遊戯王5D's ~剣纏う花~   作:大海

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お~ひさ~。
七話だ~よ~。
今回も、前ほどではないけど少々長くなっておりま~す。
その辺を理解した上で呼んで下さりますかい?
くれるんなら、いつもの言葉をば。
行ってらっしゃい。



第七話 遊星を追え

視点:雪乃

 

『雪乃、聞こえるか?』

 

「はい、こちら雪乃です」

 イヤホンに取り付けられた通信機が鳴りました。未だに慣れませんが、言われた通りの操作をして、応答します。

 

『そっちはどうだ?』

 

 この声は、クロウさんです。

「すみません。あちこち飛び回っておりますが、影も形も……」

 

『そうか……』

 

 クロウさんも、その返事は半ば予想していたようだ。

 

『どうだジャック? 遊星いたか?』

『いや。まだ見つからない。そっちもか、クロウ?』

『ああ。こっちは配達の途中だってのによ、参るぜまったく……』

 

 クロウさんはやや不服そうですね。まあ、お仕事の最中となれば当然か。

 

『ふん。ちょっとばかり連絡がつかないからと言って、大げさすぎるんだ……』

 

 ジャックさんも、あまり忙しそうでもない身ながら不安を声に出している。

 かく言う私も、本来なら今頃、和総文化部の練習に行っていたところですが、それを返上して、帽子と、色つきのゴーグルで顔を隠しつつ、あまり目立たない色合いの服装でビルからビルの間を飛び交っております。

 まあ、私自身は、特別練習に参加したかった、というわけでもないので、不満はありません。

 ……今思い出しましたが、昔、今正に私のしているようなことと同じことをする人が主役のハリウッド映画があったような。

 何と言ったか……地獄からの使者?

 

『あなた達、そんなこと言って……』

 

 おっと、この声は……

 

『遊星の身に何かあったらどうするつもり!?』

 

『……!』

『……!』

「……!」

 

 この声は、アキさんです。クロウさんとジャックさんがDホイールで街を探索している中、アキさんはセキュリティの、確か、『狭霧(さぎり) 深影(みかげ)』さん、という人の運転する車で、街を捜索しております。

 

『まったくもう……』

『大丈夫よ、アキさん』

 

 と、その深影さんの声が聞こえてきました。

 

『遊星のことだからきっと思い過ごしよ』

 

 深影さんはそう、アキさんを励ましたようです。

 ちなみにこの人には、私の正体は当然秘密としております。

 

『大体よ、最初に知らせてきた謎の電話……』

 

 クロウさんが、また話しました。その電話というのは……

 

 ――『お前達の仲間、不動遊星が攫われた……』

 

 その一言だけを残して、切れてしまいました。

 

『それからして、かなり眉唾物(まゆつばもん)じゃねーかー?』

 

 ふむ。その電話は私も聞いておりましたが、はっきり言って、信用するには無理があり過ぎる。悪戯の(たぐい)と片付けてしまえばそれまで、その程度のものだ。

 

『クロウの言う通りだ。何者かが俺達を罠に掛けようとしているのかもしれん』

 

 罠ですか。確かに、この人達が狙われる理由にも、思い当たる節はいくつかある。

 遊星さんの技術とか、ジャックさんの浪費癖(ろうひへき)とか、クロウさんの力とか、ジャックさんの浪費癖とか、アキさんの体とか、ジャックさんの浪費癖とか……

 と、いかんいかん。今実際に被害を受けているのは、ジャックさんでなく遊星さんでした。おまけにその理由も、相手でなく、私達が狙う理由ですし……

 

『そんなこと分かってる。でもまずは遊星の無事を確認しなきゃ、始まらないでしょう』

 

 アキさんはそう言います。まあ、それは確かにその通りではあります。遊星さんが本当に危険な目に遭っているのか、嘘だとしてもはっきりさせねば何とも言えない。

 それに、何より……

 

『ああ。分かったからもう言うな。まったくお前は遊星のこととなると……』

『なによ……?』

『なんでもない……』

 

「ふふ……」

 ジャックさんの言葉に対する、アキさんの反応。皆さんとは違って私からは顔が見えませんが、遊星さんを思うアキさんのこと、凄い形相をしているかもしれませんね……

 

 ビビビィ……

 

「え……?」

 と、突然イヤホンから、そんなおかしな音が聞こえてきました。

「もしもし? もしもし……?」

 声が聞こえない。とりあえず飛び移ったビルで足を止め、話し掛けてみる。しかし、返事は無い。はて、こんな時はどうすれば……

 ああ! こんな時、己の機械に対する無知加減が憎らしい……

 

