遊戯王5D's ~剣纏う花~   作:大海

54 / 86
長げえぞー。
いきなり申し訳ないけど本当に長げえぞー。
それでも読んでくれる? まあ、大海には読ますことしかできない。
そんな感じで、行ってらっしゃい。



第六話 逃げては誘われ、決闘して……

視点:雪乃

 青い空……

 白い雲……

 吹き渡る風……

 早朝の、新鮮な光と澄んだ空気。街の中にいる以上、澄んでいる、と表現するのも適切なのか迷うところではあるものの、爽やかで清々しい、良き日和であることには違いない。

 今日もまた、良き一日になることを予感させるようだ。

 もっとも……

 

『雪乃さーん!! 一緒に全国を目指しましょー!!』

『雪乃さーん!! 一緒に全国を目指しましょー!!』

『雪乃さーん!! 一緒に全国を目指しましょー!!』

 

「……」

 この、決闘アカデミアの女子運動部の皆様から、逃れることができれば、の、お話しですが……

 

『雪乃さーん!!』

 

 ……なぜ、こうなったのだ? 昨日までは、ごく平和な学園生活だったというのに……

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

「雪乃」

 文化部棟の屋上で、私に声を掛けたのは、小早川ランさんです。

「なに?」

「日本舞踊は初めてだと聞いていたけれど、中々良い線を行っているようね」

「そう? ありがとう」

 今日のあされんでは、六つある課程の中から、日本舞踊を選択しました。

 なぜ屋上なのかと言うと、元和装の三つとは違い、元和奏(琴、三味線、日本舞踊)のいずれかを行う場合は、どうしても音や動きが邪魔になってしまうので、いつも集合している教室からは移動し、それぞれの場所で、それぞれの練習を行っているそうです。この文化部棟の全てが和総のものだからこそできることでしょうね。

 それで、ランさんと共に屋上まで上がり、そこで踊っている、ということです。ちなみに今日のところは、私とランさん、二人しかおりません。

「ランがお手本を見せてくれたお陰で、見よう見まねだけどどうにか踊れたわ」

 と、さすがに今回は、最初の華道の時とは違って、意識して手を抜くように心掛けたことで、褒められはすれど、絶賛されることは無くやり遂げることができました。

「紫の言った通りね」

「なにが?」

「これだけ素質があるんだもの。もし梓先生の教室に入っていれば、きっといいお友達になれたと思うわ」

「ハハハハハハ……」

 また、渇いた笑いが……まあ、実際に素人のフリをして踊っているのだからいいですが。

 ちなみにここだけのお話し、日本舞踊と聞くと、大抵は女性が扇子を手に踊る印象をお持ちでしょうが、実は男性も踊ります。むしろ、男性が行うべき演目もあるくらいで、流派によっては男性が家元を務める場もあるくらいです。

 まあ、本当にここだけのお話しですし、詳しいことは作者の怠慢のため控えさせて頂きますが。

「じゃあ、そろそろ時間だからここまでにして、道具を戻して教室へ行きましょう」

「そうね」

 その提案に従い、移動の準備を始める。まあ道具と言っても、舞う際に手に持つ扇子と、音楽を流すためのラジカセくらいしかありませんが。

 と、荷物を持って、ドアに手を掛けます……

「む……」

「どうかした? 雪乃」

「……」

 問い掛けてきたランさんに、私は手に持っていた道具を押し付けました。

「悪いけど、片付けはお願い。私は先に行かせてもらうわ」

「え? 何か急ぎの用事でも……て、どこに行くの?」

 彼女の質問も無視して、私は屋上まで持ってきておいた学生カバンのみを手に、走りました。そして……

 

「屋上から本館まで跳びよったー!!」

 

 

 ガァンッ

 

「うわぁ!!」

 おっと、上手いこと窓から、教室に着地できました。もっとも、窓際の、私の席を狙ったつもりが、その一つ後ろのアキさんの机の上に着地しましたが。

「あらアキ、おはよう」

「……」

 挨拶をしたのですが、アキさんはどういうわけか、目を皿にしております。

 で、しばらくそうした後で、

「おはようじゃなくて! ドアから入ってきなさい!! ドアから!!」

「あー……」

 入られればどこからでも同じだと思うのですが。

「ごめんなさい。あなたの可愛らしい顔が見えたから、近道して急いで来てしまったわ」

「え……!」

 そんな言葉を掛けつつ、アキさんの顔に手を当てつつ、顔を近づけます。

「……////」

 はて、なぜ赤くなるのでしょう?

 

『////』

 

 あら? 教室の人達も?

 まあいい。黙って下さったので、言葉を続けましょう。

「あまり激しいのがお好みじゃないなら、今度はもっと、優しくしてあげられるよう努力するわ」

 教室への出入りを。

「////////」

 

『////////』

 

 そしてなぜそこで更に赤く?

 ……まあ、いいか。

 すぐに自分の席に座りました。

 で、窓の外から、この教室へ、屋上からの近道を使用することになった真の理由を眺めます……

 

 

 

視点:外

 雪乃が教室に入り、自分の席に座った、正にその頃だった。

 

「雪乃さーん!」

「いるんでしょう! 出てきて下さい!」

「どうか! どうかあなたの力を我が部に!」

「我々の部へ、掛け持ちで良いですから!!」

「では、入部してとは言わないから、お話しだけでもぜひ!!」

 

『藤原雪乃さーん!!』

 

「ちょ、何ですかこれは……!」

 文化部棟周辺を囲むように集結していた、女子運動部の皆さんを前に、紫は、そう焦躁の声を上げた。

「ほら、雪乃の身体能力は知ってるでしょう? だから、未だに彼女の勧誘を諦めきれない運動部の人達がこうして集まっているのよ」

 そう、紫の問いに答えたのは、あの後、日本舞踊の片づけを一人で済ませたランである。

「て、雪乃が目当てって、これじゃ僕らまで本館へ行けないよ……」

「それで、とうの雪乃はどこへ行ったわけ?」

 ツァンと幸子も、同じように焦躁を声に出す。そしてそれにまた、ランが答える。

「雪乃なら、もう自分の教室へ入ったわ」

「しかし、それなら彼女達にも出会うのでは?」

「ええ……だから、屋上から教室までの大ジャンプでショートカットしたわ」

『えぇー!!』

 そんな答えに、メイとサクラが驚愕の声を上げたものの、今のランの答えを、女子運動部の皆さんは聞いていないようだった。

 

『雪乃さーん!!』

 

 

「……」

 そして、そんな光景を、教室の席からボンヤリと眺めていた雪乃は、ただ彼女達を見て、

(私が跳ぶところを、誰も目撃していなかったのか……)

 そう、苦笑を漏らしていた。

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

 

視点:アキ

 

 キーンコーン……

 

 お昼休みになったわ。

「雪乃、食堂へ行きましょう」

「……ごめんなさい。今日はパスするわ」

「パスって……あなたはまた……」

 て、いつもの絶食ぶりを注意しようと思ったけど、その瞬間には、なぜだか雪乃は窓に両足を掛けていた。

「ちょ、雪乃、なにやってるの? 危ないから降りなさい!」

「アキ」

 と、私や、他の生徒達も声を出してる中、雪乃は綺麗な笑顔を向けて、こう言った。

「悪いけど、彼女達のこと、適当に相手をしておいて」

「は? 彼女達?」

「そう。ちょっと激しい人達だけど、アキは強い子だから、きっと彼女達を満たしてあげられるわ」

 何の相手をさせるつもりよ?////

 と、聞き返そうかって思った時、

 

 フワッ

 

「あっ!」

 

『あっ!』

 

 雪乃は外へ背中を向けたまま、倒れ込むように窓の外へ消えていった。

「ちょっと!! ここ、三階……!!」

 叫びながら、窓の外へ急いだ、けど、

「え、いない……?」

 窓から、どの方向を見渡しても、雪乃の姿は無い。

 

「雪乃さん、すげえ……」

「格好良い……」

 

 周りは同じように窓の外を眺めながら、そんな平和なことを言ってる。

 そこまでしてお昼を食べたくないの? お小遣いが入ったから、納豆か肉まんでも奢ってあげようかと思ってたのに。

 と、思った直後だった。

 

 ドドドドドドドド……

 

「……え?」

 足音、よね? それも、かなりの数が、この教室へ近づいてきてる?

