ。普段話す分にはむしろ普通だけど、梓のこととなると途端にこうなるのよ)
(……何だか、怖いです……)
「妄言なのはそちらではありませんか?」
「む?」
惚気ていたラン達に対して、そう声を出したのは、紫。
「何が妻ですか。梓先生のような方が、あなたのような下賤な者をお選びになるとでも?」
「下賤、ですって!?」
「そうです。お顔や家系は多少良いかもしれませんが、そんなもの、梓先生にとっては何の意味もありません。裕福な家の老婆から、醜いホームレスの男であろうとも、変わらぬ愛情を向けてくれるのが梓先生というお人です。それだけの人の妻になることになど、その人の愛情の独占にしかならないように思えます」
「そうだよ! 先生はみんなの神様であるべきなんだ! 女しか幸せになれない夫にするよりも、男も女も、みんなを幸せにして導いてくれる神様だ!」
「その通り! あなた達はただ、自分達が幸せになりたいだけでしょう!」
左右に立つツァンと幸子も言葉で応戦をする。
だがそれを、ランは鼻で笑った。
「やれやれ。所詮は家庭や環境の事情で歪んだ心を、梓先生の言葉で修正されたことで盲信的になっている信徒被れな人達に、人間にとっての本当の幸せは理解できないわよね」
「む……」
『……』
ランの言葉に、和装の全員の顔に怒りが生まれる。
「家族仲や人付き合いが上手くいかず孤独になっていたのを、梓先生の言葉で満たされそのまま恋心を募らせた子供のような人達に、言われる筋合いはありませんが」
「む……」
『……』
紫の言葉で、和奏のメンバーにもまた怒り。
『……』
『……』
互いの強烈な殺気がぶつかる、激しい睨み合いが続いた。
そんな、睨み合いに挟まれている二人は、
(アキさん)
(なに?)
(何度でも言わせていただきますが……)
(あなたはそんなつもりで教えたことは一度も無い。ええ。よく分かってる)
(なのに、これではまるで狂信宗教団体です。私はいつの間にそんなものの象徴に変わっていたのですか……?)
(あなたは多分、何も変わってない。ただ、彼女達が勝手にそう思って、お互いの主張をぶつけてるだけ)
(……)
「そこまで言うのなら……」
と、沈黙の中でランが声を出した。
「今日こそどちらの和そうが真実か、決着を着けましょう」
「良いでしょう。私が相手になります」
ランと紫が、そして、それぞれの後ろに立つ面々が睨み合いながら、教室を後にしていった。
『……』
残された二人は、そんな光景を無言で見つめていた。
「どうする? このまま帰ってもいいけど?」
アキが雪乃に対して、そう問い掛ける。
「……」
だが、雪乃は去っていく彼女達を見ながら、
「追い掛けましょう」
そう言って、同じく教室を後にした。
(やっぱり、梓ならそうするか……)
大よそ八十余名の女子と、一人の男子が移動した先は、文化部棟の屋上。四階の高さであるそこからは、本校舎や体育館、運動場等の設備がよく見える。そこの中央に、代表である二人が立ち、その周囲を、残りの女子達が囲むように立った。
「では、この決闘に、お互いの部の存続を賭ける。それで良いですね」
「よろしいわよ。敗けた方の部は今日付けで解体。そして、二度と梓先生の名を口に出さない。良いですわね」
「分かりました」
(おかしいですよ、こんな決闘。私は、どんな人でも、その人が望むままに教室に受け入れていただけなのに、これでは……)
(梓……)
雪乃――梓の嘆きなどお構いなしに、
『決闘!!』
ラン
LP:4000
手札:5枚
場 :無し
紫
LP:4000
手札:5枚
場 :無し
どちらが勝とうが無慈悲しか生み出さない、決闘は幕を開けた。
「私の先行、ドロー」
ラン
手札:5→6
「いきますわ。私は、『アトラの
『アトラの蟲惑魔』
レベル4
攻撃力1800
紫色の髪が輝く小さな娘。それが、クモの糸を纏いながら、現れた。
「蟲惑魔?」
「なに、それ……?」
「可愛い……////」
「あれは……以前使用していたものとは違う……」
「知らないのですの? 最近出たばかりの新シリーズのカード。一つのデッキにこだわらず、それらのカードで新たなデッキを組むのも、決闘者の
「……」
「さて、私はこれでターンエンド」
ラン
LP:4000
手札:5枚
場 :モンスター
『アトラの蟲惑魔』攻撃力1800
魔法・罠
無し
(モンスターを召喚しただけ、伏せカードは無い……)
「私めの番です。札を引きます」
紫
手札:5→6
「番? 札? 引く?」
「紫の口癖。和風な家庭環境で育ったせいか、あんな口調なのよ」