 ザー

 ザー……

 

『不動遊星を乗せた車は、ウエストバレイ地区のブルーヒルルートを北上中……』

 

「は……!?」

 

『急がないと、彼らの本拠地に連れ込まれてしまうぞ』

 

『……ちょっと、あなた誰なの?』

 

 あ、深影さんの声が聞こえた。

 

『これはセキュリティの専用回線です。勝手に割り込むのは違法行為よ』

 

 怒りの声を上げましたが、それ以上は、声を出すことはありませんでした。

 

「……」

 怪しいことこの上ありませんが、他に手掛かりは無い。

「行くしかないか。ウエストバレイ地区の、ブルーヒルルート……?」

 教室の先生として、シティ中を走り回っていた時の記憶をまさぐり、ウエストバレイ地区の方角にあるビルへ飛び移りました。

 

 

「もうすぐウエストバレイ地区ですが……」

 ここで少々問題が。

 私、教室から教室への移動はもっぱら車でしたが、それも大抵運転士の人に任せきりで、地区はともかく、道路のことは、はっきり言って、全く分かりません。

 車を運転したこともありませんし、というか、免許も持っていないのですが。

 ウエストバレイ地区は分かりますが、ブルーヒルルートって、どの道路ですか? ただでさえここには大量の道路が走っているというのに……

 

「む……?」

 

 と、ビル間を飛んでいると、見下ろしていた道路に一台の車が見えました。オープンになっているその車に、赤色と青色の、対照的な髪色の女性が二人組。

 間違いない。あれは、アキさんと深影さんの車。

 それが、必死に前を走るトラックを追い掛けている。そして、アキさんが立ち上がり、そのトラックの運転席を覗いている……

「……え?」

 と、かなり遠く、目を凝らしてようやく見えましたが、あのトラックには、運転手が乗っていない。かなり遠くだから見間違いかとも思い見直しましたが、やはりいない。

「どうなっている……?」

 と、肝心のアキさんは、そのトラックをジッと見ている。そして、決闘ディスクを取り出して……

「あれは、『ローズ・テンタクルス』……?」

 アキさんはモンスターを召喚すると、そのトラックの荷台のドアを叩き始めた。

「……!」

 いかん、車は山道(さんどう)へ入ってしまった! 進行方向には海があり、飛び移れるビルが無い。

「く……一度下に下りるしかないか……」

 そう判断し、すぐに近くにある低いビルへ、その次に更に低いビルへ。それを繰り返し、どうにか地上へ降りることができた。その時、何やら人が騒ぐ声が聞こえた気がしましたが、今はそれどころではない。

 理由は分かりませんが、どうやらあの車に遊星さんが乗っていて、それに、アキさんが気付いた。そして、力を使って、遊星さんの救出に乗り出している、ということでしょう。

「急がなくては」

 そして、またなぜか驚きの声を上げる人達を無視して、アキさんらの消えていった方へと走り出した。

 

「む? あれは……」

 山道に入り、車の邪魔にならぬよう車道の上の木々の間を飛び交っていた時です。

 目の前に、先程の車がありました。その中に、深影さんが……て、アキさんの姿がない?

「深影さん!」

 声を掛けながら、その車の前に飛び降りました。

「うわ! あ、あなた、雪乃さん……」

「アキは? なぜあなた一人だけなの?」

 ゴーグルを外しながら、驚く深影さんにそれを尋ねる。

「それが……」

 深影さんは、ことのあらましを話して下さった。

 先程前を走っていた車に、やはり遊星さんが乗っていたこと、そして、そのトラックに、アキさんが飛び乗ってしまったこと。

「アキったら、生身で無茶なことして……」

「……」

 なぜか、「お前が言うな」と言いたげな視線を向けてくる深影さんのことは無視して、再びゴーグルを掛けた、その直後……

 

 ブウウゥゥゥゥン……

 

「今のは……」

 Dホイールに見えましたが……

「……とにかく、追い掛けてみるわ」

 深影さんにそう言って、再び山へ登り、今度こそ走り出した。

 

「見つけた……!」

 木々の間を縫いながら走り、ようやく遊星さん達の姿を見つけた。向かっていた方向とは逆に走っているので、私も急いでUターンして追い掛けました。

 どうやら無事に脱出できたらしい。ですが、様子がおかしい。遊星さんと、そのDホイールにアキさんが乗っているのは分かります。

 ですが、その前を走っている、あれは誰です?