 そう思って、教室の出入口を見た時、

 

『雪乃さーん!!』

 

「なっ!?」

 あの時の、和総部の事件の時と同じように、運動部の女子生徒達が教室の前に集まった。

 そして、教室に入ってきて、一斉に私の前に……

 

『アキさん!!』

 

「はい!?」

 二、三……二十人は下らない女子達に囲まれて、名前を呼ばれて、返事をする。

「雪乃さんは、今どこへ!?」

「え……?」

 ああ、この子達の目当ては雪乃か……まあ、ちょっと考えたら分かることだけど。

「さ、さあ……昼休みになったのと同時に、出ていっちゃったから……」

 そこの窓から……

「どこへ行かれたの!?」

「さあ……聞く暇もないくらい、急いでいたようだけど……」

「く、逃げられましたか……」

 と、何とかごまかせたみたい。

「では……アキさん!!」

「はいぃ!?」

 また勢いよく呼ばれて、返事を返す。ていうか、終わったんじゃないの?

「雪乃さんを振り向かせるにはどうすれば!?」

「はぁ?」

 聞き返したけど、そのすぐ後で矢継ぎ早に質問が飛んできた。

 

「アキさんは、雪乃さんのお友達でしょう?」

「彼女の趣味嗜好を知っているのは、アキさんだけよ!」

「お願い! 彼女がどうすれば堕ちてくれるか教えて!」

 

 え……いや、そんなこと……

 

「好きな物は? 趣味は? 何をしてあげたら喜んでくれる? どうして運動部を拒むの? 和総部なんて文化部に入った理由は?」

「どうしてあんな動きができるの? どうしてあんなに強いの? 一体どんな訓練をしてきたの? 何が彼女をそこまで強くしたの?」

「ねえ足りてる? 情熱は? 思想は? 理念は? 頭脳は? 気品は? 優雅さは? 勤勉さは? そして何よりも~……」

 

「……」

 

 た……す……け……て……

 

 ゆうせい……

 

 ……

 …………

 ………………

 

 キーンコーン……

 

 昼休みが、終わったわ……

 

 スタッ

 

「あらアキ。さすがのあなたも、彼女達の激しさに果てちゃったみたいね」

「……」

 また窓から私の机の上に下りてきたこととか、また言い方がエロいこととか、言いたいことはたくさんあるけど……

「……」

 答える気も、擦り切れたわ……せめて、授業が始まるまでは、このまま机につっぷさせて……

「あらあら……」

 

 ……

 …………

 ………………

 

 キーンコーン……

 

 授業が終わって放課後になって、みんなが帰り支度を始めた。

「私はこのまま和総部へ行くけど、アキは?」

「このまま帰るわよ」

「何なら、外まで送ってあげようかしら?」

「……」

 普通なら、断るべきことなんだろうけど、お昼休みのアレを経験して、放課後もああなる可能性に追い詰められた私にとって、それはすごく、魅力的なお誘いだった。

「ええ、お願い。あんな目にはもう、遭いたくないわ……」

「ふふ、任せて。私に全てを委ねて、楽になさい」

「……////」

 言われながら、雪乃は私を抱え上げて……て、この体制、お姫様抱っこじゃない。

 どうせなら雪乃よりも遊星がよかった……

 なんてことを考えてるうちに、雪乃はもう、窓に足を掛けて、そして……

 

『あっ!』

 

「うぅわあぁあ!!」

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

 

視点:外

「とまあ、これが今の、雪乃のアカデミア生活よ」

 

『……』

 

 疲れ果てた様子のアキの話しに、遊星ら三人と、龍亞と龍可の双子は、五者五様の、何とも言えない表情を浮かべていた。

「……普通なら、冗談だって笑うとこなんだろうけど……」

「ああ。雪乃なら、大いにあり得ると納得してしまう……」

「相変わらず、加減を知らん女……いや、男か……」

「雪乃さん、強いもんね……」

「素敵、雪乃さん……////」

 四人は基本的に呆れの感情を示しつつ、信じ切れていない表情を。そして龍可は一人だけ、そんな雪乃の所業を称えていた。

「……そんなにおかしいですか? 今の私の生活ぶりは……」

 

『おかしすぎるわ!!』

 

 雪乃の何気ない質問に、龍可以外の叫びが唱和する。だが雪乃は、首を傾げるだけだった。

「……まあ、いずれにせよ……」

 だが雪乃の場合、今重要なのは生活ぶりがどうかではなく、

「和総部に入部すれば、彼女達も諦めてくれるかと思っておりましたが、どうやら甘かったようです。このままでは、アキさんや、和総部の皆さんにまでご迷惑が……」

 

『……』

 

 部活動、それも、運動部への勧誘。

 スポーツに身を捧げる者達にとって、雪乃という人物の強さがどれだけ貴重な宝か。学校を知らない遊星ら三人にも理解はできた。

「なにか、彼女達を納得して諦めさせる方法はないか?」

「考えてはおりますが、私も、彼女達が何を望んでいるのかも分からない以上、対策など講じられる余地もなく……」

『……』

 分かっていたとは言え、雪乃のそんな答えに対して、彼らはまた沈黙を余儀なくされる。

「……まあ、何とかして考えていくしかないわよ。ずっと逃げてるわけにはいかないし、どうにかして対策を考えなさい」

「……分かりました」

 アキからの言葉で、どうやら話は纏まったようだ。

 

「ところで、雪乃?」

 と、纏まったところで、アキは突然、雪乃を呼ぶ。

「何ですか?」

「その、聞きたいんだけど……雪乃って、どうしてそういう喋り方なわけ?」

「喋り方?」

 雪乃の普段の言動を間近で見ることのない、アキ以外の五人の顔は疑問に染まる。

 そして雪乃自身も、分かっていないようだから、アキは説明するしかない。

「だから、その……すごく、大人っぽい、と、言うか……色っぽい、と、いうか……」

「そうなのですか?」

 と、やや赤くなるアキを尻目に、雪乃はカバンを手に取る。

「私はただ、女性を演じる必要があると分かったので、女性の話し方が載っているこの本に従っただけですが」

「へぇー、そんな本があるのかよ」

 クロウがそう声を出して問い掛ける。

「ええ。女性の会話術と書いてあるので、買って参考にしてみたのですが」

「なんて本なんだ?」

「えっと……」

 聞かれたので、雪乃はカバンから本を取り出し、表紙を見て、タイトルに目を通した。

「『欲求不満な人妻達へ。この会話術で男を堕とせ! あなたに熱い夜を約束する、女のセッ……』」

 

『うわあああああああああああああああああああ!!』

 

 双子を除いた四人が、全てを読み終える前の雪乃に迫り、言葉を遮った。

「え? みんなどうかしたの?」

「何でもない!」

 と、何が起きたかを理解していない龍亞と龍可を横目に見やりながら、彼らは声を潜め、雪乃に言葉を掛ける。

(お前! なんて本読んでんだよ!!)

(『欲求不満な……』)

(ああ、言うな! 聞きたくない!)

(口調が嫌にエロいと思ったら……あなたねえ、それに書かれてることの意味が分かってるの!?)

(さあ……)

(さあって……)

(人妻というのは、要するに奥さんのことでしょう? それの会話術というから、女性の会話術ではないのですか?)