(え……私は普通にターン、カード、ドローと言っていますよ……)
(まあ、人それぞれなのよ……)
(『アトラの蟲惑魔』の攻撃力は、1800。私の手にあの攻撃力を超える者はいない。ならば……)
「私はモンスタア、緑の歯車を召喚致します」
(緑の歯車って……)
『グリーン・ガジェット』
レベル4
攻撃力1400
「召喚に成功したとことで、緑の歯車の効果が発動します」
「残念ですが、その前に『アトラの蟲惑魔』の効果、発動よ」
「む?」
「手札より罠カード『落とし穴』を発動! 相手の召喚または反転召喚した攻撃力1000以上のモンスターを破壊します。よって『グリーン・ガジェット』を破壊」
「な!?」
ランの宣言通り、足下に開いた落とし穴に『グリーン・ガジェット』は落下し、砕けた。
「手札から!?」
「手札から罠!?」
「『アトラの蟲惑魔』が場に存在する限り、私は手札から『ホール』または『落とし穴』と名の付くカードを発動することができる。そして、私のコントロールする通常罠カードの発動と効果は無効化されませんわ」
「そんな……ですが、効果は無効にされておりません。私は緑の歯車の効果により、札束の中から、赤の歯車一枚を手札に加えます」
紫
手札:5→6
「札を二枚、場に伏せます。終了です」
紫
LP:4000
手札:4枚
場 :モンスター
無し
魔法・罠
セット
セット
ラン
LP:4000
手札:4枚
場 :モンスター
『アトラの蟲惑魔』攻撃力1800
魔法・罠
無し
「では私のターン、ドロー」
ラン
手札:4→5
「私は『トリオンの蟲惑魔』を召喚」
『トリオンの蟲惑魔』
レベル4
攻撃力1600
「『トリオンの蟲惑魔』の効果。このカードの召喚に成功した時、ホールまたは落とし穴と名の付いた通常罠カードを一枚、手札に加えられる。私はデッキから、二枚目の『落とし穴』を加えますわ」
ラン
手札:4→5
(まずいです。私のモンスタアのほとんどは、通常召喚によって力を発揮する者達ばかり。彼の者達との相性は、最悪です……)
「更に魔法カード『
『カズーラの蟲惑魔』
レベル4
攻撃力800
「バトル! 三体の蟲惑魔で、ダイレクトアタックですわ!」
ランが、そう宣言した時だった。
「なぁ!!」
「あれは!!」
あまりの光景に、ギャラリーの女子達は一斉に声を上げてしまった。
三人の愛らしい娘達。その背後、または足下から現れた、巨大なクモ、アリジゴク、ウツボカズラ。
フィールドに立っていた三人の娘達を、繋がりである触手で操りながら現れたその姿は、単純に昆虫や植物であるということを差し引いても、あまりにグロテスク、不気味で醜悪、そして恐怖。
「なるほど。あの娘達は一種の疑似餌なわけね」
「可愛い娘達を餌にしてパクリってわけね。中々に強かなモンスター達だわ」
そんな、雪乃とアキの解説をする間に、三体の巨大な虫と植物は、紫に向かっていく。
「この攻撃が通れば、私の勝ちよ!」
「通しません。永続の罠を発動『血の代償』!」
「あれは……!」
「500の命を削ることで、手札のモンスタアを召喚致します。手札から、赤の歯車を召喚」
紫
LP:4000→3500
『レッド・ガジェット』
レベル4
攻撃力1300
「しまった、ダメージステップでは、通常罠である『落とし穴』は発動できない……」
「赤の歯車の効果により、私は札束より、黄の歯車を手札に加えます」
紫
手札:3→4
「……」
(このまま攻撃し続けても、延々と『ガジェット』を通常召喚されてしまうわね……口惜しいけど……)
「私はカードを二枚セット。これでターンエンド」
「では、そちらのエンドフェイズ、永続の罠を発動。起動砦!」
「それは……!」
発動と共に、紫の前に、巨大な機械の巨人が立った。
「この罠はモンスタアとなり、私めの場に守備表示で特殊召喚されます」
『起動砦 ストロング・ホールド』
レベル4
守備力2000
ラン
LP:4000
手札:1枚
場 :モンスター
『アトラの蟲惑魔』攻撃力1800
『トリオンの蟲惑魔』攻撃力1600
『カズーラの蟲惑魔』攻撃力800
魔法・罠
セット
セット
紫
LP:3500
手札:4枚
場 :モンスター
『レッド・ガジェット』攻撃力1300
魔法・罠
セット
永続罠『血の代償』
「私めの番です。引きます」
紫
手札:4→5
「魔法を発動『異次元の指名者』。札名を一つ宣言し、相手の手札を確認し、宣言した札がある場合、その一枚を除外します。無い場合は私の手札から無造作に一枚を除外します」
「……」