 どうやら、先程ちらりと見えたDホイールのようですが、それがなぜ、遊星さんと走っている……?

「まさか、新手か……?」

 どうするか。このままあの人を海へ沈めるのは容易いことですが……

 

 などと、考えていると、

「え……?」

 

『決闘が開始されます。決闘が開始されます。ルート上の一般車両は、直ちに退去して下さい。決闘が開始されます。決闘が開始されます……』

 

 そんな、機械の声が聞こえたと同時に、道路の形が変わる。そして、遊星さん達、二台のDホイールはそちらへ行ってしまった。

「……くそ!」

 お陰で今走っている道から離れてしまった。ビルは周囲には見当たらないし……

「……仕方がない」

 誰かに見つかる可能性はあるが、ここまで来た以上そうは言っていられない。どうせ決闘をしている間、決闘レーンを走れるのは、基本的に対象のDホイールのみ。人が一人走っていたところでばれはしないし、外からも見えないでしょう。

 そう判断し、二人の入っていった道路を遮断する透明な壁を越え、二人を追い掛けました。

 ……しかし、今更ではありますが、これ、明らかに一般車両に迷惑を掛けていると思うのは、私だけですか? それとも決闘者として、いちいち気にしてはいけないことなのだろうか……

 

 ……と、おそらくはどうでも良いことを考えている間に、二人に追いついた。

「遊星さん!」

「……! 梓か!」

「なに!? Dホイールに、足で走って追いついてる!?」

 前を走る者の声もついでに聞こえましたが、この際どうでもいい。

「遊星さん、その人は敵ですか?」

「あ、ああ……」

「そうですか。よろしければ、今すぐ沈めますが?」

「ダメ!」

 尋ねつつ、拳を鳴らす私に拒否を示したのは、アキさん?

「ライディング決闘をしないと、Dホイールが爆破されるって」

「え……本当ですか? 遊星さん」

「ああ。だが心配はいらない。すぐに終わらせる」

 そう言いつつ、再び前を向いてしまった。

「……少し驚いたけど、さあ、始めましょう」

 どうやら、本当に決闘をする以外ないらしい。二人は同時に叫んだ。

 

『決闘!!』

 

 そして、決闘が始まった。

 先行を取ったのは、相手のDホイーラー。

 モンスター『聖騎士の槍持ち』を守備表示で召喚し、その後伏せカードを一枚伏せて、ターンエンド。

 

 続く遊星さんのターンでは、ドローと同時にスピードカウンターが一つ増えます。そして、『スピード・ウォリアー』を召喚。召喚ターンのバトルフェイズ中に攻撃力が二倍になる効果を使用し、『聖騎士の槍持ち』を攻撃。

 ですが、それを、罠カード『フローラル・シールド』で防がれ、同時にカードを一枚ドローされてしまった。その後、カードを三枚伏せて、遊星さんはターンを終了。

 

 相手のターンに移り、相手は『花騎士団の駿馬(しゅんめ)』を召喚しました。その召喚時の効果により、カードを一枚ドロー。その次に使用したのは『Sp(スピード・スペル)-オーバー・ブースト』。このターンの間自分のスピードカウンターを四つ増やし、エンドフェイズに1にするカード。

 そして、次に発動したカードは、『Sp-スピード・フュージョン』。

「ほう、融合召喚ですか……」

 スピードカウンターが四つ以上ある時、融合召喚を行う『Sp(スピード・スペル)』。

 その効果により、フィールド上の二体のモンスターを使用し、攻撃力2200の融合モンスター『ケンタウルミナ』を特殊召喚しました。

「『ケンタウルミナ』で『スピード・ウォリアー』を攻撃!」

 ですが、それを遊星さんは罠カード『くず鉄のかかし』を発動。攻撃を無効にしようとしましたが、『ケンタウルミナ』の効果により、その発動と効果を無効の後、再セットさせられました。

 そしてバトルは続行され、あえなく『スピード・ウォリアー』は戦闘破壊。遊星さんのライフポイントは2700に減少しました。

 その後、相手はカードを一枚伏せ、オーバー・ブーストの効果でスピードカウンターは1まで減少しました。

 

「俺のターン!」

 続く遊星さんのターン、これでスピードカウンターは、遊星さんが3。相手が2。

「俺は、『ジャンク・シンクロン』を召喚!」

 出ました。私も使用している、遊星さんにとってはお馴染みのチューナーモンスター。

 その召喚時の効果により、墓地より『スピード・ウォリアー』を召喚。続けざまにその二体を使って、レベル5のシンクロモンスター『ジャンク・ウォリアー』をシンクロ召喚しました。