(いや、それは間違ってないけどな……)

(……そう言えば、私が教室を開いていた時、時々指導が終わった後の生徒の女性から、ここに書かれているような言葉を掛けられてお誘いを受けたことがありましたね。まあ、意味が分かりませんでしたし、予定が立て込んでいましたから、全て断ってきましたが)

(『長時間労働万歳……』)

(じゃなくて、そんな本に書かれた言葉は今すぐやめなさい!)

(そうだ! そんな本で覚えた言葉なんかろくなこと無えぞ!)

(変な誤解を受けてからでは遅いからな。とにかくやめろ)

(ああ、俺もそう思う。その本、やめた方がいい)

 と、また四人から詰め寄られる。

(いや……やめるも何も、既に読破して内容も全て把握してしまいましたし、今日までずっとこの本に従ってきましたし、それを無理して変えるのは少々……)

 と、困りながら、質問に返した。

(……)

(……?)

 それに対して残ったのは、何も知らない双子と、分かっていない雪乃に対する、冷たい沈黙だった。

 

 ……

 …………

 ………………

 

 そんな、慌ただしい一日がまた終わり、夜が更け、そこから夜が明ければまた朝が来る。

 元々、仕事の都合で、早起きか徹夜を強いられていた雪乃は、一般的な日本人学生から見ればかなり早い時間に目を覚まし、階段を下りていた。

「おや?」

 階段を下りてドアを開け、ガレージに出ると、そこには遊星が、パソコンに向かって作業に没頭していた。

「む?」

 遊星も、雪乃の声に気付いたらしく、お互いに目が合う。

「おはよう、雪乃。今日も早いな」

「そういう遊星さんは、また徹夜ですか……?」

 雪乃自身、慣れた光景ではある。だが、いつまでも許容できる光景でもない。

「私も人のことは言えませんが、睡眠は取った方が賢明かと思われます」

「ああ。そうかもしれないな……」

「……」

 雪乃自身、睡眠時間を仕事や作業に割り当てることでのメリット、そして、デメリットは重々承知している。そして遊星が、そのデメリットを苦にするタイプではなく、むしろかつての雪乃がそうだったように、当然として受け入れるタイプの人間であることも、よく分かる。本人にとって言えば、今やっていることには睡眠時間を削るだけの価値があり、むしろ何もできなくなる睡眠という行為にこそ、害悪を感じてしまう。

 だがそれも、自分自身の身だから言えること。友人知人、家族がそう言った立場なら、見る方からすれば、心配事以上の何物でもない。

(大谷さんの気持ちが、今ならよく分かりますね……)

 仕事を大量に抱えていた身だったとは言え、それをこなすために、世間一般で必要とされていた睡眠時間をそれに割り当て、こなしていく。

 雪乃はそれで体を壊すほどヤワではなかったし、遊星もそうなのだろう。

 だがそれでも、それが続けば体は徐々にヤワになっていき、やがてガタガタになった挙句に壊れてしまう。そして、本人はそうなるまで気付くことは無い。

(まあそれでも、かつてはサテライトで、差別や暴力の極みにいた私達が、睡眠時間を削るだけの価値があるものに巡り合えた。それも、ある意味で言えば、幸福なのかもしれませんが……)

 

「すぐに朝食を用意致します」

「ああ。いつも済まない」

「いえ……」

 最後にそうやり取りを行って、雪乃はいつものように、台所へと向かった。

 

 

「さてと、今日もあされんですか」

 遊星と共に朝食を済ませ、まだ起きてこないジャックとクロウの分も用意して、雪乃はアカデミアへ向かう。今日まで紡いできた、新たな日常の一風景。

(ただ、正直、このあされん、というものは必要なのでしょうか……)

 朝も放課後も、やることはほとんど変わらない。練習量がそのまま結果へと結びつく運動部なら、雪乃にも経験はあるため朝に練習することも分かるが、芸術を生み出すためのこれらを、全くの素人ならともかく、ある程度の技量を身に着けてしまった者達に必要なのか、(はなは)だ疑問に感じていた。

 やることが練習以上に、ほとんど雑談であるなら特に。

(まあ、彼女達を育てたのは私ですし、その私も、習い事を覚えるのに、寝る間を惜しんで練習はしておりましたが……)

 雪乃と彼女達では、求められた技量と技術に明らかな違いがある。

 学生の趣味としてのそれか、教えるためのプロとしてのそれか、という違いだ。

(決闘者を育成するための学校で、そんなものを必要とする人がいるのでしょうか……まあいずれにせよ、図らずとは言え、あの部の発端となってしまった、水瀬梓が言えた義理ではない、か……)

 

 

 

視点:雪乃

 アカデミアへの校門が、目の前に見えてくる距離まで来た時でした。

 

「来た!!」

 

「ん?」

 いきなりの声に、そちらを見ると、そこには、

「あれは確か……バスケ部の皆さんか……」

 彼女達からも、何度も勧誘を受けている。

 彼女達だけではなく、大勢の女子運動部から、とりわけ教室の近い、同じ学年の女子達からは、もれなく声を掛けられたため、既に顔も名前も憶えてしまっている。

 というより、そもそもユニフォーム姿では間違えようがない。

 

「雪乃さーん! ぜひバスケ部へー!」

 

 などと、考えている間に、彼女達は私に走って近づいてきた。

 なので……

 

 フッ

 

『はっ!?』

 彼女達と向き合う前に上へ跳び、約十人程の団体を、縦に回転しつつ跳び越える。

「見えた!」

 

 スタッ

 

「悪いけど、何度も言うように、私は和総文化部の部員だから、勧誘は諦めてちょうだい」

 そう言って、文化部棟へ向かって走り出した。

 が……

 

「雪乃さん!」

 

「む?」

 走っている左右に、私を挟む形で女子生徒が二人。走るのに適した、露出が高く軽い生地の服。陸上部、それも徒競走の皆さん。

「お願いです。陸上部へ入って下さい」

「……」

 無論のこと、既に何度も断っている。それに何より、

「速さが足りない」

 そう言いつつ、足を早める。

 

「なぁ!」

「く! 追いつけない……」

 

 もはや本気を出すまでもない。

 と、思っていると、

「今度はサッカー部……人数は、十五人ですか……」

 正面に立つ人達が、一度に私の方へ走ってきた。

 

『雪乃さーん! サッカー部へー!』

 

 無論、捕まることは無い。

 彼女らの間を縫うように、最小限の動きで、走り抜くだけです。

「な、何と言う身のこなしとフットワーク!」

「すごい……シュートだけではなかった。これでボールを持っていたら、絶対に捕まらないわ……!」

 最後の一人も抜いて……

 

『雪乃さーん!!』

 

「なぁっ!」

 サッカー部を抜けたと思ったら、今度はバレー部の皆さんが正面から、左方向からは水泳部の皆さんが。

「だからここで水着はやめなさい……!」

 文化部棟は既に目の前。

 しかし、最短ルートである正面は、多人数に妨げられている。あれだけ列を成されていては、先程のバスケ部のように跳び越えることは不可能。

 ならば……

「ふんっ!」

 声を上げながら、塀の上へ跳び移って上る。

 

「塀の上へひとっ跳び!?」

「何と言う脚力! 何と言うジャンプ力!!」

 

 ここから文化部棟の裏へ回り込めば……

「はっ!」

 と、走っていると、その塀の上の正面には、剣道部の主将の方が……

「雪乃さん、ぜひ、お話しを……」

「く……!」

 後ろへ振り向いて、戻ろうとしましたが、

「な!」

「雪乃さん! ぜひ……」

 柔道部の主将さん。

「うぅ……」

 こうなったら、塀は諦めて降りるしかない。けど……

「なぁ!?」

「雪乃さん! 逃げてばっかじゃなくて、一度お話ししてよ!」

 下には空手部の人。

 おまけに逆――塀の外側、学校の外には、既に大勢の人達が待機している。

 跳び越えるのは……無理か。そもそも、学校の外へ行ってしまっては元も子も無い。

 と言いつつ、文化部棟へはまだ距離がある。ここから文化部棟の壁へは飛べない。

 そして、その文化部棟の前には既に大勢の女子生徒達。

 彼女達を踏みつけるわけにはいかないし……

 