「私めの宣言は、あなたが先程手に加えた、『落とし穴』」
「なら、速攻魔法『リロード』!」
「……!」
「手札を全てデッキに戻し、戻した枚数分、ドローする」
ラン
手札:0→1
「そして、『異次元の指名者』の効果を適用。さあ、この一枚は、何かしら?」
「……」
カードを睨みながら、考え、そして、決めた。
「『落とし穴』……いえ、『奈落の落とし穴』です」
「……」
宣言された後、ゆっくりと開いた、そのカードは、
『奈落の落とし穴』
「やった……! 『奈落の落とし穴』は除外していただきます」
忌々しげな顔を見せながら、ランはカードを懐にしまった。
「これで……私は起動砦を攻撃表示に変更」
『起動砦 ストロング・ホールド』
レベル4
攻撃力0
「攻撃力0を攻撃表示……?」
「黄の歯車を召喚」
『イエロー・ガジェット』
レベル4
攻撃力1200
「札束より、緑の歯車を手に加えます」
紫
手札:3→4
「500の命を削り、新たに緑の歯車を場に出します」
紫
LP:3500→3000
『グリーン・ガジェット』
レベル4
攻撃力1400
「赤の歯車を手札に」
紫
手札:3→4
「よし。ここで起動砦の効果! 緑、赤、黄の三色の歯車が揃った時、攻撃力が3000上がります」
「何ですって!?」
紫の宣言と共に、起動砦の胸にある三つのくぼみ。そこに、三色のガジェット達が飛び込み、ストロング・ホールドは起動した。
『起動砦 ストロング・ホールド』
レベル4
攻撃力0+3000
「そして、速攻魔法による限定解除! これにより、私の場の全ての機械族の攻撃力を倍にします」
「くぅ……」
『グリーン・ガジェット』
レベル4
攻撃力1400×2
『レッド・ガジェット』
レベル4
攻撃力1300×2
『イエロー・ガジェット』
レベル4
攻撃力1200×2
『起動砦 ストロング・ホールド』
レベル4
攻撃力0+3000×2
「やった! すごいよ紫!」
「この攻撃が通れば!」
「では、戦闘に入ります。起動砦で、『アトラの蟲惑魔』を攻撃致します!」
その宣言と共に、起動砦は拳を握り、『アトラの蟲惑魔』へ向かって放った。
「ラン様!!」
「ラン姉様! 頑張って下さいまし!!」
「……ふふ。このくらいで騒いで、仕様の無い人達ですわね……」
「……?」
「罠発動『聖なるバリア-ミラーフォース-』!」
「え……?」
ランが叫んだ時、起動砦の拳は何かに弾かれ、そのまま体勢を崩す。そのまま後ろへ向かって倒れ、胸のガジェット共々粉々に砕けた。
「え……?」
「続けて下さるかしら?」
「……! こ、これで私の番は終了……は!」
「残念ですが、一度宣言した言葉のキャンセルは認められませんわよ」
紫
LP:3000
手札:4枚
場 :モンスター
無し
魔法・罠
永続罠『血の代償』
ラン
LP:4000
手札:0枚
場 :モンスター
『アトラの蟲惑魔』攻撃力1800
『トリオンの蟲惑魔』攻撃力1600
『カズーラの蟲惑魔』攻撃力800
魔法・罠
無し
「紫ってば、場にカードを出し忘れてる!」
「何をしておりますの!」
「ミラーフォースを撃たれたことが、よほどショックだったようね……」
「そうね。伏せられてるにしても、てっきり『落とし穴』系のカードだと思ってたし、私も騙されたわ……」
「私のターン!」
ラン
手札:0→1
「メインフェイズ開始時、魔法カード『大熱波』を発動! これで次の私のドローフェイズまで、お互いに通常召喚、特殊召喚ができなくなるわ!」
「そ、そんな……!」
「この優勢……ああ、私の雄姿を、愛しの梓先生に見て欲しい//// その時は、私の本来のデッキを使って、相手の決闘者を華麗に倒す。そうすれば、きっと梓先生も私のことを……////」
(……残念ですが、今のあなたを見ていても、あなたの期待する思いなど宿りませんよ……)
「……では改めて、バトル! 三体の蟲惑魔で、紬紫にダイレクトアタック!」
「……!!」
先程と同じ、愛らしい娘達の背後、または足下から現れた、巨大な昆虫と、植物。クモとアリジゴク、ウツボカズラ。それらが紫に向かっていった。
守る者も、打つべき手も、全てを失った紫にできたのは、ただその光景に恐怖し、そして、終わりが来るのを待つことだけ……
紫
LP:3000→0
視点:雪乃
「約束通り、和装文化部は解体。そしてこれ以降、梓先生の名を語るのを辞めて下さいませね」
「……」
「やったー!」
「梓先生////」
「そんな……」
「梓先生……」
「うぅ……」
「……」
この光景は何だ?