 すぐにバトルに入りましたが、相手は罠カード『フルール・ガード』を発動。モンスター一体は戦闘では破壊されない効果により、戦闘ダメージはともかく、戦闘破壊を防がれました。そして遊星さんは、カードを一枚伏せ、ターンを終了。

「互角……いえ、今の所、遊星さんが少々不利、でしょうか……」

 決闘を観戦しながら、そう呟いた時でした。

「あいつは一体何者なんだ?」

 遊星さんが、そう声を出しました。

「あの連中の仲間にしては、明らかに様子が違う。奴は、この決闘を楽しんでいる」

「え……?」

「ふむ……」

 それは、正直私も感じてはいました。そして、そんな人が、遊星さんを攫うなどという卑劣な真似をするものなのか……?

 

「私のターン」

 と、考えている間に、相手はカードをドローしました。

 ドローした後で召喚したのは、チューナーモンスター『フルール・シンクロン』。

「チューナーモンスター……!」

「遊星、来るわ!」

「ああ。奴のエースモンスターが」

「レベルの合計は、8ですか……」

 

「レベル6の『ケンタウルミナ』に、レベル2の『フルール・シンクロン』をチューニング!」

「高速より生まれし肉体よ、革命の時は来たれり。勝利を我が手に!」

「シンクロ召喚! 煌めけ『フルール・ド・シュバリエ』!」

 

『フルール・ド・シュバリエ』シンクロ

 レベル8

 攻撃力2700

 

「更に、『フルール・シンクロン』がシンクロ召喚の素材となった時、手札のレベル4以下の通常モンスター一体を特殊召喚することができる」

 この効果により、更にレベル2で攻撃力1000の通常モンスター『見習い騎士』を特殊召喚しました。

「俺の場には『くず鉄のかかし』がセットされている。それは奴も承知のこと。無暗に攻撃してくるとは思えないが……」

 遊星さんが、そう声を出すのが聞こえました。そちらを見ると、

「俺は奴がどう出るかを知りたい……」

 ……遊星さんもまた、この決闘を楽しんでいるのか……

「『フルール・ド・シュバリエ』で、『ジャンク・ウォリアー』を攻撃!」

 おそらくは遊星さんの読み通り、攻めてきました。

「遊星、これが挑発ならまずい!」

 アキさんは、そう叫びましたが、この局面では、できることは他には無い。

「フルール・ド・オラージュ!」

「『くず鉄のかかし』を発動! 相手モンスターの攻撃を無効にする」

 当然遊星さんはそう動く。

「それを待っていた!」

 そして、これもやはりと言うべきでしょう。相手はそう叫びました。

「『フルール・ド・シュバリエ』の効果を発動! 自分と相手のターンに一度、相手の魔法・罠カードの発動を無効にして破壊する」

「やはり……」

 

「……え?」

 ……ちょっと、待って下さい、今の効果は……

 

 ―「『――……――……』は一ターンに一度、相手の発動した魔法・罠の効果を無効にし、破壊する効果を持ちます」

 

「……!」

 ……なんですか、今の光景は……?

 そうだ。なぜか、今のモンスター効果には、すごく、覚えがある……

 ……いや、覚えがあるどころか、全く同じ効果を、私もまた使用したような……

 

 キキー……

 

「……!」

 と、しばらくぼんやりしていて、途中で見ていませんでした。

 遊星さんのライフが削られている。どうやら『ジャンク・ウォリアー』を戦闘破壊された際、おそらく罠カードで『ジャンク・ウォリアー』を生かし、その後で相手はカードを二枚伏せてターンを終了したようだ。

 そして、それが分かった時、相手はブレーキを掛けて、Dホイールを止めていた。

「やはりな……」

 遊星さんはそう言うと、ブレーキを掛けた。

「遊星さん?」

「遊星、どうして……」

 私とアキさんが同時に声を出しましたが、そのまま止めてしまう。なので私も止まりました。

 