「雪乃さん!」

「雪乃さん!」

「雪乃さん!」

 

「ぬぅ……」

 と、塀の上と下からは、じりじりと距離を詰められている。

 まあ、別に捕まっても何かされるわけでもないでしょうが……

 

『雪乃さん!』

 

 ……なぜだ、彼女達の目から、何やら危険なものを感じるのは……

「ならばっ……!」

 文化部棟の前に立つ、一本の木。既に逃げ道は、あれしか無い。

「ふんっ!」

 

 バサァ……

 

 木の枝へ着地したことで、木が揺れます。

 そこから下を見下ろしてみましたが……

 

「雪乃さん!」

「雪乃さん!」

「雪乃さん!」

 

『雪乃さん!!』

 

「……」

 木の下には、運動部の皆さんが隙間なく地面を埋めていて、間を走ることは不可能。

 ここから飛び移れる場所は、少なくとも彼女達を飛び越えられる範囲にはない。助走を付けられるならともかく、木の上ではそれも不可能。

 だからと言って、先程言った通り、彼女達を踏みつけるわけにも行きませんし……

 

「万事休す……」

 一本の木の上から、上を見上げる。

 青い空……

 白い雲……

 吹き渡る風……

 早朝の、新鮮な光と澄んだ空気。

 それらを感じながら、少し視線を下へ下げると、

 

『雪乃さーん!! 一緒に全国を目指しましょー!!』

『雪乃さーん!! 一緒に全国を目指しましょー!!』

『雪乃さーん!! 一緒に全国を目指しましょー!!』

 

「……」

 ひょっとして、女子運動部の皆さん全員が集結しているのだろうか……

「うぅ……」

 

「雪乃さん!」

 

「はい!」

 と、つい素の口調で返事をしてしまった。

 けど、特に気にしたふうはないらしい。

 

「逃げてばかりいないで、私達の言葉にも耳を傾けて下さい!」

 

 木の上にいるこちらを見上げながら、そう真剣な目で訴えかけている。見ると、他の部員達もそうだ。

「私はいつだって誰の話しも聞いているわ。逃げているのは、逃げざるを得ないから。あなた達、私が何度断ってもしつこく勧誘してくるから、こうして逃げるしか無いんじゃないの」

 

「私達も、正直こんな強引な手段は用いたくはない。けど、君に話しを聞いてもらうにはこうする以外に思いつかなかった。私達は、君のその超人的な身体能力を必要としてる。それだけの力は、運動部で発揮してこそ価値がある。そうは思わない?」

 

 超人的って……まあ、否定はできない、のか?

 まあそれはともかく、そりゃあ私とて、できることなら助けを求める彼女達の、力になってあげたい気持ちはある。

 ですが、それができない絶望的なまでの事情がある。

 そして、和総部にいる今の状況も、それをごまかすための苦肉の策でしかない。

「残念だけど、私はスポーツには興味が無いの。たまたまこう言った動きができるというだけ。それを活かすなんてこと考えたこともないし、増して、強いられるのは御免だわ。私はただ、和総部で和の心を学びながら、静かに暮らしたいだけなの」

 まあ、和の心など、正直この学校の誰よりも触れ、学んできた自負がありますが。

 もっとも、こんな若輩者の分際で、和の全てを極めた気になるのはおこがましいでしょうが……

 

「そんなの! もったいなさすぎですわ! せっかくの持って生まれた才能を、私達から逃げることにしか使わないなどと! 少なくとも運動部に入れば、その才能を活かして、同時にどこまでも伸ばして、どこまでも高みに上ることができる! 高らかな名声を得ることができますわ!」

 

「興味が無いわね。そんなものに価値があるとは思えない」

 名声なら、梓であった頃に、嫌というほど得ました。そして、それが何の価値も無い、むしろ、やりたいと願ったことの妨げにしかならないということも、身を持って知っている。

 

「でも少なくとも、既に過去に人である、えっと……名前は忘れたけど、たかが大きな家の跡取りで、教室の先生だというだけの男の娘に熱を上げるだけの部にいるよりは、よっぽど価値があると思うよ!」

 

「ハハハハハハ……」

 まあ、教室の一先生でしかない子供一人の知名度などそんなものですよね。

 ここで寂しさを覚えるのは、おそらく間違いなのでしょうよ……

 うぅ……

 

「あんな、いつまでも過去の人に依存して執着して、その人の名前を声高に叫んでは崇拝している、そんな気持ちの悪いオタク連中と一緒にいるより、私達と共に汗を流し、力を研さんし合い、成長し合う、そんな青春を一緒に過ごしましょう!」

 

「そうだ!」

「そうです!」

「そうですわ!」

 

「……」

 

 

 

視点:外

 

 スタッ

 

「雪乃さん!」

「分かってくれました、か……」

 木の上から降りてきた雪乃に言葉を掛けて、そのまま、雪乃の顔を見た女子達は、体を硬直させた。

「……今、何て言った?」

「へ……?」

 その声色には、明らかに直前までには無かった感情が宿っている。決して、対面する人間には抱かせるべきではない、負の感情――怒りが。

「紫や、ラン達和総部のみんなのこと、何て言った……?」

「そ、それは……」

 答えられない女子の代わりに、雪乃は、先程の女子と同じ口の動きを取る。

「気持ちの悪いオタク達……そう言ったわね?」

 女子口調である分、雪乃はまだ冷静と言える。だが、それでも怒らせてしまったことには違いない。

「私のことは何を言われても構わない。けど……仲間である和総部のみんなの悪口は、絶対に許さないわよ……」

 そんな、いつもの雪乃とは似ても似つかない怒りの表情と、オクターブがだいぶ下がった声に、誰もが言葉を失い、恐怖に駆られる。

「……正直な話し、どうすればみんなが私のことを諦めてくれるか、ずっと悩んでいたのだけど……話し合いじゃ、それこそ話しにならないということがよく分かったわ」

 雪乃は一歩下がり、さっきまで上にいた木と、平行に立つ。そして、

 

 ドカァッッ!!

 

『……!!』

 

 それなりの太さを持つ木の幹に拳を叩きつけ、轟音を響かせる。それは、目の前の運動部女子達に、新たな恐怖を宿すには十分過ぎた。

「どの道、毎日昨日や今みたいに迷惑を掛けることになるなら、これ以上和総部にはいられない。辞めるしかないでしょうね」

 

「でしたら……!」

 

「けど、だからと言って黙ってあなた達のものになる気も無い。そこまで私が欲しいなら、力づくで私を奪ってみなさいよ。もっとも……」

 木の幹に食い込んだ拳を、彼女らに向けながら、新たに言葉を発した。

「この場にいる全員、血祭りにあげるのに、一分と掛からないけどね……」

 

『……っっ!!』

 

 また、彼女達が怯みを見せる。

 雪乃の姿に。

 雪乃の殴った木に走る亀裂に。

 その亀裂が広がったところで、

 

 グラ……

 

 傾いた木に。

 

 ス……

 

 それを、こちらを見たまま、片手で普通に押し戻して、元の形に戻す雪乃の姿に。

 

「……気分を害したのなら、謝ります」

 雪乃に脅えながらも、誰かがそう言った。

「ですが、私達が、あなたのことを欲する気持ちが本気だと言うことも、分かって下さい」

「……」

 雪乃は、答えない。

 

 グラ……

 ス……

 

 ただ、木が傾いては元に戻す。それを繰り返しながら、彼女達を見据えていた。

「そして、あなたを力づくで引っ張り出すことができるとも思わない。だから、別の手段の、力づくを実行します」

「別の手段?」

 

 グラ……

 ス……

 

「決闘です」

 当たり前のように、彼女は言った。

「ここは決闘アカデミア。全ての物事は決闘で決まる。そして、あなたも決闘での決まり事なら、従って下さいますよね」

「……確かに、それは私でも従わざるを得ないわね」

 