皆さん、その胸に秘めた志の根本は同じはずなのに。
なのに、どうして一方は歓喜を見せながら、一方は涙を見せなければならない?
けど、こうなってしまったのは、私のせいだ。私が、当然のことと行ってきた行為が、いつの間にか、二組の女性達に、あらぬ盲信と、いらぬ対抗心を生んでしまった。
全ては私のせいだ……
ならば……
視点:外
「ふふん……」
「くぅ……」
「ずっと見ていたけど……」
ランが鼻を鳴らし、紫が項垂れているところに、そんな声が響いた。
雪乃が、この場の全員に対し、声を掛けていた。
「この決闘を見て、よく分かったわ。水瀬梓という人は、やっぱりろくでもない人なんじゃない」
『……』
『はあ!?』
アキ以外の、女子の声全てが唱和した。
「ちょっと、あず……雪乃……」
アキの静止を無視しながら、言葉を続けた。
「だってそうでしょう。こんなに大勢の女の子をたぶらかして、せっかくの二つの部をこんなふうにしてしまっておいて、本人は知らぬ存ぜぬで未だに行方不明なのよ。それを、ろくでもないと言わないで何と言うの? 女
「お黙りなさい!!」
新たな絶叫が、屋上に響き渡る。紫の声だった。
その顔は、激怒していた。そしてそれは、隣に立つランも、そして、周囲に立つアキ以外の女子全員が同じだった。
「梓先生はそんな人ではない……私達の前で、一度ならず二度までも、梓先生のことを悪く……」
「覚悟はできているわよね……?」
和装、和奏、全てのメンバーが、出入口の前に立っている雪乃とアキを囲んでいた。
「覚悟?」
恐怖に駆られているアキを尻目に、雪乃はそう微笑みながら聞き返すと、拳を握った。そしてそれを、出入口に向け、
ドカァッ!!
『!!』
出入口に巨大な亀裂が走り、破片がいくつか落ちてしまった。
「喧嘩がしたいのなら、構わないわよ」
『……』
(さすが、男の子……)
言葉を失っている者達に、雪乃は、その言葉を紡いだ。
「どんな喧嘩でも買ってあげるわ。殴り合いでも……決闘でもね」
『……!』
「な、ならば、決闘で勝負ですわ!」
「良いわよ。誰が相手になるの?」
『私が!!』
と、声を上げたのは、ランと、紫の二人。
「なら、二人と決闘をしようかしら」
「な、私達二人と?」
「ええ。どう?」
『……』
二人は互いに見つめ合い、嫌な顔を浮かばせ合った。だが、それでも最後には雪乃を見て、
「分かりました」
「良いでしょう」
不本意なようだが、同意した。
そして、先程と同じように、三人は屋上の中央へ。
今度はランと紫は並んで立ち、その向かいには、雪乃が立った。
「私達が勝ったら、梓先生への暴言、土下座して、詫びて頂きます」
「良いわよ。なら私が勝ったら、二つの部に、一つずつお願いを聞いてもらおうかしら」
「……分かったわ」
そして、三人は決闘ディスクを構えた。
「よくも、梓先生に対してあんな……」
「絶対に、土下座させるわ……」
「あの何も知らない転校生に鉄槌を……」
「梓先生をバカにした罰を……」
数多くの怒りと、
(雪乃……いえ、梓、一体なにを考えているの?)
恐怖、心配、疑問と、
(敗けるわけにはいかない。彼女達に、分かってもらうために……)
確固たる決意に包まれながら、三人は、叫んだ。
『決闘!!』
お疲れ~。
ということで、本人のあずかり知らないところで出来上がっていた、宗教とハーレムが険悪だった、というお話でした。
ちなみに、何度も言うようだが、大海はタッグフォースしたこと無いので、ぶっちゃけ各キャラをちゃんと書けてるか不安です。
雪乃はともかくとして、あとの三人はきちんと書けてますかね? 書けてたらいいな、と思うところではありますが。
まあそんなところで、次話待ってて。