 止まりましたが……D・ホイールが爆発する様子は無い。

「爆発は?」

「ブラフか……」

「ふむ……爆発しないというなら、もはや遠慮は不要」

 私はそのまま相手に近づき、胸倉を掴み、拳を振り上げ……

「やめろ梓!」

 拳がヘルメットに届く寸前で、遊星さんに呼び止められました。

「……遊星さんに感謝しなさい」

 そう言って、取り敢えず手を離します。

「……ここまで自分の足で走ってついてきたことと言い、中々規格外ね。あなた……」

「……私のことなどどうでも良い。あなたに用があるのは、遊星さんだ」

 そう言って、私は遊星さんの側に戻りました。

「誰なんだお前は? なぜこんな悪党の真似事をする?」

 そう聞くと、相手はヘルメットを脱ぎ、隠れていた顔を見せました。

 出てきたのは、私以上に伸ばしている金色の髪に、緑の瞳の切れ長な目をこちらへ向ける、凛々しい印象の美しい顔。

「私の名は『シェリー・ルブラン』。あなたの実力を試させてもらったわ」

「女性?」

「女、D・ホイーラー……?」

「騙したりしてごめんなさい。でも、不動遊星。私もあなたを奪いにきたの。あなたを、他のどんなチームにも渡さない」

「奪いにきた? どういうことだ?」

 彼女が言うには、彼女のチームに遊星さんを招き、彼女のチームで、近々行われるライディング決闘の世界大会、『ワールド・ライディング・デュエル・グランプリ』、通称『WRGP』に優勝しよう、というお誘いです。

 返事は今日ではなく、この決闘は挨拶だ。そう言って、彼女は再び走りました。

「降りるんだアキ、危険だ」

 遊星さんはアキさんにそう促します。私も手を貸そうと二人に近づきましたが、

「いや! このまま乗せて。見たいの私、あなた達のライディング決闘を」

 そう言って、降りる気は無いらしい。ここは、力づくでも引き剥がすべきか……

「見落としてはいけない大事な瞬間が、そこにあるような気がするの!」

「……」

 こうまで真剣に言われては、私としては、手は出したくない。

 もちろん、遊星さんの返事次第ですが……

「分かった」

 遊星さんなら、そう言うと思いました。

「しっかり掴まってろ」

 その言葉と同時に、走り出す。私もそれに続きました。

 

「俺のターン!」

 そして、決闘が再開。遊星さんは新たにチューナーモンスター『ターボ・ウォリアー』を召喚。『ジャンク・ウォリアー』と共に、レベル6の『ターボ・ウォリアー』をシンクロ召喚。

 そのまま『フルール・ド・シュバリエ』に攻撃。このままでは勝てませんが、『ターボ・ウォリアー』がレベル6以上のモンスターを攻撃する時、その相手モンスターの攻撃力を半分にすることができる。

 ですが、ライフは削りましたが、『フルール・ド・シュバリエ』は戦闘破壊されなかった。その理由は、彼女が発動した罠カード『理想のために』。彼女のフィールドのモンスター『見習い騎士』を墓地へ送ることで、その破壊を無効。攻撃力も元に戻りました。

 それを見た遊星さんは、罠カード『シンクロ・アウト』を発動。自分フィールドのシンクロモンスターをエクストラデッキに戻し、そのシンクロ素材としたモンスター一組を、エンドフェイズまで墓地より特殊召喚するカード。

 普通に特殊召喚したところで、『フルール・ド・シュバリエ』には及ばない。

 となると、おそらく遊星さんの狙いは、残った一枚の伏せカードによる、新たなシンクロ召喚か……いや、『フルール・ド・シュバリエ』の効果もある。だとするなら、真の狙いは更なるコンボか?

「『フルール・ド・シュバリエ』の効果は一ターンに一度のみだ。さあ、どうする?」

「いくらでも驚かせてちょうだい。私にはその上を行く戦術が用意されている。『シンクロ・アウト』に、『フルール・ド・シュバリエ』の効果は使わない!」

 ということは、『シンクロ・アウト』の効果は有効。

「現れろ! 『ターボ・シンクロン』、『ジャンク・ウォリアー』! 更に罠カード『緊急同調』!」

「やはり!」

 これは私も、そして彼女も予想通りか。

「シンクロ召喚はさせない! 『フルール・ド・シュバリエ』の効果を発動! 罠カードを破壊する!」

 結果、『緊急同調』は破壊されてしまった。

「カードが破壊されたことにより、罠カードオープン! 『チェーン・クローズ』。相手プレイヤーは、エンドフェイズまで魔法・罠カードを発動することはできない」

 ふむ……これで遊星さんの動きは封じられてしまった。このまま行けば、攻撃力の低いモンスターは『フルール・ド・シュバリエ』の攻撃に晒されますが……

「読めていた。ここまではやってくると」

「え……!」

 ほう……?