 グラ……

 ス……

 

「私と、決闘して下さい! そして、私が勝ったら、我が部へ入って下さい!」

 誰かがそう言って、

 

『……』

 彼女ら全員が、同じ目になった。

 

「……」

 

 グラ……

 ス……

 

 もちろん、雪乃としては、そんな提案を受け入れる必要は無い。雪乃にとっては何のメリットも無い、勝てば終了、敗ければ入部という、ハイリスクノーリターンの茶番劇でしかない。

 おまけに相手は、一人だけではない。一度初めてしまえば、おそらくここにいる全員――軽く見積もっても百名以上を相手にせねば、誰も納得などすまい。

 雪乃にとっては、受ける必要のない、断る正当性が十分すぎるほどある悪条件の決闘。

 だがそれは、

 

 グラ……

 ス……

 

「いいわよ」

 あくまで、雪乃という人物にとって、ということでしかない。

 雪乃にとり、雪乃という人物にとって、と、雪乃という決闘者にとって、とでは、その意味合いは百八十度変わる。

「その決闘、受けるわ」

 メリットデメリット、利益不利益、リスクリターン、そんなものがあろうが無かろうが、挑まれた決闘から逃げるという発想を雪乃は……否、梓は有してはいなかった。

「相手になってあげる」

 

『……』

 

 雪乃が返事をしながら、決闘ディスクを取り出し、女子運動部員達も、同じくディスクを取り出した。

 その時だった。

 

「ちょっと待ったー!」

 

 その声に、全員が振り返る。そこにいたのは、

 

「お話しは聞かせて頂きました。その決闘、私達も参加させて頂きます」

 

「ラン、紫。それに、みんなも……」

 

 グラ……

 ス……

 

 叫んだラン。挑戦を表明した紫。

 ツァン、幸子、メイ、サクラ、そして、おそらくは全ての和総部員が、彼女達の前に集結していた。

「雪乃は決闘も腕っぷしも大概だけど、さすがにこの人数を一人じゃ無理でしょうしね」

「お手伝い致しますわ!」

「みんなで決闘すれば、怖くない!」

「ま、まあ、君には二つの部を一つにしてもらった借りがあるし、借りは返さないとね……別に、助けてあげようって、わけじゃあ、ないよ……」

 そう、それぞれの言葉を掛けながら、決闘ディスクを展開する。

 

 だがそんな和総部の者達の申し出を、雪乃は、

「不要よ」

 そう、一言で切り捨てる。驚きの反応を見せた和総部に、更に言葉を続けた。

「話しを聞いていたなら、分かってるでしょう。私は今日で、和総部を辞めさせてもらうわ。だから、これは私個人の問題であって、あなた達には一切の関わりは無い。構わないから、すぐに戻って、あされんの続きをしなさいな」

 

 グラ……

 ス……

 

 少々冷淡な口調を作りながら、協力の拒否を示す。

 関係の無い彼女達に迷惑は掛けられない。そして同時に、

(図らずとは言え、これで和総部を辞められる……)

 と、密かに常々抱いていた願望の達成に満たされていた。

 運動部からの勧誘をどうにか無くし、同時に和総部も辞めることで、自らの正体が判明する危険を最小限に抑える。遺恨が残らぬようもう少し時間を置いてから、適当な理由をつけて辞める気でいたが、そうでなくとも今の状態なら、辞める理由としては十分だろう。

 そのためなら、

(決闘での百人組手など、安い代償だ……)

 普通なら考えられない、圧倒的に高額な代償でも、雪乃にとっては、安い代償だった。

 

「あら」

 

 だが、そう自身の願望の実現と、これから始まる百人組手に闘志を燃やしていた時、再びランの声が聞こえた。

 

「和総部を退部すると言うのなら敢えて止めはしないけど、退部するには退部届を提出し、正式に受理してもらわなければ、辞めることはできないわよ」

 

「た、鯛……ぶ、トド、け?」

 

 グラ……

 ス……

 

 雪乃にとっては初めて聞く言葉を、ランは当然知っている物として、言葉を連ねる。

 

「つまり、今のあなたはまだ和総文化部の一員、私達の仲間です。仲間が困っているのなら、助けるのは当然のこと。まして、和総部の創設者ということであればなお更ね」

 

「創設者?」

 

 グラ……

 ス……

 

 創設者、という言葉に、雪乃の脳裏に、かつてないほどの混乱が発生する。

(え……ちょっと待って? まさか、ばれたのか? 私の正体が……いつばれた? 私があなた方を育てた水瀬梓だと、どこからその情報が洩れて……)

 

「そう。和装と和奏、二つを一つにして和総部に変えたのは、あなたでしょう?」

 

「あー……」

 と、雪乃が一瞬のうちに抱いた疑念は解消された。

 そして、理由はどうあれ、どうやら彼女達は自分を庇ってくれているらしい。

 それはどうにか理解できた。

 

「というわけで、一人一決闘、勝利の総数の多い方が勝利です」

 

 そう紫が宣言し、そして、その後ろにいた全員が構えた。

 

「私の相手は誰かしら?」

「僕の紫炎の錆になりたい人、募集中だよー!」

「さあ! どこからでも掛かって来なさいな!」

「み、みんなと一緒なら……仲間と一緒なら、怖くない! 決闘です!」

 

「……」

 雪乃が何も言えないうちに、既に和総部の何人かは相手を捕まえて、決闘を開始していた。

「……」

 

 グラ……

 ス……

 ズゥンッ!

 

『……っ!』

 

 始まった決闘を見ながら、固まっていた運動部女子が、その音で、再び雪乃の方を見る。

 先程から鬱陶しく傾く木が、これ以上倒れないよう反対側へ押し出し、割れ目同士を食い込ませ、倒れないよう固定した音だった。

「まったく……何がどうしてこうなるのかよく分からないけど、どの道、騒ぎの当事者の私が、頑張らないわけにはいかないわよね」

 微笑みながら、目の前の女子達を見やる。そして、

「あなた」

 

「はっ……」

 

「あなた」

 

「え?」

 

「あなた」

 

「ふぁ……!」

 

 先程雪乃を囲んだ、剣道、柔道、空手、それぞれの道着を着た女子、三人の主将を指さす。

「一度に三人までなら、お相手できるわ」

 

「さ、三人……?」

 

「ええ。バトルロイヤルルールでやりましょう」

 そう言って、決闘ディスクを構える。

「ほら、みんなもう始めてるんだから、早くシた方がいいわよ。もっとも、怖いのなら、無理強いはしないけれど……」

 

『……////』

 

 雪乃の、いつも見せる艶やかな仕草に高揚しつつも、三人は、促されるままに構えた。

 

『決闘!!』

 

 

雪乃

LP:4000

手札:5枚

場 :無し

 

女子剣道部主将

LP:4000

手札:5枚

場 :無し

 

女子柔道部主将

LP:4000

手札:5枚

場 :無し

 

女子空手部主将

LP:4000

手札:5枚

場 :無し

 

 

「先行は私が貰うわ。ドロー」

 

雪乃

手札:5→6

 

「魔法カード『融合』。手札の『E・HERO ボルテック』と、水属性のオーシャンを融合。いらっしゃい、氷結の英雄『E・HERO アブソルートZero』!」

 

『E・HERO アブソルートZero』融合

 レベル8

 攻撃力2500

 

「いきなり融合召喚!」

「……なんて、美しいヒーロー……」

「これが、噂に聞いた、雪乃さんのエース……」

 

「一枚伏せて、ターンエンド」

 

 

雪乃

LP:4000

手札:2枚

場 :モンスター

   『E・HERO アブソルートZero』攻撃力2500

   魔法・罠

    セット

 

 

「さあ、次は?」

「え……? あ、じゃあ、私のターン!」

 Zeroの美しさに魅せられていた剣道部の主将が、慌ててカードをドローする

 