「俺は『ターボ・シンクロン』で、『フルール・ド・シュバリエ』を攻撃!」

「……!」

「遊星、どうして?」

 これは、さすがに私も予想外です。攻撃力が僅か100しかない『ターボ・シンクロン』で攻撃とは。

 『ターボ・シンクロン』は、戦闘する相手モンスターを守備表示にする効果を持ちますが、それでも相手の守備力は2300。結果、普通にダメージ2200ポイントを受け、残るライフポイントは僅か100ポイント。

「遊星、自分のしたことが分かってるの!?」

 アキさんのお怒りももっともだ。もちろん、遊星さんのこと、何の考えも無くこんな真似をしたとは思いませんが。

 ……ほら、遊星さんは今も、口元に不敵な笑みを浮かべております。

「『ターボ・シンクロン』の効果発動! このモンスターの攻撃により、受けたダメージ数値以下の攻撃力を持つモンスター一体を、手札から特殊召喚することができる。『ジャンク・コレクター』を召喚!」

 その効果により特殊召喚されたのは、レベル5、攻撃力1000のモンスター。あのカードは確か……なるほど。

「『ジャンク・コレクター』の効果発動! このカードと、墓地の罠カード一枚をゲームから除外し、その除外した罠を発動する。俺は墓地の『緊急同調』を除外し、シンクロ召喚を行う」

「まさか……!」

「魔法・罠カードがダメでも、モンスター効果なら発動できるのね!」

「さすがは遊星さんだ……」

 そして、その宣言の通り、遊星さんは二体のモンスターで、『ターボ・ウォリアー』を再びシンクロ召喚。そして今度こそ『フルール・ド・シュバリエ』を戦闘破壊しました。

「ターンエンド」

「ふふん……」

 

 ……二人とも、楽しんでおりますね。

「でもね遊星、『フルール・ド・シュバリエ』を破壊するためとは言え、ライフを100にしたのはまずかったわね」

 ……ああ、そう言えば、『スピード・ワールド2』の効果がありました。

 確か、スピードカウンターを四つ取り除くことで、手札のSp一枚につき、相手ライフに800ポイントのダメージを与える効果。なので一般的に、ライディング決闘におけるライフの、せえふてぃらいん、と呼ばれるのは800ポイントと言われている。

 これらを最初聞いた時は、半年の内に随分と進化したものだと思いましたが、それが今、遊星さんを危機に陥れている。

 彼女……シェリーさんはその折を説明しながら、

「私のターン!」

 カードを引きました。

 

『……』

 

「……私は、『聖騎士の盾持ち』を守備表示で召喚」

 シェリーさんは守備力1300のモンスターを召喚。これで終わりかと、アキさんは溜め息をついておりますが、これで終わりではありません。

 『聖騎士の盾持ち』は墓地の『聖騎士』と名の付くモンスターカードを除外することで、カードを一枚ドローする効果がある。その効果で、墓地の『聖騎士の槍持ち』を除外し、再びカードをドロー。

「そんな! またドローなんて……!」

「……カードを一枚伏せて、ターンエンド」

 これで改めて、シェリーさんはターンを終了しました。

 これだけチャンスがあったのに、とシェリーさんは嘆いておりますが、私も経験があるので分かります。

 ライディング決闘は普通の決闘とは違い、通常の魔法カードが使えないために、どうしても罠カードの比率が魔法カードを超えてしまう。もちろんSpも投入しますが、罠やモンスターに比べればどうしても枚数は少なくなってしまう。

 Spを主体とした構築でもなければ、いくら二度のドローがあったと言っても、Spを引けないのはある意味必然なのです。

 

 と、考えていた時、シェリーさんは遊星さんに、言葉を掛けました。

 なぜ、遊星さんがWRGPに出場するのか。

 その理由を聞くと、シェリーさんは、出場すること自体に目的は無いと断じてしまった。

 何が言いたいのか? 遊星さんがそう尋ねると、シェリーさんは、自身の目的を話し出した。その目的とは、

「復讐……?」

 

 彼女の話しによれば、彼女はかつて、『ルブラン家』という、古くからカード産業に携わる名家の一人娘だった。しかし、突然その屋敷を襲撃され、彼女と、執事の男一人を残し、一族郎党(いちぞくろうとう)、皆殺しの憂き目に遭ってしまったらしい。