女子剣道部主将

手札:5→6

 

「えっと……私は、『切り込み隊長』を召喚!」

 

『切り込み隊長』

 レベル3

 攻撃力1200

 

「『切り込み隊長』の召喚に成功したことで、手札から更に『切り込み隊長』を特殊召喚!」

 

『切り込み隊長』

 レベル3

 攻撃力1200

 

「『切り込み隊長』が場に存在する限り、相手は『切り込み隊長』を除く戦士族モンスターを攻撃できない。そして場には、戦士族である『切り込み隊長』が二体」

「これが『切り込みロック』ね……」

「バトルロイヤルルールにより、攻撃はできません。私はこれで、ターンエンド」

 

 

女子剣道部主将

LP:4000

手札:4枚

場 :モンスター

   『切り込み隊長』攻撃力1200

   『切り込み隊長』攻撃力1200

   魔法・罠

    無し

 

 

(これで、戦闘で攻めるのが難しくなった……)

 

「つ、次は私のターン!」

 

女子柔道部主将

手札:5→6

 

「……モンスターをセット。これでターンエンド」

 

 

女子剣道部主将

LP:4000

手札:5枚

場 :モンスター

    セット

   魔法・罠

    無し

 

 

(裏守備モンスターが一体……誘っている、と、考えるべきか……)

 

「最後は私か。ドロー」

 

女子空手部主将

手札:5→6

 

「相手フィールドにのみモンスターが存在する時、手札の『バイス・ドラゴン』を、攻撃力を半分にすることで特殊召喚できる」

 

『バイス・ドラゴン』

 レベル5

 攻撃力2000/2

 

「更にチューナーモンスター『ドレッド・ドラゴン』を召喚」

 

『ドレッド・ドラゴン』チューナー

 レベル2

 攻撃力1100

 

「チューナーモンスター……」

「レベル5の『バイス・ドラゴン』に、レベル2の『ドレッド・ドラゴン』をチューニング!」

「王者の叫びがこだまする。勝利の鉄槌よ、大地を砕けぃ! シンクロ召喚! 羽ばたけ、『エクスプロード・ウィング・ドラゴン』!」

 

『エクスプロード・ウィング・ドラゴン』シンクロ

 レベル7

 攻撃力2400

 

(いきなりシンクロ召喚……いや、それより……)

「ジャック・アトラスのファン?」

「うん。これでターンエンド」

 

 

女子空手部主将

LP:4000

手札:4枚

場 :モンスター

   『エクスプロード・ウィング・ドラゴン』攻撃力2400

   魔法・罠

    無し

 

 

「じゃあ、私のターン」

 

雪乃

手札:2→3

 

「このターンからバトルが可能になる。まずは魔法カード『アドバンスドロー』を発動。フィールドのレベル8以上のモンスター一体をリリースすることで、カードを二枚ドローできる。この効果で、Zeroをリリースするわ」

『え……!』

 三人が驚く間に、Zeroが光と消えた。

「そして、カードを二枚ドロー」

 

雪乃

手札:2→4

 

「そのためだけに、わざわざアブソルートZeroをリリースしたのですか……?」

「まさか。あなた達のフィールドを、よく見てみなさい」

「え……? な!」

「うそ!」

「げえ!」

 言われて初めて気付いた。彼女達三人のフィールドに、猛烈な吹雪が巻き起こり、彼女らのフィールドに存在するモンスター全てを氷漬けにしていく。

「Zeroがフィールドを離れた時、相手フィールド上のモンスター全てを破壊する」

『そんな!』

氷結時代(アイス・エイジ)!」

 雪乃が効果名を叫び、同時に全てのモンスターが凍り付き、砕け散る。その中には、裏から表に変わり、姿を現したモンスターもいた。

「『伝説の柔術家』……守備表示のそのカードと戦闘したモンスターは、バトル終了時にデッキの一番上に戻される。危ない所だったわ」

「うぅ……」

 吹雪と氷に包まれ、破壊されたモンスター。そして、空になってしまったフィールドを見やりながら、雪乃は言った。

「……どうやらあなた達、それぞれの部の活動に精力的過ぎて、決闘の方は疎か気味ね」

『う……』

 ギクリ、という実際には聞こえない擬音を、あからさまに発しながら、三人は固まる。

「他の運動部もそうなら、どの道、決闘第一な私とは相容れないようね。その証拠に、このターンで三人とも葬ってあげるわ」

「な!」

「え?」

「マジ?」

「マジよ。魔法カード『融合回収(フュージョン・リカバリー)』。墓地に眠る『融合』と、融合素材として使用したモンスター、ボルテックを手札に加える」

 

雪乃

手札:3→5

 

「再び『融合』を発動。手札の『E・HERO ボルテック』と、闇属性モンスター『シンクロ・フュージョニスト』を融合。現れなさい、『E・HERO エスクリダオ』!」

 

『E・HERO エスクリダオ』融合

 レベル8

 攻撃力2500

 

「影のヒーロー……!」

「このカードの攻撃力は、墓地に眠るE・HEROの数×100ポイントアップするわ。墓地のE・HEROは二体。よって200ポイントアップ。陰力聖集(ダークコンセントレイション)

 

『E・HERO エスクリダオ』

 攻撃力2500+100×2

 

「そして、チューナーモンスター『ジャンク・シンクロン』召喚」

 

『ジャンク・シンクロン』チューナー

 レベル3

 攻撃力1300

 

「このカードの召喚に成功したことで、墓地からレベル2の『シンクロ・フュージョニスト』を特殊召喚するわ」

 

『シンクロ・フュージョニスト』チューナー

 レベル2

 守備力600

 

「レベル2の『シンクロ・フュージョニスト』に、レベル3の『ジャンク・シンクロン』をチューニング」

「棄なる魂集結せし時、闇夜に閃く闘志へ変わる」

「シンクロ召喚! 廃麗(はいれい)の勇士、『ジャンク・ウォリアー』!」

 

『ジャンク・ウォリアー』シンクロ

 レベル5

 攻撃力2300

 

「ここで、『シンクロ・フュージョニスト』の効果。このカードがシンクロ素材として墓地へ送られた時、デッキから『融合』、または『フュージョン』と名の付くカードを手札に加える。私はこの効果で、デッキから『ミラクル・フュージョン』を手札に加えるわ」

 

雪乃

手札:1→2

 

「そして、『ミラクル・フュージョン』を発動! 私の墓地またはフィールドに存在するモンスターを除外して、E・HEROの融合召喚を行うわ。私は墓地のオーシャンと、光属性、ボルテックを除外。現れなさい、『E・HERO THE シャイニング』!」

 

『E・HERO THE シャイニング』融合

 レベル8

 攻撃力2600

 

「うわ、眩しい……」

「光の、E・HERO……」

「THE シャイニングの攻撃力は、ゲームから除外されているE・HEROの数×300ポイントアップするわ。ゲームから除外されたE・HEROは二体。よって攻撃力は600ポイントアップよ」

 

『E・HERO THE シャイニング』

 攻撃力2600+300×2

 

「もっとも、墓地のカードが減ったことで、エスクリダオの攻撃力も下がるのだけど」

 

『E・HERO エスクリダオ』

 攻撃力2500

 

「さあ、バトルよ」

『……!!』

「まずは、剣道部のあなた、THE シャイニングとエスクリダオ、二体でダイレクトアタック」

「あ、あぁ……」

 白と黒、光と影、二体の攻撃が、同時に彼女を襲った。

光風白雨(オプティカル・ストーム)影縁なる拡散(ダーク・ディフュージョン)

「きゃー!」

 

女子剣道部主将

LP:4000→0

 

 クル

 