 その後、追手は彼女を執拗に追い続け、世界中を逃げて回ったそうだ。

 そして、その旅の過程で、その黒幕が、ある組織と関係していると分かったらしい。

 その組織の名は、

「『イリアステル』!?」

 私は始めて聞いたその単語に、遊星さんや、アキさんは驚いていた。

 何でも、その組織は、善や悪といったものを超越した伝説の組織であり、邪魔するものはどんな手段を持ってしても排除する、それほど大きな組織だという話し。

 にわかには信じられませんが、遊星さん達の反応を見るに、あながち作り話とは言えないらしい。

 そして、後日行われるWRGPにおいて、そのイリアステルが糸を引いているということ。その正体を探るためにも、遊星さんの力を必要としているらしい。

 それに対し、ジャックさんやクロウさんと言った仲間がいるのだと、反論をしたのはアキさんでした。ですが、シェリーさんはアキさんではなく、遊星さんに言っているのだとその反論を否定しました。

 アキさんもまた、遊星さんのことを何も知らないだろうと返しますが、シェリーさんは言います。

「たった数ターンで、私達は分かり合えている。このスピードが、この風が、遊星の心の震えを伝えてくれる。そして私の心も……それは、ライディング決闘をする者にしか分からない」

「……っ」

 ……私には、何となく分かる気がします。

 ライディング決闘に興じたのは一度だけですが、その一度だけで、相手をして下さったクロウさんの心が、走りながら伝わってきた。そんな感覚を味わいました。

 もっとも、途中から疲労が、そして、激しい怒りが先立ってしまい、それらを感じる余裕は無くなってしまいましたが。

 そしてなぜか、それ以上に私は、彼女の気持ちが分かる。

 父……家族を殺された悲しみと怒り。

 そして、復讐に駆られる憎しみが……

 

「あなたのターンよ」

 ……と、また考えているうちに、話しは終わったようだ。

「俺のターン!」

 ……ちょっと、まずいかも知れません。長く走っていたせいで、足の力が……

 ですが、ここで立ち止まってはいられません。前を向きます。

 遊星さんはまず、『スピード・ワールド2』の効果で、スピードカウンターを七個取り除き、カードを一枚ドロー。そしてチューナーモンスター『ドリル・シンクロン』を召喚。

 『ターボ・ウォリアー』で『聖騎士の盾持ち』を破壊し、『ドリル・シンクロン』で貫通ダメージを与え、同時にその効果により、カードを一枚ドローしました。

 ですがその直後、シェリーさんが罠カード『自由解放』を発動。シェリーさんのモンスターが戦闘破壊された時、フィールド上のモンスター全てをデッキに戻す強力なカード。

 結果、遊星さんのモンスターは全てデッキに戻り、遊星さんはそのままカードを二枚伏せてターンを終了しました。

 このまま、モンスターや罠ならともかく、Spを引かれればまずい……

「はぁ……はぁ……」

 

「私のターン! 私は『聖騎士ジャンヌ』を召喚!」

 ……モンスターでした。そして『聖騎士ジャンヌ』は、攻撃力1900ですが、攻撃する際攻撃力が300ポイントダウンするデメリットアタッカー。しかし、残りのライフが100ポイントでは、それはデメリットたりえない。構わずジャンヌが攻撃を仕掛けました。

「罠カードオープン! 『シンクロ・スピリッツ』! 墓地にあるシンクロモンスター一体を除外し、その素材モンスター一組を特殊召喚する!」

 その効果で、遊星さんは『ジャンク・ウォリアー』を除外し、『ジャンク・シンクロン』、『スピード・ウォリアー』の二体を守備表示で特殊召喚しました。

 その後、チューナーモンスターである『ジャンク・シンクロン』が破壊された。

「はぁ……はぁ……」

 一進一退の攻防です。どうなるか……

 

「俺のターン!」

 遊星さんのターン、まず発動したのは『Sp-ハイスピード・クラッシュ』。スピードカウンターが二つ以上ある時、自分フィールドのカード一枚と、フィールド上のカード一枚を破壊するカード。その効果で、伏せカードと、シェリーさんの『聖騎士ジャンヌ』を破壊する、かと思いましたが……

「俺は、俺の伏せカードと、『スピード・ウォリアー』を破壊する!」

「何ですって!?」

 シェリーさんは驚きましたが、私は破壊されたカードを見て、納得しました。

 伏せカードは『スターライト・ロード』。自分フィールドのカードが二枚以上破壊される効果を無効にし、エクストラデッキより、『スターダスト・ドラゴン』を特殊召喚するカード。

 正規の召喚ではないのが欠点と言えば欠点ですが、それでも強力な特殊召喚カードです。

 そして、遊星さんが『スターダスト・ドラゴン』を手に取った……

 その時でした。

 

 ドォン!!