「ひっ……!」

「リバースカードオープン! 速攻魔法『コンストレック・エレメント』。自分フィールドの融合E・HEROをエクストラデッキに戻すことで、戻したカードと同じレベルの融合E・HERO達を特殊召喚できる。THE シャイニング、エスクリダオの二体を戻し、レベル8の『E・HERO ノヴァマスター』、そしてアブソルートZeroを特殊召喚!」

「にっ……!」

『二体!?』

 

『E・HERO ノヴァマスター』融合

 レベル8

 攻撃力2500

『E・HERO アブソルートZero』融合

 レベル8

 攻撃力2500

 

「ノヴァマスターと、アブソルートZeroで、柔道部のあなたにダイレクトアタック!」

「くうぅぅぅああ……!!」

 

女子柔道部主将

LP:4000→0

 

「そして、『ジャンク・ウォリアー』で、空手部のあなたに攻撃! スクラップ・フィスト!」

「うぅ……!」

 

女子空手部主将

LP:4000→1700

 

「く……けど、これで雪乃さんの攻撃は終了……!」

「速攻魔法発動」

「な! 最後の手札!?」

「『瞬間融合』。フィールド上のモンスター二体を素材に融合召喚を行う。『E・HERO ノヴァマスター』、そして、水属性のアブソルートZeroの二体を融合! 現れなさい、最後の『E・HERO アブソルートZero』!」

 

『E・HERO アブソルートZero』融合

 レベル8

 攻撃力2500

 

「さ、さ、さ、三体目……」

「『E・HERO アブソルートZero』で、ダイレクトアタック。瞬間氷結(フリージング・アットモーメント)!」

「あぁー!!」

 

女子空手部主将

LP:1700→0

 

 

「私の勝ちね」

 

『……』

 雪乃が決闘を終わらせたのを見て、まだ決闘に参加していない運動部、和総部員達は、その決闘に言葉を失っていた。

「たった一ターンで三人を……」

「ワンタァーンスルゥィキィゥ……」

 誰かが、そんな無駄に良い発音をはしたところで、

 

『きゃああああああああああ!!』

 

『あああああああああああああ!!』

 

 雪乃の前方で繰り広げられていた決闘も、決着が着いたらしい。

 立っている者のほとんどが、制服、あるいは約一名がドレス姿の和総部員、ひざを着いているのが、それぞれの服装をしている運動部員達。

 

「少々レベルが低すぎるわ」

「さっき雪乃が言ってたの聞こえたけど、確かに部活動に偏り過ぎみたいね」

「それでよく雪乃さんに決闘を挑もうと思ったものですわ」

「決闘してて、全然怖くなかった……」

 

『……』

 

 幸子、ツァン、メイ、サクラの言葉に、誰も言い返すことができず、項垂れていた。

 

『……』

 

「あなた達には、分からないわ……」

 と、誰かが言ったのが聞こえた。

「そう。私達は所詮、決闘アカデミアにいながら、運動部としてしか存在を主張できない、中途半端な人間よ」

「どういうこと?」

 雪乃が疑問を投げかける。彼女達は、続けた。

「決闘が好きで、決闘を学びたくて、このアカデミアに入学したけど、授業にはついていけず、決闘の実力はいつまで経っても向上の兆しが見えない。努力しようにも、努力のしかたも分からない。なのに逃げ出すこともできず、義務として毎日学校に通いながら、感じたくもない劣等感に苛まれ……」

「そんな私達に残されたのは、たまたま入部した運動部、それだけ。そこで活躍したら、決闘ほどではなくても褒めてもらえる。決闘アカデミアの本懐である、決闘の実力が伴わなくても、運動部として頑張れば、期待されて、将来の道も開かれる」

「決闘が弱い私達には、今いる部活動しか残されていない。そして、そのためには全国へ出場するくらいの、明確な活躍と結果が必要。そのためには、雪乃さんのように強い人を味方につける以外、手段が無いの……」

 

『……』

 

 また、沈黙がその場を支配した。

 決闘アカデミアという、決闘の学校にいながら、その決闘ができないから、一応の存在として認められている運動部。それに縋る以外にない。そんな彼女達の哀れな姿。それを前に、誰もが悲痛な思いに駆られた。

 

 ただ、一人を除いて。

「呆れたわね」

 雪乃がそう言葉を切り出し、また全員の視線が集まった。

「決闘がダメだから運動部? そのために私が必要? 甘えたこと言ってるんじゃないわよ。あなた達は、決闘が好きだからこのアカデミアに来たんでしょう? その実力が伴わないからって、簡単に見限って他へ逃げて、そのくせそれも伴わなければ人頼みだなんて。どこまで中途半端なのよ、あなた達」

 雪乃の正論。だがそれがいくら正しくても、そんな正論の中で苦しんでいる彼女達にとっては、暴論でしかなかった。

「よく言いますね……そう言う和総部だって、決闘以上に過去の人にいつまでもしがみついてるだけじゃないですか! そのくせ部の活動では優れた結果を残しておいて、そんな人達に言われたくはありません!」

「そりゃあ、あなた達は良いわよね。たまたま優れた指導者に恵まれて、そのお陰でそうして好きなこともできて、何の苦労もせずに雪乃さんのような優れた人材まで確保できて、さぞかし誇らしいことでしょうよ。ここでの毎日が、とっくに嫌々になっている私達とは違って。結果も残せない努力をし続けることが、どれだけ恥ずかしいことかも知らないくせに……」

「そんな人達にさ、毎日無駄だと分かってる授業を受け続けて勉強して、部活動でも汗とか血反吐を流して、それでも一つの結果も出せずに、地べたを這いつくばりながら、君達みたいなできる人達を見上げてるしかできない。そんな私達の気持ち、君達に分かる!?」

「とっくに結果を残してる人達に、ずっと結果を残せずにいる人間の、存在どころか数少ないチャンスまで否定されたくないよ!」

 

『……』

 

(優れた指導者……? ああ、私のことか……)

 言われてみれば、和総部の彼女達は雪乃――梓の教室に通い、梓の指導で、その腕を磨いてきた者達だ。

 梓は否定しているが、どれだけ否定しても、指導の成功した本人達による躍進という結果は確かに存在している。できない人間ももちろん大勢いた。だができた人間は、多くの結果を残すことができる力を得た。だからこそ、できるようになった彼女達は梓に感謝を懐き、そんな者達がたまたまこのアカデミアに集まり、彼を称える部を創設した。

 そして、そうやって結果を残すことができた者達とは別に、いつまでも結果を残せない者達がいる。

 できる者とできない者の確執。隣の者ができるのに、自分ができないことの羞恥と苦痛。

 それは、教室を開いていた梓も、光景として知っていた。

 ただ、経験としては、知らなかった。

「そうね。私のような人間には、多分一生分からないのかもしれないわね」

 もちろん、努力することの辛さは梓も知っている。

 今のように、普通に行い、指導ができる人間になれるまでに成長するまでの、汗と血反吐の毎日。違いと言えば、生徒達とは違い、学校へ行くこともできず、一人で努力するしかなかったということ。

 中々理解できない事柄と、理不尽な暴力と虐待の中、何度辞めたいと、逃げ出したいと思っても、それでも逃げず、ここまで来た。

 そんなことができた彼だから、言えることがある。

「分からないけどそれがなに? できるようになるために、努力して苦しむことなんて当たり前じゃない。逆に聞かせてもらいたいんだけど、和総部には、全く努力もせずそれだけのことができた人間が、いるって思うの?」

「それは……」

 それには誰も、言い返せなかった。

「確かに、私は知らないけど、指導者は優れていたのかもしれないわ。だから彼女達は、梓先生って人にいつまでも、正直、見てて引くくらい依存しきってる」

 

「引くって……」

「何気に酷いな……」

 

「けどね、和総部には、それを逃げるための言い訳にしている人は一人もいないわ」

「逃げるための……」

「言い訳……?」

 運動部の誰かが聞き返し、雪乃は更に続ける。

「そうよ。彼女達が華道や日本舞踊をするのは、本当にそれが好きだから。アカデミアに入学したのは決闘が好きだからでしょうけど、そんな中でも彼女達は、こうして和総部っていう部を作り上げて、毎日恥じもせず活動してる」