 ガラガラ……

 

「遊星!」

「あれは!」

「……!」

 音のした方を見ると、道路の上から、巨大なトラックが落下している。

 そして、その道路の上には……

 

「不動遊星。お前をWRGPには出場させない。俺様に逆らった報いを受けるんだな!」

 

 ……なるほど。あの人達が誘拐の黒幕ですか。

 このままでは、皆さんが危ない。正直、体力の方が限界に近いですが、あれをどうにかできるのは、私しかいない……

「お任せください!」

 私は三人に声を掛け、一気に速度を上げて二人を抜きました。そして、決闘レーンの透明な壁を登り、そのままトラックの真下へ跳び、体を真上、トラックの正面へ向け……

 

「飛びなさい!」

 

 ズドォォォォオオオオオオオオン!!

 

『……!?』

 

 凄い金属音がしたと同時に、トラックは真上へ飛び、上手いこと上の道路へ着地しました。

 

「なに! あの子の腕力!?」

 

 シェリーさんの声と、慌てた男達の声が聞こえた気がしましたが、それどころではありませんでした。

「痛たっ!」

 トラックを打ち上げた後で、私はそのまま逆側の壁に、背中からぶつかってしまった。

 そのまま壁を滑って下に下りましたが……断言します。私でなければ死んでいます。そして、私だから生きております。生きておりますが、

「……くそっ」

 ただでさえ体力の限界だった上、無理を押しての力走と、トラックを全力で殴ったお陰で、体力の全てを使い果たしてしまったらしい。何とか立ち上がりますが、足がガクガクと震え、これ以上は走れそうにありません。ここからは、歩いて追い掛ける他無いか。

 それにしても、一般車両に迷惑なだけの決闘レーンだと思っておりましたが、なるほどこういう時は便利ですね。いざと言う時の被害はDホイーラーだけというわけだ。

「……まあ、いいです……」

 

 立ち上がり、痛みと痺れの走る足を動かし、二人を追い掛ける。

 ですがどうやら、今の事故のせいで、決闘は中止となってしまったらしい。二人とも、すぐ近くでDホイールを停止させている。

 と、見ていると、新たに前から、黒い三輪のDホイールがやってきた。そこにはえらくガタイの良い中年男性が乗っている。どうやらシェリーさんの仲間のようです。

 その人のお話しが終わったらしいところで、ふらつきながらも、何とか追いつきました。

「また会いましょう。遊星……それから、あなたも」

「……は?」

 と、シェリーさんが、遊星さんとは別の人に声を掛けた。最初、アキさんかとも思いましたが、その視線は、私に向けられている。

「面白い子ね……」

「……!」

 そんなことを言われながら、片目での瞬き……ういんく、か。

 それをいきなりされて、思わず声を失いました。

 そして、その間に、お二人は去っていった。

 

「……うぅ」

 どうやら本当に、全て終わったようだ。

 その事実による緊張の消失と、体力の限界により、その場に腰を下ろしてしまった。

「おい、大丈夫か? 梓」

「……」

 情けない話ですが、これ以上は走るどころか、歩くのも少々……

「……すみません、遊星さん。宜しければ、乗せてもらってもよろしいでしょうか……?」

「え……? いや、さすがに三人を乗せるのは……」

「ですよねぇ……」

 

『……』

 

 アキさんが、何かを決意したように、去っていくお二人をジッと見つめている間、私は、笑うしかありませんでした。

 結局、私達は、深影さん達のお迎えを待つより、仕方がありませんでした。

 

 ……

 …………

 ………………

 

 後日、ウエストバレイ地区に、地獄からの使者なる人が出現したという噂が広まりました。

 とにかく凄い人らしく、普段私の話しかしない和総部ですら、その人の話題で持ちきりでした。

「ふむ……皆さん噂しておりますが、そんな架空の人物が、実在するのでしょうか?」

 

『……』

 

 そしてなぜか、遊星さんやアキさん達からは、冷ややかな視線を向けられました。

 

 

 

 




お疲れ~。
アキとシェリーのあのシーンが、アキとシェリーが組むフラグだと思ったのって、もしかして大海だけか?
まいっか。この次はオリジナルの話しになると思うので、いつになるかは分からんが待ってて下さいな。
てことで、ちょっと待ってて。
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