「あなた達だって、元はと言えば、今いる部のスポーツが好きだから、そうしているはずじゃないの?」

「それは……」

「確かに、長く続けて結果が伴わなければ、辛くなるし逃げ出したくもなるでしょうね。けど少なくとも、それだけ好きだからここまでやって来られたし、その結果を心から求めることができて、そのためにこうして私を欲することができたんじゃないの? もし好きでもなくやっているのなら、わざわざ私を使わなくても、ただ毎日を適当にしていればいいだけなんだから」

 

『……』

 

 誰も、何も言えず、黙り込むしかなかった。

 もっとも雪乃の場合、努力し続けたのは、好きだったからではなく、ある意味彼女達と同じく、ただ努力が義務に過ぎなかったからに他ならない。

 そんな義務を続けることができたのは、ただ、愛する父に喜んでもらうこと、それを目指したから。そのためなら、どんなに辛い現実にも耐えることができた。

 大好きな決闘を放棄する。それだけの価値がある宝のために。

「決闘以上に打ち込めるものがあるのは悪いことじゃない。思い切りやればいい。そしてそれは、ここが決闘アカデミアだからと言って、尻込みしなければならないものではないはずよ」

「……」

「少なくとも、あなた達が私を欲したのは、私を使って強くなるのと同時に、私と一緒にそれをすれば楽しくなると思ったから。そうじゃないのかしら?」

 

『……』

 

 そんな雪乃の問い掛けに浮かぶものは、図星。

「それだけ楽しいと思えるのなら、思い切りやればいい。例え決闘が弱いのだとしても、その時は、誇るものがあると笑い返してあげたらいいのよ」

「誇る物……?」

「そう。決闘しないための逃げ道ではない。決闘以上に自信を持てる、誇る物があるんだって、自信を持てばいい。そうじゃないかしら?」

「……」

「それでも笑う人達がいるなら、その時こそ、私がそいつをブッ飛ばしてあげる。だから、あなた達は自信を持って、思い切り胸を張って、そして言いなさい。私達は、運動部なんだって」

 

『……』

 

 運動部達は、全員が黙り込み、その言葉を噛み締めた。中には涙を流す者までいた。

 そして、

 

「ありがとうございます! 雪乃さん!」

 

 誰かがそう言いながらお辞儀をし、全員が、それにならった。

「私達が間違っていました。あなたの言う通り、私達は、あなたはもちろん、好きな運動部にすら甘えていたようです」

「あなたの言う通り、運動部は決闘が弱いことの逃げ道じゃない。私達の、誇りです」

「だから、その誇りと共に、私達は、戦っていきます」

 そう言った彼女達の目には、確かな闘志が、新たに宿っていた。

「ええ」

 言葉が伝わったことで、雪乃も満足げに笑みを浮かべた。

「正直、あなた達の苦労を知らない私には、ありきたりなことしか言えない。ただそれでも、言わせてもらうわ」

 

『……』

 

「頑張りなさい。心から応援してるから」

 

『はい!』

 

 その、大きな一斉の返事を最後に、彼女達は、それぞれの場所へ、走り去っていった。

 

 

 

視点:雪乃

 ……やれやれ、どうにか切り抜けた。あの様子なら、もう勧誘は無さそうですね。

 

『雪乃さーん!』

 

「む……?」

 大勢の声が聞こえ、見ると、和総部の方々が、私の方へ。そして、囲まれた

「な、なに……?」

 

「雪乃さん、格好よかったです」

「説教しておいてあれだけのこと言えて、格好良すぎだよ、この……」

「伊達にエロい喋り口調してないのね!」

「それに、嬉しいことを言って下さいますわ!」

「私達のために怒ってくれて……」

「感動しました! 雪乃さん最高!!」

 

「……」

 今日のことを口実に和総部を辞めるつもりだったのですが、彼女達は、それを許してはくれないらしい。

「……」

 けど、それも本来なら、煩わしく考えるところなのだろうけど、不思議と、嫌な気持ちはしない。だから、

「ありがとう」

 お礼を言った。

 

 いずれにせよ、いつまでも、こんなふうにいられるはずはない。

 それでも、彼女達が私を必要としてくれるなら、せめて今だけは、この、愛する生徒達、そして、今では大切な、仲間達と、同じ時間の中に……

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

 さて、今日も今日とて授業が終わり、この後は和総部の練習です。

 今日は昨日とは違って、普通に廊下を通って文化部棟まで移動できそうだ。

 

「雪乃さん」

 

 と、荷物を整理していると、私を呼ぶ声。人数は三人。確か、ソフトボール部の人達だ。

「なに?」

 彼女達は満面の笑みを見せながら、言いました。

「良ければこの後、私達の練習に参加しませんか?」

 ……

「あのねえ……」

「勘違いしないで下さい。これは勧誘じゃありません。ただ、あなたと一緒に、野球してみたいだけなんです////」

 慌てて言い直したと思ったら、なぜそこで赤くなる?

「悪いけど、私はこの後、和総部の練習があるから……」

「お願いしまーす。肉まんご馳走しますから」

 肉まん……!?

「……ちょっと待って。何でそこで、肉まんの話しになるの?」

「だって、アキさんから、肉まんが好きだって、聞いちゃいましたから////」

「……」

 

(アキさん)

(なに?)

(いつの間にそんなこと話したのですか?)

(昨日、あなたが逃げた昼休みの時、彼女達に詰め寄られた時にね)

(なぜ、そんなことを……?)

(あんまり大勢の人達に囲まれて質問責めにされれば、そりゃ誰だって、ねえ……)

(ねえって、そんな……)

(安心して。納豆までは言ってないから)

(何の基準ですかそれ? というかどうでも良いですよそんなこと……!)

 

 ま、まあ、それは良いです。

「ふ、ふふん。たかが肉まん一つで、私の心が揺れ動くとでも……?」

「じゃあ、私も。二個でどう?」

「二個!」

「あ、じゃあ私も////」

「三個……!?」

 く……ええい、沈まれ、私の中の食欲。

 たかだか肉まん如きで、絶望的な事情に負けることなど、あっては……

 

『雪乃さーん!』

 

「ふぁ!?」

 と、今度は教室の外から、大勢の女子達の声。

 その手には……

「に、肉まん……」

 

『肉まん奢るからご一緒しましょー!!』

 

「う、うぅ……」

 

(プルプルプルプルプルプルプルプルプル……)

 

「うぅ、うわあああああああああああああ!!」

 

『あっ!』

 

 結局、漂う肉まんの香りと、美しい白の誘惑から逃れるために、廊下ではなく、窓を使って移動するより仕様がなかった……

 

 

 

 




お疲れ~。
すぐにオリカ行こう。そうしよう。


『コンストレック・エレメント』
 速攻魔法
 自分フィールド上に存在するE・HEROと名のついた融合モンスターを任意の枚数選択して発動する。
 選択したモンスターをエクストラデッキに戻す。
 その後、戻したモンスターと同じレベルのE・HEROと名のついた融合モンスターを特殊召喚する。

漫画版GXにて、十代が使用。
今回のように、属性HEROに『瞬間融合』を合わせて使えば、攻撃回数が凄いことになる。
これも何度も出ましたゆえ、これで紹介は最後にしまっしょ。


やっぱ長いとストレスだよね。大丈夫?
丁度良く分割できる部分が分かんなかったのでこのまま投稿したのだけれど。
一度じゃ読めないから途中で中断して閉じたら、また次開いた時にそこまでスクロールしなきゃだから、何気にしんどいよね。
……てか、そこまでして読むほどの小説でもないだろうけど。
今後とも気を付けますわ。
つってももっと長くなるか、分割の数が増える一方な気がすっけども。

まあそんな感じで、次話までちょっと待ってて。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。